江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

テーマ5 女性みんなが「銘仙」を着た時代。

その3
銘仙は通販されていたのだ!

ほぼ日 こうしてショーウィンドウで宣伝しますよね。
今だったらテレビがあるけれど
ここから先はどうやって
流行が伝わったんだろう?
銀ブラしてる人たちから伝わるにしても
地方までけっこう
波及してたわけですよね。銘仙はね。
小山 そうなんですよ。
今ならテレビか雑誌ですよね。
当時は、雑誌がすごく力があったようです。
これ『婦女界』っていう
いわゆる全国に出版が行き届いていた
雑誌の巻頭特集です。
こういった特集が組まれてて。
ほぼ日 ああ、そうなんですか!
小山 モデルが銘仙を着て立っていて、
ポーズをとっているという。
今のファッション雑誌と
本当に作りは変わらなくて。
ほぼ日 同じですね。
小山 この真ん中は、水谷八重子さんですよ。
ほぼ日 あ、これ水谷八重子だ!
良枝さんのお母さんですよね。
これいつくらいですか?
小山 1930年、昭和5年ですね。
ほぼ日 じゃまだ、戦争はそんなに。
小山 そうですね。戦前の一番華やかな。
ほぼ日 華やかな時期だったでしょうね。
だって街にいる女の人はみんな
華やかなあでやかな
着物着てるんですもんね。
さぞかしきれいだったろうねえ。
小山 この雑誌を見ていて気付いたんですけど、
この柄に名前が付いてるんです。
ほぼ日 あ、これがそう?
小山 黒文字で書いてある。
例えば水谷八重子が着てるのは、
「超人」って書いて「エキスパート」。
ほぼ日 あ、エキスパートっていう名前なんだ。
かっこいーい。
ネーミングがあったってすごいですね。
小山 あったんですよ。
この隣の及川道子さんの着ているのは
「流行横顔」と書いて
ファッションプロフィール。
ほぼ日 これはどういうことでしょう?
流通の仕組み上、
名前があった方がよかったから、
というんじゃ、なさそうですよね。
やっぱり売るためかな?
通りがよかったのかな?
「あらあなたのお召し物、よろしくってね」
「これはエキスパートと言うんですのよ」。
「あたくしのは、
 ファッションプロフィールと申しますの」。
っていう会話ができるわけですよね。
これもネーミングは東京っぽい。
百貨店ぽいですね。
小山 生産してた伊勢崎の人は
知らなかったとおっしゃってました。
たぶんこれは
販売していた百貨店が
独自につけたものだったんでしょうね。
ほぼ日 そうか。
小山 この生地の名前はクレオパトラです。
とかって。
クレオパトラになれるかもという
イメージとともに
買われていたのかなあというふうに
ちょっと想像しちゃったんですけど。
ほぼ日 「1930年」っていう名前もかっこいい。
この、なんていうか、
いい気になっちゃってるっていうか、
流行がぐんぐん加速して、
上気した感じが、すごくいいですね。
今って、生地に名前はあるんでしょうか?
あまり聞きませんよね。
手ぬぐいならね、
伝統の「かまわぬ」って柄はあるし
タータンチェックみたいに
紋章として家の名前があるとかは
あるけれど‥‥
もし、あっても、メーカーの
「型番」じゃないのかな?
ましてや商品になると、
Tシャツ1枚に、名前つかないですよね。
あ「ほぼ日」は、つけるか‥‥
うちはこの流れかもしれません(笑)。
小山 そうかもしれないですね(笑)。
家電にはネーミングの流行がありましたね。
ポットに「しあわせ」とか、
洗たく機に「ひまわり」とか「愛妻号」とか
空調に「霧ケ峰」とか。
ほぼ日 そっかー。
この『婦女界』って、
読んでてさぞ楽しかった
だろうなあと思いますよ。
小山 この雑誌は同時に、通販のカタログも兼ねていて。
ほぼ日 え? すごい。通販があったの?
小山 『婦女界』には通信販売部って
いうのがあったんです。
このページは三越で売られていた
銘仙の特集ですが、
地方の人は三越なんかには
一生に何度も行けないですし。
ほぼ日 そうですよね。
小山 この『婦女界』に手紙なりで申し込めば、
この生地が買えたんです。
ほぼ日 クレジットカードなんかないから
郵便の現金書留の世界ですかね。
じゃ、地方のちょっと
流行に敏感な女性たちは
一生懸命これを使って買ったんでしょうね。
でも地方にもお店があったでしょうに。
小山 地方にももちろん
地元のお店はあったけれど、
よりダイレクトに
東京から買いたかったんだと思いますよ。
水谷八重子の着ているこれがほしい、って。
ほぼ日 そっか。
この、水谷八重子の起用もいいですよね。
小山 そうなんですよ。
伊勢崎では銘仙を売るために
水谷八重子を
キャンペーンガールに起用したんですね。
女性にも人気があったんです。
水谷八重子は当時純情派として
売っていた女優さんですから、
とっても印象がよかったんでしょうね。
ほぼ日 今と同じですね。
女性誌で黒田知永子とか
長谷川京子が着てるから
どうとかってありますもんね。
小山 ありますね。
ほぼ日 ほかにも、銘仙のキャンペーンに
使われた販促グッズなんかは
あるんですか。
小山 音楽がありましたね。
ほぼ日 CMソング?
小山 というわけではないんですが、
バーゲンセールを巡回でやるときに
流すレコードがあったんです。
ほぼ日 うわあ、この当時の
景気のよさっぷりが分かりますね。
小山 そうですね。
ほぼ日 すっごい上り調子な感じ(笑)。
だって自分のとこで、
音頭作って、売る時に
ジャンジャンかけてたんでしょ?
このノリのよさは凄い。
勢いを感じますね。
小山 これね、会場で聞いていただけるように
なっているんですけれど、
なかなか面白いですよ。
一番最初は「伊勢崎〜〜、伊勢崎〜〜」
っていう駅のアナウンスで始まって、
伊勢崎駅に買い付けに来た
東京と関西の問屋さんが、
会話をするところから始まるんです。
ほぼ日 おお、ドラマ仕立てだ。
小山 「ご当地はいつもベストを尽くされてるので
 東京方面では安心して扱っておりますよ」
とかって言って。関西客は
「いやあ、関西方面もなかなかよろしおすなあ」
って!
ほぼ日 あはははは。ノリノリですね。
小山 で、音楽の内容を読むと
新婚夫婦と銘仙の商品名を
かけ合わせた詞なんですよ。
例えば、
「最もめでたく月華の契り、
 結ぶ新婚手に手を取りて、
 抜いた抜染変わりはせんと、
 文化絣にその身をまとい、
 主は段織り、お対に仕立て、
 人目晴れ晴れ霞ヶ浦へ、
 目指すところは大島絣」って。
要は新婚さんが手を取って
旦那様は段織りを着て、
霞ヶ浦や伊豆大島に
新婚旅行に行きましたっていうような
そういうドラマと、商品名がかかってて。
ほぼ日 織り込んでるんですね。
小山 そうなんです。
で、この歌、夫婦に
子供が産まれるまで続くんです。
ほぼ日 あはははは。
調子に乗ってて楽しい!
小山 ぜひ聞いてみてください。
ほぼ日 あの、すごく着物の好きな
「ほぼ日」読者の方から、
着物の柄の名前が違うんじゃないかなって
指摘をいただきました。
小山 そうなんですよ。カタログの方で、
実は違うっていうことがありまして、
私も実はこの本が出版されてから
気付きました。
重版のとき、修正します。
ほぼ日 何がどう違うんですか?
小山 例えばこの「柿の実」っていうのは
ほんとうは「橘の実」でした。
ほんとにお恥ずかしいんですけど。
今、常設展示で
江戸の「橘の実」を展示しているんです。
まさしくそのデザインでした。
「東京流行生活展」では
昭和の「橘の実」がありますから
ぜひ、比較してごらんくださいね。
こういう伝統的な柄を使いながらも
いかにビビッドな色使いにしたかが
わかっていただけると思います。
ほぼ日 なるほど、わかりました。
ところで、銘仙って、どれくらいで
廃れちゃったんですか?
やっぱり戦争と同時みたいな感じ?
小山 そうですね。
戦争がやっぱりまず大きくて、
こんな派手なものは
着れなくなっちゃったってことも
あるんですけど、
みなさん戦争になっても
おしゃれ心っていうのは
そうそう消えないので、
銘仙をそのまま標準服、
いわゆるもんぺに変えちゃったりとかって
いう人もけっこう多かったんですよ。
ほぼ日 派手なもんぺ。
派手な防空頭巾。
小山 すごい派手なんです(笑)。
小山 今回、展示室で映写している
フェーレイスのカラー写真で
銘仙のもんぺを着けていた女性が
写っていた東京駅のものがありましたよ。
ほぼ日 フェーレイスって戦後間もない東京を
カラー写真で撮ってた、
進駐軍のカメラマン。
銘仙を仕立て直して、戦後、
着ていたんですね。
小山 仕立て直したり、
また、残った着物をそのまま着たり。
日常着が着物だった時代って
昭和30年代まで残ってましたから。
ほぼ日 そうなんですってね。
糸井は、子どもの頃、
足袋履いてたって言ってました。
小山 だから、洋服が一般化して、
銘仙は廃れてしまったんでしょうね。
ほぼ日 日常着から着物が消えて、
残ったのが高級反物、ですよね。
小山 伊勢崎ももう銘仙っていう言葉を
使わなくなっちゃって、
いまは「絣」と言ってますよ。
ただ、製法とかは昔ながらの
いわゆる手織りの、伝統的なものに
戻ったような感じですね。
ほぼ日 いま、銘仙は買えないんですか?
かえって、オシャレな感じ。
かわいいんじゃない? 今着たら。
小山 アンティーク着物、
流行ってますしね。
大量生産されたので、
今も残ってるものが比較的多いですし、
値段も安いので。
といいますか、今回、
展覧会の出口のショップでも
販売しているんですよ。
ほぼ日 あ、ショップ、ありますね!
あそこで売ってましたか?
小山 売ってます、売ってます。
8,000円くらいから売ってますよ。
ほぼ日 ああ、だったら1枚思いきって、
ブラウスを1枚
買うくらいのつもりで買えちゃいますね。
ただ、着付けできないけどね、今の子。
小山 うん。でも一生懸命勉強して
自分なりに来てやって来る子も
着てくれますよ。
ほぼ日 そういえば今、出口のとこに
着物を着て展覧会が見れるって
書いてありましたよ。
小山 はい、そうなんです。
土日と祝日だけなんですけど、
ハクビ京都きもの学院の人に
ご協力頂いて、
展覧会に来ていただいた方には
無料で着付けをしてさしあげています。
1時間ならフリーで
館内散策OKということに。
ほぼ日 ほんとに?
すごい。
小山 彼氏が着ろよなんて言って、
彼女が着る、というカップルも
多いですよ。
2人で撮った写真もプレゼントしてます。
ほぼ日 いいですね!
でも出口にあるから
気づいたときには遅いよ〜。
これ、「ほぼ日」読んでる方は
ぜひ試してみてくださいねー。
土日祝日に来たら女の子は
着物を借りて着て回ると。
より楽しめるはずです!
小山 それから!
10月24日にはきものデーを開催します。
着物で来られた方には、
企画展への入場料を無料にします!
また、この日のイベントでは
カフェーの女給さんの衣裳などを
実際にモデルさんに着てもらって、
大正昭和のおしゃれを探る
楽しいイベントもあるんです!
ほぼ日

ほお〜〜!
楽しみです!


そうです!  楽しみです!
着物を着るとより楽しめます!
ぜひみなさん「着物体験」してみてくださいね。

さて、これで「銘仙」はおしまい。
次回からは新テーマ「今和次郎・小林孝子と考現学」です。
おたのしみに〜〜!

2003-10-15-WED
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