CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第4回 おとなになっても、覚えていること

小野田 ぼくはずいぶん勉強しなかったから
親にも学校でも、叱られてばかりでしたよ。
でも、数学の先生で、
おもしろい人がいたんです。
「君たち、技師にでもなるんじゃなきゃ、
 代数やなんかは必要ないんだ。
 算術だけできればいいんだよ。
 ま、頭のなかを練ったりしたいんだったら
 やってみろ」
なんていっていましたね。

たしかにそのとおりなんだけど、
子どもでいる時期はとにかく
親に養ってもらっているおかげで
時間があるんだから、
何でも耳に入れてみれば、
覚えているものがあるかもしれない。
糸井 なるほど、
何か覚えているかもしれないから
聞いておけばいい。
小野田 ええ。
だから、せっかく学校に行っているんですから、
居眠りせんで、ね・・・。
糸井 そうなんですよね。
ぼく、高校時代に
居眠りばっかりしてたんだけど、
あれはつらくてつらくて
しようがないんですよ(笑)。
居眠りをする子どもはかわいそうだなと思う。
小野田 その数学の先生は、
初代の川崎造船の造船技師だったんです。
糸井 技術者だった。
小野田 ええ。
ちょっと体の調子が悪くなったからといって、
学校へ教えに来ているんですよ。
糸井 何だか
余裕があるわけですね。
小野田 ええ。
「代数なんて、銀行員にでもなれば
 必要な計算方法かもしれないけど、
 君たちにはそんな要らないかもしれないね。

 でも、例えば99を99倍しろといったら、
 君たち、どうやって計算する? 
 9×9=81、9×9=81と
 位ごとにかけ算していくか。

 数字を99にせんで 100にしたらどうだ。
 100の99倍だったらだれでもできるだろう。
 0をふたつつければいいんだから。
 そこから99を引けばいいんだよ。
 これが代数なんだよ」
というわけ。
糸井 ほぉ。
かっこよく聞こえますよね、子どもには。
そういう先生が
ちゃんといてくれたんですね。
小野田 「単なる計算問題だけじゃなくて
 頭を使う学問なんだ。
 せっかく学校に来ているんだから、
 居眠りせんで聞けよ」
といわれた。
糸井 小野田さんはその話を
いまでも覚えていらっしゃるわけですよね。
小野田 覚えているんですよねぇ・・・。
糸井 僕もひとつ、覚えている話があります。
小学生のとき、
担任が女の先生だったことがあるんです。
その先生が体育の時間に急に
女の子たちに向かって怒り出した。
「女子はみんな、ここに並びなさい。
 男子が跳び箱を跳ぶから、それを前から見ろ」
といったんですよ。

僕ら男子は、
何だかわからないけど、
とにかく順番に跳び箱を跳んだんです。

先生は
「さあ、これを見て、何を感じた? 
 男の子たちは、跳び箱を跳ぶときに
 変な顔になっているでしょう。
 女の子たちは、普通の顔のまんまで跳んでいる。
 だから、跳べっこない。男の子たちを見習いなさい」
こういって、
女の子を叱ったんですよ。
小野田 へえ!
おもしろいこという先生ですね。
糸井 僕ら男子は、もうガキですから、
必死になって跳びますよね。
そういうところが女の子にないということで
先生は怒ったんですけど、
そのことを僕はいつまでも覚えていて・・・。

いまでも自分が
「顔がゆがむほど何かをすることがあるかどうか」
について考えるし、そのたび
その先生のことを思い出すんです。
それはいわゆる学科の勉強でも
なんでもないんだけれども、
確かにひとつやふたつ、覚えていますね。
小野田 そうですね。だから子どもは、
とにかくいろんなことを何でもいいから覚えて、
そのうちに、自分の好きなものを見つけて
取っつけばいいと思うんですよね。

少し極端ないいかたかもしれないけど、
好きなら、
それが経済的に恵まれる仕事でなくたって、
それでいいんじゃないかと思うんです。
糸井 好きな時間を得られるって、
すばらしいことですよね。
小野田 ええ。
糸井 忙しいニューヨークのビジネスマンが
フロリダに行って
釣りしている人に出会った、
という話があります。

自分も釣りが好きなので、
「いいなあ、おれも年とったら
 釣りをやりたいんだよ」
といったら、
「いま、すればいいじゃないか」
といわれてしまった(笑)。

確かにそのとおりなんです。
お金に余裕ができたらやろう、とか
年をとったらできる、
と思っていて
後回しにしていることは、
だいたいできなくなっちゃうんですよね。

そういうことは
やっぱり家でも学校でも教えてくれないから
小野田さんは自然塾をはじめたんでしょうか?
小野田 そうですねぇ・・・。
そうなんだと思います。
(続きます。)

2001-12-25-TUE

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