担当編集者は知っている。


『いわいさんちのどっちが?絵本
 3冊セット』
著者:岩井俊雄
価格:1,575円(単品は各525円)(税込)
発行:紀伊國屋書店
ISBN:4314010207
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メディアアーティストの岩井俊雄さんが、
娘さんとの遊びから生み出した絵本
『どっちがへん?』『どっちがどっち?』
『どっちがピンチ?』
の3冊セットです()。
キュートでシンプルで不思議な絵がいっぱい。
親子で絵を見ながら遊ぶうちに、
子どもの好奇心や想像力を引き出せる、
そんな絵本です。
ご担当された紀伊國屋書店の藤崎さんに
お話をうかがいました。
3冊は分売もされてます(各525円)。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者
/紀伊國屋書店出版部 藤崎寛之


■『どっちが?絵本』は、初体験づくし

出版社としての紀伊國屋書店は、
人文書や自然科学書が中心で、
ややお堅いイメージかと思います。
過去に絵本やビジュアル本を出した経験もありますが、
そうしたジャンルのノウハウを
十分持っているわけではありません。
岩井俊雄さんとの最初の本
『いわいさんちへようこそ!』も、
紀伊國屋にとっては
かなりチャレンジングな企画でしたが、
それから半年も経たないうちに
『どっちがへん?』の刊行、そして今回のシリーズ化と、
初体験の連続なのです。
『いわいさんちへようこそ!』が
今年の2月刊行ですから、
1年足らずのあいだにこれだけのことが
起こったなんて、われながら驚きです。

岩井さんの本は内容の親しみやすさもあって、
店舗勤務の社員たちにも評判がよく、
みな積極的に意見や提案を寄せてくれまして、
そうした声は、たとえば、ペンギン親子の特製バッジや
カード式のミニカレンダーとして、
かたちになっていきました。
このような試みも異例のことです。
以前、「岩井さんって、どういうひと? って訊かれたら、
『ひとを巻き込むひと』って答えます」
と書いたことがあるのですが、
僕自身が岩井さんの魅力に巻き込まれて
本の企画を立てているのが伝染したのか、
いまや全社的に岩井ワールドに
巻き込まれているような状況なんです。
僕なんか、「『どっちがへん?』の藤崎」と
呼ばれたりします(笑)。


▲ 特製バッジとカレンダー

■『どっちが?絵本』は、岩井作品の典型

なぜ岩井さんはひとを巻き込めるのか?
岩井さんご自身のお人柄も当然あるのですが
(新しいアイデアを語るときの魅力ったら
 尋常ではありません)、岩井さんの作品も
またそういうふうに出来ていますよね。
つまり、すでに完成させてしまった「閉じた」作品を、
美術館やなんかで「どうだ、見てみろ!」と
差し出すのではなく、見る人が参加してはじめて、
作品が意味を持つようになっている。
こう言ってよければ、
「ウェルカム感」を醸し出しているのが、
岩井作品なんです。
こちらもつい参加してしまう、巻き込まれてしまう‥‥。
今回の『どっちが?絵本』は、
そういう岩井作品の典型だと思うんですね。
ただ眺めているだけでも
面白い絵・かわいい絵なのですが、
ひとたび子供を相手に遊んでみると、
絵本自体の意味ががらりと変わります。
もっといえば、その子供とのあいだの空気が変わります。
その証拠に、いま紀伊國屋に限らず、
いろいろな書店さんの読みきかせ会で
『どっちが?絵本』を使っていただいているのですが、
これが盛り上がるのです。
少し長いお話を聞いた子供たちが
飽きちゃったりしますよね、そういうときに効く。
「どっちがへん♪ どっちがへん♪」と
一緒に歌ってくれて、
「こっち!こっち!」と答えてくれます。
僕も店頭でやってみたことがあるので
間違いありません。
ええ、やるのが岩井さんでなくても盛り上がるのです。
むしろ、作者の岩井俊雄はどうでもよくなっている(笑)。
しかし、これこそが岩井作品の醍醐味なんですね。
もちろん、親子のあいだでやっても、
同じことが起こります。




▲おかしなところ みつけよう!
(『どっちがへん?』より)


■『どっちが?絵本』は、こうなるべくしてこうなった

製作のほうは、すさまじいハイペースでした。
絵本第一弾の『どっちがへん?』は、
今年の4月に開かれた『いわいさんちへようこそ!』の
展覧会に間に合わせる必要がありましたし、
新刊の『どっちがどっち?』『どっちがピンチ?』は、
せっかくだからクリスマスに間に合わせよう!
どうせなら3冊入りのボックスセットもつくろう! 
となったわけです。
いずれも実質1ヵ月足らずの作業だったのでは
ないでしょうか。
岩井さんも、ブックデザインの内田雅之さんも、
ノッてくるとすごい仕事量なんです。
編集者としては、あとからついてゆくのがやっと。

それにしても不思議なのは、
どういうつくりの本にするか3人でいろいろ議論して、
その時点ではさまざまな可能性があったはずなのに、
出来上がってみると、「こうなるべくしてこうなった」
という感じがすることなんです。
本の大きさも、中身の絵やカバーの色も。
3人とも小さい子を持つ親であり、
最初から意気投合しましたし、
また、(自分の、あるいは不特定多数の)子供に
手渡す本として、なんというか、
ちゃんとしたものをつくっている
という確信があったように思います。
だから、出てきた結果に対する
目線がぶれないのではないでしょうか。
いまでは、この3人で仕事すること自体が
「こうなるべくしてこうなった」という感じがします。
これからもいっしょにこの3人で
本をつくっていければと願っています。



▲ にててもちがう よくみてね!
(『どっちがどっち?』より)


■『どっちが?絵本』は、不思議と飽きない

『どっちがへん?』をよく売ってくれている
店の担当者が自筆のPOPを立ててくれているのですが、
そのフレーズがなかなかのものです。いわく――
「シンプル、ゆえに奥が深い」
これは言い得て妙です。
無駄をいっさい排除したシンプルな絵。
しかし、子供たちは飽きません。
どっちがへんか答えがわかったあとも、
繰り返し遊んでいます。
いま、「答えがわかった」と書きましたが、
正確に言うと、本のどこにも答えは書いていません。
間違いさがし本ではないのです。
ここがポイントだと、担当編集者としては思っています。
正しい答えを出すことは重要ではなくて、
大人が「どっち?」って聞くと、
子供が「こっち!」と答えて、その理由をしゃべりだす、
それを大人が聞いてあげる――
そういう空気が子供は好きなんですね。
大人が歌を歌ってあげて、ピッと2つの絵を見せる――
これがこの絵本の遊び方ではありますが、
歌を歌っても歌わなくてもいいですし、
どういう歌い方でもいいんです。
子供の答えはどういうものでもいいし、
その理由もなんでもいい。
でも、濃密なコミュニケーションがある。
そこに「奥深さ」を感じていただけるなら、
こんなに嬉しいことはありません。




▲このあとどうなる? あぶないよ!
(『どっちがピンチ?』より)



■『どっちが?絵本』は、終わらない

ふつう、ある本が出来ると、話はいったん終わります。
短期間でいっきにつくったものならなおさらでしょう。
期限に間に合って、ホッとしたいところです。
しかし、『どっちが?絵本』はそれを許しません。
むしろ、ここを基点に新しいものが
続々と生まれていく気配を感じます。
当の岩井さんはブログまで始めてしまいました。
「いわいさんちweb」
いわいさんちでは日夜、新しい手作りおもちゃや
オリジナルの遊びが生まれ続けています。
僕も休んではいられません。
次の本でまた「ほぼ日」で ご紹介いただけるように
頑張らねば。

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『いわいさんちのどっちが?絵本
 3冊セット』
著者:岩井俊雄
価格:1,575円(単品は各525円)(税込)
発行:紀伊國屋書店
ISBN:4314010207
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2006-12-12-TUE

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