YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson244 理解の言葉を伝えて

いま、いろんな問題が起こっているけれど、

その原因を洗い出して、
グループわけし、
さらに、その元を、さらに、その元を……、
とたどっていくと、
「コミュニケーションの問題」に
行き着くんじゃないだろうか?

しかも、すれちがっているのは、「言葉」だ。
と私は思う。

もっと言えば、たくさんの人が、
「自分への理解の言葉」に飢えている。

理解を注いでほしいところに、
必要な理解が、「言葉」として注がれない。

それが、「寂しさ」となり、
それが、つもって、
人の判断力をくもらせ、
誤解や、すれ違い、摩擦を生んでしまう。

それが、また、「寂しさ」の種を増やしていく。

たしかに、コミュニケーションは言葉じゃない、
言葉じゃない部分が大きいのだ。

それでもやっぱり、
どうしてか、寂しい目をし、
いま、私たちが求めているのは
「言葉」のように思えてならない。

だまってそばにいて、わかりあえる。
にしては、私たちは、忙しすぎる。
短い時間に凝縮して伝えあえるのは言葉だ。

だまって、わかりあえる。
にしては、私たちの距離は遠く、寒い。
離れていても近く届き、何度も反芻できるのは言葉だ。

口では言わないけど、わかってくれている。
そう信じるには、
わたしたちの内面はちょっと複雑だ。
わたしたちの内面は、
生まれたときからたくさんの情報で膨れ、
複雑に編み上げられている。
他の人と自分の違い、
それは「わずか」かもしれないけれど、
その「わずか」は、複雑に繊細に編まれている。
その網目をかいくぐって、
心の奥底まで届いてくるのは、やっぱり言葉だ。

だまってそばにもいてほしい。
何にもいわずにわかりあいたい。
それでも、やっぱり、「言葉」がほしい。

わたくし事だが、
ひさびさに、ストレスから「声」がでなくなった。

いま、ニューハーフのような声でしゃべっている。

ほんとにたまたま、人間関係で、つらいことが重なった。

わたしは、がまん強いので、
大抵のつらいことならだれにも言わず、
ひとりで、ぐっと飲み込んで、
なんとか乗りきってしまう。

この、耐える強さは並外れてある。
そこを過信してしまった。

つきあげるつらさをぐっと飲み込んで、
ひとりじっと耐えていたら、
ようやく出口にむかうところで、
たまたまつらいことが重なった。

さらに、じっと、抱え込んで耐え、
いつものようにのり越えられるとおもったら、
面白いように、
そこにまたつらいことが重なってしまった。

いや、まだまだいける。
この程度ならいつも耐えてきた、と
全面的に、ひとりで耐える、体勢を決め込んでいたら。

からだの方が、
「あの……、これ以上ダメです。
 もう、もちませーーん!」と
音を上げてしまった。なんだ、口ほどにもない。

からだは正直だ。

私の場合、のどが弱いのか、
ほとほとだめなとき、「声」が出なくなる。

仕事の方は、テレビや単行本や、
さまざまな講義、講演のご依頼や、
ひさびさに、あたたかい光が重なって注いでいる。

光がくれば、
その分だけ別の方面では、陰もくるんだな。
プラス、マイナス、
つくづくうまくできてるもんだと思う。

ひさびさに、声がでなくなるまで、
「つらい」ということを体感し、

「あれ、今日を生きる意味がない」
というような感じにおちいってしまったときに、
仕事でミーティングに行かなければならなかった。
立ってるのもやっとという感じだったのだけど、
そこはプロ意識で、ちゃんとやれるとまた過信した。

編集者さんとの長いミーティングを経て、
なにか、自分がいままでやってきたことの意味を
取り戻したような気がした。
「今日、お話できてよかったです。
 おかげで、明日からも生きていこうと思えるような、
 細い手がかりがみつかったように思います」
というようなことを、言って、

「しまった!」

と思った。
私は、ミーティングのゴールを間違えてしまっていた。
すまい、すまい、と思っていたのに、
仕事の席で、おもわず、
「自分探し」をしてしまっていたのだ。
なんて「青い」ことをやってしまったのか、
とガクゼンとした。

「仕事で自分探しをするな」、
もう、このコラムでも、
さんざん自分で言ってきたことだった。
でも、生きるのがつらかったので、
無意識に、必死に、
自分が生きる意味を探してしまっていた。

仕事で、「自分探し」をしてしまう、
そうせずにはいられない、
若い人の気持ちが、やっと身にしみてわかった。

みんな、つらいんだな。

自分の内面の欠乏感が深いと、
遠い、りっぱなゴールは描けない。
認識力や、判断力も落ちてしまう。
目先のゴールで、なんとか自分を内面を満たそうとする。

ちょうど腹がすきすぎているときに、
どんなに遠くの高い山を差ししめしてもらっても、
目の前の食べ物にしか集中できないように。

私が、若い人に、仕事のゴール設定や、
コミュニケーションのテクニックを、
どんなに教えようとしても、教えこんでも、

若い人の心が、深い欠乏状態だと、
生きないんだな、と身にしみて思った。

考えたら、そういうことは、
日常によく起きている。

みんな、いい仕事をしようとおもって
仕事のゴールを描いて、職場に集まってくる。
人とのコミュニケーションをとる。

ところが、
自分のやってることがあまりにも理解されないと、
いつのまにか、「わかってくれ」がゴールになって
しまっている。

相手と自分の、
自分と会社の、
ゴールがずれてしまうと、
コミュニケーションは迷走する。

そこをプロじゃないと否定するのもいいし、
厳しくゴール設定を確認し、押し付けるのもいいだろう。

でも、へりきったお腹では、山に登れない。
みんな理解に飢えている。ペコペコだ。

そこに、おにぎりひとつ、栄養を与えあって、
さあ、頂上をめざそうか、という行き方もある。

だから、仕事や、日常や、さまざまな場面で、
相手に対する理解を、まず、
きちんと言葉にして伝えるということは、
多大な可能性を持っていると私は思う。

それがあって、心の空腹が満たされてこそ、その先に、
相手の持つ、認識力や判断力、
コミュニケーション能力は生きてくる。

いま、私ののどは回復に向かっている。

ちょうどいま、テレビにでているので、
「観たよー!」という読者からたくさんのメールが届く。
嬉しくて、おもしろくて返信していると、
時がたつのも忘れ、
気がつくと、かたく握ったおにぎりを
おなかにいれたように、
自分が元気になっていることに気がつく。

なぜなら、メールのひとつひとつには、
「理解の言葉」があるからだ。

返信を書くというのは、
自分への理解を食べるような行為だ。

ものを書く仕事の孤独や、
人前に表現することの恥に、
つらくなってしまうことも、いまだにあるが、
たくさんたくさん自分を表現してこそ、
やっと、ひと言、たぐり寄せられる、
他者からの「理解の言葉」に、
どうしようもなく、心が満たされていくのを感じる。
表現する仕事を選んでよかったとつくづく思う。

ほんとうに、あなたから届くメールに
いつも支えられています。とくに、
この桜の季節は、心を強くしてくれました。

ありがとうございます。

あなたからの理解を待っている人はだれだろう?

今日、それをきちんと言葉にして伝えたなら、
それは、思うより、ずっと素敵な、
相手を生かす、まわりを変える力につながると思う。

ふるさとで、
「テレビを観たよ」というおばから手紙が届いた。
最後に、その言葉を引用しておこうと思う。

では、明日、
21日(木)夜10時25分、NHK教育テレビで、
また、お会いしましょう!

(先週見逃した人、再放送は明日あさ5時5分からです)


<おばからの手紙>

新見の桜もぼつぼつ散りはじめました。
お花見は出来ましたか。

本放送を2回、見せて頂いています。
話し方もゆっくり落ち着いていてよくわかりました。
大学での体験が役に立ったのでは、と思っています。

これからもみどりさんらしく
自分のやりたいことに挑戦して行ってくださいね、
勇気と夢を持って、
今しかできないことって、いっぱいあると思いますから。

それから、これは、
私がいまさら言うべきことではないけれど、
生み、育ててくれた、お母様、お父様に、
感謝の言葉を、伝えてあげて下さいね。

なかなか言葉に出しては、言えないけれど、
一番うれしいのではないかと思います。

はなれていると、なおさら、
元気な内に、
とこれは実感です。

私も父の元気な内に、
テープに声を取っておきたかったと
最近思います。
そんなことが、テレて、きらいな人でしたから、
実行出来ませんでしたが……

何かと忙しい日々とは思いますが、
どうかくれぐれもお体を大切に。
時には、心も体も、
ゆっくり休める日をつくってくださいね。

それではまたね。






NHK教育『日本語なるほど塾』 放送予定
(想いが通じるコミュニケーションレッスン)

7日(木)夜10時25分から
14日(木)夜10時25分
21日(木)夜10時25分
28日(木)夜10時25分


『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-04-20-WED
YAMADA
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