YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson887  まっすぐ


人間、外に出れば必ず傷つく。

くらいに思っていたほうがいいんだろうな。
ちと言い過ぎな気もするが、大なり小なり。

でも、その傷つくぶんを上まわる、得るものがあるし。
ちっちゃな傷を支払って
大事な何かをつかみにいくのだし。


「ずっとずっと隠してきた
本当の想いを表現するのは心底恐い。」

先日、そう言って発表する人に、
全員が吸い寄せられた。

新潟の表現力ワークショップでのことだ。

一瞬でわかった。

彼女が本物の勇気を出したことが。

おそらくこれまでの人生で出したことのない、
最初で、最大の勇気。

本物の勇気、出してる人はわかる。

一瞬で空気が変わる。
その場にいる誰もが吸い寄せられる。
釘付けになる、息をのむ。

言葉をつくさなくても、もう、たたずまいに、
ただならぬものがあふれてる。

一言一言が刺さった。

それはたぶん、
彼女が、一言をくり出すたびに
傷ついてるから。
尋常じゃない勇気を振り絞っているから。

その勇気を彼女は「飛び降りる」と表現した。

想いを表現するのを、
いちばん嫌がって、いちばん恐がった彼女が、
いちばん、人に勇気を与えた。

気がつくと私は泣いていた。

心が揺さぶられ、その振動で、
洗い直されたように清々しい。

「飛び降りる」

インターネットに初めて自分の名前でコラムを書いた日、
私も、底の見えない谷に、
まっさかさまに飛び降りるほど勇気が要った。

その初心を、取り戻させてくれた、
新潟の人の勇気ある表現。

一生忘れられない。

初めてインターネットに自分として文章を書いた日、

どうしようもない恐さと、
あのヒリヒリと傷つく感じ、まざまざと蘇る。

表現してこなかった自分は、
表現する、ただそれだけで、
なんだかわけもわからず傷ついていた。
ひっかき傷だらけになりながら
ちいさく血を流しながら。

「恐い」よなあ。

本当の想いを表現するのは、
私もいまだに恐い。

でも、それ以上に面白い。

小さな傷なんか、少々血が出てることなんか、
全然気にならないほど、
表現できたあとは超気持ちいい。
新しい面白いものをつかんでいる。

新潟のあの人も、表現してつかんだ。

きょうも、外に出れば傷つく。

人と触れ合えば、ひっかき傷なりとも傷つき、
無傷じゃいられない。

でもそれは、
たとえ偽ろうとしても偽りきれない、
隠そうとしても隠しきれない、
自分と相手の「本心」が触れ合うから。

だったら、その傷も切なく、やっぱり面白い。

山にカブトムシを取りに行く子が、
転んだり、すりむいたりしても、
虫かごのなかを見ると、嬉しくてたまらないように、

小さな傷など、どうぞどうぞ、と言えるくらい、
きょうも、まっすぐ、
面白い何かをつかみにいく!

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2018-08-08-WED

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