ITOI
ダーリンコラム

<もうひとつの世界>

「ほぼ日」は、あんまり意識してはいなかったんだけど、
けっこう「ゲイ・フレンドリー」な媒体で、
なにかとゲイの人たちの声が登場している。

ま、ぼく自身はゲイではないのだけれど、
ゲイの人が言うことに納得することも多いし、
ゲイの感覚を自分でも身に付けたいと思っている。
先日、おすぎとピーコの、
ピーコさんのシャンソンの夕べに行ったとき、
彼というか、彼女が、こう言っていた。
「わたしは、生まれ変わってもホモになりたい」。
まぁ、素朴にそのまんまに受け取るのは
ちがうのかもしれないけれど、
いろんな考えがぐるぐるめぐらされた後の結論として、
「生まれ変わってもホモになりたい」と
ピーコさんが言うのは、ほんとうの気持ちだろうと思う。
ちょっと、うらやましい気がした。

ぼくは、生まれ変わっても男になりたい、とも、
生まれ変わったら女になりたいとも、思ってなかった。
どっちもキツイよなぁ、くらいに考えていた。
必殺仕掛け人のテーマ曲に、
『男もつらいし女もつらい 男と女は なおつらい』という
阿久悠さんの作った詞があるけれど、
それに感心していたくらいだから、
どっちも選んでなりたいものじゃないと思っていた。
でも、ピーコさんは「ホモになりたい」って言うんだから、
これはあきらかに選び取ったセクシャリティだ。
つい、「俺も、それに一票!」とか、
お調子者としては言いたくなったりもした。バカだね。

と、ここまでは前ふりなんですよ。

ゲイの人たちは、趣味とか、自分の時間の作り方がうまい。
どんなに忙しく働いている人でも、
「カワイイ商品」についてよく知っていたり、
「ステキな遊び場」にはちゃんと出かけていたり、
女たちの流行について詳しかったり、
家具なんかもちゃんと趣味で揃えていたり、
旅行にだって上手に行っている。
そのあたりのことは、「ほぼ日」の
『新宿二丁目のほがらかな人々』を読んでいる人なら、
よく知っているだろう。

ぼくら、ほがらかじゃない男たちは、
彼らと同じくらいの忙しさで暮らしていたら、
そんなにいろんなことなんかできない。
自分のことを考えても、仕事が忙しくなったら、
生活が仕事一色になってしまうものだ。
「カワイイ」やら「ステキ」やらに向ける目や、
「おいしいもの」や「旅行」に使う時間を、
どんどん犠牲にして、
仕事の時間に変えて得々としていたりするのだ。

ぼくも、ほがらかな人も、同じくらい忙しいのに、
あちらは、ちゃんと「自分のたのしみの時間」を
持っているというのが、不思議だしうらやましかった。

ある時、ひさしぶりに会った
『新宿二丁目のほがらかな人々』のメンバーである
ノリスケさんに、そのあたりのことを訊いてみた。

「なんで、ノリスケさんたちって、
 ちゃんと自分の時間を確保できるわけ?
 だって、すっごくいっぱい仕事もしているじゃない」

「なんでかしらねぇ?
 たしかに、そういえば、仕事以外の時間がないと、
 もうダメになっちゃうから・・・。
 絶対に、そういう時間つくりますよねー」

「よく知らないけど、すっごく忙しいらしいじゃない。
 毎日徹夜つづきだったりとか、聞くぜ」

「そうなんですけどねぇ。
 なんでかしら、そういえば。
 あ・・・もしかして、ぼくらって、若いときから、
 ホモだってことを隠しながらホモだったでしょ。
 だから、(新宿)二丁目に行く時間とか作るためには、
 人並み以上に仕事をして、
 『じゃ、お先に失礼します』って会社をでてって、
 自分だけの時間を取ってたわけですよ。
 もともと」

「ああ、そっか、もともとそういう時間を作らなきゃ
 ほがらかな時間がなくなっちゃうから、
 ある意味、必死でそういう時間を作っていた、と」

「そうそう。その芸当ができなきゃ、ゲイやってられない」

「愛妻家のふりをしながら、愛人を持つおじさんみたいな」

「それは、ちょっとわからないけど・・・」

なるほどなぁ、と思ったよ。
必死で作るくらいじゃなくちゃ、
時間なんて自由にならないものなのだ。
そして、必死で時間を創出する経験をした人は、
その経験をいかして、その後も時間をつくるのが
じょうずになるということなのだと思う。

ぼくらは、仕事が忙しくなると
どうしても「仕事のみの生活」になってしまう。
他にも、ちゃんと自分の個人としての生活を
しっかりやっていないと、仕事だって行き詰まってしまうに
決まっているのに、
仕事以外の時間が作れないと言っては仕事している。
「もうひとつの世界」がなくちゃ、痩せるんだよ。
生き方が痩せるんだ。

それじゃダメなんだ、ほんとうは。

自分がゲイであることを秘密にしていると想像してごらん。
(話題の『イマジン』風の表現ね)
そのゲイとしての時間を確保したいとしたら、
きっとどんなに忙しくても、時間をなんとかするだろう。
自分の個人としての生活を
もっと大事なものなんだと想像してごらん。
気に入らない靴下を我慢して履くことをやめて、
きっと楽しみながら靴下を買いに行くだろう。

そうさ、ほがらかな人々は、それができているのだから。

要らないものが大切だとか言いながら、
自分の大事なくだらない時間さえ、
仕事に変換している人々よ、俺よ。
いいことを教えてもらったじゃないか、学べよ。
秘密を持てよ、その秘密の素敵を守れよ。

ってなことを、忙しいぼくの友人たちにも、
教えてやりたくてね。


2001-10-08-MON

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