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食と育。
おいしく豊かに生きること。

第3回 種から育てるうれしさを学ぶこと


高齢者の施設の中には
野菜栽培を取りいれているところもある。
高齢者にとって何がつらいのかというと、
夜に、ぐっすり眠ることができないこと。

「今日も眠れないのではないか」
と思いながら毎日を暮らす恐怖の大きさは、
それはもう、大変なものなのだそうです。

そんな人が育てている野菜は何でしょう?
鉢植で、自分の部屋で育てることのできる
カモミールなのだそうです。
常温で種を蒔くことができるし、
日本の気候にも合っているものですから。
手元で包みこむぐらいの規模で
栽培することができますし、
育つと白くてキレイな花が咲く。

窓辺なりベッドの横にその鉢を持ってくれば、
小さな花を愛でることができるし、
それを摘むこともできます。
小さな花は、たくさん咲きます。
これは、見ていて、うれしいものなんです。

自分では動くこともできないという患者さんも、
手をのばせば、カモミールの花を摘み、陰干しし、
日なたの風が来るところにおいておけば、
夜に休む前に、熱湯で濾して
飲むことができる──。
自分で育てたものを生ですぐに飲むということで、
カモミールの睡眠誘引効果は、増すのだそうです。

カモミールは、言わば「ハーブ」の一種ですけれど、
これも、よりよく生きるための植物の育てかたです。

食と教育についての真正面からの対談が、
あなたの「誇りの持てる生き方」への
ヒントになれば幸いです。
今日は「種から育てること」の話を、おとどけします。


糸井 栄養素にしても、基本をしっかり、
学校で知っておくといいですよね。
河村 家庭科で学んだことを、
栄養士とタイアップして、
学校給食で応用しないといけない。
こういうものは、くりかえし学ばないと
なかなか、身につきませんから。

実際にお米を作った人に来てもらうとか、
「この畑で作った」と話してもらうとか、
そういうことも、大切だと思います。
糸井 そうですね。
ビールでもなんでも、
工場見学をしたとたんに、
大事なものになりますから。

学校で農地を持つのも、いいことですよね。
河村 地方の学校では、
山林を持っているところがいっぱいあります。
東京では慶應幼稚舎が農地を持っているんです。
学校農園には、可能性があるでしょう。
糸井 学校で作った農作物のできを競う
甲子園みたいなものがあるといいなぁ。

そうなると、
農業を恥ずかしいと思っていた人が誇れるし、
都会の方が何でも有利とされているなかで、
過疎の方が、有利な戦いができますし……。
河村 地方に行きますと、
地域の農作物の品評会をやっていますものね。
あれをやればいいんですね。
「この小学校の大根が、いちばんです」と。
糸井 いまは、農業学校を出た人の
就職先がないですから、
学校農園管理のインストラクターになるとか、
教育者として立ってゆく道も、あると思うんです。

そういうことって、
文部科学省と農水省が協力すればできますもの。
公立学校って、郵便局以上の全国チェーンだから。

農業って、本を読んだだけではむずかしいですし、
ジャガイモを作るにも、プロのコツが要りますし。

河村 おコメを作るにも何にしても、
知恵が要るんですよね。
一見、簡単にやっているようだけど、毎日、
お天道さんのごきげんをうかがわなきゃいけない。


ぼくは農家の出ですから、そのことは分かります。
小さい頃には、両親と一緒に、
スイカを植えたり、田植えをしたりしましたから。
糸井 一粒が、こんなにいっぱいになるんだ、
というよろこびって、ものすごいものですよね。
河村 ええ。
実際に近くで、トマトでもスイカでも、
だんだん大きくなっていく姿を見ていると、
ほんとにうれしくなるんですよねぇ。

子どもなりに、中が熟れているかどうか
見分ける方法も、ちゃんとわかってきますし。

それから、自然をうやまうようになるし、
自然を大切にするようにもなる。
同じ生きものなんだということにも気づくわけで。

こないだ、女房とテレビを見ていたら、
樹木医が木に耳を当てていたんだなぁ。
都会の人には、ちょっと
想像もつかないかもしれないけど、
木だって、生きものなんですよね。

自然の神秘に触れる。
そういう体験のほうが、
学力低下よりも
よほど大切なんだと思っています。
糸井 農業って、現場で
「……ほら、食ってみな」
って言われるから、うれしいんですよね。
学校の先生以外の生活していることから
学ぶことだって、大きいでしょうし。

教育って、ほとんどが
問題に答える形を取っていますよね。
解いた問題に、マルをつけてもらう。
ゼロからはじまるものではない。

だけど、農業って、
ゼロからはじまるんですよね。
種から、収穫までのすべてを見られる。
それは、おもしろい体験だなぁと思う。
農業のおもしろさって、そこにあるんです。
河村 木はすごい時間がかかるけど、
農業は1年単位だから、答えも早い。
失敗したって、いいですし。
糸井 失敗も、いい経験ですもの。

河村 そうやって作った
トマトやナスビやきゅうりを
人にさしあげるよろこびというのは、
また、違いますから。
糸井 自分の作ったものを配りたくて、
お金をかけてみんなに配るぐらいで(笑)。
河村 私の実家のまわりには畑があるし、
2キロぐらい裏山に入ったらワサビ畑がある。
水も、とてもキレイでして。

私たちも、そのワサビをわさび漬けにして
コーヒーの瓶につめて、配っていますから。
糸井 そういうのは、みんな、
うれしくてやってるんですよね。

ただ、地方に視察に行くと、
農耕地を管理しているのは
みんなお年寄りで、
「自分の体力がなくなったら、誰も継がない」
という土地ばかりなんです。

例えば、働き盛りの農家のかたは、
たくさん作ることで収益をあげようとするけど、
工業製品のようなものしか、できないんです。
お年寄りが、ちゃんとやっているような
丁寧さをひきついでくれるような企業が
くっついたらいいなぁと
思っていたところでして。

※対談は、明日に、つづきます。
 あなたは、「食」と「育」についてどう思っていますか?
 家で、こんな食事をしたいんだと想像していることや、
 家庭の食の現場について心配していることなどを、
 postman@1101.com
 こちらまで、件名を「食と育」として
 お送りくださるとさいわいです。

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2004-06-14-MON

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