YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson70  絆(きずな)

インターネットやメールという道具で、
ほんとに人と人の絆なんて、できるんだろうか?
「人間関係を結んでるつもり」だけの
幻想じゃないのか?

ネットに希望を抱き、
でもどこか、匂いも体温もないこの道具を、
信用ならん、という気持ちで、

ネットにコラムを書きはじめて、1年半がすぎた。

今、私はこう思う。
ネットは、人の縁を運ぶ道具として、りっぱに機能する。
顔を会わすことのない人との間にも絆は生まれる。

これは幻想でなく、
2001年11月の、私の身に起こっている現実だ。
もうすぐ私の本が出る。

出版の機会をつくったのはあなただ。

なんて言うと、あなたは、うさんくさいと思うだろう。
でも社交辞令や感傷で言ってるんじゃない、
ほんとうのことだから。

私は無名で、営業というものもしていない。
会社を辞めたのと、この連載開始が
ほぼ一緒だったから、
自分の足元さえ定まらない人間だった。

自分が何者だかわからないのに、
人前で表現をすることは、
真っ暗闇のなかで、ボールを投げるような緊張がある。

闇を手探るような表現を久しくしていなかった。
企業では、調査もするし、お客さんの顔も見える。
ある程度、確信犯として出版物を発信していたのだ。

その自信はどこへやら、
連載をはじめたころ、
考えすぎて、もう自分が書いたものが、
自分でさえ、いいかわるいかわからなくなっていた。

闇の中で、
私は、あなたにボールを投げる。
受け取ったあなたの「バシッ」という音を聞いて、
はじめて私の位置を知る。

つまり、読んだ人の声を手掛かりに、
私は、次の一歩をどう踏み出すかわかるのだ。

あなたは厳しかった。
時には何の反応もなく、1通のメールもなく、
闇の中で私は、ただ
「沈黙」というあなたの声を聞いた。

でも、それは、
あなたがうそをつかず、
私と関わろうとしてくれたからで、
次の1歩へ力強く押し出してくれた。

読んだ人の感想メールは、
わたしにとって、ごはんだ。
ほぼ日の執筆は無償だけど、
人はサラリーをもらって、ごはんを買う。
なら、私は直接それを得ているのだと思う。

ただ、たくさんのメールをいただいたときでも、
どこか寂しかった。
表情を見ることも、手をとりあって歓ぶこともできない、

本当に、あなたとつながっているのだろうか?

そうやって、ネットでコラムを書くために、
悩んだり、歓んだり、怒ったり、泣いたりしている私は、
ほんとうに可笑しい。
なにせ、相手は、15インチのモニターだ。
客観的に見れば、
モニターの前でのたうちまわっている変な奴だ。

例えば、ネットにコラムを書くことで有名になろうとか、
次の仕事を得ようとか、
そういう人がいてもいい。
でも、書いてみるとわかる。
そんな浅薄(せんぱく)な動機では続かない。
書き続けることも、読者の目も、そのくらい厳しい。

私の場合もはじめは、書くことで、
人や社会から愛されたかったのだろう。
ところが、パソコンのこっちの孤独は変化しない。
それどころか、物理的に書く時間が増え、
ますます人に会わなくなる。
現実の厳しさに、
ネットへの淡い幻想は吹き飛んでいった。

「これは、しっかりした志がないともたないな」

回を増すごとに、志を強められていった。
自分にとって切実で、動機がはっきりしたことを書く。
「いま」を書く。
うそのない、本当のことを書く。

みんなあなたが教えてくれたことだ。

以前、ここで紹介したAさんは、
失恋というギリギリの場面で、
このコラムを思い出し、要約することで、
自分はどうしたいのか?
相手との関係性を考え抜いた。

私が、このコラムを書くことで、
自分の頭を動かしてものを考える人や、
自分らしい言葉で人に伝える人が、
一人でも二人でも増えてくれたらいいと思う。

そういう人が1人、いる限りは書こう。

そう思えたころ1件、
2000年暮れに1件、年明けに1件、
出版のオファーをいただいた。

私が書いたものは、非力でも
ネットの闇をくぐり、手を伸ばして、
志の重なる仲間を見つけた。
書くことは無力ではない。

編集者はいずれも「ほぼ日」の読者で、
最前線でものをつくっている人たちが
数多く存在することを目の当たりにし、
「ほぼ日」の読者力を思い知った。

読者力(どくしゃりき)と言えば、
あなたには、まだ社会認知のとれてないものを、
認め、押し出す力がある。
「読む」
という、一見生産性のない行為が、
実は選択であり、意志であり、
次の流れを生み出している。

私が、退社とともに忘れ去ろうとしていた、
文章を書くことのノウハウを、もう一度蘇らせ、
書かせ、志を鍛え、
今日まで導いたのは、あなただ。

あなたが運んでくれた出版の機会は、
私にとっては大きかった。

本屋さんで、もし、私の本を見かけたら、
「こいつは私が育てた」
と自信を持って言ってほしい。

本を書く前、
人の評価、売れるかどうかが恐かった。
でも一冊書き終えた今、本当に気にならなくなっている。
「そんなのはきれい事だ」という人は、なら問いたい。

たくさん売れて、それで何を得たいのか?

それがわからなければ、数字は単なる記号だし、
目標ではなく手段にすぎない。

私は、本を書くことで、
その先に私がいちばん欲しいものを得られる
という「確信」を持った。
それは、ひと言で言えば、

あなたとの絆だ。

例えば、もし、あなたが私の本を読んで、
自分の持てる「書く力」を揺り起こし、
外に向かって発現し、
読み手の心を動かすことができたなら、

その瞬間、私の書いたものは、あなたの中に生きた、
そのことによって私もまた生かされたのだ。

離れていても、あなたと私の間には、
信頼の絆ができるということだ。

歓び、といったらこれにまさるものがあるだろうか?

そんなふうに、人と人は、離れていても、
表現することで、
互いの潜在力を揺さぶることができる。
相手の潜在力を生かす、
という形で、自分を相手の中に生かすことはできる。

本を書くことで、そこに確信が持てた。

あなたによって潜在力を揺さぶられ、
少しだけ強くなった私がいる。
書くことの力を信じるし、
あなたの力を信じている。

人は弱い、自分もまだまだ弱いけど、
ひとつでも信頼の絆があれば、
胸を張って生きられると想う。

ほんとうにありがとう。
逢いたかった。あなたに逢えてよかった。

次は、私がアシストで、あなたがシュートを決める番だ。
この本は、そんな想いをこめて書いた。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円
ネットでは、11月16日から下記で買えます。
bk1http://www.bk1.co.jp/
PHPショップhttp://www.php.co.jp/shop/archive02.html
11月18日ぐらいから本屋さんの店頭に並びます。
店頭にない場合は、お店の人に注文してください。

応募方法
本日15日(水)の24時までに
book@1101.comへ。
件名を「伝わる」として、
「・郵便番号・住所・お名前・電話番号」
を書き、応募してください。

発表
15日(木)午後、
このコーナーのここをクリックしてください。
(更新日でないので後の方にあります。)

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
コミュニケーションの「基本」から実践的な書き方まで、
実例で具体的に身につけることができる。
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

2001-11-14-WED

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