ITOI

頭出し:電波少年的放送局の62時間。
いくつになっても、馬鹿は馬鹿。

臨時更新で、その時その時の会話をお届け!

[綾戸智絵さんがやってきた!]
<第3回 (人生の編みもの)>


糸井 試行錯誤でトライしているという感じが
なくなったよね。
綾戸 歯車が、きゅっと合いはじめた。
最初は、合ったと思ったらはずれたり、
なかなか合わなかったりしたけれど。

だから今はもう、
朝の2時3時4時まで、
「ちょっと違うわ」と思いながら
なんか試していたり、書いてたり。
それはもう、お客さんがいるからできることで
やりたいからやっていることなんだから、
努力と呼んでいいのかわからない。
苦労とも呼べないかもしれない。

確かにきついんだけど、やっちゃうんです。
糸井 きついと楽しいは、一緒なんですよ。
綾戸 糸井さんって、パソコンさわってどのぐらい?
糸井 4年半ぐらいよ。
綾戸 若いわ。
糸井 歌うたえたら、
パソコンやらなかったかもしれない。
「これだ」と思ったから。
綾戸 歌って、歌唱力の要るものもあるけど、
そうじゃないのもあるよね。
森繁さんとか、すごいなぁと思うわ。
白髪の数だけ音符が増えるというか。
いろんなことが合うと、
パーッと行くもんね。

逆に、若い頃の歌も、
「録音しておけばよかったなぁ!」
と思うことはあるんですよ。
18歳の時ぐらいの声を。

テレビ番組で
「綾戸さんの歴史を・・・」
というので、歴史って、わたしは
蘇我入鹿か、って思うんですけど、
まあアルバムとか出してきますよね。

そしたら、胸の谷間がボン!って。
あぁ、これだったんだぁ、と・・・。
糸井 でも、先のことなんか考えないのが青春でしょ?
その当時に「とっとこう」って思う女の子は、
とっておいちゃいけないのかもよ?
どうせ思い出にふけるんだから。
綾戸さんみたいな人は、
「今」で暮らしているから、録音しないよね。
録音しない人だから、そう言うんですよ。
・・・でも、まだ70歳にもなるからさ、
とっておくのは、いいかもしれないね。
それこそ、乙女の姿しばし留めん、だよ。

はずれクジがいつしか
当たりクジにひっくり返るような瞬間があって、
それがおもしろいよね。
綾戸 誰に感謝しなきゃいけないとか、
誰に文句いわなきゃとか、そういうのがないよね。
今日までのことは、ぜんぶ、
「あったから」ということなんですよ。
わたしもハズレクジ、いっぱいあった。

毛糸編みみたいなものですよね。
一個編み忘れても、あいているものとして
縫っていかないと、毛糸ならほどけるけど、
人生の編み物は、ほどけないから。
だから、編んでいくねん。
穴があると、つらい。
つらいけど、それを見ながら
どうしよう?と考えるねん。

でも、あとでその毛糸の下に
ラメを着ていると、穴のあいたところから
ラメが映えて、よくなったりして。
それが、たぶんオリジナリティなんだね。
ラメが映えておもしろいから、
ここで3つ穴をあけてみようか、とか、
そこは実際の毛糸編みとは違う、
人生の毛糸編みならではの楽しみですね。
糸井 これは若い人で
「わたしなんか・・・」
って思っている人に、聞かせたいですよね。
長く生きていると、
いろいろ、ごまかしがきくぞって。
綾戸 そうそう。ごまかしが次を作ったり。
まちがえても、ハッピーだ!と思ったら、
それは味になるわけで。
自分もたのしいし、お客さんに
悪い気持ちにさせないし・・・。
どうやって閉じていくか、なんですよね。
毛糸の最後は、自分で閉じていかないと。
糸井 説得力あるよねぇ。
いまのようなことって、
もしかして、17歳のころの
綾戸さんにもわかっていたのかなぁ?
そのへん、興味あるんですよ。

もしかしたら、
すごく大切なことって、
ほんとはどこかで知っていたかもしれない。
実はぼくは、若い頃はほんとうにバカで、
20歳の頃の自分がいたら、
「お前、ちょっとそこに座れ」
って言って説教したいぐらいなんですけど。
でもぼくがその当時になんか書いていたものを
見ると、意外といまと同じことを言っていたり。
綾戸 うわぁ・・・人間デジャブやわ。
わたしもおんなじ。
糸井 とんでもないアホなやつだけど、
案外そうでもない一面もあるので。
綾戸 なんか、生きてきたことは
積み重ねですから、
44歳ですけれども、
はずかしがらないで言うてええねんね。

いつも、20歳と20歳と4歳だよ、
って言うんですけど。
これ、うちの母親がそう言っていたんですよ。
「もう、60歳だね!」って言ったら、
「ハタチが3人いると思え!」って。
それ、いいなぁと思ったんですよ。
いただき、でした。
わたし、ええなと思ったら
すぐにいただくタイプだから。
糸井 だいたい、おもしろい人って、
「いただきかた」がうまいよね。
これは人から聞いた話だけどね、って言っても、
ごっちゃになっちゃうんだよね。
もう、本気で感じすぎていると、
それが誰が言い出したことか、
どっちの権利だ、なんて、
言ってられなくなっちゃう、というか。
綾戸 そうそう。


(※つづく)

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2002-05-30-THU
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