YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson142 「ちゃんと読めよ!」の落とし穴

ネットやメールの、コミュニケーショントラブルは、
「読解力」の不足からくることが多いのではないだろうか?

サイトやメルマガで、
自分の文章を公開している人は、
寄せられる批判メールに、

「くそっ、ちゃんと読めよ!」

と、くやしい想いをしたことはないだろうか。
文章全体をちゃんと読めばわかることを、
ちゃんと読まず、
言葉尻だけとらえて、誤解して、
「批判メール」をしてくる人。

(この教室の読者には、
 これまでそんな人はいない。念のため)

そういう人に、思わず、
こんなメールを返したくなる人はいないだろうか。

「失礼ですが、あなたは、
 私の文章をよくお読みにならないで、
 批判なさっているようです。
 もう一度、文章をちゃんと読んでください。

 わたしが、どこにそんなことを書いていますか?

 あなたは、私が、これこれを、
 これこれしかじかと言った、と誤解しているようですが、
 私は、そんなことを書いていないし、思ってもいません。
 私は、これこれについては、
 かくかくしかじかという考えを持っています。
 それが証拠に、本文に、ほれほれこうだと
 書いているではありませんか……」

と、つい、長い釈明をしたくなる気持ち、わかる、ワカル。

でも、「ちゃんと読めよ!」には落とし穴がある。

ほとんどの人が読めばわかることを、
その相手はわかっていない。
ということは……、

相手は、文章をよく読む習慣がないか、
思い込みで文章を読んでしまうクセがあるか、
自分の反応したい部分だけを読んでしまうクセがあるか、
トレーニング不足か、なにか、
とにかく「読解力」に問題がある可能性が高い。

読解力によって生じた問題を、もう一度相手に読ませること、
つまり、「相手の読解力に頼るカタチ」で
解決しようとするのは、得策だろうか?

かりに相手が、すなおに読み直したとしても、
また同じような読み方をするかもしれない。
一回目とは、また別の部分に反応し
別の部分につっかかってくるかもしれない。

それに、釈明をとうとうと述べた、自分の反撃メールも、
最初の文章が読めていない相手に、
正確に理解される保証がどこにある???

「ちゃんと読め」では、
なかなか問題が解決しないのは、こういう理由だ。

こういうケースでは、そこから先、
もう、メールで解決するのはやめて、会って話すとか、
文章以外の手段で解決するのが堅実、とわたしは思う。

それでも、なにかの事情で、どうしても、どーーーしても、
メールで解決しなければならないときは、
どうするか?

もう一度、相手のメールを、じっくりと、
「この人が本当に言おうとしていることは何か?」
理解しようとつとめて、よく読むのだ、

そう、「相手にもう一度読め」ではなく、
「自分の方がもう一度読む」のだ。

いやだろうけど、わかるけど、
相手の読解力に頼るより、自分の読解力に頼る方が確実だ。

「結局、相手が本当に言いたいことは何か」を、
正しく、深く、読み取ったら、それをできるだけ、
適確に、短く、ひらたい言葉で要約して、
返信メールの頭に置き、
あとは、「私もそう思う」と伝えるといい。

つまり、

「あなたは、私が、黒いカラスを白いと言ったと
 誤解しているようですが、
 私は、そんなことを書いていないし、思ってもいません。
 私は、カラスついては、
 黒いという考えを持っています。
 それが証拠に、本文のここに、黒いと言う意味のことを
 書いているではありませんか……」

のような、長い説明は、
相手がちゃんと読まないか、誤読のおそれもあるので。
短く、やさしく、てっとりばやく、

「カラスって黒いですよね。わたしもそう思います。」

と、共通項を柱に文章を組んでいくと、案外、うまくいく。
だって、もともと「誤解」なんだから。

相手への批判も、自分の釈明も、ことをややこしくするだけだ。
誤解されたら、まず冷静に、

誤解のもとになっている「問い」は何か?
(→カラスの色は何色か?)
それついて結局、相手はどうだと言っているか?(→黒だ)
自分は結局どう思うのか?(→黒だ)

を整理して、
ストレートに「カラスは黒い」で文章を立ててみよう!




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2003-04-09-WED

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