担当編集者は知っている。

(まず、ツルミよりの報告)

屍鬼

600枚の小説がいかにして3000枚になったか、
原稿を読むまで分からないとは
何てスリリングなんでしょう!!

書き下ろし小説ってギャンブルに近いものがあります。
「待って」「信じて」「賭ける」んですから。

インタビューをまとめたわけじゃないんですよ!
こういう話し言葉で原稿が来たのです。
(考えてみれば「話し言葉の書き原稿」って不思議)

さて、第1回目は
「原稿を読んだ瞬間に編集者として奮えた」
という書店のコピーで即購入した『屍鬼』。
担当したのは新潮社の木村由花さんです。
一気読みした今、奮えた気持ちがよく、わかります。
妬ましい程羨ましい!

本のデータ 『屍鬼』小野不由美著 
上巻2200円、下巻2500円
(1998年9月に新潮社より刊行)
*今年の「このミステリーがすごい!」で
第4位に堂々の入賞。

さて、木村さんの原稿です。

*さぞかし時間がかかったのでしょうね?

この本の構想は、
小野さんの初単行本「東京異聞」の
直後ですから4年半前。
書き始めて1年くらいたったところで、
「話を変えます」というお話があって、
「ウッ、厳しい・・」と思いつつも、
「納得のいくようにお書きください」と
最初は鷹揚なところを見せたりなどしてました。

2年目を過ぎた頃、原因不明なんですが、
小野さんの指先が割れて、
ワープロが打てなくなったりもしました。

小野さん自身は書きたいのに
キーボードが叩けないの、辛かったと思います。
著者によって途中の原稿を見せてくださる方と
完成するまでダメという方と色々ですが、
小野さんは後者のタイプなんです。
だから不安ですよ。
例えば、何カ月かごとに
状況を伺う電話をしますよね。
すると「一箇所直したら、
他のところもぐちゃぐちゃになって・・・
今年一杯待ってください」って言われたり。
原稿の長さにしても、最初は
「600枚くらいの小説になりそうです」だったのが、
「1000枚を超えるかもしれません」になり、
「なんだか2000枚過ぎそうですから・・・」そして、
ついに「3000枚を超えました」と。

もうその頃には
「どうなっちゃうんだろう」という気持ちよりも、
「これは凄いことになりそうだ」という
期待感の方が強かったですよ。
で、ひたすら[待ち]に徹して、
小野さんの書くものだったら
どんなに長くなっても絶対面白いに違いないと。
そしてついに今年の3月、
第1章の原稿を手にしたんです。
もう、その日は感動でした。
とにかく1時間でも10分でも早くに読みたい・・・
目の前の仕事全部うっちゃっても読みたい!
って感じで。
その日のうちに読み終わって、
「これは凄い・・・早く先が読みたい」
という欲望に押しつぶされんばかりでした。
その後、2章はすぐに頂けたのですが、
3、4章は少し時間が開いて。

*この仕事で、幸せと感じる瞬間は?

やはり、書き下ろしの原稿を
誰よりも早く読むことができることです。
本当に至福の瞬間、です。
この本のように「奮えるほど」となると、もう。
でも、それから刊行まではかなりハードな日々でした。
もちろん小野さんが一番大変なのですが、
なにしろ普通の単行本の6、7冊分ありますから、
読むだけでも時間がかかります。
記述に間違いはないか、
漢字は統一されているかなどの校正だけでも大変。
原稿段階から刊行まで、
全部で6回くらい読んだでしょうか。
普通6回も同じ小説を読むと、飽きちゃうのですが、
今回は何度読んでも、
違うところで感動してしまったり、
同じ場面で何度も泣きそうになったりと、
かなり楽しめました。
ちなみにすごく好きなのは、神社のシーンです。
(お読みの方はお分かりだと思いますが)
小野さんもこの部分が書きたくて、
最後までとっておいたそうです。
いよいよ発売が近くなって、
京極夏彦さんとの対談(*1)を企画したり、
大手書店の仕入れ担当の方にお目にかかって、
一杯宣伝もしました。
何店かは小野さんの新刊ならばと、
力を入れて売って下さることになり、
そのうちの神田三省堂では
コーナー看板が欲しいということで、
特別バージョンの看板を作りました。
編集者の生の声がいいという、
三省堂の方のアドバイスで、
原稿を拝読した直後に小野さん宛てに書いた手紙から
引用したものです。  

*こんなに売れると思いましたか?

上下合わせて、1271頁、4700円、
1.5キロの本ですから、売れるかどうか
正直すごく不安でした。
だから、発売前日に増刷がかかった時は
ホント嬉しかった。10センチくらい浮いてました。
発売までは、
「この本出したらもう辞めてもいい」
と言ってましたけれど、
こうやって少し評判になって増刷もいっぱいかかると、
こんな楽しいこと、やっぱり辞められないって
気持ちになります。
「屍鬼」のお陰で当分幸せな気分でいられそうです。
(*1)この対談は、小冊子になっていますので、
ご希望の方は新潮社までどうぞ。
日頃、いっさい顔写真を出さない
小野さん唯一の写真が掲載されてます!
 

1998-12-03-THU

BACK
戻る