感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第八回
デザインの値段と価値は、どう決まる?



佐藤 デザインっていうのは、
もう身の回りにあるもの、
もうすでにあるものを
みんなデザインしてるわけだから、
特別なものじゃないわけですよね。
それなのに特別なところにいてね、
「デザインは任せなさい」っていう、
「特別なもんだから」っていう、
デザインを取り囲む雰囲気がね、
なんか嫌なんですよ。
田中 ああ。
でも、一方で、
ある程度特別なものと思ってもらわないと、
クライアントに
お金払ってもらえないわけじゃないですか。
佐藤 そうですねぇ。
田中 だからそういう意味で、
たぶん自分のデザインの値段をつけるって、
また難しいことになりますよね。
佐藤 難しいですよねー。
田中 たとえば、生臭い話ですけども、
見積もりを出してそのまま通ったとかって、
やっぱりそれは自信になっていくものなんですか?
佐藤 う〜ん、どうかなぁ‥‥。
田中 高く買ってもらう喜びみたいなのは、
あります?
佐藤 あの、提案する相手が、
企業として、デザインの価値を認めてるっていう
証拠だと思ってるんですよ。
だからよく担当者がね、
「すいません、ぜひお願いしたいんですけど、
予算がないんです」っていう。
で、それは、その個人が、発注者が、
自分のことは認めてくれてる。
でも、企業としては、
デザインに対する価値は認めてない
っていう判断を、
ぼくは下します。
田中 あ〜、ありますよね、そういうこと。
企業によって、
たぶん経理の監査があって、
なぜこのデザインに、
仮に1式1千万円だとして、
このデザインになぜ1千万なんだ、っていうのを、
説明する資料を見せないと
金額が認められないケースがあるじゃないですか。
そこがデザインの価値をわかってないとなると、
結局会社としては
わかってねぇじゃねぇかって
話になりますもんね。
佐藤 そうそうそう。
だから経営サイドがネックになりますよね。
予算をちゃんと準備してくれてる場合は、
「ああ、会社としても、
デザインを認めてるんだな」という判断をしますね。
田中 新しい、いい原料を調達しますみたいな話なら、
会社として予算がほいほい出てくるのに。
佐藤 そうそうそうそう。
田中 デザインも新素材と同じぐらい力があって、
それで選ばれて買われるっていう
可能性があるんだったら、
その新素材を買うコストとおんなじように
デザインも認めてもらって
当然だってことですもんね。
佐藤 でも、やっぱり目に見えるものじゃないから、
デザインはね。
田中 「いかがなものか」というツッコミを
入れられやすいことになるわけですよね(笑)。
佐藤 うん、プラスチックにはお金払うけども、
そのかたちのアイデアに対しては、
お金払ってくれないというか。
ま、そういうところもいまだに多いですよね。
でもそれは企業がいけないだけじゃなくて、
デザイナーもいけないところがあって、
お互いがいけなかったんじゃないかと思うんですね。
デザイナーも、
「俺が、俺が、俺のデザイン」とかね、
言い続けていたから。
それで機能しないようなデザインが、
あまりにもまかり通っていたから、
そんな誤解を招いていることも事実なんですよね。
だから、相手がわからない言葉は、
なにひとつ使わないようにしてるんです、僕は。
田中 サービス業として、まっとうな道ですねえ。
佐藤 だから、デザインについて、
わかんないわけだから
依頼してくるわけじゃないですか。
で、そこでね、相手がわからない言葉で
コミュニケーション取ったって、
それは取れないですよ。
どんどんどんどん煙に巻いてね、
煙に巻いてるうちに
私にやりたいことやらせろ、って
言うのといっしょで。
よくわかんないんだったら
俺に任せろみたいなね(笑)。
ま、ある意味で、
悪い言い方をすれば
詐欺みたいなもんなんだけど。
田中 たしかにマッチポンプみたいなところは
ありますよね(笑)。
佐藤 ね。
でも、ほんとにそういうことを
やってる人もいるわけですよ。
それは、そんなことやってるから、
デザイナーは信用されなくなるんで。
もう、すごくクリアにしていきたい。
田中 なんでもガラス張りにするという考え方ですね。
佐藤 で、ガラスを取っちゃったら何もないって(笑)。
田中 だから一方で、大先生として、
お経のような言葉に価値を高めていこうとする
教祖のデザイン派がいるわけですね(笑)。
佐藤 「君はわかってないね、デザインが」、みたいな。
いろんな人がいるからいいと思うんですけどね。
でも、少なくとも、自分の生き方として、
それはできない。
だって、デザインなんて、
脳の話じゃないですけど、
やっと我々のからだがね、
少しずつわかり始めたわけじゃないですか。
我々はからだ全て使って、
どうやって物に反応してるのか、
どういう情報が自分の中に入ってきて、
今までの経験から何が引き出されるのか、
っていうようなメカニズムが、
少しずつわかり始めたような段階ですよね。
ということは、
「今までのデザインっていうのは
何だったの?」って、
今考えなきゃいけないときに
来てるに決まってるわけじゃないですか。
そんなこと何にも語られなくて、
「デザインはこういうものです」とかさ、
「きれいなかたちとは」なんていって。
「じゃ、きれいってどういうこと?」って。
ね?
きれいってことは難しいですよ。
田中 そういうことを見ないようにしてるっていう
デザイナーが多いでしょうしね。
いや、今おっしゃったように、
ほんとだったら、
認知科学でもアフォーダンスでも
知っといたほうがいい、ってことに
なるわけじゃないですか。
佐藤 そうそう、もういちばん今興味があるのは、
そこらへんですよ。
認知科学は、面白いですよね。

ワンポイント考察

見積もりの明細をつくりにくいというのが、
デザインの値段と価値を
あやふやにしているところだと思うんです。
ただ、知恵やアイデアなどの
クリエイティビティを売る商売には、
この見積もり問題はつきもののような気がします。
人によってアウトプットに
ばらつきがあるだけに
料金設定がしにくくなるわけです。

そのばらつきをまとめるために、
建築設計業界などでは、
公な資格を設けたりしてますが、
基本は時間単価の設定だったりして、
投下労働時間をベースに
人日計算を積み上げた
値段づけなわけです。
つまり、いまだに労働価値説が
生きのびているわけで、
知恵やアイデアを売る商売には
ほんとのところ
この方式は向かないのではないかと
思っています。

“一声なんぼで、どや?”という、
ややもすると前近代的な
売り手と買い手の
すがすがしい関係のほうが、
売り手のモチベーションも
高めるような気もします。
こっちの方式のほうが、
「忙しくなってきたから
値段を上げさせてもらいますわー」という、
市場の需要供給バランスに則っていて、
近代経済学してるようにも思えます。
値段と価値があやふやだからこそ、
より売り手と買い手が
「命がけの飛躍」で
見積もり請求するような、
クリエイティブな関係性も生まれますしね。

ちょうど認知科学やアフォーダンスと
デザインの関わりを書いた本が出ましたので、
ご紹介しておきます。

後藤武・佐々木正人・深澤直人
『デザインの生態学 新しいデザインの教科書』
(東京書籍)

まだ読めていないのですが、
目次からして面白いはずだとお薦めします。

2004-05-14-FRI

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