YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson27 知識をデザインしてますか?

「知識が乏しいから…」って、あきらめるのはまだ早い。
少ない知識で、やってく術もある。
量よりも、「知識をデザインする力」だ!


こんにちは。

あなたは、わりとよく、ものを知ってるほうですか?
それとも「え? ○○も知らないの?」なんて
よく、おいてけぼりにされるほうですか?

もうすぐ21世紀。
高度に情報化した世の中で、私たちはいったい、
どれくらいのことを知ってないといけないのでしょう?

私は、新米編集者のころ、
よく、お腹が痛くなっていました。
大学の先生とか、
いわゆる知識人たちと
環境問題とか、情報化社会とか、
テーマについて話しをしなければいけない。

編集以外の仕事も鬼のようにあり、
しゃがみこんで泣き出したいほど
準備に割ける時間は限られていました。
でも、勉強してないとついていけない。

そんな日々の中で、
乏しい知識で、いかにクリエイティブな仕事をやってくか?
ギリギリの悪知恵が生まれてきました。
今日お話するのは、そんなお叱り覚悟の裏ワザです。

よって知識が豊富で、
正統派の勉強をやり抜ける人には必要ありません。
読まないでくださいね。

●こりゃ、戦略的にいかんとまずいな

テーマについて無知なときほど、
「バカにされたくない」という防衛本能が働きます。

新米のころは、先生に会う前、焦って、
本をみたり、新聞記事をひろっていき
付け焼き刃の知識を、関係ありそうなところで披露しては、
会話をつなごうとしました。

でも、ちっとも話がはずまない!!!
それも、そのはず。
自分の言ってることは、
「私はテーマに関するこんな事件を知ってます」
「テーマについてこんな本を読んでいます」
つまり「知ってます」のオンパレード。

「ああ、そうですか」「だからなんなの?」
と言われればそれまで。
さらに、先生から、
「ああ、それについては私も関心があります、つまりそれは…」
なんて、バァーーーーーっと専門知識で切り返されると、
もう、ヒアリングさえできない。
グループで話をしている時は、
ひよっこの私を残し、話ははるか遠くへ…。
ここはどこ?  私はだれ?

せっかく事前に本を読んで、
その本を足場に話そうとしたら先生に、
「ああ、あれは、私も読みましたが、
ちょっと立場が古いんじゃないですか?」
と言われて、絶句! なんてこともありました。

だいたい、
代表的な本は、専門家はたいがい読んでいます。
私の知っている大学教授は、1日10冊本を読みます

断片、断片の知識を暗記していってもだめ。
本も、いきあたりばったりではだめ。
かといって、勉強していかないと、
相手や、まわりのいい部分を引き出すことはできない。

時間は限られている、体は一つ。

こりゃ、戦略的に知識を取り込まないとまずいなあ…。
やっとそのことに気づいたのです。
そんなある日、同僚がこんな表を見せてくれました。

●相手との関係を読む

小論文の、いわゆるネタとして、
どんなものを持ってきたらいいかという図です。

  相手・知ってる 相手・知らない
あなた・
知ってる
あなたも、相手も、
(みんな)知ってる。
あなたは知っているが、
相手は知らない。
あなた・
知らない
相手は知っているが、
あなたは知らない。
あなたも、
相手も知らない。

この表の「相手」とは、
あなたが、コミュニケーションをとる相手、または、
一緒に仕事をするチームとか、所属する集団と考えてください。

ようするに、短時間で知識をためていく戦略として、
「あなたは知っているが、相手は知らない」
ゾーンを見直しましょうということです。

例えば、文系の私が、
情報化について理系の大学教授や、
コンピュータ関係の人と話しをせざるをえないようなとき、
たいがいは、
「相手は知っているが、自分が知らない」
ゾーンの知識収集にあけくれ、
結局向こうの本丸で勝負することになり、墓穴を掘ります。

ならば…、例えば、私だったら、
高校生の情報はいっぱい持っているわけです。
今の高校生は、「情報」というものをどう捉えているか、
情報化社会について、どんな不安や期待をもっているか?
といった知識を持っていくと、
キラッ! と大学教授の目が輝きます。
そこを糸口に、クリエイティブな会話がはずむわけです。

ひとつ得意をもつ。

何かひとつ、長期にわたって、しっかり知識を積み上げ、
自分のフィールドを持っておきましょう。
そうすれば、さまざまな分野の活動に生かせます。
あれもこれもとトレンドを追いまわすより、
確実な知識の取り入れ方と言えます。

さて、表にもどって、この中でカットできるゾーンは
「あなたも相手も、みんな知っていること」。
たとえば今、話題になってるキムタクの結婚については、
会社の同僚も、となりの小学生も、
おばちゃんも、おかんも、みーんな知っています。
あなたの知識が弱くても、まちがったことを言っても、
ただちに、だれかがフォローしてくれます。
周知のことについては、忙しいあなたが、
わざわざ知識を深める必要はありません。
他に時間をまわしましょう。

問題は、
「相手は良く知っているが、あなたは知らない」ゾーンの
扱いです。

まず、知らないことを知らないと、知ることです。
これは以外に難しい。

「自分はそれについて知らない」という知識があれば、
無茶や、事故は起こりません。

さらに、
「それをよく知っている人はだれか?」
「それに関する良質の知識は、
どこでどうやったら手に入るか?」
も調べてみましょう。
これも、モノになる知識です。

そうはいっても、テーマについて、
自分である程度の知識は必要です。
では、どうやって、うまく知識を取り込むか、
次に見ていきましょう。

●体系的に取り込む

例えば、コンピュータをさわったこともないお父さんが、
「IT革命は人を幸福にするか?」
なんていう会に出席しなきゃいけなくなったとして、
期限は3日。さて、何をどう勉強していきましょうか?

断片、断片の知識をちまちま覚えていっても、たぶん
「あなたの意見は?」と言われたらアウトです。
「意味・流れ・関係」に注意して、
体系的に知識を取り込んでいくことをおすすめします。

私は、知識を体系的に取り込む工夫として、
こんなマップを描きます。



ふだんから
「人間とはどんな存在だと思うか?」
「いまの日本ってどんな社会だと思うか?」
を、時間の流れの中で、
自分なりに言えるように整理しておきます。


細部にとらわれず、ざっくり大きな流れや、
関係を言えるようにしておけばいいのです。
(例:近代以降、日本の社会は、
人の生活は、こう変わってきている。その中で今、
私が問題だと思うのはこれこれである。)

それで、未知のテーマがふられたら、
この関係図にのっけてみるのです。

例えば、IT革命というが、現在、
具体的にどんなことが起こっているのか?
海外とくらべて、日本の社会はどんな特徴があるか、
そこにIT革命の波が押し寄せるとどうなるか?
ITが発達してない過去、
人の暮らしやコミュニケーションはどうであったか、
それがどう変わってきているのか?
IT革命は、自分とどう関わっているか?
未来(例えば2020年)において、人の生活や
コミュニケーションはどうあればよいと願うか? 
人間というのは、どんな時に幸福を感じると思うか?
 IT革命はそのこととどう関係するか?

というように、過去・現在・未来、
日本・海外、人間など、
立体的に、関係づけながら、
調べたことを整理していきます。

この図は、ある社会学の先生から、
テーマを考えるコツはタテとヨコ(時間と空間)と
言われたのをヒントに、自分なりにアレンジしたもので、
あくまで例です。
私の先輩や、編集仲間も、
それぞれ自分のやり方、自分なりのマップにそって、
断片でなく、知識を取り込む工夫をしています。

あなたなりのマップを持つか、
あなたが無意識に、頭の中でやってることを
マップ化してみることをおすすめします。

●良質な問いがあれば、やっていける!

テーマをめぐる、時間と空間のざっくりしたマップが頭に描け、
「いったい、今、何が問題なのか?」
代表的な問題点(解決策でなく)が押さえられたらOK。
さらに、

自分の中に、テーマに対する切実な、
よい疑問がわきあがってきたら、準備完了です。
良い問いが立てば、
きっとあなたは、
クリエイティブな場でやっていけることでしょう!

2000-11-29-WED

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