YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson78 新春に「志」を立ててみる

2002年、はじめのレッスンは、
「こころざし」を立ててみようと思います。

志とか、抱負とか、
うっとうしい人も多いでしょう。

しかし、
仕事でも、学問でも、
「志」の質やレベルが、
問われています。

たとえば、AO入試では、
受験生の「志」、つまり、
「何のために学ぶか?」
が選抜のポイントになっています。

良い志と、いまいちの志とは、
どこが違うのでしょうか?
確かに、新年の抱負などを聞いても、
「ふーん」で終わる人と、
「志が高いなあ、この人。がんばってほしいなあ」
と無条件に思える人がいます。

また、私はビジネスマンを対象とした
事業計画を立てる研修に出たのですが、
そこで問題になっていたのが、
多くの幹部候補生が「志」を示せないことでした。

ここでの事業計画とは、ひらたく言うと、
・何を目指すのか?
・そのために何をやるのか?
・結果をどう検証するのか?
を決めることです。

このうち、
「何を目指すのか?」
が、志にあたります。
それが出せないエリートが非常に多いのです。

それで例えば、
・ 100万ヒットを目指す。
・ 利益○%アップを目指す。
のようなものをあげるのですが、

これは、手段であって志ではありません。
何のために、商品を100万も売るのか?

「金のためだ」
と言う人もいると思うのですが、
お金だけなら、
より確実に、効率よくかせぐ方法を追求すればいい
ということになってしまいます。
わざわざ、その職種を選び、
何のために、手間ひまかけて、その仕事をするのでしょうか、
そこを説明するのが志です。

「何のために?」

が見えない仕事は、
メンバーを鼓舞することができず、
成功か、失敗かの見極めさえ難しい。

日本のエリートは、与えられた目標は、
高いレベルで実現するが、
志そのものは創出できない、などと言われます。
みんな共通の「何のために?」が見えない時代だからこそ、
個人、個人が「何のために?」を
自分で考えて、示すことが必要になっています。

しかし、私たちは、志のつくり方なんて
習っていません。
大志を持てと煽られても、
抽象的で困ってしまう。

ならば、
表現をちょっと工夫することから始めてみては、
と思います。
志を語る際の、表現上のコツを一つだけ、
あげるとすれば、

それは、他者の側から見ることです。

手順として、
志を求められたら、
まず、素直に、
自分がやりたいことを洗い出します。

例えば、
自分で納得のいく、いいものをつくりたい。
利益を○%あげたい。
など、正直にあげていいのです。

ただ、このまま人に語っても共感を得ることはできません。
なぜなら、
それは自分の都合、自分の願望であり、
聞く人にとって関係がないことだからです。

そこで、
自分のやりたいことを、
他人の目から見て、表現し直してみます。
自分のやりたいことは、

人から見てどんな意味があるのか?
人にどんな価値を提供できるのか?

例えば、
照明器具をつくる人なら、
「今年は自分の納得のいく、最高の照明器具をつくりたい」
と言っても、
聞く人にはピンときません。
「ふーん」で終わってしまう。

そこで、自分が納得のいくものをつくることで、
人にどんな価値を提供できるか、
という表現に直してみます。

例えば、
「沈んでいる人の心も、
ぽっ、と明るくなるような照明をつくりたい」
こうすれば、
聞く人にも関係がでてくる。

さらに、
「100万ヒットを目指します」と言わずに、
「そういう気持ちの明るくなる空間を、
1件、2件…10万件…100万件と増やしていくことで、
世の中をもっと明るくしたい」
と表現すれば、100万という数字は、
聞く人にとっても意味のあるものに映ります。

これは、表現上のテクニックですが、
自分のやりたいことの価値を、
他者の側から見て表現する、
というトレーニングを積み上げれば、
いつしか、志、そのものも育っていくのではないか、
と私は思います。

以前、川口能活選手の話をうかがったとき、
目標を、試合に勝つことに留めず、
「見る人を感動させる」、と表現していました。

川口選手は、その日も全体練習の終了後、
長く残って、自主練習をしていました。
勝つために、あらゆる努力を惜しまない人が、
でも、勝つだけではだめだ、
人の心が動くところまで、
プレーを極めたいと思っている。

人が共感し、彼の夢を支えたいと感じるのも
当然だなと思いました。

志に「他者」が入っていれば、
困難にあっても、他者が、その人を支え励ます。
自分が人に価値を与え、人から支えられる循環で、
志は自然に育っていくのではないかと思います。

新年の志を、もう立てた人も、
これからの人も、
どんな小さなことでもいいのです。

自分のやりたいことを、
人にどんな価値を提供したいか、
に翻訳する作業をやってみてはいかがでしょうか。




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2002-01-09-WED

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