日野原重明先生に聞いた 健康についての大切な話。

本田 おねしょの相談にのってもらった
ようこちゃんの場合は、
子どももまだ小学校にあがる前だったけど、
おねしょシーツでも支えきれないくらいのおしっこが出て、
親も心配で、どうしていいかわからないと
ほんとうに悩んでいたのよね。
中村 小学校にあがる前だったら、
おねしょがなくなっていく途中ではあるんだけど、
いつ終わるんだろう、というのが不安なんだと思うよ。

夜泣きなんかもそうで、夜泣きのあいだ、
昨日も一昨日も一週間前も、毎晩起こされて、
ご両親ともくたくたになるじゃないですか。
いつかは終わる、何カ月かで終わるんだけど、
それが、いつ終わるんだろうというのが
不安なんですよね。
夜泣きそのものもたいへんだけど、
これがいつまでつづくんだろうという
不安が強いんだと思う。
本田 おねしょも同じなのね。
中村 そうだと思う。
夜中にたいへんということは少ないんだけど、
いや、もちろん朝から仕事が多くなって
たいへんではあるんだけど、
いつ終わるのか、わからない不安。
本田 子どもが大きくなって、
周りでもおねしょを卒業していく子が増える歳になると
さらに不安が増すということもあるかもしれない。

でも、ずっとつづいているおねしょだったら、
小学校にあがるときにまだおねしょをしていたとしても
心配しなくて大丈夫、と言っていいのかしら。
中村 そうだね。小学校の1年生では
ひとクラスに何人もおねしょしている子がいて、
そのほとんどは、時間が経てばよくなっていくんです。

それがずっとつづいているおねしょで、
昼間におしっこがもれることがなくて、
こういうものだと親ごさんが思われていたら、
そのまま見守っていてもいいと思う。
本田 2、3年生でおねしょをしているようだったら、
少し考えてみたほうがいい?
中村 もし、2、3年生になっても
おねしょの頻度が以前と比べて減ってないとしたら、
いちどはお医者さんに相談してみてはどうでしょう。
少しくふうをすることで、
おねしょの回数を減らすこともできるかもしれないから。
本田 おねしょの回数を減らすために、
家庭でできることもある?
中村 たとえば、水分の量を調節すること。
水分を摂るリズムをつくる、というのかな。

午前中はしっかり水分を摂る。
お昼からは摂り過ぎないようにして、
夕方からは水分の量をできるだけ減らす、というように
リズムをつくる。

そうすると、夜つくられるおしっこの量が減っていくから
まだ夜中のおしっこを濃くすることが
あまりできなかったとしても、
量そのものが少なくなって、
少し長い時間、おしっこを溜めておけるようになるわけ。

朝方におねしょをしている、治りかけの子だと、
それだけでおねしょがなおってしまうこともあるんだよ。
本田 水分を摂るリズムをつくるのに、
さっき話していた記録をつけるという方法も
役立ちそうね。
中村 そう。記録してみると、
意外に水分を摂り過ぎていたって
気づくこともあるよ。
本田 そういう生活面の具体的なくふうが
実際に役に立つのね。
ほぼ日 夜中に起こして、おねしょをする前に
トイレに連れていくというのは
どうなんでしょう、効果ありますか?
中村 ふとんを汚さずに済むかもしれないけど、
夜中に排尿しているのは変わらないので、
おねしょを減らすための解決にはならないですね。
睡眠のリズムも崩れてしまうので
夜のおしっこを濃縮させる抗利尿ホルモンが
きちん出るようなリズムをつくることにも
マイナスだと思います。
本田 その子の発達の程度によって違ってくる、
個人差の大きな問題であることを考えると、
小児科医に相談するのは、
その子にあったアドバイスを
受けることができる点からも、いいでしょうね。
中村 そうだね。だから、小学校の2、3年生に限らず、
本人や親ごさんがおねしょを負担に感じていたら、
相談してみるといいと思う。

とくに、学年があがったら、
学校の行事で宿泊する機会があるよね。
本田 ああ、そうよねぇ。
中村 そういうときに困らないだろうかと
心配されることが多いんだよ。
本田 小学校5年生ぐらいから
林間学校とか臨海学校とかあるものね。
中村 だから、そういう行事の前に
相談に来られることもあって。
本田 それは本人にとっても、切実な問題よね。
中村 根本的に解決するのは、
ある程度時間がかかる場合も多いから、
少し早めに相談したほうがいいんだけど、
さっき、中枢性の尿崩症の治療に使うと話した
点鼻薬があるでしょう。
あの薬は、ちゃんとホルモンが出てる人にも効いて、
あれを使うと、夜中のおしっこがもっと濃くなるんです。
だからそれを、宿泊行事のときだけ使って、
おねしょを一時的に止めるということもできるんだ。
本田 ああ、なるほど!
ほぼ日 そんなことができるんですか、それはすごい。
中村 それとは別に飲み薬を試してみることもあるしね。
みんながみんな効くわけじゃなくて、
効きやすい、効きにくいというのがあるんだけど、
8割ぐらいの子どもが、それで一時的に
おねしょを止めることができるはずです。
ほぼ日 それは勇気づけられます。
本田 ね、最後の手段にはそれがあると思えば
ずいぶん勇気づけられる。
ほんとに困ったときには、
かかりつけの小児科の先生に相談してみると
いいかもしれませんね。
中村 でも、それを使ったからと言って、
おねしょが早く治るというわけではないんだよ。
本田 そうね。
でも、いざというときにはそれを使える、と
知っていれば、気持ちも違うと思う。

きょうはどうもありがとう。
最後に、おねしょの話からそれるんだけど、
前に中村くんと話したときに印象深かったのが、
小児科に来る子どもたちに接するときに
子どものお父さんがわりのような気持ちに
ならないといけないところもあるって
言ってたじゃない?
中村 うん。小児科で、いろんな病気で外来に来る
子どもたちと接していて話を聞いてると、
お父さんお母さんの性格とか
子どもとの相性とかもあると思うんだけど、
子どもの話を、
ほんとはもっとご両親が聞いてあげないと
いけないのかなと思うこともあってね。

病気のことで定期的にかかっているんだけど、
じつは話をするために外来に来るような子もいるの。
ずっと長くつきあっていると、
その子に対して、
「いや、お父さんはこう思うけど」って、
言ってしまいそうになるのね。
本田 ええ。
中村 父親としてその子を見たときに
どういうふうに話してあげようかって
考えることもある。
もちろん、医者として第三者的に物事を見て
対応しなきゃいけないこともあるから
そのときそのときで違うんだけどね。
でも、子どもたちと話をしているなかで
父親として考えたときには、
この子にはこういうふうに言ってあげたいと
思うことは多いよ。
本田 実際にふたりのお子さんがいて、
高校1年生と中学2年生のお父さんなんです。
このあいだお嬢さんにははじめて会ったんだけど、
とっても可愛いくて。仲好しの親子な感じでね。
ほぼ日 その年頃のお嬢さんがお父さんと仲がいいって、
すばらしいことですよね。
中村 ありがたいなー、って思ってますよ(笑)。
外来に来る女の子と話していると、
「お父さんは嫌い」という子もけっこういるんですね。
「なんで嫌いなの?」って聞いたら、
パンツ1枚で家のなかをうろうろするから、とか
お休みの日に家でごろごろしてるから、とか。
だからわたしは、それをしないようにしてる(笑)。
ほぼ日 そうか、お父さんの努力なんですね。
中村 そう、努力してるんです。
でもね、逆に子どもたちに、
「そういうことで親を評価しちゃいけない」ということも
伝えなきゃいけないと思ってるんですよ。

休みの日にお父さんが家でごろごろしているのが
なぜかと言ったら、
それにもちゃんと理由があるわけじゃないですか。
本田 家のなかの姿だけだと、なかなか伝わりづらいかもね。
中村くんは、仕事をしているところを
子どもたちに見せたりしてる?
中村 私も嫁さんも子どもたちも、
それぞれ忙しいからむずかしいけど、
何度か病院に連れていったことはあるよ。

仕事をしていると、
いろんな人から感謝されることがあるでしょう。
ありがとう、って言われたり、
役に立った、っていうことを、
子どもに話すと喜ぶんだよね。
子どもって、自分の親がいいことをしてるとか、
ほかの人から頼られてるという話を、
ほんとは聞きたいんだと思うんですね。

ほら、小さいうちは、
親ってえらいものだと思ってるじゃない?
それが、ある程度大きくなってくると
いろんな人を見て、親の相対的な位置が
だんだん下に降りてくるんだけど、
そのなかで、自分の親も
世の中のほかの人たちと同じように
いろんなところで役に立って、
だれかから感謝されていると知ると
子どもは喜ぶんですよね。

そういうのをふだんから話しておくと、
親がなぜごろごろしてるかというと、
ふだん仕事をしていて疲れてるからだって、
わかってくれるかもしれないね。
本田 そうかもしれないね。
ほぼ日 子どもは働いたことがないので、
働くということが想像もできないんですよね。
家にいる親の姿しか見たことがないから。
わたしもおとなになって、働くようになってみて、
父と外であったときなんかに、
外の人に接している様子を見て、
「社会人だ、ちゃんとしてる!」って思いましたから。
もっと早く、それを聞くなり見るなりしていたら、
もうちょっと、我が家における父親の地位も
高かったかもしれませんね(笑)。
中村 でも、ある時期にならないと、
子どもの側の受け入れる用意が
できてないんじゃないかなと思うんですね。
ほんとは思春期にはいってからのほうが
物事に対する理解は進むんだと思うんだけど、
でも、そのときに急に受け入れてもらおうと思っても
なかなかむずかしい気がするから。
だから、それよりも早い時期に、
ほんとはまだわからないことが多いかもしれないけど、
そういう時期に、あとあと覚えていてほしいことを
子どもに伝えていくということも大事だと思います。


(おわります)

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2009-12-08-TUE