江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!



 

きょうは対談の第3回。
源内が金策のために行なったこと、
本筋を忘れるほどに打ち込んでしまったことについて、
おききします。




第3回

ヤマ師源内、プロデューサー源内。

芳賀 でね、やっぱり、国益という本筋を忘れてることに
源内は時々気がついて、イライラしてますね、
だんだん。
糸井 そういう記録が、何かあるんですか?
芳賀 だんだん書くものが、その苛立ちを
よく表すようになってきます。
糸井 なーるほどなぁ。
芳賀 これだけ工夫して国益を求めて苦労してるのに、
人々はオレをただカラクリ師だと思っている。
ただの浄瑠璃書きだと思っている、
憤慨堪えないというので、
ずいぶん、自叙伝風の文章の中に、
その憤慨を漏らしております。
だから資金作りに秩父の奥の鉱山の
開発をやってみたりね。
あれで、うんと鉄やなんかが出て、
がっぷり儲かるはずだったんですけど、
鉱山なんてうまくいくはずないですよね。
糸井 やっぱり山師っていうぐらいだから、
難しいことなんですよね。うんうんうん。
芳賀 源内は自分で、自分は一代の大山師である、
って言ってるんですが、それはほんとの、
両方の意味ですね。
ほんとに山を見立てる山師と、
山掛けの山師と。両方かけて、オレは大山師だと。
あれはいい言葉ですね。
だからみなさんもぜひ、
大山師になって下さいよね。
糸井 いいですよね。
芳賀 手技(てわざ)を持って、
かつ、アンビションがあり、
ビジョンのある、ね。
糸井 そういう人がいないと、
何も始まんないですからね。
芳賀 そうですよ。
源内は眼が高くて手が低かった。
眼高手低(がんこうしゅてい:批評はできるが、
実際に創作する力がとぼしいこと)。
糸井 あ、それを感じるんですよ。
この展覧会見てても。
芳賀 あ、そうでしょ?
糸井 ええ。
芳賀 ここまでいってたら、もうひと突っ込みすりゃあ、
もっとすごいものになるのに‥‥。
糸井 気が、紛れちゃうんでしょうね、きっとね。
芳賀 そうなんですね。

【平賀源内展を見る】
糸井 僕、芳賀先生がいらっしゃったら、
絶対訊きたかったことがあって。
高松で源内先生と扱われて、
一種の神様みたいなもんですよね。
で、さて展覧会を見ますと、
この人はほんとうに大したことない
人じゃないか、っていう感想を‥‥。
芳賀 はははは。残念だな。
糸井 たぶん、もちやすいと思うんですよ。
芳賀 うん。
糸井 僕も、その、なめたことはいえないのは
わかるんですけど、気分がわかるんですよ。
つまり、眼高手低の、
手低の部分っていうのが‥‥。
芳賀 そうですね、展覧会に出ちゃうからね。
眼高の部分っていうのは、
展覧会で出しにくいですからね。
糸井 そうなんです。展覧会っていうもの‥‥
芳賀 ものの、限界ですね。
糸井 ええ、「プロデューサー源内」の展覧会ですから。
芳賀 だから、我々、こうやって喋るしかないわけ。
糸井 これがないとダメなんですよね、きっと。
芳賀 うん、そうなんです。
やっぱり源内についてはね、とくにね。
眼高手低っていうのは、
まさに源内のためにあるような言葉で。
糸井 はっはっは。
芳賀 源内の望みは、さっき言ったように、
日本国中の産物を、ピシッとひとつひとつ調べて、
どこに産するか、何ていう名前か、
どういう効用か、それからどんな色か、
焼けばどうなるか、そういうことを
ぜんぶ記録して、しかも図譜もつけたいと
いうことだった。ちょうど彼がさかんに
買っていた、ヨーロッパのあの博物図譜のような、
ああいうものを作りたかった。
そのために大金を投じて、
今に換算すると1冊150万、200万円もするような
ドドネウス(ベルギーの医学・博物学者)とか
ヨンストン(ポーランドの動物学者)の図譜、
ああいうのまで買ってね。

【紅毛本草:ドドネウス『草木誌』】江戸東京博物館蔵


【紅毛禽獣魚介虫譜:ヨンストン『動物図譜』】江戸東京博物館蔵
糸井 買って。ええ。
芳賀 自前で買ってるんですよ。
これだーっ、と思ってやってるわけですが、
しかし、そのためには、手元のお金が必要だ。
で、手元のお金を稼ぐために、
いろんな小さなビジネスをやってるうちに、
だんだんそっちで気が紛れて、
ときどき高い志を忘れてしまう。
で、ハッと気がつく。
あ、オレは日本博物学をやるはずだ、
こんなこと、女の子のためのかんざし作りなぞ、
やっちゃいられない、とイライラしてくる。
糸井 当時の考え方だったら、絶対そうなりますよね。
芳賀 ね。
糸井 うーん。
芳賀 だからね展覧会は、源内が考えていた志を
伝えたいんですが、
そういうものを展覧会で出すっていうのは
ひじょうに難しいことなんです。
糸井 そうなんですよね。
実態のないものを展覧しなければならないという、
展覧っていうメディアの限界を感じますね。
芳賀 そう、うんうん。確かにね。
ただ、よーく1点1点に
30分ずつぐらい立ち止まってご覧頂ければ。
糸井 そりゃ、無理です(笑)。
芳賀 あ〜、源内は、こういう人だ、
こういうことを考えてたのか、っていうことが、
だんだんわかってくるように思いますよ。
糸井 あの、ひとつ、たとえば本人が描いた絵を見ると、
この人、自分の絵のこと好きじゃないな、
って見えるんですね。
芳賀 あ、そっか。うん。
あの、『西洋婦人図』?

【西洋婦人図:平賀源内】神戸市立博物館蔵(展示は複製)
糸井 ええ。でも、周囲に集まった、絵描きさんだとか、
様々な才能っていうのが、
源内を明らかに好きだっていう感じがある。
芳賀 そう、源内「を」、好きというね。
そうなんです。源内はなんか、そういう、
人に好かれる人なんです。
で、人にまったくタダで
いいアイデアをボンボンボンボン。
これも糸井さんみたいなもんだ。
いいアイデアをボンボンボンボン
人にやっちゃうんです。
それを鈴木春信が、宋紫石が、小田野直武が、
もらってって。それぞれいい作品なんです。
で、源内は結局『西洋婦人図』1点しかない。
戯作小説も2点しかない。
あのあとに大田南畝が出てくるでしょ。
それからいろんな戯作者や、
狂詩、狂歌の作者たちがウワッと
江戸中に出てくる。
あれもみんな源内がきっかけですからね。
源内は要するに、きっかけ人間。
糸井 つまり、自分がやるより、
おまえがやったほうが
うまくできるだろうってところの種を、
シードを配っていくみたいな。
芳賀 そう。そうなんです。タダでね。
シード・マネーっていいますよね。
種蒔く人ですね。あ、いいですね、
源内は種蒔く人、近代日本の種を蒔いた人。
糸井 そうですね。
こらえ性のない人だと思う。
芳賀 うん、そうかもしれませんなー、確かにね。
糸井 博物学に行きたいっていうことも
そうなんですけども、
「世界のぜんぶをわかりたい」というか。
芳賀 うん! そう。
糸井 欲望のサイズが無闇に広いが故に、
ひとつのところにとどまっていられなくて。
芳賀 そうなんです、うん、まさにそうですね。
糸井 結局のところ、その、絵なら絵、
戯作なら戯作のところで、
修業を積むのが嫌なんじゃないかな。
芳賀 そう、駄目なんですよ。修業向きじゃないです。
糸井 ですよね。
芳賀 一触即発、その場で解決できなきゃ、
あ、駄目だ、と、他の人にやっちゃう。

【根南志具佐:平賀源内】
江戸東京博物館蔵


【『神霊矢口渡』:平賀源内ほか】香川県歴史博物館蔵

どんどん源内という人が
魅力的になってきます。
あすは、たくさんの友達と源内、
というお話です。

2004-01-11-SUN
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