江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

テーマ4 明治大正の女学生ブーム!

その3
三越が生んだグラビアアイドル!?
芸妓「栄龍」の光芒。

ほぼ日 その女学生ブームの中、
いわゆるスターとか
アイドルみたいな存在は
なかったんですか?
小山 いましたよ。
女学生的なものの象徴が
「栄龍」(えいりゅう)という人なんです。
このブロマイドが「栄龍」さんです。
すごく人気があったんですよ。
ほぼ日 栄龍!
グラビアアイドルみたいなもの?
現役女子高校生モデルかな?
小山 (笑)ところが、この栄龍さんは
女学生ではないんです。
女学生の格好をしているけれど
本業は芸妓なんです。
ほぼ日 えっ!
小山 新橋の芸妓さんなんです。
この人は、日露戦争が終わったあとに
三越が、元禄模様っていう流行を
仕掛けたんですね。
そのモデルをやっていたんです。
明治の後期から大正前期は
赤坂や新橋の芸妓さんが
憧れの的だったんですね。
彼女に限らず、ブロマイドが
たくさん残ってるんですが
なかでも栄龍は一番の人気だった
みたいですよ。
「栄龍のハイカラ姿6枚綴り」
とかっていうふうにして売られてて。
ほぼ日 三越って、流行を作るっていう
発想に長けていたんですね‥‥
小山 そうなんですよ。
美人コンテストなんかも、
三越でやはりやっていましたね。
芸妓さんの写真を展示して、
来てもらった人に、
どの子がいいかっていうのを
投票してもらったんです。
その時もやっぱり栄龍がいちばんなんですよ。
ほぼ日 栄龍さんは、ちょっと、
清楚な感じというか、
そんなにすれてない感じがしますよね。
小山 今とは「美人」の感覚が違いますね。
今の男の人はたいてい、
驚きますね(笑)。
ほぼ日 あの、まゆ毛太くて、
鉤鼻で、ちょっと下膨れで、
これで引き目だったら
いわゆる浮世絵の美人顔ですね。
当時はこれが、最高の流行りの、
女学生的な美人だったんですね。
赤坂、新橋の芸妓さんが、
憧れの的だったっていうのは、面白いですね。
小山 国産グラビアモデルっていうのが、
どこから生まれたかっていうと、
彼女たちからなんです。
三越や白木屋の雑誌かなんかで、
お正月はこんなものを着ます、
とかっていうふうにして、
服装を公開したりとかですね、
してるんですよ。
ほぼ日 それだけ人気者になったら
スキャンダルはなかったのかな。
小山 栄龍は、俳優の河合武雄っていう人と
つきあってるっていうことでも有名でした。
ほぼ日 郷ひろみとつきあってた
佳つ乃さんみたいな?
‥‥ちょっと古いかな。
小山 (笑)。
ほぼ日 カフェーのお話のときに、
女給さんがちょっと低く見られちゃった、
みたいな印象は、
ここにはないですね。
小山 そうですね、やっぱり新橋とか
赤坂の一流ともなると、
引退した後は、誰々さんの奥様、みたいな。
ほぼ日 ああ、そういう道が!
小山 そうなんです。
政治家の奥さんとか、
大学教授の奥さんとかって、
芸妓さんだった人が多いんですよ。
伊藤博文とかの奥さんもそうですし。
ほぼ日 デヴィ・スカルノまで続く系譜だ。
小山 ええ、まあ(笑)。
ほぼ日 いまも、一流の芸妓さんやホステスさんって、
ものすごく勉強するそうですね。
教養が大事な職業と聞いたことがあります。
銀座の一流のホステスさん、
ジムで鍛えて新聞何紙もとって、
経済書から哲学書から文学まで読んでって。
一流のお客さまには
一流の対応をってことで。
そんな世界かなあ。
小山 当時の三越にはサロンみたいなものが
あったんですよ、社長室の隣に。
そこは文化人たちがフリーで
出入りする部屋だったんですけど、
そこにも、芸妓さんたちが、
やっぱり出入りしてたんですよ。
ほぼ日 すごい。
じゃ、栄龍さんも誰かの
奥さんになったんですね、きっと。
小山 栄龍さんはですね、実はですね‥‥。
ほぼ日 あら、ちょっと待って、
ドキドキ、なんか。
なにが、どんなドラマが?
ひょっとして美人薄命か‥‥。
それか、三越の奥さんに
なっちゃった、みたいな。
小山 これが、謎めいているんです。
当時の雑誌を読んでみますと、
栄龍さんは、この後、
腸チフスにかかってしまうんです。
ほぼ日 えーっ。
小山 「もう入院してしまったので、
 栄龍が、もうこの世界に
 戻ってくることはありません、
 だから、もうこんな美人の
 栄龍の絵はがきは、
 2度と売られることはありません」
っていうふうに書いてあります。
ほぼ日 それが、アキンドだったらすごいですね。
最後に売るための手段として。
引退興行みたいな。
実はぜんぜん元気で。
その後の消息は謎のまま?
小山 そうなんです。
おなじ三越のモデルで活躍してた
赤坂の芸妓さんが、
誰々の奥さんになった、
とかっていうのに比べて、
この人は忘れられてしまったんですよ。
ほぼ日 ほんとうに亡くなったかもしれませんね。
しかし‥‥眉毛太いですね。
1980年代みたい。
流行っておかしいですね(笑)。
日本だけの流行ですよね。
外人さんはどう見てたのかなあ。
小山 当時の外国人が、
日本のどんな女性を
美人だと思っていたかわかるのが
『日本美人帖』ですね。
明治41年に、アメリカの新聞社、
ヘラルド・トリビューン社が主催した
美人コンクールです。
芸妓さんじゃないほうがいいっていう
向こう側の要望があって、
一般から公募したんですね。
そしたら応募者が7千人!
ほぼ日 すごい!
小山 一次予選を通過した人が、
この写真帳に載ってるんです。
その中から選ばれたのが、
この写真の
スエヒロヒロコさんっていう
人なんですけど。
ほぼ日 へえ! きれいだけど、それでも今とは
ほんとに違いますね。
スタイルも違いますね、やっぱりね。
小山 この人は、九州の
小倉市長の娘なんですよ。
ほぼ日 へぇ〜。
そうなんだ。いいとこのお嬢だ。
小山 学習院に通っていたんですよ、上京して。
中等科3年のとき、
何気なく応募しちゃったら
1位になっちゃって、
大騒ぎになっちゃって、
学校にバレちゃって、
「けしからん!」、退学です。
ほぼ日 ひゃあ、かわいそう!
学習院じゃしょうがないか‥‥。
いまだって、芸能活動禁止の
お嬢様学校、ありますものね。
でも気の毒にね。
小山 その当時の校長先生が、
乃木希典だったんですけど、
さすがに退学処分でほったらかしじゃ
かわいそうだから、っていうことで、
お婿さんを紹介してくれたみたいで。
めでたく、これを期に結婚という(笑)。
ほぼ日 乃木大将、気が利いてる!
スエヒロさん、よかったですね。
ところで、この、お化粧道具が
こんなに完全に残ってたのが
すごいですね。
小山 今、持ってたらおしゃれですよね。
でも面白いのは、
真ん中のクシなんか、
髷(まげ)をきれいにする用で、
なんか、ちょっと江戸チックなんですよね。
そこにパリの香水なんかが入ってる。
ほぼ日 オードトワレかな。
このバラのかんざし、
リボンのかんざしなんかも
かわいいですよね。
当時から「お買い物」「おしゃれ」って
楽しかったんだろうなあ!!
展示してあるなかに、
三越が出したっていう、
家族で揃えたいファッションアイテムを
一覧にしたポスターがありましたね。
小山 「新案家庭衣裳あはせ」ですね。
ほぼ日 これが面白くって。
ご主人、奥様、ご隠居、
御令嬢、御令息、坊ちゃん、お女中。
家族がこれだけの
ファッションアイテムを持っていると、
上等なご家庭ですよ、
っていうようなことを
三越が宣伝していたんですね。
情報であり、宣伝でもある。
小山 そうですね。
この広告が面白いのは、
これ、家族合わせの
ゲームになってるんです。
ほぼ日 あ、そうか。
バラバラに切り取って。
集めたりするんでしょうね。
カードゲームと広告が一緒になってる!
すごい!
小山 さすがですよね。
ご主人が、まず帽子とネクタイ。
ほぼ日 胸紐と手袋、時計と鎖、
襟巻きと袴、外套と靴。
小山 女性に比べて、洋服が多いですね。
ほぼ日 帽子もシルクハットですね。
明治44年。
ご主人、眼鏡かけてるしね。
で、奥様、これはきっと赤坂か、
新橋の芸妓さんだったか(笑)、
あるいは女学校出て、そのまま‥‥
小山 お嫁に来たか? みたいな。
ほぼ日 ですよね、きっとね。
小山 奥様の最初のアイテムは、裾模様と帯。
和服ですね。
ほぼ日 コートと小紋。ショールと胸紐、
櫛と指輪、履物。
基本が和装なんですね。
やっぱ、洋服が当たり前になるのは
ずっと後ですか?
小山 ずっと後ですね。
ほぼ日 そっかそっか。
で、ご隠居になると、
おじいちゃんもおばあちゃんも、
趣味の道具が入ってきますね。
茶器とか煙草入れ。
おばあちゃん、煙草のむんだ。
小山 つえもありますね。
ほぼ日 あとね、膝が辛かろうと
座り椅子(笑)。
三越、さすが商売上手。

小山 上手ですよね。
ほぼ日 子どもたちにも
ちゃんといいものを買いましょうって。
御令息、もう時計を買ってもらってますよ。
男の子は洋装が多いですね。
坊ちゃんは「海軍服」だって。
小山 そうですね、制服の原点。
ほぼ日 セーラー服ですもんね。



ほぼ日 それでね、お女中にも、
とってもよくしてるんですね。
彼女、住み込みですよね。
櫛や鏡、化粧品も
揃えてあげるんですね。
家族同然にしてあげてたってことですよね。
小山 そうですね。
着物を着せて、髪飾りも付けて、
お化粧品も、傘も、うちにいる以上、
ちゃんとしなさい、っていう。
ほぼ日 あ、ここでお女中の着物に
「銘仙」が出てきますね。
この話は次回じっくりお聞きしますね。

小山さん、ありがとうございました!
次回は新テーマ。大正から昭和にかけて、
ひとびとがいちばん着ていた絹織物「銘仙」について
たっぷりお聞きしますよ!
お楽しみに!

2003-10-08-WED
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