YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson892
 自分をやすませる


自分をやすませる、

見落としがちで、それだけに大事だ。

何をするにも、
ある程度の気持ちの落ち着きと、体力はいる。
それがないまま問題解決とか、傷を直すとか
奔走しても視野は狭まりがち。

傷ついてる人・時には休むのが最大の仕事だったりする。

やすんだあとに見る世界は、
思ってたよりもずいぶん広い。


随分前、自分史上最もおなかを壊したことがある。

たべものも、水分も、たった一口で、トイレに直行。
その状態が4日間つづき、何をやっても直らず、

4日目の晩、ふと、思い出した。

「そういえば、むかし、おかゆを食べて直ったな」

水も白米も受けつけないのに、ダメに決まってるが、
だめもとでおかゆを焚いて食べたら、

なんと、な、な、なんと、ピタッ!と直ってしまった。

「なぜ、おかゆで?」

そのあとずーっと不思議でしかたがなかった。

ある日、テレビに、腸の名医が出ていた。

あちこち病院をたらいまわしにされ、
いろんな薬・治療を受けても直らない人が、
さいごの頼みの綱に、この医師を訪ね、直るそう。

「おかゆを食べさせる」

と言ったので、私はテレビに吸い寄せられた。

薬や治療を様々受け、あちこち病院を渡り歩いてきた人の
腸はとても疲れている。
治療に耐えられないくらい疲れているので、

まず、おかゆでやすませる、と。

医学の知識がない私は、ここで、医療の話を
したいのではないし、できる資格もまったくない。
「みなさんも、私も、おなかの調子が悪いときは
まず病院に行こう」、と念押しをし、その上で、

そのとき、はっ、と気がついた。

今まで私は、
「何か悪い状態 → 直す」
といっそくとびにしか考えられなかったが、

「直す」って、けっこうキツイ行為なんだな。

ねじれ曲がった物を真っすぐ直すとイメージして、
元の状態から「動かす」、
「変化」させなきゃならないわけで、
これ、体力を消耗するし、気力もいる。だから、

「悪い状態 → やすむ → 直す」

これは、人生にも言えるな。

以前、意地悪をする人がいて、
(かりに、お局様=おつぼねさま、と呼ぼう。)
我慢をしたが、あまりに執拗で、ほとほと疲れ、

イビリやイジメをしている人は、
かなりの確率で、過去にもやってるんじゃないか、
その人たちの経験に学んで解決をはかろう、と

探したら、すぐ見つかった。

意地悪をされた人の、ツラい気持ちを受け取るうち、
お局様がどんどん巨悪のモンスターに思えてきて、
私はずんずん恐く、気持ちが悪くなっていった、そのとき、

「おかゆ」を思い出した。

「自分をやすませる」

いったんこの件、考えるのを休止ししよう。
疲れた心と頭をやすませよう。

休んで、再び向かってみたら、問題がすごく小さく見えた。

巨悪モンスターに見えていたお局様の存在も、
ずっと小さく見え、かわいささえ感じた自分に驚いた。

「世界は広い、人間もたくさんいる。」

この広い視野と気持ちがあれば大丈夫! そう思えてきた。

がまんは、意外に気力・体力を消耗する。
続けるうち、気づかず、視野も心も
狭くなっていることがある。

「その疲れた頭と心で、ことにあたれるか?」

時と場合によっては、
休むのがその人の向かうべき最優先の課題だったりする。

本人以外には、なかなかできない課題だったりする。

「自分をやすませる」

やすんだあとの景色は、ずっと広くて気持ちいい。
と私は思う。

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2018-09-19-WED

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