YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson749
   自分の波をのりこなす


どんな悲しみも、怒りも、
ずっと続きはしない。

必ず疲れて、いったん治まる。

で、また始まる。

しばらくして、治まる。

始まっては、治まり、また始まっては、治まる‥‥、

「波」。

波と波の感覚が短く、激しく押し寄せ
短期集中で終わる波もあれば、

波と波の間は、ながくなかなかこないけど、
長い月日にわたってひきずる波もある。

自分の波とうまくつきあってみよう。

「波は必ずいつか凪ぐ。」

そう考えたら、
いつもよりずっと
自分の荒ぶる感情をうまくやり過ごせた。

「波」。

きっかけは、先週紹介した
読者のこの投稿だった。


「32歳の時に子宮を摘出。
 あれから5年が過ぎました。

 手術後、やってきたのは大きなガッカリ感。
 それは、小さくなったり大きくなったりしながら
 私を揺らしました。

 しかし、去年あたりから
 友達の子供を見ても素直にかわいい。
 ゴールデンウイーク、盆、正月に親戚や友達に会っても
 後で泣かなくなった。
 誕生日を楽しく迎えられた。

 やっと波が本当に小さくなったのかな。
 (読者 眼鏡ぐま)」


これを読んだ私は、ちょうど、
腹立たしさ、悲しさ、失意、寂しさ、悔しさが
いっしょくたに押し寄せてたときで、

でも、

「波! そうか、一枚岩じゃないんだ!」

と、気づいたら、
先入観がパカッ、と割れる音がした。

私たちは、何か悲しいことがあったとき、
その「壁」を乗り越えない限り、立ち直るその日まで、
「笑顔になれない、えんえん悲しみはつづく」、
と思いがちだ。

でも、実際、そうじゃない。

単純に怒り疲れて、感情が治まったり、
悲しみ続けてお腹がすいて
「チョコレートほしい」と不覚にも口をついてでたり、
ふいに飛び込んできたニュース映像に
心を持って行かれたり、

どんな悲しみも怒りも必ず「とぎれる瞬間」がある。

「‥‥ということは、
 いま抱えきれないと思っている
 この荒ぶる感情にも、必ず切れ間がくる?」

そう想ったら、
少なくともその切れ間までは我慢しようと思えた。

すると案の定、しばらくして波は去った。

けれど、また波がきて、
「もうだめだ、もう今度こそ持ちきれない」と
思ったのだけど、

「なに、壁を克服しろと言われているわけではない、
 いま、この波が治まる、次の切れ間まで
 どうにか耐え忍ぶだけだ」

と思ったら、なんとかできそうに思え、
実際できて、

そうこうしているうちに、日、いちにち、と

「昨日より今日の方が、波のくる頻度が少なくなってる」

「一回の波が来て引くまでが早くなってる」

「だんだん波と波の感覚が長くなってる。」

という体感があり、

「この調子で行くと、きょうより明日はもっと
 波間が長くなるぞ」

「だんだん、波そのものが小さくなっていくぞ」

と、ちっこい希望が次々見つかって、今回は、
傷をひろげることなく、
案外あっさり、出口にでられていた。

「絶望」

というのも、私は、深い溝、埋められない谷
のようにとらえてきたけれど、
「そのことを自分がどう感じるか」という
やっぱり「波」なんだな、と思えてきた。

ある現実が目の前にあったとして、

そのことをどう感じるか。

ずっと「絶望的感情」を途切れなく湧かせ続ける
ということは、人間難しいので、
やっぱり疲れて絶望の感情が休んだり、
ふいの日差しにおさえきれず気分があがっていたり。

「波」。

今回学んだのは、
くれぐれも、高い波が来ているその最中に
ことをおこしちゃいかん、
ということだ。

荒ぶる波にやられている真っ最中では、
どんどんどんどん悪く、ものごとを考えてしまう。

不安が不安を呼び、
もうこの先いいことはないように思えたり、
自分という人間のだめなところばかりを感じたり、

こんな波の最中で、

将来を予想したり、何か決めたり、
外に向かって、発言したり、行動しようとすると、
マイナスに向かいがちだ。

人に向かえば、人を傷つけたり、
とりかえしのつかない失言をしたりしかねない。

そしたら、こんどは、その分の
新たな波が押し寄せることに。

だから、
悲しみや怒りの波が来たら、
どうにかこうにか、いまこの波が治まるまで、
じっと耐え忍ぶ。

「波がきた」

と自分に言い聞かせ、時計を見る。
必ずその波はいったん治まる。

少なくとも、何か決めたり行動に起こすなら、
波と波の間に、さっと動く。

こうすると、傷口は最小限でとどまり、
日ごとに波が来る間隔が長く、
一回の波は小さくなっていく。

「治まらない波はない。」

だから、だいじょうぶなのだ。


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2015-09-16-WED
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