CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

読者のかたから、
こんなメールをちょうだいしています


ゴールデンウィーク中からはじまっている
内田先生とdarlingの対談には、
お読みくださったみなさんから
たくさんのメールをいただいています。
5月8日には、なんと
高島高校の保護者のおひとりから
メールをいただいたんですよ。


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対談、毎回楽しみに読んでいます。
よかったです!うれしかったです!
どこが? というと
学校で私達と接している内田校長先生
そのままだったからです。
先生は一見怖そう(失礼!)ですが、
学校のこと、先生方とのこと、
もちろん生徒のこと、いろいろ話してくださって、
こちらのつまらない質問
(例えば、日立と先生のお給料って
 どのくらいちがうんですか? など・・)
にも、一生懸命聞いて答えてくれるところに、
すごく親しみを感じました。
ですから、対談の中にもあるように
「校長室」ってちょっと入りにくいものですが、
このごろは「在席」の札がかかってあると
気楽にお話しにいってしまいます。
先生がいつもおっしゃっている
『魅力ある学校づくり』
・・・期待してます、
『魅力ある校長先生』に・・・。
             
             高島高校 3年保護者

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これからもこの場所で
みなさまからいただいたメールを
ご紹介させていただきたいと思っていますので、
どしどし感想やご意見をお寄せくださいね。
では、今日の対談のはじまり、です。



第6回 自分を背中から見られるか?


内田 わたしは校長になって、17、8歳の高校生を
たくさん見るようになりましたが、
どうも、自分の時代と比べちゃうんです。
我々のときは立派だったとか
決してそういうことではないんだけれども、
もっと自分のことを大事にしたものですよ。
「おれはこういうことをやって、
 こういうふうになりたいな」
という話が、飯を食っていても、何をしていても、
友人同士で出ていた。
そうやって、自分の能力を
ある程度把握するようにもしていた。
今の子どもたちはあまりにも自分を知らなすぎる。
これは、ものすごく強く感じますね。
糸井 粗末なんですよね。
内田 粗末ですよ、ほんと。
自分のベースがないものだから、
人のよさが見えてこないし。
わたしはずっと野球と関わりをもって
これまでやってきたんですが、
これはわたしが野球をしてきたことでの
最後の結論なんです。
「スポーツとは人のためにあらず、
 おのれのために励むべし」。
勉強でもスポーツでも同じです。
これは当たり前のことなんです。

今の子どもたちは
壁にぶつかるまでとことん自分を追い込むことが
なかなかありませんから、
こういう実感が持てないのも無理もない。

何かに懸命に励むと、
自分にはできないことがわかってきたりします。
そういうときに他人を見ると、
自分にできないことを難なくやっている人がいる。
「いやぁ、この人はすごいな」
と思える。
わたしにはそういう機会がいっぱいあったんですが、
今はこんな気持ちを持つ子があまりいない。
だから、尊敬する人、目指す人が見えてこないんです。
話をしていると、ほとんどそんなかんじですよ。
糸井 スポーツをやっていると、そういう機会がきっと
たくさん出てきますね。
だからこそ、自分のためにやることだと。
内田 日立でやっていた若手を育成するシステムのうち、
取り入れようと思っているものがあるんです。

「あなたのよい点は何ですか?
 悪いところは?」
こんなふうに単純なことを
全学年に書かせて、それを
1年生、2年生、3年生と、何回か繰り返す。
そうやって自分の進路をつかみ、
潜在能力を掘り起こし、顕在化したところで
先生がアドバイスするような形を
とろうとしているんですよ。

わたしは、教壇のことは
先生に任せればいいと思っています。
でも、教育する方法をどうしようかと
考えるだけではなくて、
「教育されるほう」を
もうちょっとなんとかしてあげようよ、
と思うんです。
自分の進路に対してイメージングができるような
パソコンのソフトを導入して
進路ナビゲータのようなものをどうか?
と、提案しているんです。
糸井 こう考えたらこうなるのかと、
簡単に形になるものがいいですよね。
内田 そう。
ポンとボタンを押すといろいろ出てきて、
進むべきところを自分で選んでいく。
大学を選んだとしても、その学部の中では
どんなところに就職しているかがわかる。
高島高校は27年間のデータベースがありますから、
これをそのまま入れればいいんですからね。
今、ソフトがあるにはあるんですよ。
ただ、難しいんですよ、ゴチャゴチャしてて。
もっと簡単にテレビゲーム感覚で
自分を検索できるものがいい。
糸井 日立ではその方式のものが
若手の人材育成に使われていたんですね。
内田 ええ。わたしが日立の野球の監督のときにも
こういうテストをして、
ものすごい効果があったんですよ。
糸井 自分を探るということですから、
自分のいい点、悪い点を探す能力が
まず必要になりますよね。
内田 そうです。
自分自身を背中から見れるかどうか。
糸井 野球部の選手には、
どんな効果があったんですか?
内田 ある質問に「わたしの持ち球は60球」と
書いてきた投手がいたんですよ。
その選手に
「これ、おもしろいこと書いたな。
 おまえ、60球ってどんな球だ?」
と聞いてみたんです。そしたら、
「スコアブックを見たら、
 どうも60球あたりで
 いつもつぶれているんです」
といい出した。
「いいことに気がついたね。
 じゃ、なぜ60球なんだろう?」
といったら、本人が一緒に考えて、
「やはり下半身が弱いために
 フォームも崩れると思います」
「じゃあ、下半身強化のために何かやっているか?」
「いや、まだやってません。ランニングぐらいです」
「じゃ、一緒に考えよう」
といって、それで編み出した
トレーニング法があるんです。

その選手が腰を沈めた姿勢を保てる位置に
下着に使うゴムを50mぐらい引っ張って固定して、
そのゴムの下を、頭すれすれに走るんです。
糸井 それはすごい(笑)。
内田 腰を低くすると、
ピッチングフォームと同じ部分の筋肉が張る。
その状態で走るという訓練を
一冬ずうっとやらせたんです。
いいピッチャーになりまして(笑)、
そいつはやっぱりプロへ行っちゃいました。
糸井 いいですねぇ。
内田 いろいろアドバイスすると、
そこまで突き詰めて努力する選手が
出てくるんですよね。
糸井 生徒と先生の間にも
そういう環境を持ちたいですね。
内田 ええ。なかなかできないですけど。
わたしは5年間、いまの高校にいることに
なっているんですが、
その間に必ずものにしたいと思っているのは
ひとつだけです。
「生徒が自分を背中から見れるようになるシステム」
・・・それをもとに先生が具体的な指導ができる。
これだけやればいいかなと思っている。
先生方にもやっとわたしのイメージが伝わってきて、
学校説明会なんかでも進路説明の担当の先生から、
「自分を見詰めて自分を知りながら
 将来を展望していく」
という言葉がポツポツ出てきているんです。

うちの学校は、
専門学校へ行く生徒がけっこう多いんですよ。
糸井 どういう専門学校が多いんですか?
内田 看護の学校とか、美容の学校などですね。
四大に行く生徒が35%、
専門学校が36%いるんですよ。
でも、まだ高校生の年代で
専門職を考えるのは、なかなか難しいです。
友達が行くからとか、
見た目がよかったから行く生徒も多くて、
のちのち「間違っちゃったなぁ」と
いう子が結構いるんですよ。
専門職を選んだり、目標を設定するのに、
もうちょっときめ細かなことまで
突っ込んで指導しなくちゃいけない。
四大だったら修正がきくんですよね、
途中で学部を変えてもいいし。
糸井 あいまいですものね。
内田 そうです。でもね、
今、大学生に目標がぜんぜんない。
糸井 大学そのものがある種の
緩衝地帯みたいになっちゃっています。
内田 そうなんですよ。「何げなく」大学に行っている。
先日、母校を訪ねてきたんですが、
そのとき、教授の10人が10人とも
「困ったもんだ」といっていましたね。
でも、我々の若いときを振り返っても、
我々もそうだったよと(笑)。
ただ、そのとき、周りに自分を刺激してくれる
いい人たちがいた。
糸井 いろんなジャンルで
友達で自分より優れたやつが必ずいて、
「この野郎」とか「いいな」とか、
横のやつに対して
尊敬がありましたよね。
内田 そうなんですよ。
それがあるだけで、ずいぶん違うんです。

(つづく)

2002-05-09-THU

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