江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

テーマ7 〜戦中から戦後へ〜
代用品とジュラルミン。

その1.代用品の優良ブランドマークまであった!?

今回のテーマは、
戦中から戦後にかけての、
代用品とジュラルミンのブームについてです。
全体的に暗いイメージに捉えられがちな時代ですが、
当時の生活用品を通して、
実際にその時代を生きていた人たちの、
生き生きとしていた姿が伝わってきます。
今回、お話をしてくださるのは、
江戸東京博物館学芸員の新田太郎さんです。



ほぼ日 今回の「東京流行生活展」を見ていると、
戦争のあたりって
やっぱり、落とし穴みたいに、
そこだけ影がありますよね。
でも、戦争が本格する直前までの、
爆発的な華やかさがあった時代と、
戦後の「もう、頑張るしかないぞ」
というような、
ものすごく元気な時代の間の、
あの時代の展示は
欠くことができないものだと感じました。
新田 そうなんです。
戦時中の代用品を、
3段にもわたって紹介しています。
ほぼ日 すごく力が入っていますよね。
まるで、ひな壇みたいでした(笑)。
新田 はい。
戦時中は、“足りない”どころか、
むしろ、“賑やか”だったんじゃないか!
っていうような印象すら持ちましたね。
前回の小林孝子さんの回で紹介したように、
戦争がはじまる前から、
一般市民は、
文化的な生活を送ろうとしていたんです。
ほぼ日 そうですよね。
女の人たちは銘仙を着て
艶やかですし、
人々は、文化住宅で暮らし、
東京が生活に密着した街だったんだな、
と思いました。
‥‥と思っていたら、戦争なんですよ。
新田 はい。
ほぼ日 戦争の写真って、意図して暗いんです。
まあ、ニコニコしてる場合じゃないぞ
っていう気運が、
プロパガンダとしてあるわけだから、
工場で訓練してる写真だったり、
学徒出陣の写真だったり、
どうしても暗い写真ばかりに
なってしまうんでしょう。
でも、庶民は、毎日、
それぞれに、生き生きと
暮らしているわけですよね。
そして、そのことを象徴するように、
代用品のひとつひとつを見ていると、
実に、凝っているんですよね。
新田 戦争が本格化する直前ぐらいから、
もうすでに、
日本は消費生活に入っていて、
日用品がどんどん便利に
なってきていましたから、
戦争に入って、
金属や道具が使えなくなったと言っても、
華やかであったり便利なグッズが欲しい!
っていうような、
人々の気持ちは止められなくて、
そういうことの裏返しとして、
代用品を凝ったものにしたのかな、
と思いました。
ほぼ日 たとえば、鉄が使えないので、
その代用品として
陶器が多かったようですが、
この土瓶なんかでも、
わざわざ、鉄製のものに
似せて作ってますよね。

*陶製の土瓶
新田 そうですね。
陶器なんですけれども、
見た目は、ほんとうに、
鉄瓶そのものです。
表面には、
ツブツブとした
点々の加工が施されていますが、
これって、南部鉄瓶に見られる、
「あられ」という技法なんです。
それをすることによって
表面積が増えるので、
熱伝導が良くなるという
技法なんですが‥‥
ほぼ日 鉄でなきゃ意味がない!
新田 そうです(笑)。
南部鉄瓶は鋳物ですから、
鋳型に型押しをして
「あられ」の加工をするのですが、
いかんせん、陶器なので、
わざわざ、手をかけて、
表面をツブツブの模様に
彫っていったんじゃないんですかね。
ほぼ日 わざわざやってるんですか!?
実用的には、全く意味がないのに!
新田 はい。
しかも、細工が凝っていて、
人手もかかっています。
「贅沢は敵だ」なんて言いながらも、
贅沢というか、
物に対する欲求というものは、
人びとの心の中にはあったのでしょう。
人の気持ちって、一度、欲しいものが
手に入るようになってきたら、
逆戻りはできないっていうところが
あったのかなぁ、
というふうに思っちゃいますね。
ほぼ日 そうですよね。
その他にも、
陶器のものは、けっこうあって、
手榴弾まで陶製だし。

*陶製の手榴弾
新田 そうですね。
ほぼ日 これ、実際に、使われたんですか?
新田

実際には使われなかったって話ですけど、
軍の発注で、瀬戸や有田で生産され、
かなりの数、出回ったそうです。

ほぼ日 ガス台とかコンセントなんていうのは、
陶製でも、いいですよね。

*陶製のガス台


*陶製のコンセント
新田 まあ、ありはありですけど、
コンセントも、ほんとうだったら、
白だったら白でよいのに、
わざわざブルーにして、
すごく、きれいに作っているんですよね。
ほぼ日 これ、今あったら、
おしゃれな気がしますね。
必要ないのに、
ちょっとした楽しみのように
おしゃれにしたりして。
こういうことって、
国から怒られたりはしなかったんですかね。
新田 いや、むしろ、国の方が、
「代用品を作りなさい!」
と奨励していて、
“優良ブランドマーク”なんてものまで、
作ってるんです。
ほぼ日 ブランドマーク!?
新田 「優良代用品選定委員会」という
公的な機関が設置されて
品質保障のシールみたいなものまで作って、
国の政策で、
どんどん代用品を
作っていきましょうっていう、
国が作り出した、
ある種のブームみたいに
なっていたようですよ。
ほぼ日 たしかに、
いろんな代用品を見ていると、
ブームのように
盛り上がっていたのを感じますね。
だって、意味ないものとかも含めて、
ものすごいたくさんの
代用品がありますもん。
紙や竹で作られたヘルメットとか。

*紙で作られたヘルメット


*竹で作られたヘルメット
新田 防火訓練といって、
空襲に備える訓練のときに、
防空頭巾やヘルメットを
かぶらないといけなかったんですよね。
とにかく、コスチュームを、
防災用にしなくちゃいけなかった。
使用者の記録がないので
詳しくはわからないのですが、
紙や竹のヘルメットは、
こうした機会で
使われたのかもしれません。
鉄と違い、軽くて、かぶってても
楽だったでしょうし。
ほぼ日 軽いから、練習しやすいって‥‥
紙じゃ、防火としての
本来の機能は果たせないじゃないですか!
新田 そうなんですよね。
空襲から頭を守るためなら、
防空頭巾の方が機能的だし、
実際に使われてもいました。
本来、鉄や草で作られるものを
違う素材で作って、
「みんなで戦争に協力して
 がんばりましょう」
という風に、
精神を昂揚させる意味が、
代用品には強く込められているように思います。
だから作られた割には、使われなかった。
鉄がないから仕方なく紙で作ったとか、
ただ、そういう解釈だけじゃ
捉えきれないのが、
代用品の世界なんです。

*次回は、さらに、
 花柄の生地を利用したヘルメットなど、
 おしゃれを意識した代用品が登場します!
 お楽しみに!!

2003-10-24-FRI

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