言葉の戦争と平和。
米原万里さんとの時間。
(「これでも教育の話」より)

13  熱演だけじゃ、説得できない







いわゆる「バイリンガル」と呼ばれる話題だけでなく、
関西弁と標準語とを話す時の気持ちちがいについて、
メールをくださった方も、いらっしゃるんですよ。

「今、米原さんの対談を、
 一気に全タイトルを読みました。
 わたしは関西弁をこよなく愛しています。
 が、標準語圏に行くと、
 インチキ標準語を喋ってしまいます。
 とってもイヤでした。それは・・・
 自分のアイデンティティのありかが
 ぼやけてしまうから、なのですね。
 話していても、関西弁でないと
 心から出た言葉ではないような気がしてました。
 ちょっと明るくなりました」

「ゆき」さんからのメールでした。
今日のお話は、ふたつの文化というよりは、
自分の気持ちを、声を使って表現する訓練を
積んでいるかどうか、という話になってゆきます。
なるほどなぁ、と思わせる会話になってますので、
みなさん、どうぞ、おたのしみくださいませ!!!








米原 今までの大臣や首相たちは、
官僚のつくったものを棒読みしてたからね。
糸井 小泉さんは、やっぱり才能があって、
相当細かいことを聞くような質問に対してでも、
「ワカったワカった」って言って、
「やるっていったらやります!」
とか、意気を出すでしょう‥‥?
米原 そうそう。
糸井 あれはやっぱり女優ですよね、男優よりも。
米原 そうね。
糸井 スゴいですよ。
米原 ただ、ずうっといつまでも
セリフにすぎないところがね‥‥。
糸井 きっと、アメリカ人とかは、
話す練習をしてるんでしょうね。
米原 私がプラハにいたときの授業は、
ペーパーテストは一切なくて、
つまり、マル・バツの選択式はなくて、
「ぜんぶ口頭試問か論文」だったんですよ。
糸井 へぇー。
米原 あらゆるテストの、知識の試し方がそう。

だから、人前でしゃべる訓練というのは、
それは国語であろうと、歴史であろうと、
地理であろうと、ぜんぶ、受けましたね。
糸井 そうか。
その訓練というのは、
さっきの文法の修得もそうですけれど、
日本人は、してないですねえ。
米原 ええ、してないですね。
ですから、ものすごく受け身ですよね、
日本の試験での試し方って。

つまり、マル・バツというのは、
既にもう答えがある中で選ぶだけだから、
受動的でしょう? 選択式も。
糸井 「黙ってできること」っていう感じで。
米原 黙って、つまり、採点するのも
機械でもできちゃうんですよ。
口頭試問や論文式になると、先生は大変なのね。
つまり、責任持って評価しなくちゃいけないから。
マル・バツや選択だと
機械にかけちゃえばできちゃうし。
糸井 就職試験の面接の練習というのを、
どうも学生さんたちが、するらしいんだけど、
結局のところ、演技の幅が1つしかないから、
熱心という演技しか、できないんですよね。


つまり、下手な役者って
「熱演」するじゃないですか。
結局のところ、魂を込めてっていうのを、
もう熱演でしか表現できない。
米原 できないんですね。幅がないんだ。
糸井 だから、バレちゃうんですよ。
ぼくが1回やったことがあるのは、
5人ずつ順番に会議をさせたんですよ。

で、テーブルの端っこに僕がいて、
「こういうテーマで会議してください」
ってやると、熱演できないんです。
「熱演は、演技である」ということが、
バレてしまうから。

つまり、あとの4人に対して
真実味があると説得できない熱演だと、
議論を進行させられないんですよ。
けっこうそれは、よかったですね。
米原 あぁ、人を見るのにね。
糸井 えぇ。ただし、
こっちの神経がものすごく疲れますね。
米原 そうでしょうね。
糸井 それぞれの採点を
ずっとしなきゃ、ならないから。

でも、ああいう表現力や根っこにある魂って、
実は、ひとつのものですよ、
というようなことを、
ちゃんと教えたいですよねぇ。
米原 通訳って、人が言っているのを理解して、
それから今度それを
表現しなくちゃいけないから、
「理解するプロセス」と
「表現するプロセス」と、両方があるんです。

これ、違うプロセスなんですよ。
ご存じのように、
理解するときには分析的になるんですね。
で、表現する時には
今度は、統合的になるんですよ。


というのは、
いろいろなものを、ひとつにまとめて
表現しないと、相手に向けては
表現することができないわけですから。
羅列になってしまいますからね、
バラバラの考え、というのは。

日本の学者の発言は、羅列が多いの。
いかに知識がたくさんあるかということは
わかるんだけど、それぜんぶを
1つにまとめる統合力というのがない。
恐らくこれ、訓練をしてないからだと思うんですね。
糸井 それはやっぱり米原さんの場合には、
小学校3年生のときに、文法という形で
ロジックの組み立て方を訓練したおかげで、
日本語の組み立てにまで応用されて、
今の自分ができていらっしゃる。
米原 文法というよりも、プレゼンテーションを
毎日、やらされたからですね、あらゆる科目で。
糸井 いい勉強をしましたねえ。


(※明日につづきます。おたのしみに!!!)

2002-11-14-THU


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