一生を、木と過ごす。
宮大工・小川三夫さんの「人論・仕事論」。
「これでも教育の話」より。

第10回 教えないから、上がってくる



木のいのち木のこころ 地
小川三夫
新潮OH!文庫
文庫: 215 p
出版社: 新潮社
ISBN: 4102900934

糸井 お弟子さんは、どう育てますか。
小川 自分が技術を持っているということと、
育てるということとは、また別だな。
仕事に関係ない人が来るんですよ、弟子に。
まだ何もやったこともない、何もできない人が
「宮大工になりたい」といって来るんですよ。

そしたら、その弟子は、
一番先に何をするかといったって、
何にもできない。だから、飯つくりさせる。
仕事はできなくても、みんなのために、
飯つくりと掃除はできるわけですから。

飯つくり、掃除を1年間やらせると、
飯つくりをさせれば、その人の
段取りのよさがわかりますよね。
思いやりも、わかりますよ。そうでしょ。

「今日は、これをみんなに食べてもらう」
とか、そういうのは、段取りが必要になるし、
掃除をさせる時にしたって、必ずその子の性格が出る。
それを1年間見て、
「ああ、この子はこういうところがまずいから、
 じゃ、ここだけは直さなくちゃならないな」
というふうにするわけですな。
糸井 直るんですか。
小川 直りますよ、一緒にいれば。
一緒にいないとだめなんですよ。
これが、アパートから通ってもいいですか、
ではダメなんです。
糸井 うわあ……。
小川 ま、常に一緒にいるんだから
向こうも大変だけど、こっちも大変ですよね。
糸井 こっちの大変さは、すごいですね。
小川 大変だね。
でも、それが大切なんですよ。
そうして生活してると、
「みんながこれだけやっているんだから」
というふうに気持ちがわいてくるわけです。
糸井 仕事もできないなりに、
よくわからないなりに、いい先輩を見て、
「あれがカッコいいな」と思えればいいんですね。
小川 そうそう、そうです。
糸井 あっちの方がいいなあと。
小川 毎日毎日掃除ばっかししますよ。
そうすると、やっぱり先輩が
きれいなかんなくずを削ってますよね。
もう、かっこいいし、憧れでしょう。
ああいうかんなくず、削ってみたいと思う。
そう思ったときにかんなを貸してやるんですよ。
「削ってみい」
そしたら、もううれしくてうれしくて、
板が薄くなるほど削りますからね。

その夜からのそいつの研ぎものは
今までとは全然違ってきますよね。
糸井 その日にガチャーンと変わるんですか。
小川 変わるんですよ。
これが、最初に、
「かんなはこういうふうなもんですよ」
「こういうふうに削るんですよ」
と教えてやったって、苦痛でしかないですよ。
削れないんですから。

つまり、ほんとに削りたい、削りたい、削りたいと
思う気持ちがわくまで、放っとかなくちゃダメ。
教えちゃったら、その子が
いろいろなことを気づかなくなってしまう。
「掃除しとけ」とだけ言って
3か月ぐらい放っとかれますわな。
そうすると、本人がいちばん
「これはまずいな」と思うからね。
そうすると、一生懸命やる気分が高まる。
糸井 小川さんが、お弟子さんに
怒ることというのはあるんですか?
小川 それはありますよね。
物事に素直に触れないという子がいますね。
素直にものに触れることができない子は、
もう、怒り倒さなくちゃだめなんですね。

ちょっとした知識があるばかりに、
ゼロからスタートしない子がいます。
……人間性がなくなるまで怒ります。
糸井 今まで持っていた自我が全部消えるまで?
小川 そう。
糸井 じゃ、それでも飛び出さないという
ぎりぎりのところですね。
小川 ぎりぎりですね。
怒り倒してゼロぐらいになったころには、
そこから急激に上がります、能力がありますから。

もちろん、知識があっても、
モノに素直に触れることのできる子がいますよ。
その子がいちばんですよね。
でも、大概はそこらの知識を
そのまま伸ばして使おうとするから、
波打ってるだけで仕事を任せられない。
糸井 それを矯正するのは、
やっぱり暮らさないとダメなんですね。
小川 一緒にいなくちゃ、ダメなんですよ。
一般の会社ではそれは無理ですね。

ま、こっちのやることと言えば、
黙ってて、何にも構わないんですよ。
ほんで、遠くまわり道した子は、
待っててやればいいわけですから。

たとえば、会社で1、教える、2、教える、と、
そうするとすこしずつ技量が上がりますよね。
でも、うちのやりかたは、
もう教えないでずうっといるけども、
7、8年たったころ、
「こういうやり方もあるんと違うか」
ぐらい一言いうと、その子は、1のことが
10にも100にもパーンと開けるんですよ。
そこから一気にギューンと上がるんですね。
糸井 うれしいですねえ。
小川 うん。
ですから、ずうっと教えた子と上がった子は、
10年ぐらいまでは、だいたいが一緒でしょう。
しかし、そこから先の伸びが違う。
糸井 そのときの喜びというのは
小川さんにとっては大きいでしょうね。
小川 うん。
職人というのは一気に変わるもんですよ。
本人が生き生きとしてきますから、
本人もうれしいし、
自分たちも見ているとすぐにわかります。
「あんにゃろ、最近、仕事すげえな」
という感じでみんな誰もが気づきますから。
糸井 うれしいでしょうねえ。
小川 ええ。
糸井 小川さんは、建築もつくっているけど、
人間もつくっているんですね。

(つづく)

2002-10-07-MON

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