Drama

第1回 井上陽水という、ほんとはいい人。





<はじめに>
今日からの新連載です。どうぞよろしく。
ドラマーの沼澤尚さんとdarlingの対談をお届けします。
奥田民生さん、山崎まさよしさん、スガシカオさんをはじめ、
いろんな人と組んでドラムを叩いてる沼澤さんを、
今年の夏に行われた『Beautiful Songs』の演奏で
見かけたよ、という方も、いることだと思います。

沼澤さんは、ドラムでアーティストを応援するし、
darlingも、コピーによって商品を応援してきました。
応援というかたちの表現や伝達の共通項があるせいか、
初対面だけど、けっこう意気投合したんだよ。

「ともだちと組むこと」などについて、
ふたりの対談は進んでいきますので、
ぜひ、今日からの連載を楽しんでみてね。

第1回は、ふたりの共通の友人である
井上陽水についての話から、はじまるよ。
徐々に、そうとう熱くなってゆくので、
今日はまず、のんびり読んでくださいませ。

では、本文をどうぞ。




沼澤さんは最近、ドラマーとしての本を出した。
詳しくはこちらの「担当編集者は知っている」で。



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糸井 俺、山崎まさよしが気になるなあ。
いいよね。詩が残るというか・・・。
あの感じは、真似して作ろうとしても
ぜったいにできないものですし。

あとで「自分が歌えるんだ」っていう自信を
持って詩を書ける
シンガーソングライターは、
ものすごく有利だと思います。
「俺があとで歌って何とかしてやる」
という立場で詩を作れるから。
井上陽水なんか、典型的にそうだもん。
自分があとで歌えるという自信があるから、
ああいう解釈さえ難しい詩を、
平気で書ける。
沼澤 山崎のコンサートをはじめて聴いた時には、
陽水さんに一番最初に出会ったのと
ちょうど似たような印象がありました。
山崎がギターを持って立っている姿が、
めちゃめちゃ面白かったです。
歌と声とギターが一緒になっていて、
彼がギターを弾いているからこそ
成立しているようなところを、
ものすごく感じまして・・・ただ、
山崎のギター、めちゃめちゃうまいですよ。

陽水さんの場合は、ギターがどうこうというより、
そういうものはもう超えちゃっていて、
あの人の場合は、何というか、もう・・・。
ぼくらがああだこうだって言っているレベルと
あまりにも違うところにいる人だから。
糸井 その話、陽水が聞いたら、
よろこぶだろうな〜(笑)。
沼澤 そういうふうに思ってる人は、
いっぱいいるんじゃないかなあ。
糸井 ま、陽水の場合は、そのほめ言葉が、
そのまま伝わらない耳を持っていますから。
沼澤 (笑)ぼくもあんまり、
お会いしてても、つっこまない。
糸井 だって・・・ほめにくいでしょう?
沼澤 「すごいですね」って言っても
しょうがないってところがありますから。
糸井 「・・・ああ、そう・・・カッカッカ」
って言って、おわりでしょ?
沼澤 (笑)そうかもしれない。
あんまりつっこめない。
というか、聞いてくれないですもん。
「いやあ陽水さん、
 あの曲のあそこがですね〜」
って言ったとしても・・・
糸井 「・・・ところで君、その髪はどうなの?
なんて明後日(あさって)なことを言うもんね。
沼澤 (笑)ほんとに、そう。
ぼくはこの前、イベントで
陽水さんに十年ぶりにお会いしたんです。
「陽水さん、ごぶさたしてます」
と真面目に挨拶をしたら、
「いやあぁ・・・元気そうでぇ・・・」って。
糸井 (笑)。
沼澤 「ほんと十年ぶりです。ごぶさたしてます」
とか言っても「・・・背、高くなった?」とか。
糸井 (笑)。
沼澤 「・・・高くなったよねえ?」みたいな。
糸井 ほら、そういう奴なんだよ〜っ(笑)。
沼澤 スガシカオ君と一緒に演った時だったから、
「今日は、スガ君と来てるんです」とか、
ある程度の話には、なるんですよ。陽水さんから、
「ビューティフルソングスやってるんでしょう?」
とか。
糸井 あの人、そういうのよく知ってんだ、また(笑)。
沼澤 「ビューティフルソングスは何本くらい演った?」
とか、普通の質問もしてきて、
ぼくがそれでまともにこたえると、
「・・・それにしても、背、高くなったねえ」
糸井 (笑)。
沼澤 あれ? 今、俺、質問にこたえたんだけど、
何でそれに対する返しがそれなんだ、って(笑)。

その時は陽水さんのバンドにぼくらが入って
セッションをすることになっていたから、
陽水さんは、歌い終わったあとも残って、
ぼくらのステージをぜんぶ見てくれてたんです。

で、終わったら、いきなりこっちに来て、
「うまくなったねえ、ドラム」
とか言ってくださったから、もう嬉しくて、
「うわあ、ありがとうございます」と言うと、
「・・・背も高くなったし」
ってなるんですよ(笑)。

ほめていただいて、
めちゃめちゃ嬉しかったのに、
最後はそんな風な返しになる。
糸井 いやあ、でもそれは、
彼としては最大のサービスだと思うよ。
沼澤 十年前に演ったきりでお会いしたのに、
結局は「背が高くなった」という話で(笑)。
糸井 そこを例えばぼくが敢えて
陽水に「どういう意味なの?」って
何度もつっこんで聞いたとしたら、きっと
「あの子は昔は、もっと小さかった・・・」
と言いたいんでしょうね。
沼澤 そういうことでしょうね。
その場でも、陽水さんの言葉を、
ぼくはそういうようにも取りましたから。
糸井 「それは、彼には伝わっているはずで、
 それをもう一回尋ねようとするあなたは野暮だ」
とか、そんな風にぼくには言うんでしょうね。
・・・あのお方は、
そんなことばっかりなんだよ〜っ!
沼澤 そうです(笑)。
何かよくわかんない雰囲気を作るじゃないですか。
でも、陽水さんの気持ちはすごく伝わりますよね。
糸井 わかる。
沼澤 NHKでの糸井さんと陽水さんの対談を、
こないだたまたま深夜の再放送で見たんですけど、
まともに聞いているとわからないあの言葉を、
糸井さんがすごく通訳してくれてるな(笑)と。

糸井さんが次の話題につなげる質問をすることで
ああ、いま陽水さんは
こういうことを言ってたのか、と
字幕なしの通訳でぼくらに伝わるというか・・・。
糸井 (笑)だからぼくも、苦労が絶えない。
・・・いやあ、嫌ではないんですよ。
不快じゃあないし、とっても好きです。
でも、それは俺が男であって、
男としての歪みかたをしてきてるから
彼の歪みかたにも共振するということですよね。
俺が女だったら、この人について行こう、
とは思わないタイプだよね。
女だったら惚れることはない、と思うよ(笑)。
ややこしいもん、頭ん中が忙しすぎる。

ぼくは、矢沢永ちゃんと喋る時と、
陽水と喋る時とは、どういうわけか、
おんなじような感じなんです。
永ちゃんは、ぜんぶをストレートに言うでしょ?
でも、そのストレートな発言は、
ぜんぶを積み重ねると、とても複雑なんですよ。
これはこれで、頭ん中が忙しい。
陽水の場合は、ぜんぶねじ曲ったことを言うけど、
根にあるものはすごいストレートですから。
沼澤
ああ、わかります。
陽水さんの場合は、伝えたいことが
すごいはっきりしてるじゃないですか。
それをこう、あのひとの表現方法で
言っているものですから、
わかったようなわからないような感じで・・・。
糸井 まあ、陽水が墓場に入った時に、
敢えて墓碑銘を書くとしたら、ぼくは、
「ほんとはいい人だった」と書いてあげたい。


(明日につづきます。ドラムの話に、徐々に移行するよ)

2000-12-04-MON

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