CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第12回 楽になるより大事なことがあった

小野田 だけどね、人間はやはり
覚悟は決めておくべきですよ。

誰だって100歳以上生きられないんですから。
これははじめから考えておかなきゃいけない。
まあ、100歳まで生きた人はないから、
女性だったら88かな、
男だったら75かなぐらいで……。
糸井 そういうところも
理科系ですね、完全に(笑)。
小野田 そうだね。
糸井 でも、ものすごくお元気そうですよね。
勝手に生きていることが
元気の秘訣でしょうか?
小野田 自分の肉体的な丈夫さは、
自分で相談しなきゃしようがないですよね。
まあ、いつ死ぬかもしれない、
だけど、そのために
頑張って死なないようにしているんですけど。

島では毎日毎日、
座ったりするときにいちいち
「もし敵が来るとすれば、こちらだ。
 こちらから来れば、こうする、ああする」
と全部お膳立てして座っていたんだから。
糸井 頭をずうっと使っていたから、
さびなかったんでしょうね。
小野田 そうですね。
自分で手を抜いたところから攻められて
死ななきゃいけないというのは、
ちょっと残念ですよね。
やっときゃ死なんですんだと思ったら、
ねぇ、そりゃイヤだ。
糸井 (笑)・・・「ねぇ」って。
言いかたが、
子どものときのまんまですね。
小野田 だけど、自分としてはもう、
やるべきことはやって、
それで途中で死ぬんだったら
しようがないですよね。
相手のほうが強かったんなら
しようがないですね。
糸井 果たし合いをして
負けるんですね、その場合は。
小野田 そうです。
自分の手抜きで死ぬのは
やっぱり嫌だから、
とにかく一生懸命
毎日最善を尽くしていたんです。

最善を尽くしているんだから、
死ぬときは
「おお、おれもやっぱり
 これしか力がなかったんだ」
と、納得して死ねると思ったんですよ。

「やっておけば死なんですんだ」
なんて、いいたくない。
糸井 勝ち負けは
とっても大事なんだけれども、
勝ち負けの前に大事なことが
もうひとつある。
それは「悔いを残さない」。
小野田 うん、「悔いを残さない」。
いつ死んでも悔いを残さない。
糸井 ルールとしては
勝つためにやっているんだけれども。
小野田 そうです。
終局の目的は
勝つためにやっているんですけど、
途中で力及ばずということがあるわけです。
糸井 絶対勝つということは
いえないわけですね。
小野田 そうです。
糸井 これも非常に
工学部的な発想ですよね。
小野田 そうですね(笑)。

人間のことだから、
いつどうなるかは知れないんです。
たまたまニューヨークに行っていたから、
テロ事件に巻きこまれるという、
そういうことも、あるんですよ。

だけど、
自分としての最善をちゃんと尽くしておけば、
やはり覚えてくれている人もいるでしょう。
やつはこうだったな、
毎日よくやった男だったなと
覚えておいてくれる人がいますよね。
糸井 ひとりの人の心のなかで残っていれば、
それは、生きていますよね。
小野田 来年、いよいよ80になるんですけど、
ああ、ずいぶん長生きしたもんだな
と思います。

我々人間の根本は
「生きる」ということに
あるんですよね。
死にたいは人はだれもいない。
死にたいなんていう人は、
何か事情があって行き詰まったから
首をくくるわけであって。
おれが1億やるから、2億やるから、
といったら、首、つりませんよ。
糸井 そうですよね。
小野田 ・・・ねぇ。
糸井 借金をたくさん抱えた芸人さんたちが
話をしているテレビ番組があって、
「死のうと思ったことありますか?」
という質問に
「あります」といったんです。
次に、
「そのときどういう気持ちだったのですか?」
と聞かれたら、その人はこう答えたんです。
「楽になりたいんです。
 生きているほうがつらいんだなと
 思ったときに死のうと思うので、
 死にたいんじゃないんです。
 生きているより死ぬほうが楽だなと思うから、
 楽な道を選ぼうとして
 柵を乗り越えるんですよ。
 でも、楽じゃなくても
 生きたいと思う心が勝って、
 僕はいま、ここに生きているんです」
と。確かにそうですねえ。

だから、小野田さんは意地っ張りだから、
楽になりたいよりも大事なことが
うんとあったんですよね(笑)。
小野田 ぼくの仲間が死後15年ぐらいたってから
山の奥で遺骨で発見されたんです。
土に埋めたんですけど、そしたら部下に、
「かわいそうになあ。隊長、
 早く死んだやつのほうが楽だったですね」
といわれた。
糸井 そんなことをいわれたら、
なんて答えたらいいのか
わからないですよね・・・。
小野田 ほんとに。
ギリギリの線で生きていて、
「あと何年」て保証もないんです。
それで、うっかりすると、
その人みたいに
骨になる心配があるんですよね。
糸井 死体が隣にいるんですもんね。
小野田 その状況で、ずーっと、ね。
早く死んだやつ、楽ですよね(笑)。
糸井 でも、そうなると、
敵の思うつぼですよね。
「死んだほうが楽だ」と思ったときには、
敵が勝ったということですよね。
小野田 そう。
糸井 スポーツでもそうですもんね。
小野田 僕もずっとそんなことを考えていましたよ。

我々はこれだけギリギリのことをしているのに、
いったいいつになったらケリがつくのか、
生きて帰れる保証はどこにもないし。

60になったら終わりだ。
だけど、まだ弾もあるしなあ、と
考えた。

僕は、弾があるのが
とにかく気にかかった。
撃ちたい弾もがまんして撃たないでおいた。
とにかく弾を撃ち切ったら、
もう60まで生きられないんだから。
糸井 「弾」って何だったんでしょうね。
小野田 ・・・何だったんでしょう。
「まだ弾もあるしなあ」って
いつも思っていた。

死ぬときは弾を撃ち切って
死にたいんですよね。
「矢玉が尽きる」というけど、
そうなったら、しようがないですよね。

そしたら周りの部下が
「まだ元気ですし、隊長、
 やってみなきゃわからないでしょう」
といってくれた。
非常にうれしかったですね。
やってみなきゃわからないんですよ。
糸井 それは小野田さんみたいな
意地っ張りの変わり者の影響を受けた人が
育っちゃったということですね。
小野田 もうほんとに
同じ性質になってくれたんですよね。
糸井 なっていたんでしょうね。
後までずうっといっしょに
残っていたかたがたですよね。
小野田 ・・・その部下の言葉で。
糸井 それを聞いただけで
生きる気になりますね。
小野田 うん。まだやってみなきゃわからない。
ほんとにやってみきゃ
わからないですよね。
まだ生きる能力があるんだから、
わざわざ死ぬことはないです。
(続きます。)

2002-01-18-FRI

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