担当編集者は知っている。


『ジャンクスタイル
  ~世界にひとつの心地よい部屋〜』

著:大平一枝 写真:小畑 雄嗣
出版社:平凡社
価格:1500円


担当編集者/
平凡社 コロナブックス編集長 清水壽明(談話)

作家や年代やブランドに関係なく、
歳月を経てきたものだけが持つ味わいを
純粋にいとおしむ。

そういうライフスタイルを
「ジャンク」と呼ぶとき、
「がらくた」という意を持つその言葉が
ある種の品格さえ帯びて、私には映る。
言うまでもなく、もうずいぶん前から
インテリアの世界でジャンクスタイルは、
ひとつのカテゴリーとして成立している。

ジャンクなものを
愛おしんで使っている人たちは、
モノだけでなく暮らし方や考え方そのものに
自分なりの物差しを持っている。

たとえばそれはできるだけモノを持たず
シンプルに暮らそうとすることであったり、
出自やブランドという記号ではなく
手触りや素材感を信じた
独自の審美眼を大切にすることだったりする。
子ども用であっても子どもに媚びない
デザインを選ぶしつらいからは、
彼らを一人の人間として見つめ、
むきあおうとする親の教育方針が
垣間見えたりする。

つまり、ジャンクというスタイルは、
たんに嗜好だけにとどまらず、
自分はどう生きたいかという指向と
強力にリンクしあう
稀有なしつらいのジャンルなのである。

(『ジャンクスタイル』巻頭より抜粋)




平凡社の「コロナブックス」という
隔月のシリーズは、既に百冊以上出ています。
ムックというジャンルのはしりです。もともとは、
「雑誌『太陽』で好評だった企画を
 編集しなおして本を作ろう。
 雑誌は一回出たらそれきりなので、長くやっていこう」

という発想で生まれたものです。だから
以前はもちろんオリジナルの企画もあったけど、
「かつての雑誌の特集をリメイクする技を見せる」
みたいな側面が強かった。ただ、
今は『太陽』がないから(二〇〇〇年一二月号で休刊)、
企画をイチから作るようになって、
手間暇や取材の費用が余計にかかっています。
手間暇をかける点は別に構わないんですが、
取材の費用がないのは、ちょっとつらい──

雑誌だと、そのへんをケチると
できあがったものが弱いものになるので、
かなり力を入れていたんですけど。

コロナブックスでは、
今まではインテリアやデザインの本を、
あまり作ってきませんでした。
だから、この数年は、これまでやっていないジャンルで
ぼくも個人的に好きだった、
インテリアやデザインを中心に、
試行錯誤しているところなんです。

『ジャンクスタイル』も、その中で生まれた一冊です。

ただ、インテリアや建築とは言っても、
かつてコロナブックスで出した
『ハンス・ウェグナーの椅子100』という本は、
北欧インテリアの巨匠の代表的な椅子についてのものです。

他にも例えば
『アパートメント 世界の夢の集合住宅』という本にしても
二〇世紀の代表的な集合住宅を選ぶことになったから、
どうしても、「ル・コルビュジエが作ったアパート」だとか
既に評価が定まっているものを扱うことになる。
これまではそういう、
ちょっと高級な流れでやってきたんですね。

だから、今回、著者の大平さんから、
「『ジャンク』って言って、
 ちょっと傷ついたような中古の家具を、
 部屋の中でおもしろくアレンジしてたのしむようなものが、
 今は流行ってるんですよ」
と企画を投げられたときは、
これまで扱ってきたものとは
正反対の方向だなぁとは感じました。

歴史に残るブランドが確立した
インテリアの企画ではなくて、
ノンブランドのインテリアの企画。

誰が作ったかも材質も関係がないのだし、
ガウディがいいとか
コルビュジエがいいとかいうのとは逆の方向。

ただ、よく考えてみたら、お金のある人は
高級なものを買えるだろうけど、
お金のない人はないなりにたのしめばいいのだから、
手作り感という意味では、
ハンス・ウェグナーの椅子もジャンクな椅子も、
けっこう近い世界なんじゃないかと思ったんです。

例えば、僕自身にしても、これまで
『太陽』なんかをやってきた中では、
古いものを見たり
白洲正子とかを取りあげてきたわけで、
「古いもの」や「中古」とかには
もともと違和感がないんです。
美術館の展示室にあるような骨董よりは、
普段づかいの古伊万里なんかで
お茶を飲むと気がやすまる、
ということがあるぐらいだから、実は
ジャンク的な人間でもあるんですよ。

だから、この企画をおもしろいなと思ったし、
新鮮だと感じました。
そう感じた上で、中古のものを
「いかにもジャンクだなぁ」なんて見ていると、
この本の編集をやっている間は、
目につくものが
みんなジャンクに見えてきちゃったんです。
別の用事で北海道に行ったときには、
本当に、見渡すものぜんぶがジャンクで──。

北海道大学の正門の近くに、
民家を改造して中華料理屋に作り直したものなんか、
上に鳥居があったりして、とてもよかったです。
その料理屋の門が、この本の表紙になってます。

この「ジャンクスタイル」は新鮮ですし、
売り上げも好調なんですが、
ただ、まだ、「割とマジメな本」なんですね。
ですから、もし次にやるなら、
ホームレスのジャンクスタイルも視野に入れて
企画を考えていくこともできるんじゃないか、
とは思っています。

同じシリーズで出す本が、
同じことのくりかえしになっちゃったら
つまらないので、これからも、コロナブックスでは、
変わったものを扱っていけたらなぁと考えているんです。

同じ著者とか写真家とかと仲良くなっちゃうと、
つい、その人とばかり仕事をすることになりがちだけど、
そうすると、最初の緊張感がなくなってしまう。
もたれあいとか馴れ合いになりがちでしょう。
それを避けて
いろんな人との仕事に挑戦しなければまずいし、
一回いい仕事ができても、
まずはご破算にしないとダメですよね。
「すごくおいしいものがあって、
 次の日にもう一度食べにいったらガッカリした」
みたいなことですけど。

コロナブックスの中で、印象に残る企画というと、
そのつどいろいろ、ですが……

例えば、二年前にパウル・クレーの企画で
『パウル・クレーの贈りもの』という本を出したときは、
「抽選で十人に忘れっぽい天使ブローチプレゼント」
というのをやりました。
日本の読者は、ぼくの知る限りは、
本を読んでもあまりたくさん感想を送ったり
しないもんだと思っていたけど、
このときは、プレゼントをきっかけに、
随分沢山のハガキをいただいたんです。

それを見ると、たのしんでくれた人は、
男女比も半々、全国津々浦々、
十代の人から七〇代の人まで、本当にいろいろで。

「クレー」なんて聞くと
都会的でお上品なものかと思っていたんだけど、
地方ともちゃんと何か通じていたんだと思いました。
誤解を招くかもしれないけど、僕はそのとき、
「日本を見直した」っていう感じがした。
いろんな土地で
クレーを大切に読んでくれていることには、
なんか、明るい感じがしたんです。

まったく厳正な抽選でブローチが当たった
当選者の一人は、
「ずっと病院に入院していて、
 ベッドに横になっているときに
 いつも何番の絵を見ています」
と言ってくれた方でした。
その手紙をいただいて、また返事を書いたり、
そういうやりとりができたことは、
とてもうれしかったんですよ。

担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2003-12-08-MON

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