感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第二回
自分を壊さなきゃデザインはできない



佐藤 ぼく、『海馬』の本読んで、
「可塑性」という言葉に出会って、
すごい影響を受けちゃって、
だから今回の個展のサブタイトルは、
「プラスティシティ」(「可塑性」の英語)なんです。
ま、養老さんの本とかね、
もともと脳関係の本にあたっちゃうんだけど、
『海馬』も、
「ほんとにそうだよね!」っていうことが多くて。
あの、今まで、デザインの現場で思ってたこと、
自分のスタッフに対して言ってたこと、
「もっともっと自分を壊さなきゃだめ」、
もう、「自分を新しくしないとだめだ」とか、
言ってたことが、
まさに語られていたんだよね。
事務所では無理やり読ませてます(笑)。
田中 あ〜、なるほど。
推薦図書になってるんですか(笑)。
脳の可能性を知ることで、
自分の可能性を再確認できるってことですね。
佐藤 「可塑性」って、
クリエーターにとってすごく大切なものですね。
自分が考える「デザインっていうもの」と、
つながるものがあったんですよ。
養老さんの本も、
ま、「デザインの解剖」をやってるんで、
解剖学的なもの好きなんですけど(笑)、
『海馬』を読んで、
また、そうだよね、と納得できた。
誰でもね、経験積んでくと、
自分を守ろうとするじゃない。
「俺はこんだけ経験したんだ」と。
それだけのスキルがあるんだら、
それに見合う分だけ認めろっていうね。
で、「私に任せなさい」っていう。
「これが私のデザインだ」とか言っちゃって。
そういうものがね、自分の中に無いんですよ。
田中 はぁ〜、そんなにまで
自分が無いほうがいいんですねえ。
佐藤 どんどん変わってかまわないんですよ。
クライアントからどんどんいいこと言われたら、
どんどん取り入れちゃうんですよ。
で、どんどん取り入れて、
いちばんいい落とし所を
見つけていけばいいので。
昔は不安だったんですよ、すごく。
田中 あー、いわゆる、ノウハウとかメソッドとか、
自分の引き出しの勝負じゃないと、大変ですものね。
毎日、1回1回が「負けられない戦い」(笑)。
佐藤 あ、そうそうそうそう!
そうかもしれない。
田中 自分の芸風を見せることを売りにしている人は、
周りにはわかりやすかったり
しますからねえ(笑)。
佐藤 わかりやすいでしょ?
世の中に同じ信号を送ってるようなものだから。
作品やデザインを見るとね、
「ああ、これ、彼のだ」って。
ところが、ぼくの場合は、
「何やってるの?」っていうことになる。
作品にぜんぜん何も繋がりがないわけ。
「佐藤君らしさは、どこにあるの?」って
言われる(笑)。
べつに自分の、
何か得意とする手法があるわけでもないし、
写真でいくときには写真でいくし、
文字でいくときは文字でいくし、
何でもいいんですよ。
何でもいい。
そのときにやるべき手法を見つけるだけなんで。
田中 そうか、だから、普通のデザイナーだと、
どうしても眼に見えるデザインに
作家性を残そうと追求していきますよね。
でも、佐藤さんの場合は、
あえて言うならば、
仕事をするプロセスであったりとか、
仕事に対する態度とか、志向性にみたいなところに、
作家性があるんでしょうね。
たぶん「佐藤卓らしさ」っていうのが、
デザインへの考え方や接し方にあるんでしょうね。
佐藤 いや、それをね、自分で確認したい(笑)。
毎回、ほら、問題をね、
解決できるときもあればね、
ほんとのほんとの問題まで
遡ることができないときもあるわけですよ。
「そこまで踏み込まれても、
どうしようもないよ」って、
クライアントに言われる場合もあるじゃないですか。
田中 とくに佐藤さんの場合は、
行き過ぎを注意されそうですもんね(笑)。
佐藤 たとえば、依頼してくれた担当者に、
「問題はそうじゃないでしょ」って言っても、
「いや、私にはもうどうにもならないんです」、
っていう深い問題が
あったりすることもあるので。
そういうときはそういうときで、
対応するんですよ。
少なくとも、ちょっとでもいい方向へ。
「できるだけのことをやりましょう」って。
だから、どんなデザインでいくか、
あらかじめ何も決めてないんですよね。
そういう仕事の数々を並べたときにね、
「いったい俺は何なんだ?」って(笑)。

ワンポイント考察

『海馬』を実用書にしている人が
ここにいました。
デザイナーの話というよりも、
修行僧の話に近いですよね。

途中で触れられている
『デザインの解剖』とは、
佐藤さんが続けていらっしゃる
日用品のデザインを
徹底的に分析するプロジェクトです。
「キシリトールガム」、
「おいしい牛乳」の佐藤さんの作品の他に、
「写ルンです」「リカちゃん」が
取りあげられています。
本も発売されていますので、お薦めします。
もう笑っちゃうぐらい緻密でありまして、
「重箱の隅を突つく」という
慣用句がありますが、
楽しく隅を突つき過ぎることが、
アイデアを生むことにつながるんだなと
実感していただけると思います。

みなさんも伸び悩んでいる部下や家族に
ぜひ言いましょうね。
「もっともっと自分を壊さなきゃだめ」
ひえー、こわーい。
壊れ過ぎにはくれぐれもご注意ください。

2004-04-26-MON

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