YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson32 お願いの文章を書く−はじめに


あなたは、日ごろ、人にものを頼むとき、
どんなふうにやっていますか?

今日から、何回かに分けてやる
「依頼文の書き方」は、
きわめて初心者向けの、
あたりまえの「お願い」が、
あたりまえにできるようになることを目指すものです。

私は、企業で編集をしていたとき、
外部の人に、原稿やインタビューなどをお願いする側でした。
独立してから、しばしば、執筆や講演の依頼を受ける側にも
回るようになりました。

お願いする側、される側、
どっちも見えてきたときに、
なんだか、いたたまれない気持ちになってきました。

依頼というものは、
やり方がまずいと、相手を非常に傷つけてしまうものだ。
ということが、身をもってわかってきたのです。

ちょうどそのころ、作家の町田 康さんが出した
『実録・外道の条件』(MEDIA FACTORY)には、
編集者やスタイリストなど、マスコミ陣とのやりとりに
消耗する作家の怒りが書かれていました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
なにゆえかくも話が通じないのであろうか。
(中略)
丁寧な文面であるのにもかかわらず、
その文面の中にときおり顔をのぞかせる強い調子、
たとえるならば、新宗教の教団、あるいは役所、
あるいは大学、あるいは企業などに
ときにみることのできる、
自らの内的なルールに対してまるで疑いのない、
「と、させていただきます」「となっております」
「ご協力をいただいております」
「ご理解をいただいて」というもの言いに似た、
攻撃的な排他性のごときを(後略)、
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

私のまわりの作家やアーティストに聞いても、
依頼をめぐるトラブルに、傷ついてない人はいません。
そして、それは、作品以前の、
ごくごく基本的なやりとりでの消耗のように思えます。

コミュニケーションをなんとかしないと、
私たちの消耗は、
日増しに大きくなっていくのではないか?

これが、最初に感じた危機感です。
力をもった人が、
いたずらに消耗していくだけになったら、
本来の力が発揮されなくなったら、
これは、社会にとっても自分にとっても損失です。
そして、もうひとつ、私が危機に感じるのは、

コミュニケーションがどんどんよくなっていく仕組み
がないんじゃないか?

ということです。
企業にいたとき、私は
外部とのやりとりをとても大切にしていました。
しかし会社という、
権力をもった、保証された、また、
独特のルールをもった中にいては、
気づけないことも多かったのです。
原稿料の設定一つにしても、
それで食べていっている人のことを、
サラリーをもらっている私は
本当にはわかろうとしなかった。

外部とのトラブルを起こしている企業人たちも、
決して、悪意があって
依頼対象を悩ませているのではなく、
むしろ、これが仕事だと思って、
あるいは忙しさをシェルターにして、
ごく無邪気に自分たちのやり方を
結果としては押し付けてしまう。
押し付けられた側は個人が多く、
企業という権威に対して、
文句を言うことができない。
だから、改善していかない。

もちろん、依頼文書のマニュアルなども、
会社によってはある。
けれど、自社がつくったマイルールを正当化し、
徹底するためのものになってしまったら、
それは、逆効果です

自分のやってる依頼は、
もしかすると相手を傷つけているかもしれない。

私自身、そこからスタートしてみたいと思いました。

お願いをするとき、何を大切にしたらいいのか?
いい依頼と、悪い依頼、そもそもどこが違うのか?
依頼文の書き方は?
といったことを、もう一度根っこから、
一緒に考えてみたいと思います。

依頼文に必要なのは
まず、「考える」ことだと思います。

マニュアルにおちいらず、
常に、何が必要か?
相手はどう考えるか?
頭を動かしていくこと、
「考える」という作業は、
実におっくうなので、私たちは、気をぬくと
すぐに思考を止めてラクをしようとします。
問いが立つ、
その問いをねばり強く持ちつづける頭にすることと、
問いに応じて、調べる・動ける体が必要です。
考えて、調べて、創って…。

互いの潜在能力が引き出され。
よいものが生まれ、
結果的に、
相手との信頼関係が
築けるような依頼をめざしてみましょう!

そこで、
次週からは、
だれに、何を頼むかはっきりさせた上で、
依頼理由を示し、
相手にとっての意味を考え、
自分の根本思想をチェック、
自分というメディアを端的に伝える
依頼文の書き方を、一緒に
「問い」を立てながら考えていきましょう。
もう、基本中の基本、

それ、本当に、人にお願いすべきことでしょうか?

みたいなところからはじめてみたいと思います。
ではまた来週、水曜日にお会いしましょう!

(つづく)

2001-01-10-WED

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