YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson204
勉強? それとも仕事?(2)うちらの失敗


「勉強でない、仕事をするって、どういうこと?」
「仕事に必要な勉強を、あなたはどう考えていますか?」

先週、そんな問いかけをしたら、
全国の「働く人」から、非常に豊かな、
経験と汗がにじむメールを、たくさん、いただきました!
ありがとうございます!

「勉強でない、仕事をするとはどういうことか?」

予想以上に、たくさんの人が、
ここで揺れているのだなあ、というのが、まず発見でした。

「勉強をする感覚で仕事をするRさんのような人が、
実際、うちの職場にもいて、困る」とか、
「自分自身が、まさにRさんのようで、
いまだ、仕事のなんたるかをつかめない」とかいう声が、
意外に多く聞かれました。

仕事とは何かを、学校で教えられていない私たちは、
実際に社会に出て、
体当たりでつかんでいくしかありません。
だから、なかなか自分の「立ち位置」が見つからなくて、
努力が空回りしたり、失敗したり。

今日はまず、そんな
「勇気ある体当たり」をした3人の声を、
お聞きください。


<勉強なんてしないでください>

フリーランスでコピーライターをしています。

まだ経験の浅い頃、あるチャンスが訪れました。
お付き合いのある広告代理店のアートディレクターが、
有名企業のポスターのコピーを
私に書かせてくれることになったのです。

かけ出しのコピーライターにとっては
願ってもないチャンスでしたので、
根性だけは負けまいとがんばりました。

私は何百というキャッチフレーズを書いてはダメを出され、
やっとの思いで完成にいたりました。
そして私は、最後までつきあってくれた
そのアートディレクターに
「ありがとうございました、本当に勉強になりました」
とお礼を言ったところ。
彼は、ものすごくクールにこう言ったのです。

「勉強なんてしないでください、
 私たちはプロなんですから」

私はまったく予想もしていない言葉、
経験したことのない発想に本当にめんくらって、
言葉をなくしました。

当時の私には、単純な経験の量というよりも、
プロとしての心構えが足りなかったのだと、
その一言で教えられました。       (笠井未来)


<おまえのやらなアカンこと、違うんちゃうか?>

私は、建設会社で働いています。

CADで、施工図を書く作業をしています。
もうすぐ4年になります。

4年前は、現場に出ていましたので、
自前で本を買ったり、講習に行ったり
社内では、同業がいませんでしたから、
(私と入れ替わりで先輩が辞めてしまったため)
とにかく、「自力」で覚えるしかない!と思って
なんだか、めちゃくちゃ「勉強」していました。

それで、2年ぐらい経つと、
それまで、毎日と言っていいぐらい、
「わからないこと」があったのに、
そんな日が、ない、という日も多くなってきたわけです。

そうなると、どうも、
組織の「IT力」の無さに目が行くようになり、
自分の業務は、施工図を書くだけで
止まっていてはいけない、と、なんだか一人鼻息荒く、
とにかく、外へ外へと、目を向けるようになっていました。

よそは、こんなやり方をしている。
あっちは、こんなものを導入している。
と、外をみれば、どんどん、
自分のところがやってはいないことを
なんでも、やっているように、思えるし、
実際、そうなんですね。

なので、うちとこはダメだな、どう動いたら
もっと、良くなるんだろうなぁ、
と、いつもいつも考えるわけです。

で、上の人にも食ってかかるようになる。
「こんなんじゃ、ダメやと思うんですよ」とか、
すぐに言っちゃうわけです。

ある日、
「おまえのやらなアカンことって、違うんちゃうか」と。
つまり、私は、
イチ技術者として、成長しようとしてるんか?
と、突きつけらた。

もっと、わかりやすい図面、
私に、まかせとけば安心やと思われる図面。
そんな図面が書けるように、努力してるんか、と。

私は、グサリときたけれど、
本当に思ったことは、情けないけど…
「あんたら、上が、なんも良くしようとかって、
 思ってるかどうか、
 ちっともわからんから、無いアタマ使って
 あっちこっち調べてたんやろ!
 ほんとだったら、
 『ついていきたい』って思いたいんだよ!
 わかんないんだよ、上の思ってることって!
 口にだしてくれないと、わからないっ!

 なのに、私のやってることは、違う?
 あんたらがやらなアカンこと、
 やってるんやろー、くそー」

と、まぁ、コドモみたいなこと思ってしまったわけです。

でも、私がやらなくちゃいけないことって、
ことばじゃ上手くできないけど、なんかわかった気がして…
                 (ゆう 30歳女)


<部下に涙ながらに直訴され>

私は一昨年から管理職になり、
リーダーとしての勉強をするようになりました。

研修会に参加したり、著名人の講演会を聴きに行ったり
たくさんの本を読んだりと一生懸命でした。

そこで見聞きした借り物の知識で、
自分もそれらしくなったように勘違いしていました。

ちょっとかじったくらいで、身につくほど
簡単なものでないことくらい、
ちょっと考えればわかりそうなものですが、
その時はわからないんですね。
もう、前へ進もうと一生懸命だから;;

そんな私の、にわか上司振りに耐えかねたのでしょう、
今年の3月にメンバーの一人が、退職も覚悟の上で
私に対して涙ながらに直訴してきました。

堪えました。
私が今まで頑張ってきたことは一体何だったんだろう
と悩みました。

そんなことがあってから、
勉強に対する考え方が少し変わりました。
知識を人に求めることも大切なのでしょうが、
まずは等身大の自分自身ときちんと向き合えるようになる
ことが大事だなあと思うようになりました。

勉強するってのは恐いですね。
気をつけないと勘違いしてしまう。
頑張っている自分を人に押し付けてしまう。
自分を見失ってしまう。

勉強に対して、最近はそんな風に感じています。

先の事件で味わったつらい時期も、最近少しずつ和らいで
きました。私の中にも、周りを見る余裕が少しずつ生まれ
メンバーとのコミュニケーションも回復に向かっています。

あのまま突っ走っていたらと思うとゾッとします;;
今は気付かせてくれたメンバーに感謝です。
            (海に囲まれた長崎からY)

………………………………………………………………………

「仕事をするって、どういうこと?」
「自分の立ち位置って、どこ?」

初めて社会に出た新人が、
「自分の立ち位置」を発見する上で、
私は、意外にも
読者のこんなメールがヒントになると思うのです。

>私が就職時、なかなか仕事的なことができず、
>雑用に追われていたとき、
>「会社というのは大半が雑用。それでも、電話や挨拶、
>コピーなど、たったそれだけのことで人間関係が築かれて
>仕事につながる。それをおろそかにするな。」
>と父に励まされたことがあります。(カネトシヨウコ)


いまどきの若い人には、これが、
時代遅れのナニワ節に聞こえますか? 

でも私は決して、
古びた道徳を押しつけたいのではありません。

私自身、社会人として初出勤の日、母から、
「最初は、先輩の机をふくとこから始めるんよ」
と言われました。
私も、あのときはわからなかった。
でも、現場に出てみると妙に腑に落ちる、
時間に消えない一言でした。
企業、フリーランス、
様々な立ち位置を経験した今、考えると、
これは新人の、勉強でない、「仕事の立ち位置」を、
適確に捉えた行動指示になっていると気づくのです。
多くが大学に入る今、
このようなことこそ教えるのが難しいと。

仕事をするとはどういうことか?
さらに次週につづきます。
どんな小さなことでも、あなたの考えを聞かせてください。




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2004-06-30-WED

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