江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

ゴールデンウイークに東京にいるみなさま、
東京にいらっしゃるみなさま、ほぼにちわ!
ちょうど江戸東京博物館(江戸博)では
NHK大河ドラマと連動しての
「新選組!」展を開催しています。
と同時に、系列の施設である小金井の
江戸東京たてもの園では、
「幕末の江戸と多摩──新選組の時代」展も
開催されているんですよ。

今回からの特集は、この2つの展覧会を軸に
幕末のニッポンを追っていきます。
講師は、江戸東京博物館の学芸員である
市川寛明さん。



ふたつを通して見ていくと、
幕末の青春、ということに
強く思いを馳せることができます。
その時代に生きた、20代30代の若者が
どんな気持ちでいたかが
強く伝わってきて……
いまの三十代半ばの人が生まれた、
そのたった100年前が、
新選組の時代なんです。
あまりに近いことにも驚きながら、
お話を、うかがいました。
郊外ののんびりした環境にあるたてもの園と、
下町・両国にある(国技館の隣です)江戸博、
この機会にぜひ訪れてみてください。



新選組の生きた時代。 第1回
黒船がやってきたとき、江戸の人々は。


ほぼ日 今回の展示は、「尊攘」と「東照大権現」の
ふたつの大きな書が対照的に展示されたり、
黒船のサスケハナ号と
その15年後の蒸気軍艦の開陽丸があったり、
もちろん近藤勇と土方歳三だったりと、
コントラストがはっきりしていますね。
土方歳三肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
 日野市ふるさと博物館)
近藤勇肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
 日野市ふるさと博物館)

市川 ええ、それを強く意図しました。
なかなかわかりづらいかもしれませんが、
手紙のコントラストっていうのもあります。
近藤勇の手紙と、
土方歳三の手紙っていうのが、
ほんとうに対照的なんですね。
ほぼ日 どれを見たらわかるんですか?
市川 たとえばですね、
まず近藤勇の書簡は、
壬生浪士組の結成のいきさつが
くわしく伝えられているもの。
重要な書簡なんですけど、
とにかく近藤の書簡はね、
天下国家を論じるわけです。
あとは親孝行の話なんです。

近藤勇書簡(清川一件)(小島資料館蔵)
ほぼ日 まさしく武士の「忠」と「孝」。
土方はどうですか。
市川 これもまた面白いんですけど、
いちばん有名なやつはですね、
これでしょうね、きっとね。
新選組ファンだったらあまねく知ってる、
小島鹿之介宛の土方歳三書簡。

土方歳三書簡 小島鹿之介宛(小島資料館蔵)
ほぼ日 あー、これは読みました!
もてて、もてて、っていう。
本題は、親戚の子の入隊を断りたいという
依頼の文章なんだけれど、
なんだか話題が逸れて、
「モテ自慢」になるんですよね。
市川 15人ぐらい女の名前を挙げて、
「報国の 心ころを わするゝ 婦人哉」
なんて、これ、めちゃくちゃいいでしょう?
これだから土方って
人気あるんだろうなって。
ほぼ日 もてる男は違うんですよね(笑)。
市川 堅くないんですよ。
けれど近藤はね、
とっても堅いんですよ。
ほぼ日 これがおんなじグループにいたんですよね。
市川 同じグループにいたんですよねぇ。
その組み合わせの妙が
新選組の魅力だったりするんだろうな、
なんて思うんですけどね。
ほぼ日 近藤の違う側面は見られない?
市川 実は今回は、近藤勇の柔らかい歌を、
ひとつだけ、発見してるんですよ。
ほぼ日 え? なんという?
市川 和歌色紙なんですけど。
2首ありましてね。ひとつが
「いかにせん 世のさまみれは
 かれもまた みなきみかたと
 言ひもはてにき」
もうひとつが、
「をしからぬ 命一つを二つ三つ
 四つもほしきは君がためかは」
後者が、近藤らしからぬ、めずらしい、
艶のある歌なんですよ。

近藤勇筆 和歌色紙「いかにせん」「をしからぬ」
(市立函館博物館 五稜郭分館蔵)
ほぼ日 なんか、ロマンチックですよ。
市川 しかも品がよくて、人間的で、
めちゃくちゃいいですよね。
純粋な感じがしますよね。
ほぼ日 純ですよね。
市川 純ですよね、近藤は。
そういうふたりのパーソナリティの
コントラストみたいなものも
やっぱり面白いですよね。
ほぼ日 糸井事務所は三田にあるんですが、
周りは赤羽橋とか品川とか泉岳寺とか、
幕末のゆかりの地が多いんです。
清河八郎なんか一の橋で斬られてますよね。
あのあたりっていうのは、
その当時、討幕派と攘夷派が
入り乱れてるころじゃないですか。
町中の様子っていうのは
どんな感じだったんでしょう?
市川 そうですよね。
知識の上で、たとえば開港したとか、
貿易が始まったっていうのは、
皆さん知ってるんですよ。
日米修好通商条約を皮切りに
5ヶ国とまったく同じような条約を結んで、
世界市場の中に入っていくわけですね。
貿易が始まるってどういうことか、
あんまりリアルには伝わらないですよね。
江戸東京たてもの園の展示では、
そういうところが
よくわかるようになっています。
開国を肌身で感じるのは、
外国人が江戸にやってくるように
なるっていうことなんですよ。
で、それに対する驚きとか、
好奇のまなざしとかを、
まずは変化のひとつとして
見ていただきたいんですよね。
国を憂える人々がいたいっぽうで
面白おかしくして
商売にしてる人がいたりとか。
ほぼ日 物見遊山系の人たち。
ねぇ! お調子者ですよね、みんな。
アキンドが多い(笑)。
市川 ここぞとばかりに茶屋つくって。
遠眼鏡を見てるおじさんがいるでしょ?
あれ、持参してるはずないんです。
あんなの持ってませんから。
だから、あれはね、貸してるんです。

茶店から黒船見物を楽しむ人々「黒船来航風俗絵巻」より
(原資料館蔵/写真提供=埼玉県立博物館)*たてもの園展示
ほぼ日 レンタル遠眼鏡!
オペラグラスレンタルだ。
市川 むかしデパートの上には、
必ず望遠鏡があったでしょう?
ああいう文化を、やっぱり日本人は
持ってるんですよね。
それはね、外国人が来る前から、
駒形堂みたいなとことか、
隅田川越しに本所のほうを見るのに、
貸しメガネ屋さんが出たりとか
してるわけですよね。
ペリー来航の衝撃は、
確かに一部の人にとっては
衝撃なんですけど、
それは日本人の受け止めた
ペリーのイメージの、
ごく一部を切り取ってるに過ぎないんです。
ほぼ日 じゃあ、普通の人っていうのは、
もっとなんか、楽しんだというか。
もうそれこそ宇宙人が来た!
みたいな。黒船はUFOみたいな。
そりゃ、見に行くかも、僕も(笑)。
市川 ええ、物見遊山で見るわけですよ。
さらに言うとね、
もっと細かく分かれるんです。
たてもの園で展示しているなかに
「あわて絵」というものがあります。
これは、たとえば文久2年、
生麦事件があって、賠償金問題で
イギリスと幕府の間でもめるんですよね。
法外なお金を要求され、
その金額をめぐって、
なかなか交渉が妥結しない。
イギリス艦隊は、怒って、
江戸に近づいてきて、威嚇をする。
そうするとですね、
やっぱり対応がふたつに分かれるんです。
江戸の市民の中でも、
平気な人と平気じゃない人といるんですよ。
平気じゃない人たちっていうのは、
財産を持ってる人たちなんです。

新作浮世道中(町田市立博物館蔵)*たてもの園展示
ほぼ日 あ〜!
守らなきゃいけないんだ。
取られちゃう(笑)。
市川 でも、平気な人がほとんどなんです。
宵越しの銭を持たないぐらいの人たちは、
財産なんかないんですから。
で「あわて絵」っていうのは、
お金のない、その日暮らしの人たちが、
金持ちを揶揄している絵なんですよ。
財産を大八車に乗っけて、
あわて坂っていう坂を昇る人、
度胸ヶ原で酒盛りしてる人‥‥。
だから、ペリー来航がもたらした影響は、
我々が教科書で学んだような
一面的なものではないんです。
でもまあ、これは新選組展ですから、
ほんとに一部を取り出しているんですが。
ほぼ日 うん、背景として。

あすに続きます!


2004-04-29-THU

BACK
戻る