YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

夜明け前

今の時代、
不安になる人も多いと思うのですが、
そういうとき、
どうしていますか?

私は、ひとりでいると
よく、不安になります。
とくに、ものを書くようになってから。

それで、自然に、
泳いだり、
走ったり、
するようになりました。

泳いだり、走ったりしている最中は、
どうしてか、
考えは、
前向きな方向にしか、進まないのです。

身体を前へ、前へと進めていると、
まず、
「自分は何が不安なのか?」
という問いがわいてきます。

水泳だと、最初の400メートルくらいで、
自分をとらえていた不安の正体が見えてきます。

私の場合、不安の正体は、
ときによって、いろいろなのですが、
集約すると、つぎのふたつです。

自分が社会から取り残されてしまうのではないか?
自分の気力も能力も衰えてしまうのではないか?

不安って、
正体が見えないから恐ろしいのであって、
こうして言葉にしてしまうと、
こっちのものです。

こんどは、
「では、自分は、どうなりたいのか?」
という問いがわいてきます。
400メートルを越えたあたりから、
身体も爽快になってくるので、
ポジティブな将来像が、ひとつ、また、ひとつ、
とイメージできるようになってきます。

一かきごとに、私の場合は例えば、
もう一度、人の中へ、社会の中へ入っていくぞ。
自分の持っているものを生かして、
人と人が力を引き出し合える、
いいネットワーク、いい循環をつくるぞ。
といった具合に、
この段階では、
やたら、めたら、前向きなイメージが、ふくらんでいきます。

そして、700メートルを越えたくらいから、
身体も疲れてくるので、
思考も、やや現実にもどって、
「では、そのために何をするか?」
という問いが立ちます。

すると、今、しなければいけないことが、
怒とうのように出てきて、
一瞬、焦るのですが、
「これをするためには、その前に何が必要か?」
というように、
やるべきことのうち、
根っこにあるもの、さらに根っこにあるもの……
とたどっていきます。
すると、私の場合、大抵、次の問いに落ち着きます。

「どうしたら、
人や世の中に対する、
温かで開かれた気持ち、
みずみずしいアイデアが常に湧き起こってくる状態に
自分の内面を持っていけるか?」

そのために、
生活の流れをどうつくるか?
どんな環境に身を置いたらいいか?
どんな勉強・情報収集をしたらいいか?
どんなアウトプットをしたらいいか?
ひとつ、また、ひとつ、
具体的になってきます。

そうやって、水泳は1000M、
ランニングは40分間の
短い思索が終わったあとは、
「ああしようか、こうしようか、どうしようか」
という不安にとりつかれた混迷から、
「こうするために、どうしようか」
という方向をもった悩みへと進化しています。

不安への対処の仕方として、
「うさばらし」みたいにして解消しようとするやり方と、
「立ち向かう」という方法があります。

「立ち向かう」とは、具体的にどうすることか?
というと、やっぱり、自分の頭で考える、
ことにつきると思います。
不安の正体・原因・解決方法を。

考えるということは、
恐ろしく面倒なことで、
案外、考えなしにパッとやってしまったことの方が
よかったりして、
考えることの無力に襲われることもあります。

しかし、一度、
丁寧に、洗い出し、思考を積み上げたものは、
決して、ゼロには戻りません。
だから、新たな不安が襲ってきても
その先のことを不安がったり、悩んだりすればいいのです。
思考は積み上がる、
その点で無力ではありません。

私がやっている、泳いだり、走ったりして、
考える方法は、前向きになるという点ではいいのですが、
ひとつ問題があるのは、
記録がとれないことです。

だから、その意味では、
「日記」をつける
ほうが、よいのかもしれません。
自分が、そのときどきで、
何を不安に思っているのか、
解決へと、どう考えたか、の軌跡が残せるので、
本当に積みあがる財産になります。

私の場合、
不安は、ちゃんと受け取って考えれば、
結果的に明るい方へ
自分を押し出してくれる。
「夜明け前」のような状態です。

あなたは、不安と、どうつきあっているでしょうか?




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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●ラジオ出演予定
 12月29日 朝9:10〜
 山陽放送ラジオ(RSK1494)

2002-01-02-WED

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