一生を、木と過ごす。
宮大工・小川三夫さんの「人論・仕事論」。
「これでも教育の話」より。

第3回 入りこめることが才能



木のいのち木のこころ 地
小川三夫
新潮OH!文庫
文庫: 215 p
出版社: 新潮社
ISBN: 4102900934

糸井 今、お話を聞いていると、
西岡棟梁と小川さんが一緒に過ごしているような
その生活って、他にたとえようがないですねぇ。
すごくおもしろいです。

たとえば、農家の方も、
鶏が鳴く前に起きるとか、
いろんなことをおっしゃいますよね。
農家にしても、そこでは生活と仕事が
一体になっているわけですが、それでも
娯楽をするだとかいう時間は、ありますよ。

でも、小川さんのお話っていうのは、
「ほとんどすべてが仕事」ですよね。
小川 それでずうっと生活してきたわけだから、
それしかないですよね。
糸井 しかも、楽しそうですよ。
小川 うん、楽しい。
糸井 楽しくなさそうだったら、
「そりゃ、おかわいそうに」
と言える生活なんだけど、楽しそうですよね。
小川 そりゃ、そうでしょう。
自分たちの仕事は、例えば大きなお金を預かって、
自分の思うようなものをつくらしてもらって、
で、最後に感謝状までもらうんですよね。
糸井 まぁ、確かに
そう言うなら、そうでしょう……。
小川 いや、ほんとに
こんないい仕事ないでしょう。
自分でお金を払って作らしてもらって
できるんだったら、それは普通ですよ。

しかし、向こうからお金を預けてくれて、
そんで、その仕事をさせてもらって、
自分の思うようなものを作らしてもらって、
最後にはみんなが、
「ありがとう、ありがとう」
と言ってくれるんですからね。
それでごはんを食べていられるわけです。
そうでしょ?
糸井 そのとおりですよ。
いや、でも生活のすごさには、
「そのとおり」とここで言う以上の
何かを感じますよね。
だって、小川さんだって、
たぶん徒弟制度の中に入る前には
普通の子供だったわけでしょ?寝相の悪い。
小川 そりゃそうですよ。
糸井 そこは変わっていく、
という実感はあったんですか。
ひそかに涙を流した時とかも。
小川 そりゃ、多少はありますよ。
やっぱり苦しいというか、
そういう時は多少はあります。
しかし、修行するのに苦しいとか、
そういうふうに思う人がいますよね。

それは、その雰囲気の中に
入りこんでないから苦しいんですよ。
入りこんでしまえば、全然何でもないですよ。
だから、入りこめない子はかわいそうですよね。
糸井 入りこめるかこめないかという、
それはある種才能かもしれないなぁ。
小川 ですから、いろんな能力のある子は、
なかなか入りこめないです。
「仕事にどっぷり首まで浸れ」
と言うても、これは浸れる子と浸れない子がいる。
糸井 ええ。
小川 それはどこに違いがあるかというと、
むだな能力を持ってる子は浸れないですよ。
ここまで入るまでに
いろんなことを考えてしまって、ほかを見ますよ。
苦しくなったら、ほかを見ますよ。

でも、能力のない子は、苦しくても、
ひとつの仕事しか見られないんです。
それが、楽しいことなんですよ。
糸井 おぉぉ。
じゃあ、小川さんは、弟子を取る時に、
今のお話だと能力のない子を取るんですか?
小川 うん、そうでしょうな。
自分は高校のとき、55人中55番ですからね。
糸井 見事ですね。
小川 見事ですよ。
339人中330番、あと9人いると思ったんですよ。
でも、まぁ、2日に分けての実力テストですから、
その時は9人ぐらい休んだんでしょうな。
ハハハハハハ。そんなもんですよ。
糸井 すばらしいですね。
小川 それぐらいだといいんですよね、やっぱり。
脇目をする必要がなくなるからな。
糸井 いいなぁ。(笑)
その学校の勉強の中には、
溶けこめなかったわけですか?
小川 そうでしょうな。溶けこめば、
苦しくなく勉強できたんでしょうけど……
苦しかったんですよ、それには。
教科書は先輩からもらうんですけど、
きょう一日終わったら、これ、破って捨てる。
重いですから。
1枚1枚減っていって、そうすると、
試験のときになるとないんですよ、教科書が。
糸井 成績は、そこまで悪かったんですか?
小川 悪かったでしょうなあ。
糸井 でも、運動は得意とか?
小川 いや。
運動もそれほどでもないですねえ。
ま、適当にはやりますけど。
糸井 それも楽しくはなかったんですか。
小川 それもそれほど楽しくはなかった、やってても。
糸井 もう、運命としかいいようがないですね。
小川 そうでしょうな。
今の仕事が一番おもしろいんですからね。
糸井 そういう子どもが五重塔を見たら……。
小川 今思えばですけど、法隆寺を見る時も、
余計な知識がなかったのがよかったんです。

たとえば今も修学旅行生、たくさん来てますよ。
でもみんな、この仏さんは
ちょっと腰が曲がってるのが特徴とか、
指先がきれいだとか、
伽藍に立てば、こちらはエンタシスがあるのが
特徴だとか、学校の先生が教えてくるでしょう。
糸井 「勉強」ですね。
小川 そうなると、見方は同じですよ。
50人いれば、50人の見方、みんな一緒。
しかしその中に、やっぱしこの柱が
1,300年、塔を支えているんだなぁ、と。
それを感じとるぐらいの子がいたっていいでしょ?
知識にとらわれていない子は、
やっぱし、そこをわかるんですよ。
糸井 「さわってみる」という感覚かぁ。

2002-09-20-FRI

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