YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson220 伝わるものには構造がある
----高校生のための一発でわかる小論文講座(最終回)


私は25歳で小論文の担当になるまで、
「本当に言いたいこと」
を言うということを甘く見ていた。

甘く見ていたために、
本当に言いたいことは、伝わらなかった。

だから、小さくても「構造」をもった文章、
「小論文」に出会ったときは、画期的だった。

たった600字ほどの文章だ。

だがそこに、その人が抱いた「問い」がある。(論点)

その人が出した、
現時点でベストな「答え」がある。(意見)

答えを導き出した「根拠」がある。(論拠)

そして文章には、ごまかしようなく、
書き手の根っこにある想いが現われてくる。
(根本思想)

小論文は、
その人の「想い」を土台に、
「論点」→「論拠」→「意見」が、
脈絡をもって組み立てられている。

まるでブロックで組んだ無駄のない小さな家のようだ。

気づいたときは、ここまでしてやっと、
「本当に言いたいこと」は言えるのか、と感慨があった。

「本当に言いたいこと」とは、
「結論」だと思っている人は多い。
だから、ときどき結論という石をぶつけあうように、
意見を言い合ったりもする。

だけど、本当に人にわかってもらいたいのは、
結論という「断片」ではなくて、
もっと、その人のもつ「世界」だったりしないだろうか。

テーマに対するその人の「世界観」とでも言うのかな。

テーマについて
自分は、どこに、どんな問題意識を持ったかとか、
そこから、何を思い、どう考えていったかとか、
最終的に、何を大切に、どう判断したか、
それは、なぜかとか。

むしろ、結論にいくまでの脈絡こそが、
人にわかってもらいたいことだったりする。

人は、脈絡をもった、まとまりあるひとつの世界として、
自分を伝えたいし、
他人にも理解されたいのではないだろうか。

だとしたら、
小論文は、その名のとおり非常に小さいけれど、
自分の問題意識、検討過程、そこから出た意見を、
脈絡をもったひとつの世界として、
人に伝えられるようになっている。

小さくても構造のしっかりした文章を書くことで、
自分の世界観を表し、伝えることができる。

高校生ためのシリーズのしめくくりとして、
今日は、「構造的に読み、構造的に書く」
ことをやっていこう。

対策として何から手をつけていいかわからない人も、
まずは1題、時間を計って本番そっくりに、
小論文入試を書いてみよう。
(学校の先生にアポイントをとっておいて
添削してもらうとさらにいい。)

用意するものは、志望大学・志望学部学科の、
過去の小論文入試。
(新設学部などで、過去の問題がない人は、
他大学の志望学部学科のものでもよい。)

「文章を読んで、あなたの意見を述べなさい。」
という出題が多いが、

与えられた資料文の
どこを読み取ればいいのだろうか?

小論文の大原則を思い出してほしい。

そう、小論文は、
読むのも、書くのも「意見と論拠」だ。

1000字以内の短い資料文でも、
10000字の長文資料でも同じ、

筆者のいちばん言いたいこと
「意見」をまずつかもう。
次に、筆者はなぜそう言っているか
「論拠」をつかもう。

筆者の「意見と論拠」が押さえられたら、
この脈絡に注意して短くまとめると、「要約」になる。

あとは、筆者の意見についてどう考えるか、
賛成か、反対か、あるいは別の考えか。
そう考える自分の論拠は何か、と考えていけばいい。

あとは、「意見と論拠」で書く。
もっともシンプルな構造は、

ラストに自分の意見をはっきりと打ち出し、
そこまでに、理由を筋道立てて述べていく。
(論拠 → 意見)

あるいは、冒頭で、自分の意見をはっきり打ち出し、
「なぜなら」と、その理由を筋道立てて述べていき、
ラストで、もう一度、設問で聞かれていることに、
ぴったり呼応させた形で
自分の意見を打ち出すという構造。
(意見 → 論拠 → 設問+意見)

非常にシンプルだけれども、
これだけでも、充分、人に伝わる小論文は書けるのだ。

以上が、入門編。

ここからは、初級編。

資料文を読んで、自分の意見を書くというとき、
要素は、少なくとも3つある。

「意見」、「論拠」、「資料文の理解」。

そして、600字以上で書く場合、
おおくは、「具体例」が要る。
そこで、
「論拠」=「具体例+その考察」で書いてみるとする。

すると、構造的といっても、実は、
次の4要素をどう配列するかが問題なのだとわかる。

1意見
2具体例 + 3その考察 (=論拠)
4資料理解



もっともオーソドックスなのは、
資料の理解から入っていく構造だ。

[資料理解]私は、資料文をこう理解した。

[具体例] それに関連して、このような経験・事実がある。

[考察] そこから私はこのように分析する。
     (できればキーワードの提示)

[意見] だから、私は……であると考える。
(設問で問われていることに対し
 はっきりと自分の答えを打ち出す。)


この構造をアレンジして、
「具体例」からはじめてみたり、
「考察」のところに、
「資料文の理解」をもってきてもいい。

さて、ここからは中級編。

(ぐっと難しくなってくるので、
 わからないときは無理をせず、
 上記までの構造で書いてみよう。)

「論点」に注意して、読み、書く。

「論点」とは、書き手がとりあげた「問い」だ。
文章を貫く問題意識と言ってもいい。

論点と意見は、ちょうど、問いと答えの関係になっている。

まず、資料文からは、
「筆者がとりあげた問い=論点」、「意見」、「論拠」
の3つをつかみだそう。

この3つを、
脈絡に注意して短くまとめると「要約」になる。

あなたが書く場合も、
「論点」→「論拠」→「意見」で書く。

まず、文章の冒頭で、
どういう「問い」にもとづいて書くのか、
「論点」を、はっきり示し、読者と共有する。

たとえば、
「子どもに、<親切>という気持ちを養うためには
どうしたらよいか、以下に私の考えを述べたい。」
というふうに、問いを明らかにする。

設問に、上のような問いがはっきり出ていれば、
それが、そのまま「論点」になる。

設問が、「文章を読んであなたの考えを自由に」
というようなバクゼンとしたものだったら、
資料文で筆者が提示した問い(=論点)を読み取って、
自分の書く小論文の「論点」にすることもできる。

設問も、資料文の論点もバクゼンとしているときは、
そこから、自分の「問い=論点」を絞り込む必要がある。

文章の頭で「問い=論点」を読者と共有したら、
あとは、文章の最後に、
それに対する自分の「答え=意見」をはっきり打ち出し、
中間の部分で、
その「論拠」を筋道立てて説明していけばいい。

「論点」→「論拠」→「意見」で書く場合も、
資料文があれば、「資料理解」と、
字数が長いときは、「具体例」が必要になってくる。

つまりは、「論点→論拠→意見」という基本の構造に、
「資料理解」「具体例」を、どう組み込むか、だ。

たとえば、資料文を理解し、
筆者の提示した「問い」を受けることから
書き始めてもいい。


[資料理解から論点の提示]
私は資料文をこう理解した。
そこで筆者が提起している問い、
「…は…か?」について、私の考えを述べてみたい。

[具体例] それに関して、このような経験・事実がある。

[考察] そこから私はこのように分析する。
     (できればキーワードの提示)

[意見] だから、私は……であると考える。
(設問で問われていること≒冒頭の論点に対し
  はっきりと自分の答えを打ち出す。)


あるいは、経験や具体例をあげるのが得意な人は、
「具体例からの問題提起」をしてもいい。

[具体例から論点の提示] 
このような経験・事実があった。
そこから私は、テーマについて、
このような問題意識をもった。…は…なのだろうか?

[資料理解からの考察]  
それについて資料文の筆者は、このように言っている。
それを私はこう思う。

[自分の考察]
さらに私はテーマについてこのように分析する。
     (できればキーワードの提示)

[意見] だから、私は……であると考える。
(設問で問われていること≒冒頭の論点に対し
 はっきりと自分の答えを打ち出す。)


以上、入門から中級まで、基本構造を見てきたが、
これらを押し付ける気持ちはない。
自分の書きやすい構造がすでにある人は、
これらにとらわれず、それで書いていってほしいし、
ない人は、基本構造をたたき台にして、
「自分の構造」をアレンジしていってほしい。

難しいと感じたときは、
「意見と論拠」で小論文は書ける。
この原点に戻ろう!

伝わるものには構造がある。

だから、テーマについての知識を仕入れるときも、
断片、断片の知識の暗記ではなく、
タテ軸とヨコ軸の二重構造で、
自分の世界観を語れるようにしておくといい。

たとえば、文学部の日本語学科に行きたい人の場合。

日本語のタテ軸とヨコ軸を、
自分の言葉で語れるようにしておくといい。

タテ軸とは、過去→現在→未来の時間軸だ。

日本語は、昔どうだったか?
今どうか?
未来に向けて、どうなっていくのか?
それは、なぜ?

ヨコ軸とは、身のまわり→日本社会→世界の空間軸。
とくに、「世界の中の日本」を押さえる。

他の国の言語と比べて、日本語はどうか?
世界の中の日本は、いまどんな課題を抱えているか?
それは、なぜ?

その中で自分は、
日本語についてどんな問題意識をもっているか?
将来、日本語はどうあったらいいと考えるのか?
それは、なぜ?

このようなテーマをとりまく大きな流れと、
いまの日本の位置をつかんでおけば、
未知のテーマがきても、考える基盤になる。

小論文に本当に正解はない。

未知のテーマを、
堂々と自分の頭を動かして考えるのが小論文。
次々と問いを立て、自分の答えを引っぱり出していこう。

自分の経験から考えるとどうか?
いちばんの問題点は何か?
原因・背景は?
理想の未来が実現するとしたらどうあったらいいか?
世界から見てどうか?
自分はどうしたいか?
それは、なぜか?

本番では、あなたが本当に考えた、
本当に言いたいことを書いて、
合格をつかみとってほしい。

あなたには書く力がある!




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-10-20-WED
YAMADA
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