江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!



 

第7回の今日は、蕪村の登場です。

花を蹈(ふみ)し草履も見えて朝寝哉

この与謝蕪村の句を例に、
源内が生きた時代の精神、
国学の思想のおおもとに、
ふかく切り込みますよ!



第7回
蕪村と、源内。

芳賀 源内の時代っていうのは、そういうふうに、
日本人の精神が、ひじょうに活気を
帯びてきた時代なんですね。
糸井 あぁ〜。
芳賀 古い儒学に縛られた、四角四面で明窓浄机で、
っていう時代ではなくなってきて。
糸井 和風のルネサンス‥‥。
芳賀 人間のルネサンスですね。
人間の感情をそのまま認めるというようなふうに、
本居宣長が説くわけです。
糸井 ああ、ああ、そうかそうか。
芳賀 ええ。で、眠たきゃ眠りゃあいいんだ。
それから、男が女を好きになり、
女が男を好きになる、
それがほんとうの人間の姿だって、
そんなもの排除したり無視するのはインチキだと、
そういうことを本居宣長はいうわけですよ。
糸井 それ、大革命ですよね。
芳賀 大革命ですよ。まさにルネサンスなんですよ。
人間の感情を、そのまま容認し、
かつそれをいいものとして認める、評価する。
それで蕪村の俳句なんかも出てくるわけですね。
糸井 そっか、そこで蕪村が。
芳賀 繋がってくるんですね。
だから蕪村の中には、なんだっけな、
「花を蹈(ふみ)し草履も見えて朝寝哉」。
花を踏んできた草履が見えて、
家の中でまだ朝の9時半かなんかかな、
まだ朝寝坊してらっしゃる。
源内が京都の木屋町の宿屋で、
大阪から京都の花見に来た人を
訪ねてったんですね。そしたらまだ、
もう陽がカンカンなのに、
夕べ遅くまで花見をしてきたらしくて。
その花見をしてきた花びらがくっついた草履を
ひっくり返したまま玄関に脱いで、
奥の方で朝寝坊をしてらっしゃる。
糸井 見事に‥‥。
芳賀 「花を蹈し草履も見えて朝寝哉」って、
こういう朝寝坊を讚える俳句なんていうのは、
これは、世界最初ですよ。
糸井 すごいですねぇ‥‥。
芳賀 中国にもない、フランスにもない。
フランス、少し出始めてきたかな。
イタリアでは、もうちょっと前から
あったかもしれない。
朝寝坊というか、無為にしてるとかね、
プラ〜ンとしてる。それが悪くない。
ファール・ニエンテ。
ニエンテっていうのはナッシング。
ファールっていうのはドゥ。
ドゥ・ナッシング。
それがいいことだ、ドルチェなことだ。
糸井 中国だと、もっと酔生夢死みたいになっちゃう。
芳賀 朝寝坊とか、遅くまでお花見してきて、
くたびれて寝てるっていうのは、
まことに風流だと。
花とか月とかのために、仕事もやめ、
こんな対談もやめてほったらかして、
花見に浮かれてしまう。
それが風流というものだ、
っていうような言葉を、蕪村は、
その今の俳句に
前詞(まえことば)にして。
糸井 はぁ〜‥‥。
芳賀 あれは、同時代ですよね。
糸井 思想ですよね、もうね。
芳賀 ね、思想ですよ。やっぱり国学の思想は、
そこなんですね。
糸井 大思想ですね。
芳賀 だから本居宣長は言ったんです。
万葉集を見れば、古代の万葉の人々は
こういう、おおらかな、
儒学に縛られない心を持っていた。
神様を尊んでいた。
だから、源氏物語を見ても、
男が好きになり、女が好きになり、
あれが人間のあるがままの姿であると。
それが、それこそが文学を深くし、
豊かにするものだと。
糸井 それを発表して大丈夫だっていう時代なんですね。
芳賀 うん、もちろん、もちろんそうです。
1750年代以降ですね。
江戸の方には源内がいて春信がいて、
杉田玄白がいて司馬江漢がいて、
春信のあとに清春が出てきて歌麿が出てきて、
北斎もそろそろ活動を始めるという
時代ですからね。
西と東と両方合わせて、非常に面白い時代です。
あの時代に、良きにつけ悪しきにつけ、
日本の近代ってものが始まったと思ってます。
糸井 あぁ、あぁ!
芳賀 近代的な精神。つまり不安定で、実測できない。
自分で自分に満ち足りることのできない精神。
だからつまり、いつも不安で、動いてる精神。
それが、1760年代、70年代。
源内や蕪村、上田秋成、杉田玄白、鈴木春信。
それから、伊藤若冲。
糸井 あ、若冲もそうですね。
芳賀 ええ。ああいう時代に、東も西も出てくる。
それが日本の近代精神の、最初の発現であって。
それ以前はね、まだやっぱり儒学に縛られたり、
吉宗みたいな殿様が押さえたりしている。
ところが、徳川吉宗は、1751年に死ぬんですね。
とたんにね、タラァ〜ンとなってね、日本社会が。
あれ、不思議ですねぇ。
糸井 面白いぐらい変わったんですね。
芳賀 そう、明治天皇が亡くなって大正になると、
トロォ〜ンとなりますね。
ちょうどああいう感じで、
吉宗が亡くなった1751年。
将軍やめてもまだ見張ってましたから
みなさん油断できなかった。
でも51年にほんとに死んじゃうと、
あんまりパッとした将軍がいなかったし、
みんなトロォ〜ンとして。
そういうところで人間解放が
ウワーッと吹き出てきて、
その中に源内が入ってきて、
源内がまた、そういう時代を受けながら、
また、その時代を推し進める。
で、そのそばに玄白も司馬江漢も鈴木春信も
上田秋成も円山応挙も伊藤若冲も一緒に、
走ってる。
糸井 オールスターキャストですよね。
芳賀 ねぇ、そうでしょ?
あの時代は要するに、
明治維新よりも面白いわけですよ。
糸井 面白いです。

次回は、長崎のオランダ人を通じて学んだことが
源内にどう影響を与えたのか? というお話です。

2004-01-15-THU
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