YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson179 答えてはいけない質問

人と話すことはたのしい。

どんどん会話がはずむうち、
自分で思いもよらなかった自分の内面が引き出される。

だけど、逆もあるんじゃないだろうか?

会話がはずむうち、
どんどん、自分の気持ちと、言葉がずれていく。

「あれ? なんか自分らしくないな」

と思うのに修正がきかない。
結局、「あんなこと、言うつもりじゃなかったのに、
どうして、自分は、あんなこといっちゃったんだろう?」
とあとで落ち込むことがある。

そんなとき、何がいけないんだろうか?

このところ私は、インタビューを受けることが重なった。

プロのライターさん、編集者さんは、本当に素晴らしく、
あとで、まとめていただいた記事を読むと、
発見があり、こちらの方が勉強になる。

だが、読んでいて、自分で確かにそう答えておきながら、
「あれ? これは、どうも自分ではないな」
と思うところが、1ヶ所だけあった。

私が取材を受けた方々は、お世辞ではなく、
ほんとにプロばかりだったので、
先方のせいでは決してない。

すると、話し手である私のせい?

何がいけなかったんだろう?
取材を受けるとき、何に注意すればいいのだろう?

そう悩みながら、
私は、原稿のその1ヵ所を、
じゃあ、どう直せば「自分らしく」なるのか考えてみた。

ところが、自分らしい言いまわしに変えてみても、
どう表現を言いかえても、やっぱり「自分じゃない」のだ。
ほとほと、困って、私は、はっ!と気がついた。

「問い」だ!

「問い」そのものが自分じゃないのだ。
私は、そういう問題意識でものごとを見てないと言うか。
私は、インタビューを受けるのに不慣れで、
緊張と、相手に喜んでいただきたいというサービス精神から、
相手の質問には、
全部、カンペキに答えなければと焦っていた。

だが、相手からの質問には、
答えていい質問と、答えてはいけない質問がある。
そのことに、私は、やっと気づいた。

「問い」は、その人の持つ、問題意識そのものだからだ。

ちょっと極端な例をあげてみよう。例えば、新年会で、
仕事ひとすじで生きてきた、まじめな社長さんに、
司会がいじわるな質問をするとする。

「社長! うちの女子社員の中で、
 どのコが、いちばん社長のタイプですか?」

社長は、答えられなくて困っている。
すると、まわりがあおる。

「しいて言えばでいいんですよ、
 ほら、部長さんも、課長さんも、
 恥をしのんで、みんな答えたんですから。」
「こういうのはノリですから、
 むりやりにでも、あげていただかないと、
 座がしらけますから。」

まじめな社長さん、座をしらけさせまいとして、
困って困って、無理やり一人を選んで、なんとか答えた。

すると、そこにいた女子社員、
選ばれた人からも、選ばれなかった人からも、
総スカンをくらってしまった。
「社長だけは、そんな人じゃないと思ってたのに!
 そんな目で私たちを見てたなんて!」

社長は、あわてて
「あわわ…、ちがう、ちがう!
 そんなんじゃないんだ。
 無理にでも答えろっていうから……」

と弁解しても後の祭り。

この場合、
この「問い」そのものが、「らしくない」のだ。
社長さんが本当に言いたかったのはこうだろう。
「私は、そういう問題意識で、
 女子社員を見たことはない。」

質問に答えるということは、
たとえそれが、
相手から差し出された質問であっても、強制でも、
いったん、その問題意識を自分に取り込むことになる。
そういう問題意識をもって、
人や、世の中を見るということだ。

だが、場合によっては、どう答えるかより、その人が、
どんな「問い」(=問題意識)に基づいて
世の中を見ているかが、雄弁にひととなりを表す。

例えば、「黒人と白人、どっちが偉いか?」と聞かれ、
「黒人」と答えても、「白人」と答えても、
「どっちも偉い」と答えても、
「どちらでもない」と答えても、
しっくりしないようなとき、たぶん、言いたいのは、
「その問い、そのものが、自分にはない。そもそも、
 皮膚の色で人間の偉さを比べると言う問題意識そのものが、
 自分らしくない」ということだろう。

会話とか、アンケートとか、会議とか、私たちは日々、
質問にさらされ、つい、
その場のノリや雰囲気で答えてしまう。
だが、どう答えても
「なんか、しっくりしない」と思うとき、
ちょっと点検してみよう。「問い」は何か?

その「問い」は、自分の世界観に取り込めるものだろうか?




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2004-01-07-WED

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