感心力がビジネスを変える!
が、
感心して探求する感心なページ。

第6回 だれにも似ない声を目指す。



田中 東京キッドブラザースで歌いはじめられてから、
どうやってうまくなっていかれたんですか?
巻上 上手くなってるかどうかわからないけど、
歌い方はそんなに変わらない。
まあ、ちょっとは上達しました。
田中 こちらに伺う前に、
『ヒカシュー・ツイン・ベスト』を聴いたんですが、
初期の頃から歌い方は、
ずっと一緒でいらっしゃるんですけども、
声の質が太くなってらっしゃるという気がしたんですが。
巻上 そうですね、ほんとはね今、すごくいいんですよ。
40代はいいと思うんですよ、すごく。
田中 40代は人間として声のいい時期だと。
それ、どういうことなんですか?
巻上 やっぱり、呼吸にしても、
歌の情感にしても、意味にしてもね、
いろんなことがわかるようになってくるからね。
でも、今の日本の音楽産業の場合、
歌手の中心は10代、20代でしょ。
だから今のシステムは、
いまひとつ良くないんじゃないかな。
まあ、これから高齢化社会でしょ?(笑)
その中で、
新しい歌っていうのは生まれてくるんじゃないのかな。
田中 例えば、そのアルタイであるとかトゥバであれば、
ピークを迎えた歌手というか、
売れている歌手の人っていうのは、
やっぱり30代、40代の歳の方が多いんですか?
巻上 そうですね。
ま、人口が少ないというのもあるけどね(笑)。
田中 (笑)そもそも、人がいないという。
巻上 20万人ぐらいしかいないからね。
やっぱり日本は多すぎるよね、やりたい人が。
田中 (笑)あ、歌で食っていきたいっていう人が。
巻上 うん、そう。それで、下手なのに出すでしょ。
まあ、あれもしょうがないっちゃしょうがない。
それもね、限度がありますよね。
田中 巻上さんから見て、
「これは上手い」という歌手はいますか?
巻上 あんまり聴いてないんですよね(笑)。
もはや、あんまり人のこと興味ない。
田中 昔は憧れてらっしゃる歌手とか、
いらっしゃらなかったですか?
巻上 いないです。
音楽とかね、やりたくなかった。
田中 え?
全く?!
嫌だったんですか、音楽は?
巻上 芝居が好きで、やったんですよ。
田中 芝居ベースで、たまたま歌に?
巻上 そうそう。
目指す人なんか、いないですよ。
演劇のときも、「こんな役者になりたい」とか、
なかったですよ。
もう、自分のオリジナル!
自分しかできないのを探す。
だから、歌もそういうふうにしてる。
たいてい、どんな歌でも、
だいたい歌えるんですよ。
田中 先日カラオケで
「帰ってこいよ」を歌ってらっしゃるのを聴いてですね。
“凄い、この独特な「帰ってこいよ」は!”って、
驚いたんですけども。
ということは、あまり他の人の歌を聴くと、
自己流が濁るみたいなところがあるんですか?
巻上 まあ、そうですね。
自分の好きに歌うのが、いちばんいいんじゃないかな。
田中 好きに歌うっていうのは、
自分が歌ってて気持ちいい状態なんですかね?
巻上 うん、で、その歌をちゃんと自分で解釈できること。
田中 はぁー、でたらめではないと。
巻上 そう、感情が一方向じゃダメで、
やっぱりいい歌手っていうのは、
自分を見つめる力を持ってる。
そういう2つのまなざしを持てないとね。
田中 自分を客観視してる、
もうひとりが必要なんですね。
歌い手と聴衆を、
2役やってるみたいな感じなわけですね。
巻上 僕自身の特徴だと思いますけど。
僕は熱い面と、すごい冷めた面っていうのが、
常にある人物なんです。
だから、歌にもそういう感じが表れてる。
田中 いつも、レコーディングやライブで
ひとりで反省会をされるわけですか?
巻上 反省というのは、
それほどしないんだけどさ(笑)。
ただ、その瞬間に起っていることを
判断できるわけですよ。
後で判断しても意味ない。
いま起きてることをどうするかっていう客観性が重要。
田中 ちょっと声がノッてないな、とか、
ちょっと聴衆は飽きてるな、とか。
巻上 そう、声が出にくかったら、
少し体を右に動かしてみるとか。
そういうことがわかればいいわけ。
田中 はぁー。
え?
右に動かすと、なんか、っていうのは、
どういうことなんですか?
巻上 ちょっと声が出にくかったら、
すこーし体をねじってみたり、
元に戻してみたり、
力をフッと抜いてみたりしたら、
出やすくなったりするね。
膝の裏に力が入ってると、声が出なくなるんで、
膝の力をフッと抜くとかね。
田中 あ、楽器としての体の調整をされるわけですね。
巻上 うん、やりながらね、
上手くいかないなって時、もちろんありますから。
それとあと、歌自体の流れや詩が持ってる意味を
どう伝えるか。
「あ、伝わってないな」とか、いろいろ考えてる。
田中 詩を伝えるってときに、
技術的なことってあるんですか?
気持ちを込めて、
とりあえず声を出すってことなんですか?
巻上 いや、気持ちだけじゃダメですよね。
やっぱり、どう伝わるかのほうが大事ですよね。
あんまり美学的に完結しないほうがいい、
っていうのが
僕の考えです。
だから、美しすぎる歌はダメです。
田中 はぁー!
結果伝わる、受け手がどう捉えるか、みたいなところが、
ゴールだとしますよね。
でも、そこに行くまでのプロセスというか、
どうやって声を出すかっていうところで、
その試行錯誤というのは、
ライブの場合だったら、常にされてるわけですか?
巻上 そうですね。常に考えてる。
どうしたらいいか。どれが最善の方法か。
田中 それはやっぱり、観客の人の反応とか、表情とか、
そういうのを見つつ‥‥。
巻上 そうですね、感じ合いながらやってるからね。
田中

はぁー。
去年出された『方向はあっち』という
CDがありますよね。
それを聴いて、ビックリしましてね。
人間は声を使ってここまでできるのか、
と思ったんですが。
たぶんそういうボイス・パフォーマンスを
されるときは、
観客の中にも初めて来たな、
っていう人もいるわけですよね、

巻上 うん、ほとんど初めてじゃないかな、
あれはモスクワだったから。
田中 モスクワで公演されて、
観客は、まあ、いきなりビックリしてるわけですよね。
巻上 うん。
田中 そういうのをご覧になるのは、
やっぱり楽しいんですか?(笑)
巻上 いやぁ(笑)、いや、心配ですよ。
やっぱり、ロシアみたいなとこでやるのは。
田中 伝わるかどうか、っていうところでね。
巻上 そうそう。
受け入れられないかも知れないと思うから。
日本でだって、帰っちゃう人いるからね。
前に、クリスマスでやってたら‥‥。
田中 クリスマスですか!(笑)
巻上 勘違いしたカップルとか、
けっこう帰りましたよ。
田中 あははははははは!
巻上 なんかさ、ライブ・ハウスで、
タイトルにさ、
クリスマス・スペシャルとか書いてあったの。
あれ、良くないよね。
ちょっと、それ、ちゃんと書いてくれないとさ。
良くない!
カップルがさ、5組か6組来ちゃったの。
多すぎるよね、それ。
それで、ワン・セット終わったら、ほとんど帰った。
ははははは。
「帰るだろーなー」って思ったもん。
「ワ゛ーッ!ヴェーッ!」とかって、
やってんだもん(笑)。
サービスしないですよ、僕はそんなにね。
今日はそれ、やろうと思ってるのに。

(対談のこの部分を音声で聞くことができます。
 こちらをクリック!)
田中 じゃ、「サンタの歌でも歌うか」ってね(笑)。
それはできないですよね。
巻上 看板見たらさ、書き方が悪いじゃない?
クリスマス・スペシャルだよー、とか思って。
確かにクリスマスだったんけどさ(笑)。

<ワンポイント考察>
クリスマスに「宇宙語」のパフォーマンスを
聴いたカップル。
お気の毒であります。
それはそれで盛り上がれると思うんですけどね。
死に際にふと思い出したりして。

とことんオリジナルを目指そうという、
巻上さんの姿勢にプロフェッショナルを感じました。
「だれにも似て無い」ものになるって、
むずかしいですよね。
あえてマーケティング用語を使うと、
オンリーワン戦略なんでしょうけど、
べつに「戦略性」が意図されているわけではないんです。
じっさい巻上さんのパフォーマンスを聴くと、
生き物としての声に、心地よい鳥肌が立ちました。

声をつきつめると、
言葉はより力強い信号になるんでしょうかねえ。
 

2003-05-27-TUE

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