担当編集者は知っている。

最新のオススメ本


『睡魔』
著者:梁 石日 (著)
出版社:幻冬舎
定価:1800円
ISBN:4344000633
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(筑摩書房・ツルミさんからの手紙)

途中嫌な気持ちにもなる、
なのに、引き込まれて読まずにはいられない……
そんな凄いパワーを持った小説です。
笑えたり、謎解きが素晴らしかったり、
ハラハラドキドキ、
というのばかりが小説じゃあない。
(それはそれで面白いのですが)
こんな風に、一見自分とは関係ない世界?と思われるのに、

ズバッと心の中に入ってきちゃう話というのもあるんです。

怖い怖い、辛い辛い、でも面白いんです。
是非ご一読ください!



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担当編集者:幻冬舎 編集局・芝田暁

梁石日さんと言えば、
実在の父親をモデルにした
ひとりの業深き男の激烈な死闘と数奇な運命を描いた
山本周五郎賞受賞作『血と骨』(幻冬舎刊)の著者として
広く知られていますが、
この度、さらなる最高傑作『睡魔』を上梓しました。
『血と骨』を刊行したのは一九九八年二月でしたが、
その年は梁石日さんにとってまさに激動の変遷期でした。
『血と骨』はマスコミ各社から大絶賛され、
あっという間に十五万部突破のベストセラーになり、
数百件のインタビューが殺到し、
七か月もの間、他の仕事がまったく手につかないほど
忙殺された記憶が、今も鮮明に蘇ってきます。

一日に数件のインタビューをこなす梁石日さんと、
同席していた私は、
夜な夜なそれが当たり前の習慣のごとく
酒ばかり飲んでいました。

ある日、いつものように
新宿の馴染みの店「ふく」でビールを飲みながら、
梁さんが言いました。
「昔、健康マットの無店舗販売をしていたことがある。
 あれは本当にすごいシステムなんだ。
 アメリカのプラグマティズムはもちろんのこと、
 あらゆる心理学を応用した完璧なシステムなんだ。
 俺は日本一の売り上げを立てたこともある。
 あのシステムは後の新興宗教につながっていくんだ」
そんな面白すぎる話を聞いて
「それをぜひ小説で書いてください」
と言わない編集者は失格です。
それでも梁さんはなぜか
「あれはちょっとまずいんや......」
と言葉を濁したまま、その晩は終わりました。

さらにしばらくすると、
梁さんは別の野望に燃えたぎるようになってしまいました。


そうです。
梁さんは、柳美里さん原作の映画
『家族シネマ』の主役の父親役に抜擢されて、
夢は主演アカデミー賞を受賞し、
いつかハリウッドで
「氷の微笑」のシャロン・ストーンと
くんぐほぐれつ共演するという
とてつもない官能的な妄想に取りつかれてしまったのです。

「ああ、これは当分だめだな」と思った私は
一年あまり諦観し、
その野望への梁さんの情熱が尽きかけた頃合を見計らって
自分が編集長を務める「ポンツーン」という
幻冬舎のエンターテインメントPR誌に
長篇小説の連載を依頼したのがことの始まりでした。
 
テーマはずばりマルチ商法です。
そもそも、人はなぜマルチ商法にだまされるのでしょうか?

誰もが自分だけは大丈夫と信じていたのに、
いつのまにかマルチ商法にはまってしまうのは、
いったいなぜなのでしょうか?

それはいつの時代も巧妙なマルチ商法のシステムと
商品が手を替え、品を替え、
ゾンビのように蘇ってくるからに他なりません。

金に目がくらんだ人間は老若男女を問わず、
いったん洗脳されると骨の髄までしゃぶり尽くされます。
誰もがマインドコントロールに縛られ、
気がついたらすべての財産と人間関係と
社会的信用を失ってしまうほどの
完璧なシステムの恐るべき実態とは......?

さて、本書の内容を簡単にご紹介します。
著者そのものを彷佛とさせる主人公――趙奉三は
事業に失敗して大阪を出奔し、
東京でタクシー運転手の職を得たが、
瀕死の重傷を負って以来、失業中であった。
趙奉三は自らの体験を小説にし、著書二冊を出版するも、
貧苦にあえいでいた。

背に腹はかえられず、趙奉三は
大阪時代の悪友・李南玉と競馬のノミ屋を二人で始めるが、
あえなくパンクした。

それでも極貧から脱出したい趙奉三は、
再び李南玉に健康マット商法に誘われ、
友人たちと豊橋で行われる研修会に参加し、
いつのまにかのめりこんでいく......。

自らの体験をもとに冷徹な資本主義の最果てと
人間のあらゆる欲望の本質を暴く驚天動地の衝撃作が、
ついに誕生しました。
本書は梁石日文学の集大成といっても過言ではありません。


読みどころは、何と言っても
梁さんとおぼしき主人公が猜疑心が人一倍強いのに、
いったんマルチ商法にのめりこむとぐんぐんと頭角を現し、

周囲の人間を巻き込んで、
つかのまの天国と終わりなき地獄にずっぽりとはまり、
人生の辛酸をなめざるをえないところです。
もしかして梁さんは確信犯だったのかもしれませが......。


考えてみたら、この時期、
梁さんはすでに『タクシー狂躁曲』や
『タクシードライバー日誌』(共にちくま文庫)を
出していたのに、
タクシー運転手を失業して
本当に赤貧状態だったはずなんです。
作家なのにマルチ商法で
生計を立てていたという信じがたい事実にも
ぜひご注目下さい。

そして、物語のいきつく意外な運命の
大どんでん返しを知ったら、
読者のみなさんは「事実は小説より奇なり」
(いいえ、本書は小説ですから。梁さん、失礼しました)、
小説の本当の面白さと醍醐味に酔い痴れることでしょう。

2001-04-13-FRI

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