担当編集者は知っている。


『ザ・エージェント
 ―ベストセラー作家を探しつづける男』
著者:鬼塚忠
価格:1,575円(税込)
発行:ランダムハウス講談社
ISBN:4270000597
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3年間で5万部以上のヒットを12冊!
これはすごいことです。
テレビドラマ化された『海峡を渡るバイオリン』などを
ご存知の方も多いでしょう。
このヒットメーカーである著者・鬼塚忠さんは、
どうしてそうなったのか、
ここでノウハウをつぶさに解説しています。
そんなに手の内を見せてしまって、いいのかしら?
と心配になりますが、
著者はこう書いていらっしゃいます。

わたしたちはこの本で、三年間に蓄積した
自分たちの経験とノウハウを公開している。
それは多くの追随者が現れることを期待しているからだ。
もしこれが実現すれば、日本の出版界は
たくさんの有望なコンテンツを得て、
新しい時代を迎えることになるだろう。
その期待感に比べれば、真似をされるなんて小さなことだ。


おもしろい本を読みたい人、作りたい人、
ぜひご一読ください!
            (「ほぼ日」さいとう)

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担当編集者/ランダムハウス講談社 小泉伸夫

著者の鬼塚さんは、とても不思議な人物だ。
魔法使いみたいに仕掛ける本が売れる。
反面、はずれた時は、
これまた魔法をかけたように売れない。
そんな仕掛け人の本がこれだ。

知り合ったのは今から5年ほど前。
私はTBSブリタニカ(現・阪急コミュニケーションズ)で
書籍を作っていた。
鬼塚さんは当時、欧米作家の日本語翻訳権を扱う
「イングリッシュ・エージェンシー」の一社員。
イングッリッシュ・エージェンシーは、
トム・ピーターズなど数々の大物作家の
日本での窓口となっていた。

その日、私は編集部の同僚と
イングリッシュ・エージェンシーに商談に出かけた。
彼とは別の担当者と商談を済ませたあとに、
日もじゅうぶん暮れたし、両社数名で連れ立って
食事に行くことになった。
そこにあとから登場したのが鬼塚さんだった。
英語を自在に操るバイリンガルのスマートな会社に、
見るからにごっつい九州人が出てきた。
それが鬼塚氏だ。
この男、とにかく話も熱すぎるくらい熱かった。

人の話はほとんど聞かない。
おまけにほとんど誰にも話をさせず、
世界放浪をしていた頃の話を始めた。
20歳くらいの頃から延べ3年半で30カ国をまわった話だ。
今でも鮮明に覚えている。
というより、その後何度となく同じ話を
聞かされることになったからといったほうが正確か‥‥。

悟りを開こうと思ってブッダが悟りを開いた
インドのブッダガヤに行ったら麻原彰晃と会ったとか、
イスラエルでユダヤ人にこき使われながら
働いていた話とか。
またはスペインで牛追い祭りに参加して
闘牛に踏み潰されそうになり、
「命知らずのハポネーゼ(日本人)」と写真入りで
次の日の地元紙の一面を飾ったり‥‥などなど。
初対面にしてひたすらそんな話をする彼を我々は
「イングリッシュの最終兵器」と呼んだくらい、
とにかくインパクトは強烈だった。

それをきっかけに鬼塚さんとのお付き合いが始まった。
いつしか彼は
「海外の作家のエージェントはつまらない。
 コンテンツは自分から半径1メートルの範囲で作りたい。
 作家を育てたい」
と例によって熱く語るようになり、
ついに2001年10月に独立し、
アップルシード・エージェンシーを立ち上げた。

鬼塚さんは翻訳書籍の世界では
それなりに知られていたろうが、
業界外ではまったく無名。
彼を知る人間のおそらく半分以上は半信半疑だったはず。
よもや3年間で10万部超の書籍を4冊、5万部超8冊、
後述するがテレビドラマ化、映画化、漫画化などなど、
これほどまでにヒット作、話題作を
送り出すことになるとは誰も想像していなかったと思う。

この本を読むと、成功ばかりが目立って
派手な印象を与えるかもしれないが、鬼塚さんは、
実はこつこつと地道な作業を繰り返してきた。
とにかく一日中企画のことを考え、
作家(候補)と会っては企画書をまとめ、
出版社に売り込む。日々この作業の繰り返しだ。

本人は本書の中で
「イングリッシュ・エージェンシー時代、
 日々、海外から大量に送られてくる英米の本の目次や
 企画書に目を通すうちに、売れる本、売れない本を
 見分ける判断がつくようになった」
と言っているが、私はそうは思わない。
それはあくまで彼の“勘”なのだ。
人生を自由気ままに好き勝手に生きて、
自分が楽しい! と思えることばかり
やっている鬼塚さんには、面白いことを追求する
脳の機能の一部がアタマのどこかにあるのではと
思うが故、あえて私はそう言いたい。

アップルシード・エージェンシーを立ち上げてまもなく、
TBSブリタニカに鬼塚さんは企画の売り込みに訪れた。
これが予想に反して(?)、悪くなかった。
今も思い出す、彼が一押しする新人作家、
加藤昌治さんの『考具』を購入したときのことを。
とにかく話がでかかった。
10年に1人の逸材だとか、ベストセラー間違いなしだとか、
そんなことを言っていた。
何を根拠にまだあがっていない原稿に
ここまで彼は言えるのだろう――
私は話を3割引で聞きながら、
それでもこの企画はイケる、と思って購入したのだった。

打ち合わせ。執筆。そして第一稿があがる。
『考具』の原稿は面白い! の一言だった。
イケるという思いは一層強くなった。
鬼塚さんの言った10年に1人というのは
あながち嘘ではない、と思ったものだった。

著者の加藤さんは大手広告会社の
バリバリの現役社員だけあって、
本の体裁やパブリシティの面でも
斬新なアイデアを提供してくれた。
そうして出来た『考具』は刊行直後から
好調な出足だったが、新聞広告を出したら
一気に火がつき、鬼塚さんの言葉どおり
ベストセラーのカーブを描きながら売れ始めた。
『考具』ではそんな成功体験のひとつを
経験することができ、自分にとっても
思い出深い一冊となった。

それから何カ月かのち、
TBSブリタニカの親会社が変わり、
阪急コミュニケーションズと名前も変わった。
そして私は昨年9月にランダムハウス講談社に移った。
その年も押し迫ったある日、鬼塚さんから電話があった。
それも深夜2時。
「小泉さん、起きてる?ひとつ企画があるんだけど‥‥
 俺の本を出してくれ」

突然のしかも思いもよらない話に、
こちらはアタマの中がクエスチョンマークだらけ。
“オニー”の本??? そんなこちらの思いをよそに、
彼の熱い熱い話が始まり、それから30分、
いつしか構成の話を共にしていた。
届いた原稿はといえば、正直、予想以上で、
一気に読み終えた。
日本ではなじみのない「作家のエージェント」にかける
熱意が漲っているし、読んでるうちにこちらも
意欲が湧き出る――。

ところで突然何かが始まるというのは
鬼塚さんのいつものことで、
彼の部下、深澤さんから
「この会社は突然、会議が始まる。
 突然、大掃除が始まる」
という話はよく聞かされていた。
当然、裏表のない性格の鬼塚さんは
社外の私に対しても同じ対応。
深夜の電話も毎度のことだった。

鬼塚さんの賛嘆すべきところは
メディアミックスの仕込み方だ。
実は本書の出版にあわせては、
テレビ東京系『ガイアの夜明け』の特集を、
彼自身がテレビ製作会社と交渉して実現に至った。
テレビ放映と同時に本を売り出そうということだった。
こんなことはなかなかできるものではない。

ちなみにテレビとの連動はこれだけではない。
鬼塚さん自身が聞き書きした
『海峡を渡るバイオリン』(河出書房新社)は
フジテレビ45周年記念の原作に選ばれた。
SMAPの草なぎ剛主演で、2004年11月に放映。
同年の文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。
今年も、アップルシード・エージェンシーが
プロデュースした作品『ハヤト』が
在京キー局の戦後60周年記念番組に選ばれたという。

映画との連携も得意としていて、
すでに李小牧著『歌舞伎町案内人』(角川書店)が
制作、公開された。
現在では高橋美夕紀著『クールス』(講談社)、
村上早人著『モンタナ・ジョー』(小学館)が
製作中だそうだ。

漫画化もある。
『海峡を渡るバイオリン』は小学館のコミック誌で
連載されている。
ラジオ化だってする。
同書はNHKラジオで1週間にわたって朗読され、
山本賢蔵著『バグダッドのモモ』
(アンドリュース・プレス)は
J−WAVEでこれまた1週間にわたって朗読された。

書籍を年間60冊ほどもプロデュースし、
しかもこれだけの仕掛けを実現させるというのは、
驚異的と言って差し支えなかろう。

今回紹介させていただいた『ザ・エージェント』には、
出版不況をものともせず、
いわば「ひとつの新しいビジネスモデル」を立ち上げた
鬼塚さんの情熱や思いがぎっしり詰まっている。
出版業界の方々のみならず、
特に何かを表現したい方、
何か新しいことに取り組もうと考えている方たちには、
ぜひ読んでいただければと思う。
きっと、その取っ掛かりとなるヒントが
ちりばめられていると感じるはずだ。
そして、この本をきっかけに、いつか本を出版し、
大ブレークする書き手の方たちが
誕生すれば嬉しい限りだ。
その手立てが、この本の中にはある。

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『ザ・エージェント
 ―ベストセラー作家を探しつづける男』
著者:鬼塚忠
価格:1,575円(税込)
発行:ランダムハウス講談社
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2005-03-28-MON

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