ITOI
ダーリンコラム

<追悼する現在>

じぶんの愛する人たちのことを、
愛おしくてたまらないと感じるとき、
ぼくは、彼女や彼を追悼しているのだ。

あの小さないぢわるを、
あの素っ気ない思いやりを、
あの退屈そうなふたりだけの時間を、
ぼくは思い出し惜しみしながら追悼する。

ほんとうにうれしそうな顔を見せたときのことを、
憎しみをあふれさせたときのことを、
別れるしかないと決意したときの目を、
ぼくは震えながら追悼する。

ぼくだけにもたれかかるからだの重さを、
忘れているのに真実の重さとして、
ぼくは夢見ごこちで追悼する。

あなたの墓に手向けるように、
ぼくは、生きているぼくとあなたのために、
明日、花を買ってこよう。


なんてことを書いてみました。
その人を、そのことを、
もう終わってしまったものとして見たり、
終わってしまって、二度と会えないものとして見ると、
どれだけ大事なものだったのか、わかります。

なにか、さみしいことがあったわけでもなく、
こういうふうなことを思いついて、
書いてみたくなっただけです。
早朝にNHKのBSで再放送していた
荒木経惟さんの番組を観ていたら、
追悼ってものが、いつもできていたら
愛情であふれるものなんだろうなぁ、と思ったのでした。

こういう回が、あってもいいやね。

2001-08-20-MON

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