バンドマンという幸福な商売
沼澤尚さんと、とてもホンネな話。
あなたの好きなミュージシャンのアルバムの、
演奏者クレジットをよく読んだら、
きっと、沼澤尚という名前を発見するでしょう。
「BeautifulSongs」以来、すっかり縁の深くなった
沼澤さんと、音楽のことなどなどを、
いっぱい話しました。
そして、彼らエクセレントなバンドマンたち「J&B」の
うらやましくて、カッコよくて、気持ちいいアルバム
『THE TIME 4 REAL』を、
とんでもない特典付きで、「ほぼ日」で販売します。
よくぞ、こういうことが実現したと、驚いていいです。




第1回
この二人の関係だからここまで言えるんです。
「音楽は楽しいぜ!」って、
当たり前のこと言って売れるレコードですよ
糸井 今回のアルバム
J&B「THE TIME 4 REAL」って
沼澤さんの中でのいろんな活動の
ひとつだと思うんですけどぼくは、聞いてみて
友だちが集まったみたいな、
楽しさを感じてて、
ぼくがレコード屋の店長だったら、
POPカードに、
「音楽好きなら、買っていく。
 ミュージシャンが、買っていくアルバム。
 真剣に聴いても、バックで流しっぱなしに
 してもいいよ」
とか書いちゃって、
売りまくると思うんですよ。
その一方で感じたことがあって
まずはその部分について
話したいと思ってるんです。
頭の1曲を、オリジナルのボーカルで
スタートしてるでしょ。
沼澤 まず、これはすごい余興なんですよね。
糸井 ですよね。
沼澤 でもね、
「真剣に余興やんないとダメだよね」って
やってんです。
糸井 でも、それは……無理ですね。
それって、損してますね。
沼澤 なるほど。
糸井 余興があったら、本気だと思われないんですよ。
沼澤 でも、本気で余興やってんですけどね。
糸井 ダメです。余興は、商品にしちゃダメです。
沼澤 ライブだけにしとかなきゃってことですね。
……それはいいこと聞いたな。
糸井 これは沼澤さんにしか
言えないですけど
余興をやるつもりなら、
余興だけで集めないと本気さが
濁っちゃうと思うんです。
楽しすぎちゃってますね、本人たちが。
沼澤 いや、メンバーにも言います。言える。
糸井 そうですか。それさえなければ……。
沼澤 完璧だったの?
糸井 完璧っていうか、
すごく力のあるアルバムなのに、
楽しんでるっていうこともわかるし、
力がある人たちが集まって、
楽しくやってるっていうのは、
やっぱり、力があるんですよ。
で、ボーカルがあるがお陰で……。
沼澤 損してる、と。
それは、じゃあ、メンバーたちに言います。
っていうか、なるほど〜。
糸井 これ、ボーカリスト入れても
ダメだったと思うんです。
沼澤 ボーカリスト入れちゃったら……。
糸井 ダメですよね。
沼澤 「ボーカリスト入れるんだったら
 自分たちで歌おうぜ」になったんです。
糸井 あー、それはね、ボーカルをね、
やろうと思ったことがもう間違いです。
歌は別に、余興だけのために一個作る。
買う人が買えばいいってすればいいんだけど。
沼澤 歌うの好きだからやっちゃったんだろうなー。
なるほどね。
これが自分たちのだって言うんだったら、
それはライブだけでやっときゃいいんだって。
糸井 映画俳優が、レコード出しても売れないでしょ。
沼澤 あーん。
糸井 映画俳優としての力あっても。
レコードのセールスには
比例しないじゃないですか。
そういうふうに、聞えちゃう。
やっぱりボーカルを入れるときには、
必ず作詞も必要になるし、
曲もボーカル用の曲になるし
っていう緊張感が、やっぱりないですから。
そこは、大損こいたなって。
ボーカルなしでこのレコード聞いたら、
楽しいよー。
かけっぱなしでいいよ、車で。
沼澤 そっか、じゃ、そのMD作ります。
「いっぱいいっぱい」のすごさがある。
2曲目からで、十分モトが取れますよ。
糸井 頭からボーカルが入ってますよね、
あれで景色決まっちゃうんですよ。
沼澤 景色を決めるためにやったのが、
失敗だったんですね。
これも、真剣にやってるぜっていうので、
途中に入れたくなかったんですよ。
逆にね。なるほどね。
それは次のいい課題ですね。
糸井 ボーカルを入れてやるんだったらやるで、
ぜんぜん構わないですよ、
ライブでやるのもいいし、
そういうアルバムを作ることもありだと思うし。
沼澤 一曲目でバーンって行くはずだったのが、
損したって感じ?
糸井 それ以外の曲の中で、
楽しーでしょー!?っていうのが。
沼澤 演奏だけでね。
糸井 うん。
いい意味で、無思想なバンドじゃないですか。
「ノンポリだ」っていうか、
「俺たちはこう行くぜ」っていう。
「音楽が楽しー!」って感じ、
ものすごくしますよね。
沼澤 逆に
「音楽だけでそんだけのことが
 言えるんなら、それだけでやれよ」と。
なるほどねー。
糸井 和菓子屋で、
「アイスクリームおくれよ!」
みたいな。
沼澤 大爆笑してるんですよね、要は、
歌ってることで。
それを、みんなが楽しんじゃって、で……。
糸井 そんなもん、買わないっ!
沼澤 なるほどね。
売れると思ってないんだろうなー、
やっぱりなー。
糸井 集まること自体が楽しくてしょうがないって感じ。
で、選曲のときの会議がいちばん楽しそうな。
でも、これって
「音楽は楽しいぜ!」って、
もう、バカみたいに当たり前のこと言って
売れるレコードですよ。
沼澤 歌わなきゃね。
糸井 歌ってもね、大丈夫な人もいますけどね。
まあ、歌ったほうが、
ある意味ではモテるかもしんない。
ちょっと「三の線」が入ってるから。
沼澤 入ってますね、思いっきり。
出さなくっていいってことですね、
演奏だけで、それをやんなきゃ良かったのに。
……でも、わかるな、言ってること。
でも一生懸命やっちゃったんですよ。
糸井 一生懸命やってるんですよね。
でも、お客さんがいるときには、
それをやっちゃダメで、
終わってから第2部でやるんでしょうね。
もしくはこのアルバムを
お楽しみいただいた方々には
ボーナストラックにするとかね。
「ちょっと、聴くと、いいじゃん!」って。
沼澤 それを後に出せば良かったんですね。
糸井 うん。
沼澤 そうか。でも、出ちゃうし。(笑)
糸井 やっぱりね、今ね、なんていうんだろう?
ドラムを叩いている時って
沼澤さんは「いっぱいいっぱいですよ」
っておっしゃってるじゃないですか。
「いっぱいいっぱいのもの」って売れるんです。
ほんとにフルに
「いっぱいいっぱいのもの」っていうのは、
みんなに伝わるんです。
だけど、いっぱいいっぱいって言いきれない
何かが出ちゃうと、
「今、ぼくが買わなくても」
って言われちゃうんです。
沼澤 なるほどね。これだぞ!
っていうことじゃなくなっちゃう。
そっかー、なるほどね。それは気がつかないな。
糸井 だから、2曲目から聴くっていうことで、
この値段は、十分取れますよ、
って言ってもいいくらい。
沼澤 ってことで!
糸井 いいですよー、思ってもらえることって!
こういうことしたくて音楽やってんだよって、
わかるよね。
沼澤 すごい!でも、わかるな、言ってること。
でも、言われなきゃわかんない。
糸井 楽しすぎるんですよ、きっと、メンバーが(笑)。
沼澤 そこで言われないと、
でも音楽ビジネスなんだから、
と、いう感覚、やっぱ無い…。
糸井 いや、ビジネスの問題じゃないんですよ、
やっぱり。
沼澤 人に訴えるか訴えないかっていうこと……。
糸井 お客さんと自分との間に、
どのくらい太いパイプを通すかっていう
問題だから、そのパイプの中に
「もういっこ電線入れさせてね」
っていうと、その電線の分、
面積が少なくなるでしょ。
そこのところは
「あ、そんなことしてる場合じゃないよ」と。
ふざけるならふざけるで、
思いっきりやろうよっていって、
自分の力をいちばん出せるところで
出してますけど。
でも、ミュージシャンってみんな、
お客さんじゃない世界の
凄いバンドマン同士のコミュニケーションの
ところにいっちゃう、
日本人のアーティストでも
ニューヨークでレコーディングをすると、
うまい人同士で
「オヌシやるな」というとこで
作っちゃうわけですよね。
そういう時にお客さんってどうしたらいいのよ。
ミュージシャン同士で顔見つめあわせて
ニコニコしてたんじゃ困るんだよ、
みたいな気持ちなんです。
沼澤 それは、言われなかったら、
一生気がつかなかったな。
糸井 そうですか(笑)。
沼澤 いや、わかんないですよ、やっぱり。
そういう感覚で、やっぱり見るの、
難しいじゃないですか。
そういうことにすごい気をつけて、
やってきてるんだけど、
「やりたくないっていうこと」は
とにかくやってないんだけど‥‥。
糸井 例えば、テーマは
「音楽は楽しいよー」なんですよね。
ほんっとに楽しそうなんですよ。
でも、そのことをお客さんが、
「どこの何を聴いていいかわかんないなー」
なんていってる時には、
「これちょっと持ってきなよ」って
八百屋のおじさんがリンゴを渡すみたいな感じで
教えてあげると
「ああ、良かった」
っていう風になるんですよ。

(つづきます!)


第2回
ドラマーのソロアルバムを聞いて
「歌わなきゃいいのに」って思った


沼澤 糸井さんに言われるとわかりますよ。
でも、自分たちがやってると、
やっぱりわかりにくい。
わかりにくいっていうか、
絶対見えないんで。
糸井 お互いの顔が見えちゃう。
沼澤 そこにいる人たちみんなで
大爆笑しながら作ってましたから。
でも、やっぱり気になるんで
スタジオに行くときに、
これを初めて聴く人に訊くんですよ。
スタジオでやってるときにも
「あのさ、みんな気に入ってるけど、
 大丈夫だよね?」って
マスタリングのエンジニアとか、
トラックなんかやってるときも若い連中に、
「大丈夫なのか?」って訊いても
「これ、すっごいカッコイイっすよ、
 大丈夫っす」
っていうのが、
作ってる間ではあったんですよ。
糸井 その匂いがしますよね。
やってるときは絶対カッコイイですよ。
それバックの演奏も自分たちですし。
でもこのアルバムって何回も聴いたら、
ボーカルも聞こえなくなるくらい、
カッコイイんじゃないですか。
沼澤 そうですかぁ!
糸井 今のお客さんって、
そんなにバカじゃないから、
全体の力っていうのがわかるし、
ちゃんとわかりますよ。
沼澤 そういえばドラマーの
ソロアルバムってあるんですよ。
ぼく、「歌わなきゃいいのに」って、
そう思ったの、いっぱいあるんですよ。
糸井 人には(笑)。
沼澤 スティーブ・ガットの
初めてのソロアルバムもそうだったし。
糸井 歌うんだ。
沼澤 歌っちゃってるんですよ、ソロアルバム。
それが、ひどいんですよ。なんで歌うの?
スティーブ・ガットって。
糸井 本人としては楽しいし、
サービスかとも思ってるし。
沼澤 いや、絶対そうでしょ?
オマーハキムっていうドラマーの人の
ソロアルバムでも、
初めて出したソロアルバムは
全部ボーカルアルバムで。
「ちょっと俺、ボーカル聴くために
 買ってないんだけど…。」(笑)
糸井 あたたたた(笑)。
プロ野球の選手って、
ピッチャー経験者が多いじゃないですか。
紅白試合になるとやりたがるんですよね。
ファン感謝デーとかで。
「ピッチャー川相」とかってやってるわけですよ、
みんな嬉しそうにやるんですよ。
それは、やっぱりほんとの試合やるときには、
「試合なめてんのか!」みたいになりますよね。
沼澤 そっかー!
そういえば、
人のアルバム聞いてて、そう思ったなー。
いっつもそう思ってましたよ。
糸井 ぼくには全部良かったですよ。
9曲目だったけ?
ビートルズの「I Feel Fine」のところで、
また、ホッとして、みたいな。
あの曲のあの演奏って難しいでしょー。
沼澤 あ、そういうふうに思います?
やっぱりね、糸井さん、
すっごいミュージシャンっぽいですよ。
聴いてる耳が。
あれを難しいって思うってことは、
ものすっごいミュージシャンマニア嗜好ですね。
糸井 全然そんなことはないですよ。
沼澤 いや、あの曲の演奏が難しいっていうことが
解るってことは。
糸井 でも(笑)、これは、簡単じゃないですよね。
聴いてて、ものすごく楽しくて、
気づいたら、「これ何?」
って思ったんですよ。
沼澤 それをやろうとしたのは僕なんです。
あの曲自体をやりたいっていったのは、
もちろんギタリストなんだけど。
普通にやるんじゃなくて
ああいうアレンジでやってみたかったんです。
糸井 あの曲、ふつうにやると、
つまんなくなるんですよ。
沼澤 だから、「こういうのはどう?」っていって。
全部そんな作り方をしたんですよね。
まず曲があって、
「ちょっとこれ、こういうふうにやんない?」
って言ってるのが、ぜんぶ僕なんですけど。
だから、こうやろうって言われたものを、
全部やり直すのが、僕で。
糸井 わーるいことしてるんですね(笑)。
沼澤 1曲目の歌もそう。曲が来たんで、
「じゃ、こういうふうにやんない?」っていって。
ジーン・ヴィンセントの
「Be-Bop-A-Lula」っていう歌なんかも。
糸井 これは気になんないよ。
沼澤 それは気になんないですか。
それ、僕、歌ってんですよ。
糸井 これは大丈夫ですよ。
ミュージシャンやってると、
どんどん上手くなるし、楽しくなって、
「ホントにいいなぁ、うらやましいなぁ」
っていうのは、ちゃんと出てますから。
山下洋輔さんたちが昔よくジャズで
ふざけたじゃないですか。
あの人たちがふざけるのは、
ふざけるジャンルでふざけてたから、
もう素人も何でも放り込んでた。
このバンドでやるときは、
ものすごい緊張感があるわけで。
この「The Time 4 Real」ってアルバムは、
売れる売れないの枚数じゃないんだけど、
大丈夫ですよね。
演奏してる人たちには、
見えにくい面白さが、客席からは見える
沼澤 そこへいくかいかないかっていうのは、
浜崎あゆみも
そうじゃないかみたいなことは、
お客さんにもあって。
良い悪いで言うと、
良いと思う人がやっぱり、
300万人いるんですよ。
糸井 いるんですねー。
沼澤 その事を僕らは痛いほど
知ってるじゃないですか。
それで、彼女のアルバム作ってる人たちも
僕らと同じで、ライブでやってる人たちも、
僕らの仲間で。
彼らがステージ上がってるのを見て。
僕も頼まれることがあるんですよ。
でも、どうしようかと思って。
糸井 僕は浜崎あゆみはやったほうがいいと思う。
沼澤さんじゃないけど、
あれほど、いっぱいいっぱいの人いないもん。
あの人は永ちゃんと同じですよ。
沼澤さんが後ろでドラムを叩いてくれたら、
お客さんが成長するような気がしますね。
沼澤 そうですかねー。でも、どうなんですかね。
彼女の音楽の中で、自分がやることが、
何か活用されんのかなって、ちょっと思ったり。
糸井 浜崎あゆみのコンサートでは
活用されると思うなー。
彼女は責任をすごく持ってる。
多分、お客さんが帰っちゃったら
泣いちゃうもん。
お客が帰っちゃうようなことがあったら、
飛んできて止めるでしょう、
っていう気持ちが見えますよ。
沼澤 なるほどねー。
糸井 見たら感動しますよ。
演奏してる人たちには、
なかなか見えにくい面白さが、
客席からはありますよ。
奮闘するんですよ、ヤツら。
お客さんはその奮闘にほだされますよ。
SMAPの木村君とかね。
「なめるなよ!」っていう気持ちでやってるのが、
痛いほど伝わるから。
浜崎あゆみのライブに沼澤さんが、
ドラムで入るっていうのは、
僕は、もっと行きたくなるな。
僕、もう1回、見ようと思ってるもん。
やっぱり、音楽が楽しいのがあるかもね。
沼澤 すっごく気になりますよね。
糸井 それはだから、あの人の必死さですよ。
だから、いろんな枝分かれのあるところで、
人が多かったか少なかったかっていうような
事件性まで浜崎あゆみの方があるから、
そこのお客さんが来ますよね。
あゆを見ることはニュースですから。
沼澤 そうなんですよね。
糸井 うん。音楽を聴くっていう以外の。
その人数にはかないっこないわけで。
そんなお客さんの中に、
「あ、なんか太鼓を聴いてたら
 気持ち良くなったなー」
ってことが起こるとかさ。
沼澤 僕が、いちばんよく聞くことで、
全然ドラムに興味がない人が、
誰かのコンサート見に来たら、
僕がドラムやってて。
「初めて耳がいきました」って。
それから、うちのバンドを
聴きに来る人がいるんです。
それを聞いたときに、
太鼓の起源って通信なんですよ。
いちばんオオモトから、
今でも変わってないっていうのが、あって。
糸井 それ、やるべきだと、僕は思うね。
沼澤 あゆの後ろで、それをやると面白いと。
糸井 だって、一時さ、SMAPが
ニューヨークでレコーディングしてた時代、
けっこうあったじゃないですか。
沼澤 あれ、良かったですねー。
すばらしいレコードだった。
糸井 SMAPのメンバーを連れてって、
「日本人金あるよね」って見方も
あるかもしれないけど
「このレコード聴いてごらんよ」
って言いたくなるの、
あったじゃないですか。
沼澤 僕はSMAP7とか8とか、大好きですよ!
糸井 僕は「10$」っていうのが
もう、めちゃくちゃ好きで。
沼澤 「10$」が6ですね。
僕が演奏やったんですけど、
ニューヨークの人たちに
差し替えられたんですもの。
自分がやったのが。
糸井 ほんと(笑)。
信じらんないよね。
沼澤 でも、あれは、素晴しいアルバムですね。
糸井 SMAPはね。
沼澤 いいですよね。
アメリカですごい聴いてましたから。
SMAPはあの頃、いい曲多かったですよね。
糸井 そう。探してくるやつがやっぱりいたし、
あと、メンバー何が好きかっていうのを、
いっつも、レコード会社が見てたんでしょうね。
僕は、その説なんですよ。
沼澤 なるほどね。あれ良かったですもんね。
ミュージシャンとか、音楽ファンもすごい、
SMAPのこと好きになっちゃったし。
糸井 「ここは絶対にやらないな」
っていうのがわかるから、
最初から。ちょっとだけ考えて
で、失敗したら、何がいけなかったか、
後で考えるべきなんですね。
沼澤 考えるのは後からでも
いいですからね。
なるほどね。

(つづきます!)


第3回
奥田民生を知らなかった
外タレ・沼澤尚の幸運


沼澤 民生君のファーストソロアルバムは
スティーブ・ジョーダンが
ドラムをやってるんです。
糸井 あーそう!
沼澤 ぼくは、当時アメリカいたんですけど
「キース・リチャーズバンドを
 使った日本人のシンガーがいるんだって!?」
ということを聞いて。
糸井 「29」ってやつ? あれ好きなレコード。
沼澤 最高ですよね。
「FAILBOX」っていうミニアルバムも
全く同じメンバーで。
糸井 はいはいはい。
沼澤 あの「29」ってアルバムは
僕は日本から送ってもらったんです。
当時、まだアメリカにいたから。
糸井 えっ、あんときはまだアメリカにいたの?
沼澤 アメリカにいました。
僕にとってキース・リチャーズの
バンドっていうのが、
見に行ったこともあるし、
自分の中でもう、
すごく大きい存在なわけですよ。
それで
「このバンドを使った
 日本人のシンガーソングライターが
 いるんだって?」
ってことになるんです。
糸井 生意気だな(笑)。
沼澤 (笑)チョロッと金を出して
使うような人たちじゃないし、
何か理由がなきゃ
絶対に使わないっていうのはわかるから、
「それちょっと聴かしてくんない?」
って日本から送ってもらって。
それが聞いてみたら、めちゃくちゃ良くって。
「うわ、この人、何ていうの?
 奥田民生って誰?」って。
僕がアメリカで、自分の知り合いをつたって、
「この奥田民生って人すごいと思うんで、
 この人にデモテープを送って、
 自分が一緒に演奏したいんだけど」
って伝えて、
民生君が所属してるソニーの人まで
行き着いて、言ってもらったら、
ソニーの人も
「沼澤さんってあの人でしょ、
 あの人が何でうちの奥田となんか
 やりたいんだ?」
その時はそれで終わっちゃって。
本人に会ってから初めて知ったんですけど、
矢野顕子さんもやっている
「素晴らしい日々」って曲ですけど、
僕あれ、アッコさんのオリジナルだと
思ってたんですよ。
それもビューティフルソングスが終わっても
そう思ってた。
その後、民生君と仲良くなって、
彼のスタジオにユニコーンの譜面があって。
ぼく、日本にいなかったから
ユニコーンを知らなくて。
で、譜面を見ていると、
「『素晴らしい日々』?
 これ、アッコさんがやってるやつじゃないの?」
っていったら、
それ自分の曲だ、って言われて、
それから、ユニコーンの
ヒストリーDVDとかを、
急激に頼んで見せてもらって。
ユニコーンってこんな大ヒットした
バンドだって知ったという。
僕は「29」しか知らなかったんですよ、
奥田民生って人については。
糸井 あの「29」ってアルバムに
たぶん、全部が凝縮されて入ってると思う。
沼澤 そこにも、いるんです。
なぜか奥田民生のファーストソロアルバムに
キース・リチャーズバンドが。
糸井 え、それ、クレジットされてんですか?
ドラマーのスティーブ・ジョーダンが。
沼澤 もちろん。
糸井 気がついてないんだ、俺たちが。
車に積んじゃったんで、
ジャケットとか見なかったんだな。
沼澤 「息子」とかはあのバンドですよ。
糸井 「息子」は中央高速で100キロの移動の間
ずっーとかけてましたからね。
沼澤 あれ、素晴しいですよね。
彼のライブに、僕ゲストで呼ばれて、
箱をたたいたんですよ。
カフォーンっていう箱なんですけど。
それを、民生君のバンドにゲストで
呼ばれたときに、
「息子」を2人でやれて。
「わ、『息子』を一緒にできてる!」
とか思ってて。
当人にはそんなこと言ってないんですけど。
糸井 そうですかー。
沼澤 だから、ビューティフルソングスの
話が来たときに、
「ついに奥田民生に会える!」
とか思ってたんですよ。
糸井 偶然(笑)。ふーん!
沼澤 僕、だって、ビューティフルソングスのときに
知り合いだったのは、矢野顕子さんと宮沢君。
糸井 ほんとに沼澤さん、
アメリカに行ってて知らなかったことが、
今をすっごく楽しくしてるね。
沼澤 音楽でも、
おニャン子とかチェッカーズ、ボウイ、
そういうのぜんっぜん知らなくって。
陽水さんのライブを初めてやったときに、
「今日は玉置浩二さんがいらっしゃるんです」
ってことでなんかみんな
盛り上がっていているところに、
「すいません、玉置浩二って誰ですか?」
「『アンチ』知らないの?」って、
「え?『アンチ』って何ですか?」
「安全地帯だよ」
「すいません、安全地帯って何ですか?」
って、ぜんぶ説明してもらって。
その時は「二人のハーモニー」を
やったんですよ。
びっくりして!
なんだこの人!
誰?! この人!
とかっていって。とにかく歌うまいっ!!
糸井 玉置さんは歌うオモチャみたいな人ですよ。
「あれ、一家に一台欲しい」みたいなね。
沼澤 陽水さんをやるきっかけも
たまたま人づてに
「日本人でアメリカ行ってる人がいるんで、
 その人呼ばない?」
って言ってくれた人がいて。
ちょうどその時、たまたま日本に帰ってきたときで
ミッドナイトセレクションっていう
陽水さんがライブハウスでやった時に
参加することになったんです。
パワーステーションと、チッタでやったのかな?
糸井 俺も見たよ!
沼澤 そんとき、やってんですよ。
あの時、僕は、ロサンゼルスに住んでいて。
ライブのときだけ日本に呼ばれてきて。
糸井 あんときは外人だったんだ。
沼澤 しばらくは日本に来る往復は、
飛行機代を向こうから出してもらって、
ずっと来てたんで。

アメリカの地方公営競馬から
日本の中央競馬へ
糸井 ふーん。あの時代の沼澤さん、
向こうの人なんだね。
そんときは、沼澤さんは向こうで、
主にステージをやってたんですか?
それとも、レコーディングをやってたんですか?
沼澤 もう、ステージだけですね。
レコーディングに関しては、
アメリカはそのへんははっきりしてて。
僕ら、要するにツアー、ライブ要員。
糸井 まったく違うんだ。
沼澤 僕はあっちで一から
やってったみたいなとこあるんで。
日本では、その一からが無いんで。
ラッキーだったかもしれない。
「あいつは何か外人だから」みたいな。
糸井 アメリカでは地方公営競馬出身
だったわけだね。
それで強いからって
中央競馬上がってくるっていう。
沼澤 あ、もう、まさにそういう感じ。
糸井 で、こっちでは中央競馬、最初から(笑)。
沼澤 ラッキーだったんですね。
アメリカではいろんなことやってましたから。
演奏してる間に人が全員いなくなるとか。
それで片づけ始めたら
店のオーナーにめちゃくちゃ怒られて、
「最後まで演奏しろ!」とか。
アメリカでのそんな話、もう山ほどあるし。
「もうダメだ、家賃払えない」
っていってロシアレストランで
演奏する仕事やり始めて。
ロシアのマフィアのパーティで。
もう、そんなんばっかりですよ。
糸井 いい経験だね、今になると(笑)。
沼澤 めちゃくちゃ面白かったですけどね。
糸井 2度とやりたくないと言いながらも、
いい経験だね。

(つづきます!)


第4回
ロシアマフィアのパーティから
チャカ・カーンのバックへ
糸井 ロシアマフィアのパーティって
どんな感じなの?
沼澤 ドキドキしたけど面白かったですよ。
ロシアマフィアのパーティで踊ってる女の人が、
僕はすごいきれいだと思って、
演奏が終わった後、
そこにいた女の人に
話しかけたりなんかしたんです。
「あの、ちょっと話してもいいですか?」って。
そうすると向こうも
「いいわよ」って言ってくれたんですけど
でも、やっぱり周りにはその筋の方が
いっぱいいらっしゃるわけですし、
「怖っ!」とか思って
それ以上の事は何も無かったんですけど、
当時、こっちはタキシードを着て
チョロチョロ演奏している身分ですし、
「この曲をやれよ!」
っていわれた曲を演奏して、
50ドル札もらって、「やった!」
とかっていってるときですから
今、思うと、すごい勇気あるなぁって思いますね。
糸井 何年ぐらい、そういう生活してたんですか?
沼澤 1983年に、大学出てアメリカに行って。
学校には1年間行って。
学校卒業したら、
そのまんま、そこで先生になんないか、
って言われてから、
半分生徒、半分先生みたいなことやってるうちに
ちょっとずつ演奏し始めるようになって。
それから友だちと一緒に
ロシアレストランに頼まれて
やることになったんです。
26歳のころですね。
糸井 なんで? ロシアレストランで目つけられたの?
沼澤 僕の知りあいに頼まれたんですよ。
ロシアレストランに行き着くまでに、
気合い一発でいろんなライブに
出演しまくっているんですよ。
今日はゴスペルの人、そして次の日は
リッキー・ジョーンズの
まがいものみたいな人の
バックを地方でやって、みたいな。
そういうのの連続ですね。
糸井 ふーん。
沼澤 そうやっていろんな所に出入りしていると
コンサートやCDショップで
よく出会っていた人が
チャカ・カーンのバンドマスターに
なったんですよ。
それで僕も、「オーディションに来ないか?」
って言われて。
糸井 つまり「オーディションに来ないか?」
って言うだけの力は、もう、ついてたんだね。
沼澤 そのへんはわからないけど。
友だちの集まるパーティで
ちょろっと演奏してるときに、
「君なにしてるの?」
ってその人に話しかけられて。
「俺学校行って、ドラム習ってんだ」
って言ってて
その時点ではそこで終わった話なんです。
そのすぐ後に、中古レコード屋さんで
ボビー・コールドウェルのセカンドアルバムを
買ってたら
「それ、俺の好きなアルバムなんだけど」
って急に外人に声かけられたと思ったら
また、その彼だったんです。
糸井 ボビー・コールドウェル(笑)。
いちいちなつかしい名前だなぁ!
沼澤 「そういうの好きなの?」
「好きだよ、じゃぁ」
って別れたんですけど、
その次の週に
ひとりでコンサートを見に行ってたら、
その人がまた、いたんですよ。
だから、今度はこっちから
「なにしてんの?俺の好きなコンサートで」
って声をかけて。
向こうも
「うおっ、また会った」となって。
そういった偶然の出会いが重なって
チャカ・カーンのバックを
やることになったんです。
そのころのぼくはオーディションを
受けまくってた時期でした。
デイヴ・リー・ロスのオーディションとか。
糸井 チャンスはいっぱいあるんですか?
沼澤 ありましたね。
もう、LA中のドラマーが集まってくるみたいな。
チャカ・カーンのバックをやることになったのも
26歳のときです。
だから、アメリカに来て3年たった頃ですね。
糸井 それ、思えば短いね。
沼澤 短いですね。人に会うという部分では
めちゃくちゃラッキーでしたね。
糸井 ラッキーあるよねー。
沼澤 いや、すごかった。でも、ラッキーな分、
そこで、うまくいかないと、
2度と声かかんないですよ。
糸井 あ、そっか‥‥。
沼澤 「あいつは良かったね」
って言ってる暇がないんですよ。
アメリカにいると。
糸井 いいね、か、ダメ。
沼澤 こういう場合、
「いいと思ったらダメじゃない」
っていうのがいちばんダメなんですよ。
「あいつ、クビになったんだよね」
ってなった瞬間に、
そっちのイメージのほうが、
断然強くなるんですよ。
やっぱ悪いことの方が、
ぜったい人って憶えてるから。
「いい」っていうよりも、「ダメだ」っていうほうが。
だから、僕も逆の時があったんですよ。
糸井 ドラマーの人が潰れちゃうってこと、
結構、多いですよね。
沼澤 すっごい多いですよ。
糸井 他の楽器よりも多いですよね。
「昔は凄かったけど、
 今は飲んだくれて、もういない」とかね。
有名な人でもいなくなったりしてますよね。
それだけドラムって、肉体に近いんだろうね。
若さと美貌で売ってた人の宿命とかに近いかも。
沼澤 僕なんか、日本人だっていうのが、
すごいラッキーで。
糸井 憶えられやすい。
沼澤 ルックスがやっぱり、
黒人でも白人でも無いし。
糸井 はぁー。
沼澤 例えば、オーディションでも
同じ力量の黒人と白人と日本人がいたら、
日本人の方が面白いと思われるんですね。
糸井 はぁー、景色が違うんだろうね。
沼澤 そうなってくると
いかに憶えてもらうか、みたいなのがあって。
当時は「東洋人の髪の毛が立った、赤いメガネ」
みたいなルックスでオーディションに
行ってましたよ。
糸井 うんうん。
それは、自分でやりたいっていうよりは、
就職先を探す仕事になるわけですよね。
ステージ上に出かけていくときと、
普段って同じ服装なんですか?
沼澤 違いますね、やっぱり。
糸井 変えるんだ。
沼澤 変える。このオーディションのときは
こういう感じで、とか。
糸井 はっはー、なるほどね。
戦闘服ですね、ようするに。
沼澤 それは、みんながそうしてたんで、
してるっていう感じでしたね。
糸井 日本に戻ったら、全くしなくなった。
沼澤 ない、ですね。今じゃ、
このまんまステージ上がるわけですよ。
糸井 逆に、なんっにもしなくなったに近いね(笑)。

動物と動物として会ったときに、
わかる大きさがある。
沼澤 しないほうが、カッコイイ時代に
なっちゃったんで。
民生君のセンスというか、
他のバンドと違って
いかに普段服で目立つかっていう。
糸井 奥田君のそこらあたりのセンスは
表現として計算し尽くされてるとも言えそうで。
ただのワイルドじゃない、丁寧な人ですよね。
沼澤 それを、いかに、ゆるくやってるのか、
っていうことを。
でも、本人はものすごい、
気合い入ってるんですよ。
糸井 あぁー。
沼澤 っていうふうに、見える器のデカさが、
もう、あるんですよね。
僕はあの人に対しては
ドラマーとしての憧れとか
ミュージシャンとしての憧れとかではなくて
人として憧れるな、っていうのは、
唯一、彼なんですよ。
糸井 もしかしたら、関係なさそうだけど、
ミック・ジャガーに
すっごい近いんじゃないかなって
気がするんですよね。
沼澤 うん。
糸井 冷静さとワイルドっていうのが、
人間たぶん両方あるでしょ。
そうとう冷静じゃないと、
奥田民生ってやってられないと思うんですよね。
沼澤 あと、僕がそばで見ていいと思うのは、
「どう考えてもこの人は、
 努力してないはずがない」
っていうことを、やってのけるんです。
例えば、いろんなイベントにちょろっと出ては、
今日初めて歌う曲を、
今まで歌ってきた曲のように歌っちゃうとか。
糸井 技術なんですよねー。
沼澤 すっごい努力してるんだけど、
そんなふうに、まるで見えないんですよ。
一緒にいるときに、
いろいろわかることあるじゃないですか。
本人には言わないですけど、
あの人には憧れますね、
自分より年下なんだけど。
糸井 奥田民生はそう見せてないけど、
大物なんですよ。
動物と動物として会ったときに、
わかる大きさがある。
奥田民生は存在としてデカいんですよ。
沼澤 そうでしょうね。
純粋なところっていうのを、
ずっと見せてるとは思わないんだけど、
見えるんですよね。
たとえばギター、今日もレコーディングしてて、
自分のギターを録音することになると。
ギター少年というか、
自分がそんなに上手じゃないっていうことを
思いながらも、自分のやるところは見せる。
なんていうのかな、
奥田民生っていうレーベルをしょっていながら、
ぜんぜんそういうことを
気にしていないような人に……。
糸井 だから、まわりの人も、
あの気持ちを
わかってあげないスタッフだと無理だし。
沼澤 だから、いいスタッフが集まるんですよね。
糸井 ずーっとそれをキープしてますよね。
あれは劇団なんですよね、一種のね。
奥田民生劇団なんですよね。
沼澤 あの人のそばにいたいと思ってる人が、
たくさんいるんですよ。
それは、あそこのスタッフを見てて、
すっごくよくわかる。
日本でほんとに特別ですよ。
糸井 特別ですよね。
沼澤 あのセクションにはものすごい社風っていうか、
カラーがあるんですよ。
そこに、新しくマネージャーになりましたとか、
ローディーになりましたとかっていう人が
みんな面白いんですよ。
しかも絶対忘れない。
次に会った時でも「あいつ誰だっけ?」
っていう人は、いないんですよ、なんか。
糸井 前にさ、奥田君が古いブルーバードをさ、
黄土色に塗って乗ってたときがあってさ。
ありゃぁ、まいったな。
何も考えてないような気もするけど、
ダサさとカッコ良さの境目あたりのところを、
あえて突っ込んでいくじゃないですか。
頭にタオル巻いて釣りしてたのも、そうですよね。
まずは、かっこよくないんです。
それが、じわじわとかっこよくなっていくわけだから。
沼澤 本人がカッコいい思っていることを
やってるだけなんですけどね。
でも、こっちにそういうふうに
見えちゃうんですよね。
だから彼の音楽がそうじゃないですか。
糸井 そうですねー。
沼澤 パフィーに書いてる曲とかも
「ビートルズをここまでやっていいの?」
みたいな。
民生君自身のアルバムでも
「お前、なーんでこんなことできんの?」
っていうふうに……。
糸井 1回食べてゲロにしてますよね、ちゃんとね。
沼澤 「サーキットの娘」とかも、ええっ!?って。
糸井 ひどいよね。考えてみりゃね。
沼澤 「何で俺はこれをいいと思っちゃうんだろう?」
っていう。
糸井 「何でこれをいいと思っちゃうんだろう?」が、
あの人のすごさですよ。
根っこにある、あの人の善良さが
それを支えてるんだと思うんです。

(つづきます!)


第5回
演奏中はどんな時も
いっぱいいっぱいなんですよ
沼澤 「何で俺はこれをいいと思っちゃうんだろう?」
っていう意味では
ぼくにとって大きな存在なのが
民生くんと大貫妙子さんなんです。
糸井 そうだね。(笑)
大貫妙子と奥田民生は近いものあるなぁー。
ホントに両雄だね。
両方に共通してるのは、
遠くが見えてるってことだと思うんですよ。
沼澤 そう!絶対に自分のやることを、
ものすごく愛してやってるって
いうことがわかるんですよ。
自分が関わることに関しては、
「頼まれたからやってんだよ」とか、
「今、これが流行ってるから」
っていうようなことを
あの2人には全然、感じないんですよね。
糸井 沼澤さんのドラムを初めて聴いたとき
「遠くが見えてるんだけど、
 近くにしかいないよ」
って思ったんだけど
その話と今の話って同じことだね。
遠くまで見通せる場所にいるんだけど、
やってることは今しかない、っていう。
沼澤 うん、そういうライブな感じって
レコーディングして後から
聴きかえすわけにはいかないから。
糸井 だよなー。
ライブの最高の醍醐味ですよね。
大人っていうか、
社会人である自分がさ、
ライブではムズムズするわけじゃないですか。
沼澤 社会人(笑)。
糸井 椅子に座ってライブを見ている人は
社会人ですよ。
社会人でも思わず立って踊っちゃう子の
気持ちはわかるんですよ。
だけど、ほとんどの人たちは
そうじゃないわけで。
そこをひっくり返そうとする力が、
音楽から来るんだよ。
だから、ウソなんですよ、
どっちの世界も。
音楽を聴いてて、
「もう、どうにでもしてっ!」
っていうのもウソだし、
そうやって一生を送る人はいないんだから。
沼澤 うん、うん。
そこまでじゃないだろうってことですよね。
糸井 同時に、そこで、
「何にも感じないよ」ってフリをして、
「いいんじゃない?」って
訳知り顔で言ってるのも、
ウソなんですよ。
沼澤 それも、なんか、イヤですね。
糸井 どっちもウソなんだけど、
音楽聴くとブルブル震えさせられちゃうわけ。
だからよく、
年寄りのある一言で、若い人が、
「あれを言われたんで、
 もうガックリきました。」
ということがあるじゃない。
ああいうのとおなじだよ。
要するに、普段の自分を揺さぶっちゃう。
そういう力があるんですよ。

沼澤 僕は職業柄、コンサートを
見に行ったときに、
やっぱりいろんなこと
気がついちゃうんですよ。
糸井 うん、うん。
沼澤 今ちょっと照明遅れなかった? とか。
ベース聞こえねえよとか。
糸井 音楽社会人(笑)。
沼澤 それを忘れさせてくれるコンサートに
行ったときに、いちばん大変なんですよね。
なんだかしんないけど、
もう、大騒ぎしてんですよ。
そういうことってたまにあるんですよね。
キース・リチャーズを観に行ったときも、
1曲目から立ってもう、大騒ぎしちゃって、
「うぅわぁぁーーー!」って叫んでいたり。
同業者がやってることで、
そんな気にさせられた時が
一番、「うわぁっ!」ってきますね。
僕はたまたま、ステージに
上がってる身ですけど、だからといって、
「プロとしては」ってちょっと
斜に構えるような態度は
絶対、つまんないじゃないですか。
糸井 沼澤さんって、ファンとしての発言が、
ものすごく多いですよね(笑)。
沼澤 そっちのほうが、楽しくないですか?
自分がやってることを、
「オレのドラムのここを聴いてくれよっ!」
っていう風に思ったこともなくて。
糸井 だけどさ、ドラムを叩いてて
送り手側だけがわかるグルーヴが
あったときに、お客さんがそれに、
ザーッと影響されてくのって、
手品師が手品を見せてるような
感覚があるじゃないですか。
沼澤 そうですね。
でも、演奏している時って
あんまり余裕がないんですよ(笑)。
糸井 ドラマーって演奏中、
忙しい職業だもんね。
沼澤 忙しいですね、
「これ、うけるかな?」とかっていうのは、
あったりしますけど、
やってる瞬間っていうのは、
客観的に自分たちのやってることを
見れたらいいな、
って思っているんです。
でも、演奏中はやっぱりどんな時でも
精一杯やってるんですよ。
糸井 それね、あらゆるプロの人と喋ると、
必ずそこにいくんですよ。
「いっぱいいっぱいなんですよ」
って(笑)。
沼澤 演奏中も客席とか見てて
余裕があるような風情を
醸し出してるじゃないですか。
あれね、実はものすごい大変で。
糸井 ハッハッハッハ、笑うなー。
沼澤 一生懸命やってんですよね、やっぱり。
とにかくあんまり余裕がない、
っていうかぜんぜん余裕がなくて。
糸井 全部出してる。
沼澤 やるようにしてますね。
でも、
「あそこでこういうこと考えちゃったな」
とかっていうのは、毎日あるわけですよ。
今日レコーディングしててもあったし。
何事もなく過ぎていくレコーディングも
ライブも絶対なくて。
必ず、今までになかったことが、
絶対いくつかあって、
毎日過ぎていくんです。
それは例え、新人のレコーディングだろうが
大物のレコーディングでも同じ。
客が2人であろうが、
東京ドームで演奏しようが
それは、何の変わりもなくて。
いつでも同じなんですよね。
「もっ、もっ、精一杯ですっ!」
っていう(笑)。
糸井 刻んでるリズムが
むちゃくちゃになって
いいはずがないし(笑)
やること多いですよね。
それは、ホントに
いっぱいいっぱいですよね。
沼澤 僕も大好きなドラマーの一人に、
一定のテンポをキープしてながらも
波もなく快感を与えるっていうことを
ものすごく上手にできる人がいるんです。
つまり、高い技術があったうえで
機械的じゃなく気持ち良くできるっていう、
ものすごい才能を持った
黒人のドラマーなんですけど。
その人に、
「なんでそんなに簡単に、
 気持ちいいタイムキープが出来るの?」
って聞いてみたら、
「そういうふうに見えるだろ?
 あれを俺も楽勝でできるようになりたい、
 そう見えるようにするために、
 俺がどんだけ努力してるか
 わかんないよ。」
って言われちゃって。
糸井 職業違うけど、わかるよね。
沼澤 そう言われて、
「あ、すごい大変なんだな。」と。
ふと、自分のこと思ったら、
そういえば、ぼくも大変だってことに
気づいたんです。

(つづきます!)


第6回
一流は、まわりを信用していない
糸井 ジャズバンドやってるときって、
リスナーだけじゃなく
演奏している自分も楽しませるようなことが
いっぱいあるジャンルだから、
絵として、すっごい大きい絵が
描けるんだよね。
沼澤 ブルーノートのときですか?
糸井 うん!あれ、大きい絵が描けてたよね。
沼澤 いちばん大きな理由は、
ステージで演奏している
人たちの間に繋がりがあるでしょうね。
ああいう時って、あの中に一人でも
「あいつ大丈夫かな?」
っていうことがあったりすると、
あんなライブにはならないんですよ。
糸井 皆さん、すっごいテクニックを
お持ちの人たちでしょ?
沼澤 みんな、クレジットもすごいですから。
プリンスとずーっとやってた
サックス・プレーヤーもいますし。
あのバンドは僕にとって
一番古いバンドですけど、
1年に1回会うぐらいで、
頻繁にライブはやらないんです。
もう、15、6年ぐらいの仲間ですね。
お互い、なかなか会えないんで、
演奏するときには、
「やっと一緒に演奏できたじゃん」
っていう気持ちが、あるんですよね。
糸井 あ、そうですか。
沼澤 やっぱり、音楽のジャンルが原因ではなくて
そのときのメンツに左右されるんです。
だから、同じメンバーだったら
違うジャンルの音楽をやったとしても
たぶん、同じような演奏ができるんですよね。
糸井 あ〜、最高ですね。

沼澤 そういう、バイブレーションみたいなものは、
音楽のジャンルと別に
あるのかもしれないですね。
糸井 じゃあ、あのライブを見た人って
お得ですよね。
沼澤 そうですね。

糸井 あれを観て、ぼくは
「沼澤さんはこういうのを
 見せたかったのかっ!」
感じがなんかあったなぁ。
「僕、こういう、こういうものなんですよ」
っていう名刺代わりのような。
沼澤 僕が日本に来始めたときって、
ああいう感じだったんですよ。
そのイメージが強かったせいか、
例えば、僕が、山崎まさよしと
やっているのを見て、
「なんで、山崎まさよしなんかと
 やるんですか?」
とか、いう人もいるわけなんですよ。
糸井 山崎まさよしでも?
はあはあはあ。
沼澤 ぼくも誰と一緒にやるべきかとか、
似たようなことを思った時期があったけど、
ちょっと待てよって。
お金を払って見に来るお客さんなんで、
それはありがたいと思っているけど、
あそこでやってる、ああいうぼくもいるけど、
山崎とやってるのも、同じ僕だよ、
って言いたいんです。
糸井 それは、大事なことですよね。
沼澤 いちいち聞いてたら、
キリが無いのかもしれないんですけど。
その事については
すごく考えることが多いです。
糸井 全部の意見を聞こうとすると
お客に潰されるんですよね。
沼澤 ぼくらが演奏するときには
自分がやってる音を返すモニターがあります。
そのモニターを頼りに
僕らは演奏しているんです。
ステージ側と外側っていうのは、
完全に音が別になっていて。
お客さん側には、
ぼくらがモニターから聞いているのとは
全く別の音が流れているんです。
つまり、演奏する側のぼくらが演奏しやすい音と
お客さんに聞かせたい音っていうのは
違うんです。
そういうことを一番意識しなきゃいけないのは
実は看板に当たる人なんですよ。
一番、お客さんに近い所で演奏しているから
一番、聞えてるんですよね。外の音に。
モニターで聞いている音と
外で聞こえる音の関連性に、
トラブルがあったり迷ったときに、
ものすっごい慌てたりする人もいるんですけど
それを信用してないのが
民生君とか矢沢永吉さん。
糸井 そうだ。
沼澤 もう、信用してない。
音が悪かろうが何しようが、
とにかく届けるものは届ける。
その事を民生君が
矢沢永吉さんを観て言ってた。
「ROCK JAPANESE」という
矢沢さんのトリビュートライブでの
話らしいんですけど
民生君が、そのときの話をしてくれて。
その時、「これだっ!」って
思ったらしいんですよ。
自分が思ってたことを、
この人はやってのけてる!って思った。
糸井 長年の経験でね。
沼澤 「ブワッ!」って歌いだした瞬間に、
自分が思ってたことを、
「ドバッ」てやってるって。
「すごいっ! もう敵わないっ!」
って思ったらしいんですよ。
糸井 ぼくも観てたんですけど、
それまでに出てたバンドをブッ飛ばしましたよ。
沼澤 それも民生君が言ってた。
あの人が歌い始めた瞬間に、
「この人はやっぱり信用してないんだ」
って思ったって。
「自分だけを頼りに、客に届けるんだ」
っていう。
糸井 それこそ、本当の看板ってやつだよね。
沼澤 よくあるのは、そこの音が悪いっていって、
文句言い出す人とかもいるんだけど
でも、そういうことを言ったりするのは
お客さんの前ではタブーなんです。
糸井 はぁーっ!あのコンサート、
「矢沢永吉」が、いちばん面白かったです。
今までいっぱい出てたバンドが、
一気にさらわれてくっていう。
一人でお客さんのフリして出て来て、
一気にお客さんをさらっていったんですよ。
ちょうど、彼もウエイトトレーニングしてる最中で、
デッかくてムキムキの状態なんですよ。
あれ見て、
「あ、身体、鍛えるべきだな」って思ったし、
「あれがないと、押せないな」とも思った。
沼澤 ふーん。
糸井 あのシーン見るために見るコンサートですね。
沼澤 矢沢さんがリハーサルをやるとき、
ステージに出て来た瞬間から、
すごかったって言ってた。
マイクを持って出た瞬間に、
鎖を解き放たれたように飛び出してきて、
それでもう、みんなブッ飛んだって。
でも、それってリハーサルなんですよ。
糸井 それは、想像できる(笑)。
そうなのよ。いい意味で
トゥーマッチなのよ(笑)。
たぶんその時、
デカい声で歌ってるハズですよね。
「矢沢永吉」は特別ですよ。
沼澤 宇宙人ですよね。
糸井 外人にもああいうタイプはいるんだろうけど、
やっぱ、特別ですねー。

(つづきます!)


第7回
ドラムが叩けなくなっても困らないですよ
糸井 今、沼澤さんから
ドラムを取っちゃったら困りますか?
沼澤 いや、別に演奏できなくてもいいですけどね。
糸井 へー。そこも面白いなー。
沼澤 ドラムが叩けなくなったら
人生おしまいって感じでもないし、
俺は一生、ドラマーとして
生きていこうってことも
思ってないですね。
糸井 へー。
沼澤 だって、自分がドラム始めたのも、
どうしてもやりたいからっていうわけでは、
全然、無かったんですよ。
自分が叩けなくなっても
他の人が叩いてくれますし。
糸井 でも、沼澤さんにとって、
あんなにデカイメッセージを
奏でる道具がないじゃないですか、
いっくら喋っても、あそこまで
デカイメッセージは送れないでしょうし。
沼澤 あ、まあ、そうでしょうね。
でも、そのメッセージを送る技量が
無くなったら速攻でやめますけど。
糸井 あー。それはやっぱり
技量の問題が大きいんですか?
沼澤 自分の持ってるものもそうだし。
糸井 動機もあるよね。
沼澤 やりたくなかったら伝わるはずもないんで。
そのやりたいっていうものが、
いつも僕が思うことなんですけど、
「自分がこれだぜ」
って思ってることっていうのが、
全く、人に伝わってなくて
自分だけだったらどうするんだろう?
っていうことは、
やっぱり、ものすごい思ってて。
そういう日がいつか来るのか来ないのか、
毎日思ってるわけじゃないんだけど。
やっぱり、そういう人を僕は見てるんで
考えてしまうんです。
糸井 いっぱいね。
沼澤 ドラマーだけに限らないんですけど
「どう考えてもおかしいよね」っていう
人っているじゃないですか。
糸井 「この人、なんでここにいるんだろう?」
ってことでしょ。
沼澤 そういう人の発言って、
なぜか、絶対的な自信を
もってるわけですよ。
それって、どう考えても、
要するに裸の王様って感じで。
同じように、
気がつかなくなる自分に気がついたら、
絶対、辞めようと思ってるんです。
糸井 そういう、裸の王様たちは
ほんとは、気がついてんじゃないですか?
沼澤 だけど、そうじゃなく‥‥。
糸井 気づいているんだけど
それを続けなければならない理由が
いっぱいあるんでしょう。
沼澤 正当化してるんですかね。
糸井 正当化はできてないんだと思うんですよ。
「他に理由があるから、
 突っ込まないでくれ」
だと思うよ(笑)。
沼澤 そうかなー?
糸井 それは、どんな商売もみんなそうじゃない?
沼澤 「ああいう風にはなりたくないな」
っていう人が、
自分のまわりに沢山いるんですよ。
糸井 音楽はとくにそうでしょうね。
沼澤 ドラムだけじゃなくて。
歌にしても何にしても。
役者にしてもそうですよね。
糸井 ほんとは気づいてんじゃないですか。
沼澤 気づいてんですかね。
糸井 うん。いらだってるし、気づいてるし。
でも、やる理由は他に
いっぱいあるんだと思うよ。
理由っていうのは
その人ごとに、全部違うんだと
思うんだけど。
僕も、いつでもそういう存在に
なっちゃうという
怖さを抱えていますよ。
「自分がどういう風になるかな?」
っていうのが、
想像できたときに、
それまで進んできた道を
変えてかないといけないわけで。
沼澤 うーん。
糸井 変わり続けていかないと
その人であり続けらんないですよね。
沼澤 そうなんですよ。
僕にとって極端な話、
それがドラムの中だけじゃなくても
全然構わないんですよ
糸井 うんうんうんうん。
沼澤 ドラムを聴くっていうことが好きだし、
っていうか、音楽を
聴くっていうこと自体が
好きなんだから、
すごい自分のことを
感動させてくれる人が
演奏してくれるだけで、
十分だったりするんで。
糸井 そうか。
沼澤 「それを俺がやんなきゃイカン!」
というような理由でやってないし。
糸井 そうか、お客さんの延長線上に、
プロデューサーとして沼澤さんはいるんだね。
沼澤 まさにそうですね。
糸井 「超お客さん」の
プロデューサーなんだね(笑)。
沼澤 僕はどっちかっていったら
そっちですね。
糸井 事情通になっちゃうと
プロデュースって曇っていきますよね。
物事をたくさん知ってるからといって
プロデュースが出来るとは限らない。
例えば、「矢沢永吉」って人は
プロデューサーしてますもん。
自分プロデュースを。
沼澤 あ、まさにそれですよね。
糸井 あの人って決して、
物事いっぱい知ってて、
業界の知識が豊富にあるわけじゃないですよ。
でも、海外からアーティストを招聘するには、
招聘資格がいるだとか、
そういうことは実務として必要なことは
きちんと知っているんですよね。
沼澤 (笑)
糸井 それはすごいことですよ。
楽器を買うのと同じぐらい大事なことですから。
招聘できる権利を手に入れるとかって。
そこまでちゃんと自分で見てれば、だまされない。
沼澤 そういうのもわかってるという。
糸井 わかってる。免許がないとできないことなら、
免許取るし、みたいな(笑)。
沼澤 なーるほどね。
糸井 海外からアーティストを招聘することって
楽器のいいやつを買うのと
同じ意味を持ちますよね。
バンドにとってサウンドっていうのは
大事なものでしょうから、
やっぱり、人が財産ですもん。
それをやってるっていうことは、
できてるわけですよね。
沼澤 うん、そうかも。
糸井 しかも、メンバー全員が外人という
環境でやってるじゃないですか。
やっぱりできてるんですよ。
それって本気で思っているからだと
思うんです。

(つづきます!)


第8回
俺の好きなドラムは
俺の叩くドラムじゃないって場合もある
糸井 昨年、東京スタジアムでやった
永ちゃんのコンサートの
オープニングでの出来事なんだけど
お客さんも何万人も入って、
バーッとこう照明があたって
バンドもドンドコドンドコやって
永ちゃんの登場を盛り上げているところに
永ちゃんが金髪で外人の女性を
2人連れて、出てくるわけですよ。
沼澤 それは、わかりやすい(笑)。
糸井 ぱっと観て思ったのが
これは、女をエスコートしてるのか、
女にエスコートされてるのか。
沼澤 どっちなんだ、お前、と(笑)。
糸井 2人の外人女性ですからね(笑)。
永ちゃんがその金髪の女性と
会話しながら出てきて。
ステージ付近でその女性と何気なく別れて、
ステージに立つわけですよ。
その金髪の外人女性の意味って
それだけじゃ、よくわかんないですよね。
それで永ちゃんのマネージャーに、
「あれは一体、何だったのか?」
って聞いてみたんですけど、
マネージャーの方も
「どういうものだったんでしょうね」と。
これが誰にもわかんない。
それで永ちゃん自身に聞いてみたんだけど、
「よくわかんないけど、
 なんかやったらいいなと思って。」
って言うんですよ。
沼澤 なるほどねえ!
糸井 それってどうやら、景色なんですよね。
「あれにはこういう意味があるから
 こういう風なことをして、
 しかもこういうシチュエーションでやる。
 っていうようなことを全部聞くなよ、
 俺はこういうのをちょっと見たいんだ」
ってことらしいんです。
それも、プロデュースですよね。
沼澤 そうですね。
糸井 多分、その金髪の外人女性たちも、
自分が何の役かわかんないから、
ハッキリ言って困ってると思うんですよ。
沼澤 (笑)
糸井 それそのものは、なんだかわからない。
だけど、そうやって出てくる
イメージっていうのが、
あったんでしょうね。
それを、みんなが首かしげながらも、
トータルでみると全く問題がないんです。
沼澤 そうやって印象づけていくわけですよね。
糸井 そうですね。
沼澤 だって、こうやって話題になってるってこと自体、
かなり印象に残っているってことでしょうから。
糸井 そうですね。
打ち上げ花火に意味があるかって言われても
打ち上げ花火自体にはない。
それと同じことですよね。
沼澤 なるほどね、そもそもどうして
花火を上げるんだ?
みたいなことですよね。
ぼくのケースだと、
目的がはっきりしてて
その方向性も見えていたら
ぼく自身がドラムを叩かなくても
良かったりすることがあるし。
糸井 あー、それは行くね、たぶんその方向にね。
沼澤 そういう自分を知ってるから、
やれるうちはやりますし。
糸井 うんうん。
でも、沼澤さんって
両方できるじゃないですか。
沼澤 そうですね。
糸井 だって、俺の好きなドラムは
俺の叩くドラムじゃないって
場合もあるでしょう?
沼澤 あっ、それ、ぼく実際にやってますよ。
糸井 へえ!
沼澤 本来はぼくに頼まれた
セッションだったんですけど
曲を聞いてみて
ある有名なドラマーのスタイルが
ぴったりくるような曲だったんです。
「この曲、ぼくじゃ‥‥いや、できるよ?
 でも、これはぼくじゃない。
 だったら、いっそ本人呼んだら?」って。
それで、ダメモトで呼んでみたら
本人が来てくれたんですよ。
で、「良かったじゃん」って。
糸井 ああ、すごいですね。
沼澤 「ぼくより、ホンモノ呼びなよ」って。
糸井 多分、沼澤さんは
ドラマーとプロデューサーの
両方をやってくんだろうね。
沼澤 どうでしょうね。
確かに、それらしきことは、やるんですよ。
自分のソロコンサートは絶対やらないんです。
つまり、自分のドラムだけを見せる
ソロコンサートっていうのは
絶対やらないけど、
「この人とこの人集めて
 こういうことやったら面白いんじゃないか」
ってことは、
すごくよくやるんですよ。
糸井 うん、そういうことはやってますよね。
サゼスチョンを与える、っていうかたちで
プロデュースにかかわっちゃう。
沼澤 そういうのはよくやりますね。
「人選するのはちょっと得意なんじゃないかな」
って自分でも思うことがあるんですけど、
それをじゃあ、「譜面にできるか」ってことは、
僕にはできなくて。
「この人のこういう部分と、
 この人たちが集まって、
 これをやったらたぶんうまくいく、
 で、これに誰を集めたらいいですか?」
っていったときに、
「それはこれでしょう」っていうのは、
あるんですよ。
糸井 だから、その役をずっとやってきた人だから、
看板になる人を探してくれば、
全部ができるんですよ。
つまり、「看板はあるよ」っていうところで
それをやってるわけですよね。
「看板もいたよ」っていうことができたら、
プロデュースになっちゃいますよね。こんどは。
沼澤 でも。いい看板って、なかなか
いないですよね。
糸井 いい看板って限定しちゃうと
なかなかいないよね。
この場合、すでにある看板じゃ、ダメだし、
古びちゃって片づけられてる看板も
あるかもしんないし。
沼澤 あ〜。
糸井 いろんなことが、まだありますよね。
沼澤 ま、それ、そういうのって、
どうなんだろう?
自分が探すんだと、
たぶんダメなんですよ。
「何かないかな?」は、たぶん僕は。
糸井 「あっ! いたよ」と。偶然。
沼澤 そう、「おっ!」ってなったときが
来ると思うんです。
糸井 絶対なるよ、それ。
沼澤 自分で見えるものが頭に浮かんできたら
ということなんですけど、
その時々に思いつくんですよ。
だから、へんな話、ソロアルバムを
作ったときも、べつに自分のドラムを
聴かせるものじゃなかったし、
そういうことは、自分の意見を言えるような
レコーディングの場があったときに
自分が思いついたら言うってことだと
思うんです。
でも、思いついてないのに、
言いたいってだけで言う人も多いですけどね。
糸井 あ〜。
沼澤 要するに、そんな思ってないんだったら
言わなきゃいいのに、とかっていうことが、
やっぱり蔓延してると思うんです。
だから、「これ、絶対やったらいいよ」
って思えた時だけ言うんです。
ドラムで言えるときはドラムで言うんですよ。

(つづきます!)


第9回
ドラムって伝統芸能なんですよ
沼澤 実をいうと自分が雰囲気で叩いているものが、
一つも無いんです。
「この、今の一瞬のこれは、
 誰の何のどこの何とか」
全部、説明ができる。
それを自分の感覚でやるもんだから、
たまたまオリジナルに聞える場合があるんです。
要するにドラムセットっていう楽器が、
まだ80年もたってないですから。
太鼓っていうものはもっと前からありますけど、
今のドラムセットみたいなスタイルに
なってきたのは1920年代から30年代なんで。
糸井 はーっ。
沼澤 ドラムセットができてから
まだ、100年も経ってないんですよ。
その過程で行われてきたことっていうのは、
全部、残されているんです。
糸井 必ず誰かが説明してるんですよね。
そこが面白いんですよね。
沼澤 でも、こんなに楽器も変化してる、
人も変わって生活も変わっているのに
ほとんどの事が既に
やり尽くされているんですよ。
でも、根本がぜんぜん変わってないんです。
その根本を受け継いでいっているんです。
糸井 ドラムって伝統芸能なんだ(笑)。
沼澤 めちゃめちゃ伝統芸能ですね。
その根本にあたるものは
日本で発生したものじゃないから
僕はアメリカ行ったわけなんです。
糸井 書道なんかに近いですね。
明朝体があって隷書体があって、みたいな。
沼澤 すごい近いですよ。だから楽器も、
「一番最初に作られたものはこんな感じで、
 それがこう進化していった」
っていうような過程が
確実にあって、そういうことを
僕らは自分たちでも検証してるし、
そんなの資料でもあるし。
調べるのは当たり前の事なんですよ。
糸井 はーっ、楽しそうだなぁ……。
沼澤 それが楽しくて。
だから自分が使ってるドラムセットも、
1930年代のものを買ったりするんです。
その、持ってること自体が好きなんで。
糸井 はぁー。
沼澤 その古いドラムセットをレコーディングでも
使ってみたりするんです。
そういうのを使ってやっていくんですよ。
やっぱりこういう事って
受け継いでいってるんです。
自分が興味ある人のとこに
習いに行ったりもしますよ。
それはもう自分で見て、何をやってるか、
目の前で見る以外にないからなんですけど、
そうじゃないと説明ってできないんですよ。
糸井 落語を口移しで習うようなもんだね。
ちょっとずつ師匠が話して、
それを真似て憶えるんですよね。
沼澤 もう、そういう感じですよ。それの連続で。
ぼくがやったフレーズを、
「お前、それ今どうやった?」
って聞かれたこともあったし、
ぼくは説明できちゃったりするんです。
次の日にぼくが行ったりしたら、
教えてもらおうとしてた人が
ぼくのフレーズを
めちゃめちゃ練習してたりするんですよ。
「お前、こうやってやってんのか?」
みたいに。
糸井 面白そうだねー(笑)。

沼澤 いまでも、やっぱりそうなんですよ。
僕らの解釈で、とこっとん真似して継承して
こんな感じになりましたって感じ。
糸井 そこに自分の個性が
自然にはいっちゃうんでしょ。
沼澤 それ以外に、ないですね。
糸井 真似したつもり。
沼澤 もう、思いっきりやって。
今回のアルバムも、全部そうですね。
自分の中では、説明ができちゃう。
糸井 そういうことをやってるのが、
他のバンドの連中に、
また違う影響を与えるじゃないですか。
つまり、
「その叩き方だと、俺、困るんだよ」
ってことも、ありますよね。
そのときには、それに合わせたギターになるし、
相互作用がありますよね。
沼澤 糸井さんそのあたり
聞き分けてられてますね?
ちょっとびっくりしてるんですけど。
糸井 僕はただ、耳でちゃんとわかる範囲っていうのは、
正直に言いますけど、ベンチャーズまでなんです。
つまり、「この本はぜんぶ読んだ」
っていうような気になれるのは、
ベンチャーズだけなんです。
沼澤 はぁ、ベンチャーズか。
あれこそ、伝統芸能ですよね。
糸井 あれは楷書で書いてあるから、読めるんです。
「はい、そこで、何とかが来ます、
 こういう物語です、
 皆さま、いかがでございましたでしょうか?
 音楽は、楽しゅうございますね、
 それではみなさん、さよならー!」
っていって帰るんですよ。
それは、端から端まで
小説としては読めるんですよね。
他はそんな簡単なものじゃないんで。
やっぱり読めないんですよ。
沼澤 でも、あの人たちがいなかったら……。
糸井 ないよね。
楷書がなかったら、他はないですよね。
あれで、普通にやるってこういうことだよ、
っていうのを、ちゃんと教わった気がするし。
最近だとさ、キャロル時代の永ちゃんって
あの時代、実はけっこう
挑戦的だったってことがわかる。
沼澤 すごいですよ。めちゃカッコイイですからね。
糸井 (笑)若いヤツが今ごろになって
びっくりしてるけど、あのマジックって
当時は誰も聴いてくれなかったんですよね。
「キャー」っていってただけで。
沼澤 うん、イメージだったから。
糸井 でも、今、聞くと、「ちゃんと文体があるよ」
っていうことがわかりますよね。
沼澤 音楽的な質の高さが……。
糸井 あるんですよね。要するに
後は、練習の量だけだっていうね。
沼澤 いやだって、矢沢さんのベースって
すごいですもん。
糸井 しかも、弾きながら
走り回ってますからね。
沼澤 今でも「ベース弾いて欲しいなぁ」って
思っちゃったりしますよね。
糸井 キャロルは、今のちゃんと再生する装置で
聴いたら、
「これだから人気あったんだーっ」
ってことがよくわかる。
多分、あれは永ちゃんが、
ポール・マッカートニーを斜め読みしたから
ああいう個性が出ちゃったんだと思うんですよ。
沼澤 もう、それって全世界に
共通してるじゃないですか。
だって、ウィリー・ディクソンをやろうと思った
レッド・ツェッペリンが、
ああなっちゃったんですからね。
エリック・クラプトンだって、
アルバート・キングやるつもりだったのが
ああなっちゃたわけだし。
糸井 (笑)読み方浅いうちに
練習始めちゃったみたいな。
沼澤 だって、ポール・マッカートニーも
そもそもはリトル・リチャードを
やりたかったわけだし。
もうあれは完璧にあの人たちが
育った土地っていうか
土壌が、ああいう解釈を
させたってことですよね。
糸井 それはね。要するに、
ピジョン・イングリッシュの連続ですよね。
ハワイの人の英語って、
独自の英語を作っちゃったり
日本なまりが多かったりするじゃないですか。
ああいうことが、
ずーっと音楽でも連続して起ってるんですよね。
沼澤 まさに。プリンスがそうですから。
糸井 あ、そう。
沼澤 もう、まんまやってたりするのに、
「なんでプリンスに聞えるの?」っていう。
糸井 だから、上手になっちゃった
オアシスみたいなバンドって、
すっごくチャーミングなんだけど、
消えると思うんですよ。
沼澤 オアシス、僕はぜんぜんダメなんですよ。
ずーっと。
糸井 でしょ?
ぼくはオアシスに関しては
一気に何枚も買っちゃったんですよ。
それで、一気に聞いてみたわけですけど
総合力としてはすごいですよ。
だけど、魅力っていうか
彼らのなまりがないんですよ。
つまり、斜め読みじゃなくて、
ちゃんと読んだ人たちの演奏だから、
ぼくはつまんなく感じてるのかな?
って思ったんですよ。
沼澤 なまり、ない!
ぼくも二度と聴かないんですよ。
でも、ツェッペリンは今も聴いたりして、
「ウォーッ! やっぱりすごい!」
って思うし。
糸井 あと、ジミー・ヘンドリクスとかさ、
修練は積んでる、
でたらめなヤツらのって演奏って!
沼澤 そうですね。チューニング、
関係無いですからね!

(つづきますよっ!)


第10回
技術がないと続かないんですよ
沼澤 「経験を盗め」を読ませてもらったんです。
今までやってきた音楽の話もそうですけど、
糸井さん、もう各分野の方と
対談されてますよね。
なんかすごい驚異なんですよ。
糸井 ただ質問してるだけですよ(笑)。
客席のいちばん前にいて、
手を叩いてる人なんです。
ぼくはそういう人になりたいんですよ。
沼澤 手叩いてる人(笑)。
糸井 客席の一番前で観ていると後ろのほうで、
「今日はちょっと良くないよな」
とかいってるときに、
「お前らわかんのかよ?
 ちゃんと聞いてから文句言えよ。」
って思うんです。
プレイヤーがどういうことをやってるか、
みたいなことがわかると、
表現の前の気持ちの部分が
聞こえるじゃないですか。
ミュージシャンじゃないのに
ミュージシャンになれる
みたいな気持ちがあるし、
あなたがわたしで、わたしがあなたになる
瞬間があるわけです。そこで、
「そんなに斜めに聞いてても面白くないよ」
っていう役が、ぼくなんです。
それはスポーツでもそうだし。
だから、わかるまではそのスポーツって、
ぼくには面白くないんですよ。
案外、サッカー見ないです。わかんないから。
沼澤 あー。
糸井 まだサッカーってわからないんですよ。
ゴールが決まったのを見ても
たまに「運じゃねえか?」って
思ってしまうこともあるし。
沼澤 入っちゃったー、みたいな。
糸井 運を呼び込むための仕組みを作ってる、
ってとこまではわかるんだけど。
沼澤 サッカーの話を聞いていると
すごいみたいですけどね。
糸井 そうなんですよ。
優勝するチームがいつも同じ
だったりすることでも
本当に凄いんだなってわかるし。
ぼくはやらないんですけど、
端で見ていると、
マージャンとかでも
強い人は強いじゃないですか。
沼澤 なるほどねー。
一方で、たまにドラムを叩いてて、
自分が何気なくやってることが、
いろんな感じに伝わってて、
「そういうふうに聞こえてるんだぁ、
 なるほどねえ。」
っていうことがよくありますね。
糸井 何気ない……。
沼澤 べつにそんな意味でやってなかったのに、
「そういうふうに聞こえてたんだ」
っていうことなんです。
糸井 お客って、みんなそんなこと思ってるんです。
恐ろしいですよ(笑)。
ぼくは原理みたいなものを理解して
シンプルに思いたい人だから。
例えば、沼澤さんが言ってた
「太鼓は通信から始まったもんですからね」
という、一言を知ってるだけで、
見方が全然、変わりますよね。
沼澤 原理はそうですからね。
糸井 「原理は通信なんだ」ってことがわかったら、
今やっていることって
そこからたどってきたものだから、
理解できることがいっぱいありますよね。
沼澤さんもそういうことを
自分でもやってたし。
通信するときには通信する内容が
必要なんだってことも。
その内容のことを考えると、
ドラムって、他の楽器が
頼りにする場所にいるんですよね。
沼澤 実はそうなんですよね。
糸井 ええ。頼りにされるっていうことで、
何が生まれるんだろう、とか。
沼澤 だから、演奏してても
言ってることが、よくわかんない人って
すごい嫌なんですよ。
糸井 はぁー。
沼澤 「自分で演奏してるのに、
 なーにを言ってんだよ」
って感じなんです。
ミュージシャン同士で通信の
行き来がないときはそこで判断しますね。
今、何のために、この人は
楽器を弾いて演奏してるんだろうってことを、
自分の中で判断するんです。
それは人選にも影響しますよね。
糸井 それはもう、大変なロスですよね、
ドラムのソロとか叩いていたら、
その人の持ってるものが
全部出ちゃうじゃないですか。
沼澤 だから僕はやらないですけどね。

糸井 沼澤さんはドラムソロって
しないんですよね。
大きい音を出したりしながら、
クライマックスを作ったつもりの人が、
そのあと、どういうふうにお客さんの感情を
引っ張っていくんだろうってことを、
考えてないはずはないわけでしょうから。
思いつきでやってる人がたまにいたりすると、
ちょっと興醒めしちゃいますよ。
沼澤 ぼくが言ってる
「わかんなくなったら辞める」
っていうのは
そういうことなんです。
糸井 たぶん音楽家がいちばん苦労するのは、
ファースト・インプレッションって
いくらでも作れるんだけど、
ずーっと集中してると、
お客が疲れるときがありますよね。
お客が疲れたころっていうのは、
ミュージシャンも同時に疲れてるし、
「お互いに疲れたからいいよな」
っていう時間が存在しますよね。
そんな時間をもう一度何かで刺激するのか、
それとも疲れた時間として溜めておくのか、
設計することも必要だと思うんです。
その場所で「何をするか」によって
そのコンサートの実力がだいたいわかるんですよ。
沼澤 なるほど……。
糸井 永ちゃんなんかだったら、
その疲れた時間は一番走るとこなんです。
沼澤 あ、逆に盛り上げておく。
糸井 うん、とにかく必死さを
フルに使う時間にする。
「ちょっと1回休みたい」
ってお客は思うときに、
ダメ押しで早い曲続けるとか。
沼澤 やりますよね!
糸井 やりますねー。
やっぱ頭のいい人なんだなーって
思いますよね。
沼澤 「疲れてんじゃねーぞ、ついて来い!」
的なことになるわけですね。
俺の方がパワーがあるだろうっていう。
糸井 そうなんです。
ぼく、こないだブルーノートで
沼澤さんを見て、
「音楽っていいなぁ」って思いましたよ。
沼澤 たまにやっぱり、いいですよね。
僕は毎日やってますけど。
糸井 毎日やってるっていうのが、
またすごいですけどね。
沼澤 毎日やってますね。やってない日ない。
やれるうちはやっておこうかと。
だって、絶対にいつかやれない時が来るんで。
糸井 全部が技術に結びついてるから、
ますます面白いですね。
ちょうど今、うちのスタッフに対するお説教が、
技術を磨けってやってるんですけどね。
技術がなくて「思い」だけでできるはずがないんで。
沼澤 それ、音楽にものすっごく似てますよ!
「思い」へ逃げやすいんですよ。
糸井 やっぱ技術ですよね。
技術がないと感情も何も表現できないよね。
沼澤 ダメなんですね、
技術がないと続かないんですよ。
そのとき偶然ポッと出たものって
「お、面白いじゃん」
ってなるんだけど……。
糸井 もう1回やれないんですよね。
沼澤 「面白いな」って一瞬耳がいくんですけど
あきちゃうんです。だったら、
「面白さもあって技術があるこの人のほうが、
 ぜんぜんものを言ってるじゃないか」
って思います。
時代の流れで、昔よりもっと
逃げやすくなってるんですよ。
楽器を弾かなくても
音楽作れるっていう時代なので。
糸井 そうなんですよねー。
すごく長い間、喋り続けましたけど
今日はこんなことにしときましょうか。
またゆっくり喋る機会をつくりましょうね。
沼澤 そうですよね。

(これでこの対談は終了です。
 今まで読んでいただいてありがとうございました。
 CD「THE TIME 4 REAL」や読後の感想が
 ありましたら、postman@1101.comまで
 ぜひ、送ってください。
 沼澤さんも楽しみにしてるそうですよ。)


ラストワルツを聴きながら。
あのすごさを、余すことなく語りあう。

"The Band"の『ラスト・ワルツ』というライブDVDを、
夜中に仕事しながら、ずっと、毎晩観ているんです。
25年も前のコンサートでビデオも持っていたのだが、
今回のDVDは5.1チャンネルで、しかもオマケがすごかった!

ギターのロビー・ロバートソンが、
監督のマーチン・スコセッシと映画を観ながら語っている。
その会話の隅々までが、砂金の粒々のよう。
勝手に、このDVDのための企画を考えていたら、
あの「沼澤尚」ドラマーが食いついた!

沼澤さんも、おなじことをやってた時期があったらしい。
わがままなコンテンツのスタートですが、
これは相当に期待していてくれていいと思いますよー。



第1回 太鼓は言葉。

沼澤 イトイさん、こんばんわ!
糸井 こんばんわ。
沼澤 すごいですよねぇ、
「ほぼ日」に届くおたよりって。
先月、「ほぼ日」の読者から
いただいたメールで、特にうれしかったのは、
「音楽からずいぶん離れていたんだけど、
 また、音楽を聴いてみようと思いました」
という・・・。

糸井 あったねぇ。
沼澤 「沼澤さんのライブを見にいって、
 まだ数回なんですけど・・・」
そんなふうに書いてくださる感想も、
とてもうれしいんです。
よく知らないから失礼なんてことはない。
はじめて見たとしても、すごい感動したなら、
20年来のファンも何も、関係ないですもの。
糸井 ぼくも、反響がよくて、
ほんとうにうれしいです。
いわゆる「ティーン向け」でないところに、
ちゃんと音楽は根づくのだということが、
信じられてうれしいんです。
しかし、沼澤さん、ドラムで、
こういうお客さんを獲得してきたなんて、
ほんとにスゴイですよ。
沼澤 みなさんの感想メールや応援を受けると、
ぼくが発信したものへの反応で、
発信した自分自身が学習できることに、
いつも、とても驚きますね。
つくづくありがたいことだなぁと感じました。

価値を理解してくれる受け手と、
情熱を傾けて必死に自分たちの
想像力と創造力を発信している「ほぼ日」との
素晴らしい関係を目の当たりに見たんです。

また、ライブを見に来てください。
ライブがいいんです。
生の音と空気を、
その瞬間に送り手と受け手が
同時に感じる・・・。
これがなんたって、いちばんですから。
糸井 ぜひぜひ。

いま、マイブーム中なのが
The Bandの『ラスト・ワルツ』っていう
ライブDVDを観ることで。

「興奮した!」ってメールを送ったら、
沼澤さんが、すごい反応してくれて・・・。
沼澤 いや、このタイミングで、
いま、『ラスト・ワルツ』 に来たっていうのは、
イトイさん、ものすごい
ミュージシャン寄りの耳をしていますよ。
糸井 もともと、
『ラスト・ワルツ』に興味がいったこと自体、
無意識に、沼澤さんの影響が
あったと思うんです。

前にお話をした時、沼澤さんがおっしゃった
「太鼓って、通信から、はじまったんです」
というひとことが、まず、すごく大きくて。

遠くの人に感情を伝えることが起源の楽器。
それを理解すると、音楽を聴くことが
もっと、たのしくなったんです。
「リズムっていうのは、言葉なんだ」
とわかったから。

ぼくもいちおう、仕事として
言葉を使う人間っていうことになってるので、
いらない装飾だとか、
フカシのための言葉だとか、
言葉にもいろいろある中で、その時々で、
ひとつの「通信」を選ぶってことは
わかるんです。

「何を言ってるんだかわからないけど、
 何かいいような気がする言葉」
を使うことも、技術として、あるわけです。
沼澤 それ、ぼくらがやってることと
まったく同じですよ。そういう時、あります。
糸井 「お飾りをジャンジャン出して、
 それ自体を楽しんで、
 酔っぱらっちゃえばいいじゃない!」
という言葉の使いかたも、もちろんあるけど、
たとえば、そういう方向の表現って、
しっかりとした言葉を使える人間がやらないと
すごい、きたならしいものになるんです。
・・・ドラムにも、そういうとこ、ありますよね?
沼澤 まったく一緒です。
技術がない人が
「いい感じでしょ?」
みたいなものを出しても、
土台としての技術がなければ
「それなり」
だね、
というのがありますから。
糸井 それで、まず、沼澤さんが
「この人は尊敬する」っていうドラマーの
スティーブ・ジョーダンを聴いたんですよ。

おもしろかった。
ドラムをおもしろがろうとしないかぎり、
おもしろくないドラムじゃないですか。
それが、印象に残っていまして・・・。

「この合図のような太鼓は、
 どこかで馴染んでいるはずだ」
「なんだっけ」
「あ・・・The Bandだ」
というふうに刺激されて、あらためて
DVDを観たんだと思うんですよ、無意識で。
それで、『ラスト・ワルツ』に行き着いた。
沼澤 それは、危険な道筋ですねぇ・・・。
そう感じていること自体、キてます!
飛び抜けて優秀な音楽家の感覚ですよ。

スティーブ・ジョーダンは、
技術が最高峰なくせに、
それを見せない方向に行く
わけです。
すごい確信犯なんですよ、あの人。
それを見て、THE BANDって
思いあたるのは、ほんとにすごい。
糸井 それで、思わず、
沼澤さんと話しあいたくなっちゃったんです。
『ラスト・ワルツ』について、さらに、
感心させてもらいたいなぁと感じまして。
沼澤 こちらこそ、たのしみです。
ドキドキしてきた。

糸井 ぼくは、言葉の分野でも、音楽でも、
もともと、スティーブ・ジョーダンとか
THE BANDみたいなのが、とても
好きだったなぁ、と思いおこすわけですよ。

言葉なら、最近なら、たとえば川上弘美さん。
『センセイの鞄』というのが
賞をもらったり売れたりしたんですけど、
川上さんの言葉は、いわゆる修業をして
身につけたものではないんですね。
沼澤 ストリートミュージシャン、
ストリートライターみたいな?
糸井 いわばそうですね。
徹底的に敏感に言葉を生きてた人が、
言葉に対してウソをつかないまま、
言葉を重ねていく
と、
どういう文章になるかな、みたいな。
そこが、とても好きだなぁと。

川上さんの先祖が、
田中小実昌さんだと思うんです。
田中小実昌の書くものも、
「あぁ・・・わたしも好きですねぇ」
って言うヤツがいると、そいつと
すぐ仲良くなれるみたいなところがあって。
音楽にも、そういう時ってありますよね?
沼澤 うん、いっしょです。
糸井 つまり、フカさないし、
とにかく広げないんだけども豊か

っていうような表現の系統があるんですね。
沼澤 「狭くて深い」みたいな。
糸井 そうそう。

いくら、いっぱい言葉を使っても、
あちこちに電灯はともるけれど、
まぶしくて見たいものが見られない。
沼澤 ええ。
糸井 やっぱり言葉も、信号だから、
細い道を一緒に渡ってでもなんでもいいから、
宝物のところにたどりつく道であって欲しい。

自分でも、なかなか
そんなことができない時もあるけど、
「そういうのが、いいなぁ」
と思う心で、いつもぼくは何かを書いてる
つもりではあるんです。
どんなに、ムダなおしゃべりをしていても。
沼澤 言ってること、すごいわかります。
糸井 それで、
沼澤さんの好きなものを見せてもらったら、
「あ、俺が文章で好きなのと同じじゃないか」
と思ったんです。

沼澤 The Bandはミュージシャンにとっての憧れです。
特にレボン・ヘルムは、
歌を支えるドラム、あるいは歌いつつの
ドラムとして
歴史上の誰も、まるでかなわないですから。

The Bandは、世界の音楽歴史上で、
ある意味で、最高峰の位置にいます。

まずは全員が驚異的な職人であることと、
天才のガース・ハドソンを除いて、
全員がリードボーカリストであることと、
そして、完璧な
オリジナル・バンド・サウンドを
持っていること。

このおかげで
ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、
ニール・ヤング、グレイトフル・デッド、
ジョージ・ハリソンなどなど、
世界の有名アーチストたちが、
彼らと作品を作りたいがために
ラブ・コールを送り続けたという
紛れもない事実があるし・・・。

この映画の『ラスト・ワルツ』に関しては、
確かに歴史的な作品として存在しているのですが、
裏には、けっこう政治と音楽ビジネスがあって、
ロビー・ロバートソンと
残りのメンバーとの対立がすごくて、
やってる本人達はどうでもいいと思っているのに、
でもものすごいライブ映像なんですよね・・・。

レボン・ヘルムにとっては
やっぱり『Rock of Ages』がいちばん、
と本人が明言していて、『ラスト・ワルツ』は
仕方がなくてやった代物だなんて言ってますし。
糸井 チラッと聞くだけで、
いきなり、おもしろくなってきた!
  (つづきます)


第2回 送り手は、口説き手。

糸井 ライブに行くと、ドラムって、
ひどく明晰なものだと思ったんです。
「感情の動物」ではない人がやってるなぁと。
沼澤 なんか原始的なものですけどね。
たたけば、音が出るんだから。
でも、ただ野蛮なヤツが
やってる楽器ではないんです。
糸井 それ、薄々は思っていましたけど、
でも、なんかドラマーっていうと
太っちょのビジュアルを想定しているから、
自然と、「ホームランバッター」みたいな
イメージで、つい、見ちゃうわけですよ。
沼澤 (笑)ああ、分かる。
糸井 考えてもいないのにそう思ってるんですよ。
ついボインな人が通りかかったら
スッと目が行っちゃうみたいに・・・。
沼澤 うん。わかります。
糸井 でも、音楽って実は、自己抑制がないと
人を楽しませることなんか、できないわけで、
感情のままに、ただやってるのだとしたら、
酔っ払いのおやじが伴奏抜きで歌う時の
「知床旅情」なわけですよ。
沼澤 (笑)
糸井 でも、さっき話した
「フカさないし、
 とにかく広げないんだけども豊か」
という表現の系統では、
ドラム、技術のかたまりですからね。

だめな時にThe Bandの音楽を聴くと、
だめじゃない気がしてくるんです。
自分に輪郭が見えて来るっていうか。

デッサンを習う時に、まず、
彫刻で影の濃淡を勉強するみたいな、
そういう効果があるのが、
ぼくにとっての、The Bandなんです。
最近、改めて、ものすごいなぁ、と思うんです。
沼澤 それって、
「前に聴いた時とちがう」ってことですか?
糸井 うん。
沼澤 ぼくらの中でも、一緒ですよね。
いろんなことをやってきて、
頭でっかちになるじゃないですか。

「そういえば、あれってどんなんだっけ?」
そう思って聴いてみたら、
「え? ちょっと待って? こんなんだった?」
どんなアルバムでも、
どんなアーティストでも、そうなります。

太田裕美の「木綿のハンカチーフ」っていう曲は、
ぼくにとって、まさにそうで。
子どものときに聴いていて、まあ、
「いい曲だな」とは思っているじゃないですか。
ある時、なんかのきっかけで聴き直したんです。

「え? 1番から4番ぐらいまで、
 毎回のAメロがはじまる前のイントロのアレンジ、
 ぜんぶ違う・・・こんなに凝ってるの?
 誰がやっていたんだろう」
糸井 沼澤さんの場合、
前に聴いた時と後に聴いた時で、
「自分が送り手になっている」
ということが、いちばんの違いですよね。
沼澤 それはまったくそうですね。テレビを聞いてても。
糸井 送り手になることで、
受け手として大変化してるんだ。
沼澤 すごい変わっちゃってますよ。
「あ、ちょっといま、照明が行かなかったなぁ」
「いま、ベースが間違えたな」って。

だから、余計なことに
耳とか目が行ったりする自分が
ときどき、つまんなかったりするんです。

でも、そういうことを忘れさせてくれるのが、
The band だったりするわけです。

送り手として、どんどんいろんなものが
見えて来ちゃっているはずなのに、
何も気にならないクオリティになってるのが
例えばThe Bandのメンバーだったり。
糸井 おぉー!
沼澤 これはもう・・・。
糸井 あの、何て言うの?
目の動きだけでもゾクゾクするよね。
沼澤 ええ。
糸井 これ見よがしに飾ったものっていうより、
ふつうに思えるんだけども、
ほんとに飽きずに繰りかえし聴けるもの
って
いま、特に魅力がある時期ですよね。

ぼくからみると、
すごい農法でつくったおにぎりなんて、
そうなんだけど。

事務所にいると、
最後におコメ食いたいなと思う時があって、
ぼく、夜用につくって持ってきているおにぎりが
あるんですけど、沼澤さん、ちょっと食いますか?
沼澤 はい。ぜひ!
糸井 (おにぎり、だして、わたす)
沼澤 (食べる)
糸井 ・・・。
沼澤 ・・・うまい!

糸井 うまいでしょ?
要するにこれって、
「ふつうの中の、最高」なんですよ。

まともに、ふつうにありふれたものの中での
最高品質っていうものが、
いちばん、うまいんですよ。
沼澤 わかる。
糸井 あとでいろんな手を加えたものよりも、
生まれた時からすごいもの、みたいな・・・。
沼澤 ぼく、おコメとおモチは、
一生、食っていられるんですよ。

アメリカにいた時も、
そんなにお金がなかったですから、
とりあえずごはんは、
2キロとかを5ドルくらいで買えるから、
それでよし、と。
あとは、「ごはんですよ」だけを
日本から送ってもらって、ずっと食べてた。
糸井 要するに、いろいろなものを食べても、
そんなところに、みんな、
最後は行きたがるんだと思うんですよ。
沼澤 イトイさん、
話をしてて、ジャンルを選ばないですよね。
おコメと音楽と、たまたま違う分野だけど、
やっていることは同じというか・・・。
糸井 音楽もおコメも、
送り手って、口説き手なんですよ。

あの人は、どういう人から
どう口説かれたいかなぁと考えることって、
追っかけていっても、
送り手の方には、答えはないんですね。
最後は、受け手が「はい」って来るだけで。
常に、答えは、受け手の側にゆだねられる。
沼澤 うん、うん。
糸井 だから、口説こうとする側に立つと、
背負う苦しみは受け手の何十倍なんだけど、
でも、「自由」なんです。
沼澤 はい。
糸井 受け手に選ばれるという立場で背負う
苦しみそのものをたのしむ、というところに、
送り手は、いくんだと思うんですね。
たぶん、音楽でも、
「どうだ、いいでしょう?」
って言う側の人たちって、
「自分がそれをいちばん伝えたい」
という人に届くように、
演奏しているわけですよね。
沼澤 正直に言うと、
とても大切な人が、客席にいた時って、
その人にしか演奏していなかったりするんですよ。

演奏に行きますよね。
「・・・あ、あの人が、いた」
それって、どこにいてもわかります。

もちろん、
全体に向けての音楽なんですが、
ぜんぜん、その人のために演奏をしている・・・
実は、そういうふうな時って、
すごいうまく演奏できている気になるんです。
なんか、やっぱり、燃えるので。
糸井 うん。
沼澤 伝えたい人が、いるかいないかで、
けっこう、違ったりするんですよ。
糸井 それが口説き手の喜びだし、そのかわり、
「通じなかったらどうしよう?」
っていう悲しみも、ありますよねえ。
沼澤 でも、通じてるって200%信じてる。
「ぜったい、いま、聴いてるでしょ?」って。
糸井 それは、プロですね・・・。
伝えることの素人には、絶対に思えない。
沼澤 もちろん、相手の考えていることって、
わからないんですけどね。
糸井 そういう時って、
演奏で酔っぱらわせたんじゃ、
だめなわけですよね?
沼澤 あ、それは全然だめです。
糸井 つまり、お酒を飲ませたのと同じことだから。
沼澤 それはだめですね。
もちろん、いつもうまくいくわけじゃないですよ。
そんなことを、いつもやってるわけでもないし。
糸井 沼澤さん、同時に、
自分のことを全然知らない人に対して
演奏で通信して、つなげて、
「どうだ」って言いたい気持ち
も、
いつもあるわけでしょう?
沼澤 ありますね。
糸井 「大したことないかもしれない」
と思って来た人たちを、
最後には捕まえてみたいっていう・・・。
沼澤 もちろん!
「どんな感じなんだろう?」
っていうので来てる人って、
見ていて速攻でわかるんです。

「いいっていう噂を聞いたから、
 ちょっと、まあ見てみるか・・・?」
って来た人は、すっごい標的ですよね。
糸井 (笑)
沼澤 ぼく、ライブの最後に、
その人たちの反応を、見ますもん(笑)。
  (つづきます)


第3回 コピーと表現。

糸井 さっき、沼澤さんが、
「自分のことを全然知らない人を
 ライブで思わず捕まえちゃう」って話、
 具体的に聞くと、もっとおもしろいかも。
沼澤 福岡ブルーノートが、
学割を試した時があるんですよ。

そうしたら、見事に
若い学生の男の子たちが多かった。
ふだんのような女性の客が少なくて。

・・・確実に、大学生の男の子たち。
やっぱり、ちょっと、
素直に構えてはこないじゃないですか。

学割で来てるし、
「この値段だったら、観てもいいかな」
ってノリで来ているのも、こちらはわかる。

椅子に座っていて、最初は、
そうとう、斜に構えてるんですよ。
はじめの2〜3曲、絶対に動かない。
「そんなにカンタンに受けいれないぞ」
たぶん、そういう姿勢があったんです。

でも、ライブが進むにつれて、
だんだん前のめりになってきて、
最後に、ウワーッて立ち上がった・・・。

最後、大騒ぎしましたよ・・・ぼくが
「STUDENTS、ばんざい! 明日もやってます!」
って言ったら、次の日も、みんな戻ってきた。
それが、糸井さんも観にきてくれた
"Nothing But The Funk"ってバンドですけど。
糸井 ・・・あのメンバーだったら、
たいがいのことは、できるね。
幼稚園から老人まで捕まえられると思う。
あのメンバー、もともとは箱バンじゃないですか。
沼澤 ええ。いわゆるバーをまわるバンド出身ですね。
糸井 だから、すごいんですよね。
あまり音楽の好きじゃない人だとか、
お酒を飲みに来た人だとか、
こっちを向かないお客さんを
相手にしている時期が長かった人たち・・・。
沼澤 たぶん、そうですよね。
糸井 だからこそ身につけた、
超強大なナンパのテクニックっていうか、
まずは誰でも捕まえられる・・・。
しかも、自分で落としたいという人も
捕まえられるというか、両方の能力を
のばせてきたような気がするんですね。

・・・あ、ぜんぜん違う例なんですけど、
玉置浩二さんの「安全地帯」って、
箱バン出身なんです。
沼澤 へぇ、そうなんだ。
糸井 だから、「安全地帯」のメンバー、
どんな演奏でも、へっちゃらでできるんです。

目の前のお客さんのイメージにあわせて、
「・・・こういうのを、お求めですよね?」
すっかり下手に出ながらも、
ガッチリその人をつかまえる、みたいなことを
やってきた人たちだから、やっぱり、
「色っぽい」と言われるところがあって。

知らない人に対して、
何かを口説こうとした人たちの強さっていうのは、
もちろん、The Bandのメンバーにもあって・・・。
沼澤 そうかもしれないですね。

The Bandって、メンバーが
すごい自分たちの内面に向かう人たちだから、
「どうだ、いいだろう?」
というタイプではなかったはずなのに、
それでも、誰のバックをやった時にでも、
「あ、The Bandのサウンドだ!」
ってすぐにわかるのが、すごい珍しいですよね。
糸井 前に出ているようには見えないのに、
キャラがそのまま、そこにある。
沼澤 それって、すごい稀な例じゃないですか。
看板がいるようで、いないみたいなバンド。
こんなバンド、あとにも出てこない・・・。

リードボーカルもいて、自分たちの曲もあって、
自分たちのアルバムを出していて、なおかつ、
エリック・クラプトン、ニール・ヤング、
ボブ・ディラン、ニール・ダイヤモンド、
マディ・ウォーターズ、
そういった、すでに音楽の世界で
ほんとうに有名な人たちが、
「俺と一緒にやってくれないか?」
って言った、こういうバンドはいないですよ。

たとえば、
「あのベースとドラムがいいから来て」
ってことは、よくあるけど、
自分たちの作品もアルバムもちゃんと出していて、
しかも誰かの後ろでもできるっていう
The Band みたいなありかたは、ありえない・・・。

リードボーカルが4人いるのに、
しかも誰かが入れるんですもん・・・。
裏方から音楽をはじめたから、なんでしょうね。

メンバーの全員が歌をうたえているというのは、
他の楽器のことを、すごくわかっているんだろうな、
って、ぼくは思うんです。
「自分のメインの楽器はこれだけど、
 ボーカルもやっていると、
 自分の楽器以外の楽器をやっている人が
 何をしてほしいかが、わかる
」という・・・。
糸井 自分の分野で言うと
コピーライターが絵を分かんなかったら、
コピーもだめですもんね・・・。
逆に、絵を描く人も、そうだし。
ちがう分野もできる人どうしが組まないと、
アイデアが、ふくらまないから。
沼澤 それは、そうかもしれない。
「この人には、話が通じる」
「この人には、わかってもらえてる」
それを知ると、
「じゃあ、この話は・・・」って。

そうじゃなかったら、ぼくがイトイさんに、
スティーヴ・ジョーダンの
ドラム教則ビデオ、渡さないですよ。
「ドラムもやらない人に」って話ですし。
糸井 ぼくみたいな、
「ドラムって、棒、2本だっけ」
みたいな人にねぇ(笑)。

沼澤 「これ、見た方がいいよ」って、
一緒にたのしめない人には言いませんもの。
伝えたい人がいるから、言うわけじゃないですか。
糸井 沼澤さんが前に言ったことで、
すごいなぁ、と思ったのは、
「ドラムでは、ほとんどのことが
 既に、やり尽くされているんです。
 だから、過去の資料を調べるのは当然だし、
 興味のある人のところに、習いにも行きます。
 自分のやったフレーズを、
 『おまえ、いま、それ、どうやったの?』
 と聞かれても、ぜんぶ説明できるんです」
という言葉なんです。

沼澤さんは、
「誰にもマネできない価値を持ってる」
とは言わないわけじゃないですか。
すごい度胸の要るセリフだと思うんです。
一見、「何も作っていません」と聞こえるから。

だけど、沼澤さんの言葉をよく聞いてみると、
つまり「自分独自の言語はない」って話なんです。

「ヘネレペ!」って言葉を急に言っても、
その「ヘネレペ」は、誰にも通じないんですよ。
やっぱり、「どうよ」でも何でもいいから、
誰かが一度は使った言葉じゃないと、
言葉って通じないですからね・・・。
沼澤 あぁ、自分の言葉を、
またイトイさんに翻訳してもらっちゃった!

たしかに、そうなんです。
こういうもの、ああいうもの、
っていうブロックが、いくつかある。
それの、組みあわせで・・・。
糸井 料理でも、味噌も魚も、
自分でその生きものを
作ったわけではないのと、同じですよね。
だから、沼澤さんが、
「自分は学んで、それを組みあわせる」
って言っているのは、そのとおりだと思う。
自分で何かを発明できるとか思ってるうちは、
どの分野でも、何か、あやしげなんですよ。
沼澤 (笑)
糸井 「いままでに、なかったもの」とか、
平気でみんな、言いがちじゃないですか。
「なかったもの」なんか、有り得ないんだけども。
沼澤 有り得ないですねえ。
糸井 ただ、表現に触れた時に、
「・・・うわぁ、なかったものじゃないか!」
って思う、その瞬間を作ることだけはできる。
沼澤 一瞬、そういうふうに思わせるってことですか?
糸井 言葉で言うならば、
伝え方やニュアンスが違うから、
違う感動があるという・・・。
沼澤 それ、ドラムも一緒ですね。
同じことを言っていても、
「何でこの人が言うと
 おもしろいわけ? ずるいじゃん」
ってことがあるけど、それってもう、
その人の持つ空気や、見てくれだったり・・・。
糸井 うん。それが「価値」ですよね。

声でも、骨格に響いて声が出る。
その骨格を変えただけでさえ、
同じ分量で同じ言葉を発しても、
響きかたが違うわけで・・・伝わりかたは違う。

それぞれの人が今まで生きてきたぶんだけの
ゆがんだカタチをしているんですよね。
それぞれの、その響きじゃないと、
だめなんでしょうねぇ・・・。
沼澤 ドラムで言うと、
「ジェームスブラウンの
 この曲のあそこは、こういうスネア」
「あそこを叩く音は、たぶんこういう材質の
 これくらいの皮を張ったやつだろうなぁ。
 それで、このぐらい響いていて、
 スネアのこの部分を叩いている音だな!」
ぼくやぼくの知ってるドラマーは、
そういうところを、異常なまでに分析するんです。
糸井 おもしろそうだなぁ。
沼澤 「待てよ、これは左手がこうなってる時に、
 右手がこう動いているハズだ」
「スティックのあそこで叩いてるよ」
・・・できるかぎりおなじにしてみよう、
と、聴いたあとに、やってみるわけです。
叩く強さ、楽器の大きさ、皮の薄さ・・・。
ひとつずつ、めちゃくちゃ研究してみる。

それが、ぼくにとっての、
「資料をあたる」ってことなんですけど、
自分でやってみると、きっとどこかが違う。
糸井 おぉー。
沼澤 いま、イトイさんがおっしゃった
その人ならではの響きっていうのは、
「研究と技術があってのことだけど、
 自分がやるおかげで、もとの人には
 なかった風になったらいいなぁ」

ということには、すごい夢を描いているんです。
糸井 うんうんうん。わかる。
沼澤 そこが
「パクった」と「影響を受けた」の違いで。
「マネじゃん」って言われる人と、
「この人はジョン・ボーナムの影響を受けてるね」
っていうのは、すごい紙一重じゃないですか。
正確にコピーができてこその「影響」ですから。
  (つづきます)


第4回 バンドの終わり。

沼澤 The Bandの人たちに関しては、
「知ってはいたけど、
 こんなにすごかったっけなぁ」
って、最近、特に感じるんです。

前にThe Bandはスゴイって
コラムに書いた時、
「DVDが出たらなあ」
って言っていたぐらいでした。
まさか、ほんとに出るとは思わなかった。

ぼくがすごく信頼している
ローディーのひとりは、
(※ローディー:
  楽器のセッティングや、音質の調整をはじめ、
  ミュージシャンから、様々な相談を受ける人)

The Bandのフリークで・・・。
糸井 The Bandって、一見、地味じゃないですか。
でも、音楽フリークやバンドフリークに、
好ましいと思わせる何かがあるわけで。
沼澤 絶対、そうですよ。
頭脳明晰な大人が真剣にロックをやると
こういうことだ
と。おそろしい・・・。
糸井 『ラスト・ワルツ』って、
ロックってガキのもんだと思ったら
おおまちがい、っていう作品ですよ。
とにかく奇跡のような映画で、
奇跡のようなコンサートなんですよね。
オトナの実力って、こわいなあ。
沼澤 The Bandの人たちが
こんなにうまいんだっていうのを、
ぼくは、あとになって知ったんです。
前は、全然そんなふうに思ってなかったの。
糸井 わかります。
何て言うか、きれいにできた建築を見ても、
すごいけど、素直に好きとは言えないというか。
最初は、ぼくもそうだったと思う。

でも、The Bandとぜひ演りたいっていう、
ニール・ヤングみたいな
ハチャメチャな人がやってくるわけで。
沼澤 ええ。
このライブも、曲を演奏しない間に、
ひとりひとりすごいアーティストが出てきて、
The Band と、ちょっとした
やりとりをするところが、イイですよね。
糸井 すごい・・・。
舞台の前には、
ふつう、楽屋で会ってると思うんですよ。
だけど、舞台で会う時と楽屋で会う時は、
きっと顔が違うんですよね。

特にニール・ヤングのゴリラぶりを
好きだったぼくには、たまらない映像。

ニール・ヤング、とにかく、
客に背中向けっぱなしだったもんね。
沼澤 ニール・ヤングは、
いちばん、おもしろかったです。
ステージに出てきて・・・。
糸井 怪しく入って来て(笑)。
沼澤 The Bandの人たちとしゃべって、
「俺はほんとに、ここにいられて最高!」
みたいな・・・。

翻訳には出ていないんですけど、その後、
「それはこっちのセリフだよ。何言ってんだよ」
みたいなことを、ロビー・ロバートソンが
ニール・ヤングに、言うんです。
糸井 ほー。
沼澤 その一連のシーン、いいですよね。
糸井 ニール・ヤングと一緒にやっても、
The Bandは崩れずに・・・
逆に、ニール・ヤングのほうは、
The Bandの良さを思いっきり吸い込んで、
もっとキチガイになってますよねえ。
沼澤 そのすごさがあるんだと思う。
クラプトンがThe Bandと組んでもそれだし。

だから、ぼくも焦って、
いろんな人たちがThe Bandに頼んで作った
アルバムを、ぜんぶ、買いはじめたんです。

「こんなすごいのを、知らなかった!」
・・・もっと知りたいと思うじゃないですか。
糸井 体系化したくなったんだ。
沼澤 はい。それでいろいろ聴いたら、
「うわぁ、こんなことやってたんだ?」って。

なんで、グレイトフル・デッドが
The Bandと一緒にライブアルバムを出すの?

マディ・ウォーターズが
The Bandと組んだアルバムも、
他のアルバムに比べて、ぜんぜん泥臭くない?

・・・すげえ、って驚いたんです。

『ラスト・ワルツ』も、
背景を知るとさらにだけど、こんな気持ちで
音楽やったり映画撮ってる人、今はいないです。
いるのかもしれないけど、ぼくは、知らない。
糸井 『ラスト・ワルツ』に出てくるゲスト、誰一人、
祭りごとだからって、手を抜いてる人がいない。
沼澤 きっと、
「頼まれた仕事をやってるんだ」
っていう人が、一人もいなかった
んでしょう。
糸井 ゲストのミュージシャンの全員が、
「いちばんのステージをやろう」
と思ったんじゃないですか?
沼澤 「好きなバンドが解散するんだって?
 じゃあ俺も行こうかな・・・」
っていう、ただ、それだけで集まった。
糸井 大葬式。
沼澤 そうですよねぇ。
糸井 やっぱり、終わりの時に
ぜんぶがわかるんだね、なんでも・・・。

沼澤 このあと、メンバー、
それぞれ、みんな何かをやるんですよね。
でも、だめで・・・。
糸井 それをぼくらはいまは知っていて、
そう思いながら見ると、切ないんですよ。

メンバーがしゃべっていることは、
もう、グルグルまわっているけど、
ひとり醒めていたのがロビー・ロバートソンで。
沼澤 それは、なぜそうかと言うと、
実はこの解散ライブの直前に、
ロビー・ロバートソンと彼のマネージャーの
ふたりが、The Bandの権利を、
法律的に彼らだけのものにすることに
成功しちゃったんです。
糸井 ほぉー。
沼澤 「超裏切りの図」のあとなんですね。
みんなでやったことなのに、
ロビー・ロバートソンが、The Bandの
印税から何からをぜんぶ自分のものだけにする、
それを弁護士とやって、成功しちゃった。

それで、他の連中が、
「そんなもんやってられるか!」
ってなったけど、
「じゃあ最後にこういうことをやろう」
と解散コンサートになっちゃったんです。

そしたらみんなが俺も出してくれって言って、
一緒にやりたい人が全員ここに出てきたんです。
「終わっちゃうんだったら」って。
糸井 現実というものの
すごい深みと広さを感じる・・・。
沼澤 ・・・本人たちの意志とは別に、
すばらしいライブだったというところが、
また・・・演奏はすごいし、音もすごいけど。

撮影にしても、ものすごい考えてるもん、これ。
「運がよくてぜんぶ7時間で撮れてよかった」
と監督が言ってましたね。
糸井 マーティン・スコセッシ。
おそろしい仕事って、何かしら、
そういう、「運のよさ」がありますよね。

ライブを映画で撮るって、
撮り直しはないんだもんなぁ。

現場で演出できない分を
ぜんぶ言葉でカメラたちに指示したと、
特典のメイキングで、
スコセッシが語ってますね。
沼澤 台本をタイプで打ってる時なんて、
もう、笑いが止まんないと思うんですよ。
糸井 でしょうねぇ・・・。
沼澤 実際は、すごい、大変なんでしょうけど。
  (つづきます)


第5回 ホンモノの技術。

糸井 『ラスト・ワルツ』のThe Bandの演奏、
どんなに緊張していても、
ギターを弾く指は緊張しない・・・技術がすごい。

「このDVDを見た気分で、
 若い子が文化祭とかをやったら
 いったい、どうなるんだろう?」
とか、ぼくなんかは、思っちゃうんです。
沼澤 いまの20代の連中、すっごいですよ。
ニール・ヤングも、バカ受けしています。

ぼくが、ぼくのローディーの子の誕生日に、
ニール・ヤング写真の入った自作のTシャツを
スッと出したら、「着れません、飾ります」とか。
ニール・ヤングは、
いまの若い音楽好きの子たちの教祖ですよね。
糸井 ニール・ヤングは不滅ですよ。
ジム・ジャームッシュの映画とのつながりでも
あの人は、ほんとうにおもしろいし。
(※ニール・ヤングは、
  ジャームッシュ監督の作品の中で、
  『イヤー・オブ・ザ・ホース』で主演、
  『デッドマン』で音楽を担当している)


それに、
「さすがおいらのニール・ヤングだ」
と思うのは、「ディーボ」っていう
テクノのバンドのプロデューサーを
同時にしていること、なんですよねぇ。

あんなに素で生きてるみたいな人が、
実はテクノとつながってるのもすごいし・・・
そもそも、ぼくがモノポリーっていうゲームを
あんなに一生懸命、はじめた理由は、
「ニール・ヤングがモノポリーを大好きだ」
って聞いたからなんですよ。

ニール・ヤングやその周囲を好きだった時代に、
ぼくにとって、いろんな分野の作品が
ホンモノかニセモノかを区別する方法は、
もう、わかった気がするんです。

「これ、他の誰かでも、できるじゃん」
っていうつまんなさが嫌で、どの分野でも、
「とんでもない人だけが好き」という・・・。
沼澤 そうか・・・
糸井さんはもう、ニール・ヤング小僧なんだ。
糸井 もう、ほんとにそうです。
沼澤 おととしのフジ・ロックに
ニール・ヤングが来た時も、若い人が熱狂して。
いま、若い子たちがウッドストック化してるんで。

いまの10代後半から20代の人たちは
みんな、自分たちで、70年代みたいなことを、
そのまま、やろうとしているんですよ。

このあいだ、幕張のイベントとかに
チョロッと出かけたりしたら、もちろん、
40代の人もほんとに少しだけいるのですが、
若い子たちが、飲みものは分けあうし、
踊っていると何かアメ玉をくれたり・・・。
もう、すごい、そういう感じなんです。
糸井 あったよなあ、そんな感じ。
沼澤 そこに、3万人が軽く集まってますからね。
照明からロウソクから・・・
ボランティアに近いかたちで
ものすごく大きなイベントが成り立っていて。
そこに子どもたちがワーッて集まっている。
いいですよ、いまの20代って、すごく。

みんな、The Bandみたいなの好きだから。
いわゆるスタイリストとか、ヘアメイクの子とか、
帽子職人の子とか、そういう関係のみんなが、
やっぱり、ジミヘンなり、そういうところから、
いまの音楽までぜんぶ聴いていて・・・。

マイルスも、サンタナも
その子たちのCDコレクションの中に入っていて、
ぼくらの髪の毛を楽屋で作ってる時には
そういう音楽を聴いて、みたいな。
糸井 もう1回、同じ時代を再現してるわけ?
沼澤 その時代のミュージシャンの姿を見て、
若い子は「すごいピースフルだ」と感じて、
やりたくて、やってることなんですよね。

音楽の世界では、いま、そういうところに、
めちゃくちゃ、エネルギーが集まっています。
「何? この盛り上がり」って・・・。
それは、見ていても、おもしろいですね。
糸井 集まることの中にも、
いろんな意味が入って来るし。
沼澤 ぼくらもそういうところに演奏で出るわけですよ。
音楽も、もちろん違いますけど。
そうすると若い子たちが、
もちろんぼくらの方が年上だってわかってるけど
ぜんぜんタメ口だし、サイッコウとか言う・・・。

「この子たちはこの後、
 どういうふうになるのかな?」
とかいうことにも興味があるけど、
いま、とりあえずすごい盛り上がってますよ。
糸井 そうか、じゃあその子たちが、
この『ラスト・ワルツ』のDVDを
買っている可能性は、すごく高いんだ。
沼澤 はい。だからこそ、
みんな、ニール・ヤングが大好きで。

他の年の
フジ・ロックの出演者たちを見ても、
エルヴィス・コステロ、
スティーヴ・ウィンウッド、
イギー・ポップ、パティ・スミス・・・。
糸井 何か、音楽史の年表を見てるみたいだねえ。
沼澤 そこに来るのは、みんな子どもたち。
もちろん、いま流行ってるバンドも出るけど、
外国から来るそういう人たちって、
彼らにしてみれば、ルーツロックですよね。

「いろいろ聴いてるし、
 流行りものもいろいろあるけど、
 ルーツはかっこいいよね」
と思ってる子どもたちでしょう?
だからもちろんレゲエも好きだし、
ルーツレゲエも好きだし・・・。
ぼくが見ていると、
そういう動きが、おもしろいですね。

・・・それにしても、いま一緒に見てる、
『ラスト・ワルツ』の特典映像の
マーティン・スコセッシ監督の話、すごいなぁ。
糸井 うん。
一発撮りで、つまり現場で演出できないぶんを、
ぜんぶ、言葉で指示しとくわけですよね。
沼澤 そう。
Aメロっていうところがあって、
その時にこのカメラの動き方のコメントとして、
「as tight as possible」とか書いてある・・・。
リハーサル、やってないわけだから。

「カメリハ、何回やれば済むんだろう?」
という状況になりがちの日本の音楽界とは、
ほんとにずいぶん違います。

カメラの動きを試すためだけに
何度も演奏させられたりすることは、
もう、平気でありますから。

こちらとしては、真剣に演奏するんだから、
「リハーサルだから、軽くこんな感じで」
みたいなのも、イヤですからね。
毎回、一生懸命やるわけです。
それで何回目かに本番があるんですけど、
リハーサルの時にあれだけやったことが、
しっかり映像に反映されていないこともあります。
糸井 要するに、
「ただ一通り映ってる」ってやつですか?
沼澤 「ここで何であの楽器に行っちゃうわけ?」
みたいなことが、別に自分の映っていない
音楽番組を見ていても、よく見受けられて・・・。
糸井 スコセッシの準備の技術も、すごいよね。
沼澤 このまえ、小沢征爾と武満徹の
『音楽』ってタイトルの本を読んでたんですよ。
すっごいおもしろかったのが、
「尺八や琵琶は、いわゆる西洋的な
 平均率(ドレミファソラシド)では教えない」
っていうところなんです。

そういう楽器の師匠は、弟子たちに
「ヴンヴヴヴ(尺八の音の真似)」とか言って
クチマネで教えるんだけれども、
弟子は音階のなかで理解したがってしまう。

尺八の音色に平均率が聞こえすぎる・・・。

「師匠は、言葉で教えるわけだから、
 弟子がよくないと、伝わらないよね」

というような対談が続く本なんですよ。

「習ったことを修得する時、
 どうやって修得するかによって、
 伝統の受け継がれかたの地金が出てくる」

みたいな話に、なるほどと思ったんです。
糸井 なるほど。
中国の書道の教室なんかは、
完全に指の運動ばっかりしてるらしいですよ。
思ったイメージを伝達するマシーンとして、
ちゃんと、手を鍛えておく
、という。
沼澤 へえ、すごい。
やっぱり技術がないとダメなんですよね。
糸井 そうなんです。技術なんですよ。

沼澤 インドに、タブラっていう
指で叩く太鼓があるんですけど、
あの楽器を演奏する人の現地での修行は、
1個の叩き方でいい音が出るまで、
何年間も、ずっと、やらされるんだって。

指だけで演奏する打楽器なんで、
指と手のひらで、ひとつの動きを練習する技術を
何年もやらされるんだって。
ある水準の音を出せるまで・・・。
糸井 きっと、それこそ、
「指に、ある神経が通るまで」なんだね。

・・・そういえば、
手で叩く楽器を演奏する時の薬指の立場って、
ものすごくおもしろくない?
沼澤さんは、あの薬指を、どうイメージしてるの?

薬指ってことについては
「苛立った」とか、「あってよかった」とか、
いろいろな思いがあるような気がするんですよね。
沼澤 ぼくらの場合は、小指よりも薬指が
スティックに触れてる時間が、多いんです。
薬指、かなり使いますねえ。
糸井 そんなことさあ、
教室でも薬指としては教わらないんでしょう?
沼澤 いや、もともと、
ぼくはアメリカでドラムを学んだ時、
先生には、自分から話に行ってるんです。

結局ぼくの先生たちも、アメリカ人ですから、
習う気がないヤツには何も教えないんです。

宿題やって来なくて怒られるのが日本ですけど、
アメリカは、宿題をやって来なかったら、
自分が単位を落としたり卒業できなくなるだけで、
「・・・それでどうするんだ? おまえ?」
っていうのは、誰も何も言わないですから。
糸井 技術の学び方って、そういうことですよね。
沼澤 だからぼくは、
教えてほしいって言いに行きました。

その先生が太鼓の上にひとつ音を出した時、
ぼくはアメリカについてから初めての授業で、
「何でこんないい音すんの? この人!」
と思えたんです。

彼は、学校では
そんなに人気のある先生ではなかったけど、
「なんであんなにいい音がするんだろう?」
と思った時に、ぼくは先生のところに行って、
「そういう音にしたいんですけど、
 どうやるんですか?」って言ったら、
彼のクラスに来い、ということになったんです。

「おまえ、ほんとに習いたいんだろ?」
「・・・だから、海を渡って来たんですけど」

まだ英語をぜんぜんしゃべれない時の、
そういうやりとりから、はじまるわけですよ。

で、ぼくの音や言葉を聴いているうちに、
「おまえは、習いたいらしいじゃん?」
ってことになる。

「ここをこういうふうに持って、こう叩いてみろ」
そういうとこから、まず、はじまるわけですよね。
「これを、こうなるまで、やってきなさい」と。

次の週、気合いでやっていくわけですよ。
そうすると、
「オレは、そこの角度がちょっと気に入らないなぁ」
「え、お手本とぼくと、どこがどう違うんだろう?」
そういう教え方なんですけどね・・・。
  (つづきます)


第6回 抱えている背景。

糸井 こないだ、沼澤さんの
好きな音楽を教えてもらった時に、
「俺が好きな文章の系列と、同じだ!」
と思ったんです。
沼澤 前にぼくが、
「ジェームス・テイラーがどうのこうの」
という話をした時、糸井さん、すぐ、
「ダニー・クーチマが好きなんですよ」
って言ったじゃないですか。

(※ジェームス・テイラーと
  ダニー・クーチマは幼なじみ。
  シンガーソングライターの先駆け(テイラー)
  最高級のスタジオ・ミュージシャン(クーチマ)は、
  ともに有名になる前にバンドを組んでいました)
糸井 ギターも、そうなんです。
好きな系列は、似てくる・・・。
沼澤 ぼくにとって、妙な言い方をすると、
「その見方、正解!」みたいに思うんです。
それで、ぼくはうれしくなっちゃって。
糸井 忘れてたけど、間に、
ダイアー・ストレイツなんかもいますよね。


(※ダイアー・ストレイツは70年代後半にデビューし、
  ボブ・ディランに認められて以降ブレイクしたバンド)
沼澤 いま、それを聞いて、
自分のドラムの先生の息子でもある、
ジェフ・ポーカロを思い出すんです。
彼はダイアー・ストレイツのアルバムを
やってたりするんですよ。

ぼくはジェフ・ポーカロに捧げて
ソロアルバムを作ったんですけど、
そうやって、好きな音楽ってつながりますよね。
さきほど糸井さんが、
「田中小実昌が好きという人とは、
 ともだちになれる感じがある」
とおっしゃったのと、
音楽の話で盛りあがるのも、一緒ですね。
糸井 つながっちゃうんですよね。
「そう言えば、その系列のやつって、
 俺、前から気になってたのがあった」とか。

そういう流れでThe Bandを聴くと、
『ラスト・ワルツ』がものすごくて・・・。
沼澤 しかも、背景で裏切りがあったわけで。
この人たちが、なんで解散コンサートを、
こういう風にやっているのかをあとで知ると、
余計にびっくりするんですよね・・・。

The Bandのドラマーのレヴォン・ヘルムは、
このライブのことを最低だって言うわけです。
「こんなもん、ただの商売道具で、
 俺らはやらなきゃいけないからやっただけだ」
「ぜんぜん、何とも思っていないね」
みたいなことを、
音楽雑誌で、ごく普通に語っていたりする。
糸井 そうとう意識的にしゃべってますね、それは。
沼澤 ほんと。
みんなが
「ラストワルツ、ラストワルツ」って騒いで、
ビデオだけじゃなくてDVDの方も出て、
ロビー・ロバートソン(The Bandのギター)が
日本に来て、タワレコでトークショーやる・・・。
そういうのを、他のメンバーたちは、
「俺らは別にそんな気でやっていないね」
みたいな。
糸井 正直言って、ロビー・ロバートソンの
その後のレコードって、
ぼくには、おもしろくないんですよね。
軸が抜けちゃってるみたいな・・・。
沼澤 ええ。
おもしろくないです。
The Bandの人たちと
一緒じゃないと、ダメでした。
糸井 リーダーなんでしょ? ロビーって。
沼澤 このDVDで、リーダーだっていう
風情を出し過ぎているのは、他の4人と
めちゃくちゃ対立している証拠
なんです。
糸井 The Bandの音楽的リーダーは、
あのキーボードのヒゲですよね?
沼澤 ガース・ハドソン。
彼は最初、"The Band"のコーチに来てくれ、
と言われた人なんです。

あの人はものすごい博識な音楽家で、
ハーモニーだなんだと知識のある人で、
もともとは、プロデュースをしにきたんです。
ツアーとかもサポートみたいに入っていたのが、
そのまま、メンバーになっていった・・・。
だから、ガースだけ、歌をうたわないんです。

いまのガースは、すごいですけどね、もう。
最近も、ソロアルバムとか出してるけど、
わけがわかんない・・・
現代音楽みたいになっています。
糸井 そっちに行ったんだ?
沼澤 現代音楽ロック、みたいな。
糸井 ふーん。
The Bandの、
「前に見えないのにキャラがそのままある」
という特色で言うと、
『プラネットウェイブ』というディランのアルバム。

(※全編ラブソングのこのアルバムをもとに、
  ボブ・ディランとThe Bandは全米ツアーを行う)


あの中でのThe Bandに、
ぼくは、最初にぶっ飛んだんですよ。

沼澤 そこでですか?

ディランとThe Bandの宅録の
『ベースメント・テープス』よりも?
糸井 うん。
沼澤 たしかに、音も、
『プラネットウェイブ』はいいから、
「やっぱり」って感じもするけど。

ディランと、はじめて組んだのは、
『ベースメント・テープス』で、
その直前に大ケガをしたディランが、
ケガを治しながらやっていたんですよね。

そのあとに、The Bandの
『ミュージック・フロム・ビック・ピンク』
が出て、
「おい、このバンドはなんだ?」
となって、それでクラプトンが、
「俺を、このバンドに入れてくれ」
と言いだして・・・。
糸井 そうらしいですねぇ。
沼澤 The Bandのギタリストの
ロビー・ロバートソンに、クラプトンが
「俺を入れて」って言うのがすごいですよね。
ロビー・ロバートソンからしたら、
「俺をクビにして入れろってこと?
 それとも一緒にやるということ?」っていう。
糸井 入っちゃってたら、
おかしかっただろうなぁ。

沼澤 クラプトンが作ったバンドって、
はじめのころは、
すごいThe Bandっぽかったですからね。
しかも、クラプトンのアルバムの中で、
The Bandがやっているのも1枚ありますし。
糸井 それ、知らなかったなぁ。
沼澤 めちゃシブい。
すばらしいアルバムですよ。
『No Reason to Cry』っていう。

糸井 あとさあ、The Bandで
ロックンロールばっかり集めた
1枚があって・・・いいんだよー。

『Ain't Got No Home』って曲が
最初に入ってるんだけど。
ロックンロールみたいなのばっかり
カバーしてるアルバムなんです・・・。

(※のちに調べて、このアルバムは、
  The Band『ムーンドッグ・マチネー』
  であるということが判明しました)


あ、そうだ、沼澤さんが
「The Bandって、
 ロックと言えばアメリカかイギリスという時期に、
 ほとんど全員がカナダ人で、
 ひとりだけ、レヴォン・ヘルムっていう
 アメリカ人がいるという編成
だったのがスゴイ
と言った、あの視点も、おもしろかったです。

つまり、女形っていう存在がありますよね?
ちょっと、それに近いものがあると思いました。
沼澤 なるほど。
糸井 男なのに、女以上の色気を出すからには、
「女っぽい魅力って、何だろう?」
と、ひとつずつ学んで再現できる人じゃないと、
芝居をできないわけで・・・
だから、女形は、女以上に女になるんですよ。


そこをこの The Bandにあてはめると、
ほとんどがカナダ人だから、
アメリカ以上にアメリカの音楽になる。
沼澤 あの人たちは、
アメリカ音楽をやりたくて
しょうがなかったみたいですね。
糸井 そこが、強さですよ。
沼澤 バンドメンバーとの出会いも、
レヴォン・ヘルムがアメリカで入ったバンドが、
カナダにツアーに行ったことがきっかけで、
「こんなミュージシャンが、カナダにいるんだ!」
と、どんどん、カナダ人たちが雇われていく形で。

ひとりずつ、順番に入っていくんですよ。
ロビー・ロバートソンが入ってきて、
リチャード・マニュエルが入って、
で、あのメンバーが揃っていった・・・。

バックグラウンドって、
おもしろいものだなぁと思います。
『NOTHING BUT FUNK』
(※沼澤さんが参加しているバンド)
ギターをしてるジュブ・スミスって、
あのメンバーの中で、
ひとりだけすっごい若いんですけど、
誰よりもおやじくさい。

ジョークや話しっぷりがおじいちゃんみたいで、
若さを出すことと、
熟練していっぱい音楽を知った
ベテランギタリストみたいなことと、
両方ができる、すごいめずらしいタイプで・・・。

「俺もこれだけたくさん音楽を聴いてきて、
 音楽を知ったつもりでいたけれど、
 おまえの弾く、そういうギターのフレーズって、
 聴いたことがないんだよね?」

みたいに訊ねたら、
そういう曲のルーツは、ぜんぶ、ゴスペル。

元になってる歴史的な宗教音楽を
弾いてもらったら、
ものすごく美しいのですが、彼は、
「これは、おばあちゃんが、うたってくれた歌」
と言ったんです。

彼のバックグラウンドは教会にあって、
小さいころから、毎週日曜日に、
ゴスペルの母体になっている音楽を
ギターで演奏し続けていた男なんです。
だから、そういうフレーズを弾ける。
糸井 スゴイ。

確かに、他の分野でも、
聖書のコンセプトで、
ずいぶん物語を作ることができるし、
絵画も、神様をあらわすための技術から
はじまっているわけで、
「天」とつながるものは、
芸術の原石みたいになっているんですね。
沼澤 ええ。
それで、彼の弾いてくれた美しい曲を
聞きたいから、紹介してもらって、
メモして、CDショップを捜しまくったけど、
ぜんぜん、見つからないんです。

タワーレコードに行っても
ゴスペルなんてバーッとあるのに、
彼が言ったのは一切なくて。

それで、「全然ないよ」って
ギタリストにもう一度訊いたら、
「これは俺らが住んでるところの、
 地元の何とか町の地元の、
 タワーとか新星堂とか山野楽器とか
 そういう大きいショップじゃなくて、
 『その町でアルバムを買うっていったらそこ』
 みたいな、傘屋さんと合体してるみたいな、
 そういうところに行けば、
 ぜんぶCDになって売っている」って・・・。

要するに、そこに行けば、
他のところにはないCDが売ってるんです。
糸井 へぇー!
それを「ほぼ日」で紹介したいぐらい。
沼澤 いいですねぇ!
そういう曲、ぼくら、いくらでもライブやるし。
糸井 沼澤さんのやってるバンドだと、
そうとう、スタジオ料とか安いでしょう?
早く終わりそうだから。
沼澤 ええ、ぼくたちは、
演奏能力と録るエンジニアの技術
キーだと思ってるので、
1日50万円のスタジオに行かなくてもいいんです。
『J&B』で録った時も、3日間でやりましたから。
しかも、ぼくのとこの事務所のスタジオを借りて。
糸井 じゃあ、もしかしたら、
「ほぼ日」でCDも出せちゃうかもしれないんだ?

低予算ですごい技術で作って、
ほんとうに聞きたい数千人や数万人に届ける。

それって、インターネットがあれば、
できないことも、ないですから・・・!
(※この後も、ふたりの話は、盛りあがりつつ、
  夜更けまでどんどん続いていったのですが、
  今シリーズは、これでいったん、おわりです。
  
  現れるたびに、何かを一緒にしたくなるドラマー
  沼澤尚さんの、またの「ほぼ日」の登場を、
  どうぞ、たのしみにしていてくださいませ。
  ご愛読、どうもありがとうございました!)