江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

テーマ9 昭和のわが家の電化製品。

その2 なにも電化しなくっても。

新田 国独自の文化が
家電として形になる例でもう一つ言えば、
洗濯機にも文化があるんですよ。
ほぼ日 はい。
新田 洗濯機って、もともとはドラム式といって、
穴の空いたドラムが横になっていて
ぐるぐる回るっていう。
これが一番初めの洗濯機なんです。
で、アメリカで開発されたのが
撹拌式といって、
「からまん棒」っていう洗濯機が
以前、あったと思うんですけど、
水槽の中プロペラがあって、
シャフトで水を攪拌する。
それがアメリカ式の撹拌式洗濯機。
ほぼ日 アメリカのなんですね。
新田 で、日本の洗濯機っていうのは、
平たい、凹凸のあるお皿が底にあって
回りますよね。
これを噴流式っていうんです。
で、それぞれに利点があるようなんですが、
まずドラム式っていうのは
硬水の国に向いてたっていうことと、
構造上、いっぱい水を使ったんですね。
ほぼ日 うんうん。
新田 攪拌式は、ドラム式に比べると
水も少なくていいし、
軟水でも大丈夫なんですけど、
モーターの回転の動きを
シャフトの動きにするんで、電力を使う。
なので、モーターの力をそのまま使えるよう
回転させよう。
それが日本で開発された噴流式なんです。
ほぼ日 日本生まれなんですね、噴流式って。
新田 日本でそういったものができて、
現状の世界でどういう形に
なってるかっていうと、
ドラム式の洗濯機が多いのが
ヨーロッパとアフリカ。
撹拌式はアメリカ。
噴流式っていうのは日本を初めとして
中国でもそうだし、インドでもそうだし、
東南アジアでももちろんそうだし。
昔の資本主義のブロック化みたいなものが
洗濯機の色分けでも出来てしまうんですね。
ほぼ日 そうなんですか。
新田 ちなみに韓国は、白い衣服を洗う時に
必ず熱湯を使うそうなんです。
だから韓国の全自動洗濯機は
湯沸かし装置付きらしいですよ。
ほぼ日 すっごい電気食いそうですね。
洗濯機一個でもそれだけ生活の文化を
反映するものなんですね。
アイロンとかミシンとかは
多分輸入したものをそのまま
効率よく作ってたんだと思うんですよね。
ジューサーもミキサーも。
新田 ええ。
ほぼ日 でも炊飯機と洗濯機は違ったんですね。
新田 物の形っていうのも
登場時に従来あるものの形を
真似るっていうのがあると思うんですよ。
いわゆる電気ポットっていうのは
アメリカとかでも作られていて、
例えば戦前のサモワール。
電気ポットですか。
これなんかはこれ電気式なんですけど。
ほぼ日 あ、ロシアっぽい。
新田 ええ。これは両耳が付いた
優勝カップの形ですよね。
それに電熱を付けるっていう。
ほぼ日 おもしろいですね。
サモワールって
もともとロシアの紅茶用ですね。
この形って、東ヨーロッパで
アンティーク屋さんを回ると、
いっぱい売っていますよ。
だから、ロシアから東欧の文化ですよね。
きっと。
新田 ロシア小説なんか読むと、
サモワールからお湯を取り、
なんていう表現がよく出てきますよね。
ほぼ日 でも日本も、最初の電気ポットは
こうだったんですね。
新田 これはね、輸入されたものだと思います。
ほぼ日 輸入品ですか。そうでしょうねえ。
昭和の初めに使われていたこういうものは
なんだか、バタ臭いですよね。
新田 たとえばこのトースターもそうですね。
ターンオーバー式といって、
挟み込んで焼く方式ですから、
現在もあるトースターと
方式はかわらないわけです。
だけど、戦前のものは
アールデコっぽいっていうか、
装飾性がある形してますけど、
戦後のものは、50年代の
アメリカっぽいような感じですよね。


↑大正から昭和初期のトースター。
↓こちらは昭和30年のトースター。

ほぼ日 そうですね。
新田 流線型の形。
ほぼ日 ヨーロッパからアメリカへと、
明らかに変わってますね。
新田 同じ仕組みのものでもこれだけ変わる。
こういうアメリカナイズされたものもあれば、
従来あるものをとにかく電気に
変えちゃおうっていうんで、
今までの形に電線を付けたっていうのも
あります。
ほぼ日 ほんとだ! この電気やかん。
新田 これ、やかんの形ですよね。
今回、やかんネタが多いですけど(笑)。
ほぼ日 なにもやかんの形をしていなくても
いいわけですものね。
そうですよ、アメリカの電気ポットって
この形じゃない。
水差し、ジャグの形してますよね。
このやかん型電気ポットは
あんまり欲しくないな。
火にかけるやかんで充分(笑)。
わざわざ電気にする必要ないだろうって。
新田 そうそう。でも、何でも電気にしたかった。
ほぼ日 電気にしたかったんですね。
新田 このフライパンにしても
ホットプレートの形してれば
いいじゃないですか。
ほぼ日 わざわざ片手の長柄をつけて
フライパンになってる!
それから、なんですか、これは。
新田 これは「ゆで卵器」ですね。
ほぼ日 う〜ん。
なにも電気にしなくてもねえ。
新田 電気をブームにしたかった、
っていうのがやっぱりあるんでしょうね。
ほぼ日 「電気を使いましょう」
みたいなキャンペーンに見えますよね。
電気のほうが新しい感じ?
新田 そうでしょうね。電気とガスがあるなら
電気の方が新しかった。
炊飯器一つにしても必ずしも同時代的に
あまねく各家庭に広まったものではないけど、
やっぱりヒットになって、
これでやっぱりお米の炊き方変わりますよね。
ほぼ日 うんうん。
新田 で、時間が短縮されるわけじゃないですか。
ほぼ日 んー、たぶん、炊く時間は、
ガスのほうが早いんですよ。
でも、ガスコンロが1つ空くでしょう?
そこで別のことができる、
それから、手が抜ける。らくちん。
ということが、便利だったんだのかも。
それにね‥‥ガスのほうがおいしかったはず。
でも、「ほっといてもいい」
という手間のかからなさが、
新しかったんだと思う。
新田 うんうん。そうですね。
電化製品って切り口がいっぱいあるんで。
ほぼ日 このあたりの扇風機とかは
「家にあった!」という人が多いでしょうね。
新田 ええ。扇風機の形は変わんないですよね、
戦前から。今でも似たような形をしてるけど、
やっぱりプラスチックの採用が
デザインの変化の一つですよね。
ほぼ日 電化製品にプラスチックが
入って来るって大きいことですよね。
新田 そうですね。電化製品が身近になったせいか、
ストーブ一つとってみても
軽快になって来るじゃないですか、
デザインが。
戦前の重厚なストーブは、
マントルピース調ですごく重たいんですよ。
このストーブの時代から、
流線型のポップな形に変わっていって。


↑昭和前期の電気ストーブ。
↓昭和中期にはこうなった。

ほぼ日 手軽になった。
新田 そうですね。物の形的にはシンプルで
なおかつ軽快な機能美みたいなのが
50年代の電化製品の特徴なんでしょうね。
ほぼ日 なるほど。


続きます!  次回はラジオのことをもうちょっと詳しく。

2003-11-10-MON

BACK
戻る