担当編集者は知っている。


『夜は短し歩けよ乙女』
著者:森見登美彦
価格:1,575円(税込)
発行:角川書店
ISBN:4048737449
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大学在学中に『太陽の塔』
日本ファンタジーノベル大賞を受賞し
作家デビューされた森見登美彦さん。
2年ぶりの待望の長編小説です!
舞台はレトロな雰囲気が漂う京都。
天然な女の子にひそかに想いを寄せる
純情な主人公の片想い奮戦記。
ノスタルジックで、せつなくて、
でも爆笑しちゃうこのご本を担当された
角川書店の小林さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者
/角川書店出版事業部第一編集部 小林順


春の京都の一夜、先斗町の石畳の上を、
満艦飾で飾り立てた3階建ての電車がやってくる――。
僕がこの小説で、いちばん好きな場面です。
この奇妙な電車の持ち主は、謎の老人・李白さん。
李白さんは、作品全体を通して重要な役割を果たす
キャラクターなのですが、
ケタ違いのお金持ちで道楽者という以外、
何者なのかは一切わかりません。
そんな李白さんを筆頭に、酒豪の美女・羽貫さんや、
自称天狗の浴衣男・樋口さんなど、
珍妙で愛すべきキャラクターが次々と登場します。

主人公は、京都にある国立大学生の「先輩(私)」と、
その片想いの相手で大学のクラブの後輩である
「黒髪の乙女」。
この2人の1人称が交互に現れる構成になっていて、
男子大学生の妄想的独言に埋め尽くされたデビュー作
『太陽の塔』から森見さんを追いかけている読者なら、
「あの森見登美彦が女性の1人称を書くなんて」と
驚かれるかもしれません。
ところが、これがすばらしくキュートなんです。
ふつう男性作家が書く女性の1人称は
どこか上品すぎたりするものですが、
この作品の場合は、「こんな子がいたらいいのにな」と
素直に思えてしまいます。

では、「黒髪の乙女」とは
どんなキャラクターなのでしょうか?
背が低くてショートカット
(このあたりには実在のモデルが
 いるのかもしれないと僕は踏んでいます)、
姉から授けられた「おともだちパンチ」や、
自分で開発した万能のお祈りの言葉「なむなむ!」、
さらに天性の運の良さを駆使して困った人を助ける、
とってもいい子なのですが、
いささか天然成分を含んでいまして、
自分を追いかけてきている「先輩」と
街で頻繁に出会うのは、
あくまで偶然だと思い込んでいます。
じつはこの「先輩」、
彼女が来そうなあらゆる場所に先回りしているのです。
彼はこれを
「ナカメ作戦(なるべく彼女の目にとまる作戦)」
と名づけています。
でも、恋する男の切ない作戦はなかなか功を奏しません。
そこで彼は、空想を現実に変えるために、
思い切った行動に出るわけですが、
それは読んでのお楽しみ‥‥。
読み終わった後には、ホクホクのジャガバターなみに
温かい気分になれることうけあいです。

デビュー作『太陽の塔』を読んで、端正な文章と
どこまでも突き抜けて行きそうな暴発ぶりに圧倒され、
京都まで会いに行ったとき、
森見さんはまだ京都大学の農学系大学院生でした。
「竹の研究をしています」と聞いて、
「書く小説だけでなく、専攻もファンタジーだなあ」と
妙に感動したのを覚えています。
その後、文芸誌「野性時代」の編集担当Kさんと
森見さんの間で「木屋町のアリス」という
ぶっとんだコンセプトが練り上げられ、
始まったのがこの小説です。
Kさんと僕は、原稿が入るたびに夢中になって読み、
編集者という仕事に就けたことを天に感謝したものです。
これはまったくの余談ですが、
僕も大学は理系の学部を出ていて、
理系出身の作家と理系出身の編集者が
1冊の文芸書を作ったことは、
出版界の珍事かもしれません。

カバーイラストを描いてくれたのは、
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの
CDジャケットなどを手がけてきた
若きイラストレーター、中村佑介さんです。
僕自身アジカンのCDを「ジャケ買い」してしまったぐらい
中村さんのイラストが好きでしたし、
かわいくてポップなテイストが
森見さんの作品にもピッタリはまると感じていました。
森見さんに打診すると、なんと彼も
イラストに惹かれてアジカンのCDを買ったというので、
迷わず依頼することにしました。
真夏の大阪で中村さんと打ち合わせをし、
「レトロな感じで」という森見さんの要望を伝え、
ドキドキしながら待つこと約1ヵ月、
上がってきたラフは想像以上のできばえでした。
細部の修正をお願いして、
2、3度のやりとりの末にできあがったイラストを
デザインしてくれたのは、
社内装丁室の高柳雅人さんです。
「オビのコピーは手書きにしたい」
「女性読者も手にとりやすい感じに」など、
僕のわがままな要望を
うまくデザインにまとめてくれました。
おかげで、今までの小説にない
新しさが出せたのではないかと思っていますが、
みなさんにも気に入っていただけるとうれしいです。
見本ができたときには愛おしくて、
仕事の後はまっすぐ家に帰り、
ビールを飲みながら眺めたぐらいです。
ぜひ、書店の店頭で手にとってみてくださいね。

書店といえば、森見さんは書店員さんたちの間では
早くから熱い注目を浴びていました。
そして今回、ついに東京と京都の約10店舗で、
チェーンの垣根を越えた有志による森見登美彦応援団
(通称「まなみ組」)が結成されました。
手作りのオリジナルPOPをはじめ、
いろいろな宣伝グッズのほか、
『夜は短し歩けよ乙女』オリジナルマップや
有志の皆さんの熱烈なメッセージが載った
フリーペーパーが作成されたとのことです
(愛情が溢れすぎて、字数を削るのに苦労したとか)。
これは、とても珍しい試みだと思いますので、
ぜひ参加書店まで足を運んでみてください。
(詳細は森見さんのブログで公表予定だそうです)

こんな「乙女」ですが、どうぞよろしくお願いします。
詳しい作品紹介は弊社HPをご覧ください。


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『夜は短し歩けよ乙女』
著者:森見登美彦
価格:1,575円(税込)
発行:角川書店
ISBN:4048737449
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-12-08-FRI

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