Drama
長谷部浩の
「劇場で死にたい」

主役のいない芝居

糸井重里さま

マンガといえば、手塚治虫。
「鉄腕アトム」をはじめとして、
「火の鳥」「アドルフに告ぐ」など、 
科学と文明の関わりについて、
子供のころ、知らず知らずのうちに、
教えられてきたように思います。
野田秀樹の「贋作・桜の森の満開の下」を見ていると、
そんな「手塚史観」
が底に流れているような気がしたことがあります。
実証的に研究するには、なかなかむずかい問題ですが。

半年ほど前でしょうか、
手塚治虫の「リボンの騎士」をお芝居にすると聞きました。
一瞬、コスプレという言葉が頭に浮かんで、
なぜ、話題作り? としか思えませんでした。
脚本が横内謙介、高校の演劇部が、
「リボンの騎士」を創作台本として上演する
そんな構想だと聞いても、
いぶかしげな気持は晴れなかった。
それには、「リボンの騎士」のちょっと
特別な位置づけもかかわっていたように思います。
手塚治虫は、主に少年マンガの
フィールドで活躍していましたが、
「リボンの騎士」は、少女マンガとして発表された。
科学と少年と未来を、手塚マンガから受け取っていた
「ぼく」にとって、
このマンガは、ジャンルのへりにあったのです。
ロマンチックで、めめしい。
愛や恋は、女の子にまかせとけば、いいんだい。
無邪気で元気な少年を期待されていた「ぼく」にとって、
「リボンの騎士」は、遠ざけたいものでした。
          *
銀座セゾン劇場に、学生を引率していって、驚きました。
おもしろいじゃないか!
「リボンの騎士」を愛読していてた少女、
池田まゆみ(鈴木蘭々)が、
このマンガによりそって上演台本を書き上げます。
演劇部が「文化発表会」で何を上演するか、
だれが主役のサファイア姫(一色紗英)を演ずるか、
裏方を誰が受け持つか。
演劇づくりにまつわるさまざまな障害が描かれます。

「熱血青春物語」
の裏側に、
無関心で氷の仮面を
つけた生徒会の人々がいます。
たぶんこのお芝居が
どこか人を
ひきつけるとすれば、
集団作業への
憧れでしょうか。
お客さんの
ほとんどは、学生時代、
ひややかな人々
だったのでは
ないでしょうか。
演劇部なんかで
遅くまで学校に
残っている連中を
「熱くなって
ばっかみたい」
と思いながらも、
どこかじぶんも
やってみたいなと横目で見ていた。
この芝居は、そのへんを、くすぐる。
キャラクターもそれぞれな部員のなかに、
じぶんの分身がいる!
あのとき、期末試験なんかに縛られないで、
みんなと一緒にお祭りをやっていたはずの、
もうひとりの私が見つかるのだと思います。

横内謙介の「説教癖」も、
この芝居ではそれほど気になりません。
鈴木蘭々は、素直な芝居で好感が持てます。
一色紗英も、器用ではないけれど、がんばっています。
このまま、あまり話題にもならないで
終わってしまうのは惜しい。
先に渡したお手紙と差し替えて、
早めに掲載していただければと思います。

糸井さんは、きっと「お祭りさわぎ」のなかにいた
子供だったのでしょうね。
私は「外」にいた悔いが今になって襲ってきています。
一例をいうと、
「バイクの後ろに女の子を乗せて
走っておけばよかった後悔」
みたいなものです。

12月18日まで。
銀座セゾン劇場は、S席はねだんがかなりなので、
学生には、ジーンズシート2000円をおすすめします。
問い合わせは、電話03−3535ー0555です。

十二月三日

長谷部浩

1998-12-04-FRI

BACK
戻る