YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

一枚の完成された文章を仕上げるのもいいけど、
それだけじゃ、つまらない。

文章のこっちに私がいて、
文章の向こうに相手がいる。
相手の心を動かし、
互いの潜在力を生かし、
状況を動かす。

そこまで含めた文章書きをめざしてみませんか。

……というわけで、
「生活の中で機能し、結果を出す文章」の書き方、
2回目の今日は、キソのキソ、
もう、文章って、そもそも何よ? 
というところからやっていこう。

とくに目新しい話ではないし、
去年からやっている人には復習になってしまうのだが、
あとあと影響することなので、
しっかり押さえてほしい。

さっそく、あなたに質問です。
文章の要素を一つあげてください。

Lesson49
文章に欠かせないもの
――結果を出す!文章の書き方(2)
基本の3要素


自分は、普段どんな要素でものを書いているんだろう?
話しているんだろう?

だれ? 主語・述語・目的語……なんていうのは。
それは、文章じゃなく、「文」の要素。

起・承・転・結?
おしいけど、
それは、文章の「要素」じゃなくて、
「構成」のひとつのパターン。
それに……、
起・承・転・結は、ここでは使いません。

意外ですか?

文章というと、あなたは、
「起・承・転・結をはっきりさせて書け」
なんて習ったかもしれない。
起・承・転・結は、物語などには向くんだけど、
機能を重視する文章では、ちょっとだけ困ったことが……。
私は、十数年の編集生活の中で、
起・承・転・結で文章を書いたことも、指導したこともない。
その方が、文章はよく働いてくれるのだ。
これは、もっと先の回で、くわしくお話ししよう。
今までイマイチ、起・承・転・結になじまなかった人も、
安心してほしい。
さて、文章の「要素」に話を戻して、

私たちは、日常、実に多くのことを、
書いたり、しゃべったりしている。
主婦も、会社員も、大学教授も、ご隠居も……。
メモ、ポストカード、メール、ファクシミリ、企画書。
連絡、誘い、報告、お願い、ラブレター、お詫び、募集、
宣伝、クレーム、などなど。

それらの基本要素が、
論点・意見・論拠だ。つまり、

1. 取り上げた問題 (論点)
2. 言いたいこと (意見)
3. その根拠 (論拠)


これは、小論文に限らず、
日常生活の中で機能する、大半の文章に応用できる原則だ。
私たちは、知らず知らずのうちに、
この要素を織り込んで、ものを書き、
人を説得したり、怒らせたりしている。

わかりやすくするために、まず、
坊やと母の会話の例をあげよう。
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坊や : おかあさん、今日はハンバーグがいいな、
   ハンバーグ食べたいな。
   ボク、あれ好き。
母 : さっさと歩きなさい。
   …ったく、車がくるわよ!危ないでしょ!

坊やの取り上げた問題 → 夕飯のおかずを何にするか?
坊やの言いたいこと → ハンバーグがいい。
坊やの意見の根拠    → 好きだから。
母の論点 →  今、お前はどうすべきか?
母の意見 →  さっさと歩くべきだ。
母の根拠 →  車が通り、危ないから。
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日常会話も、こんなふうに3要素に分解できる。
おやおや、坊やとお母さんは、論点がズレてるようだ。
これでは会話は成立しない。
会話は、論点を共有したとき成り立つ。
それはさておき、もう1つ、仕事のメールの例をあげてみよう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
甘木部長へ

例の、山中さんにリーダーになってもらう件ですが、
私から山中さんに言ってもかまわないんですが、
甘木部長から直接伝えた方がいいのではないでしょうか?
まだキャリアの浅い山中さんがリーダーに決まったのは、
甘木部長のたっての推薦があってこそ。
推薦者ご本人から伝えた方が、
山中さんもうれしいと思うんです。ご一考ください。

営業統括 藤田

論点 →  誰が山中さんに伝えるべきか?
意見 →  甘木部長が伝えるべきだ。
根拠 →  推薦者から伝えた方が山中さんも歓ぶから。
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論点・意見・論拠。
取り上げた問題と、言いたいことと、その理由。

いい文章というのは、この3つのうちのどれかがいい。
まず「論点」。
これは、文章を貫く、あなたの問題意識とも言える。
例えば、同じ「天気」というテーマで書くとしても、

論点A  明日の天気はどうだろう?
論点B  天気は人の感情に影響するか?
論点C  どんな天気の時、告白すると成功率が高いか?

では、ずいぶん違った文章になる。
読み手が興味を持つかどうかも、論点にかかっている。

また、「意見」は、文章の中で、あなたが一番言いたいこと。
論点として取りあげた問題について、
あなた自身が出した答えだ。

そして「論拠」。
これは、意見の理由とも、
あるいは、広く、あなたの意見の拠って来る所とも言える。
自分の意見がなぜ正しいと言えるか、
客観的な証拠をあげ、筋道立てて、説明する。
あるいは、体験などから、実感をこめて訴える。
相手を説得できるか、
相手の共感が得られるか、
それは、この「論拠」にかかっている。
 
「具体例」とかはどうなるの? 要素じゃないの?
と思う人がいるかもしれない。
でも、具体例も、よく考えると、
3要素のうち、どれかの役割を果たしている。
例えば、意見の正しさを証明するために引いた例は「論拠」だし、
問題提起のために引いた例は「論点」だし。
機能を突き詰めていくと、
文章の基本は、この3要素になる。
これを日常の書くシーンで意識してみよう。

では、この3要素を使った、
オーソドックスな文章構成をみていこう。

3要素の配列

書き出しで「論点」、つまり何について書くか、バシッと示し、
つぎに「論拠」を示したあと、
最後に自分の「意見」をバン!と打ち出す。

これが機能文の一番素直な構成だ。
ラブレターの例でやってみよう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<論点→論拠→意見の配列例>

一郎さん、私が留学して3ヶ月、
何かが足りないと、ずっと心の奥で探していたものがあります。
それが何か、やっと気がついたので手紙を書きました。
(論点 私に足りないものは何か?)

留学して、一番つらかった瞬間は、
私が何かうまくいかなくて、周りにあたりちらしてるとき、
「お前が悪い」とガツンと言ってくれた、
その人がいないと思う瞬間。
私が、ぐずぐずと言い訳して、動き出せずにいると、
「恐いだけだろ」とポンと背中を押してくれた、
その人がいないと気づく瞬間だったのです。 
(論拠 間違いに気づかせ、勇気をくれた人の不在を思う時、
私は一番つらかったから、)


だから、留学して、私がずっと心の奥で探していた、
足りないもの、それは一郎さん、あなたです。
 
(意見 私に足りないもの、それは、あなただ。)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

うっ、我ながら、書いていてクサイ文章…、ごめんよー。
あくまで文章構成のため、がまんして読んでください。

この三つの要素のうち、よく省略されるのは、「論点」だ。
なくても意味は通じる。次の通り。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
留学して、一番つらかった瞬間は、
私が何かうまくいかなくて、周りにあたりちらしてるとき、
「お前が悪い」とガツンと言ってくれた、
その人がいないと思う瞬間。
私が、ぐずぐずと言い訳して、動き出せずにいると、
「恐いだけだろ」とポンと背中を押してくれた、
その人がいないと気づく瞬間だったのです。 
だから、留学して、私がずっと心の奥で探していた、
足りないもの、それは一郎さん、あなたです。
 
(論拠→意見)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

先にあげた、坊やの会話でも、論点は省略されている。
頭で、「夕飯のおかずを何にするか? なんだけど…」 
とは切り出していない。

このように論点は、省略してもかまわない。
ただ、仕事メールなどでは、論点を示した方が、わかりやすい。
「今日の会議の席順をどうするか? についてですが…」
と切り出した方が、他に様々な仕事をしている相手も
「ああ、その件か」と、頭を切り替えやすいからだ。

ともかく論点は省略することが多いので、
「論拠と意見」で文章は成り立つ。
思い切って頭に「意見」をもってきてもいい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
留学して、私がずっと心の奥で探していた、足りないもの、
それは一郎さん、あなたです。 
留学して、一番つらかった瞬間は、
私が何かうまくいかなくて、周りにあたりちらしてるとき、
「お前が悪い」とガツンと言ってくれた、
その人がいないと思う瞬間。
私が、ぐずぐずと言い訳して、動き出せずにいると、
「恐いだけだろ」とポンと背中を押してくれた、
その人がいないと気づく瞬間だったのですから。 
 (意見→論拠)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「意見と論拠」、または、「論拠と意見」。
文章を書くことを難しく感じたときは、
この基本を思い出してほしい。つまり、
「いちばん言いたいことをはっきりさせ、その根拠を示す」
これだけで、たいがいの日常シーンに通用するはずだ。

では、さらに字数、時間がないとき。
どこを残すか。それは、「意見」だ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
留学して、私がずっと心の奥で探していた、足りないもの、
それは一郎さん、あなたです。 
(意見のみ)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

説得力はともかく、言いたいことはわかる。
逆に意見をとってしまうと、

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
留学して、一番つらかった瞬間は、
私が何かうまくいかなくて、周りにあたりちらしてるとき、
「お前が悪い」とガツンと言ってくれた、
その人がいないと思う瞬間。
私が、ぐずぐずと言い訳して、動き出せずにいると、
「恐いだけだろ」とポンと背中を押してくれた、
その人がいないと気づく瞬間だったのです。 
(論拠のみ)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

……? その人ってだれ? オレ?
……? だからどうなんだ? ホームシックか?
励ましの手紙でもよこせというのか? 

意見のない文章は、このように、
「結局何がいいたいの?」と相手を悩ませてしまうことに。
文章を成立させるとき、欠かせない要素は、「意見」。
つまり、あなたの「言いたいこと」があるかどうか、だ。

意見とは、自分が考えてきた「問い」に対して、
自分が出した「答え」である。
この意味で、文章を書くとき、答えは必ず自分の中にある。
決められた一つの正解がよそに存在するのではない。
だから、だれにでも文章は書ける。
あなたが文章を書くということは、
あなたが納得いくまで自由にものを考えてよいということだ。

さて、文章を縮めていくとき、
先にあげたように要素を一個ずつ取っていくのではなく、
別のやり方はないだろうか。
「意見」だけでは、どうも説得力がない。
そこで、このラブレターをさらにぐっと、ぐっと短く、
もっとも短く言うとすれば、どうなるだろうか? 
例えばこうなる。

 「好き」

意見、論拠を代弁し、かつ強い言葉だ。
ところが、この言葉、文面にまったく表れていない。
文章を成立させている第4の要素、これはなんだろう? 

昨年から読んでいる人はもう分かったと思う。
これを含めた残る4要素を来週見ていこう。

2001-06-20-WED

YAMADA
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