ITOI
ダーリンコラム

<自動販売機の推理>

自動販売機について考えるのって、おもしろい。

18歳のころ、大学生になったばかりのぼくに、
先輩が「教育」をしてくれた。
「労働・土地・資本」という
マルクス経済学の基本の部分を話している上級生が、
自動販売機のことをどう考えているのか、
ガキのぼくは気になって仕方がなかった。

自動販売機の「労働」って、どう考えるんだろう?
どんどんどんどん自動販売機が増えていくと、
「労働」の価値が相対的に下がっていくんだろうなぁ。
ああ、だから、「合理化反対」というデモがあるのか?
・・・・なんてことを思ったりしていて、
「そういう特殊個別的なことは考えなくていい」と、
叱られたおぼえがある。

そのころは、人間がやったほうがいいことと、
機械にまかせたほうがいいことのちがいが、
まだよくわかってなかったんだなぁ、全社会的に。

日本の労働人口の65%が、
第3次産業になってしまった時代に、
電気というメシしか食わない売り子である
自動販売機の存在は、経済的にも
ますます大きな意味を持ってきているんだろうな。

最近も自動販売機ネタがあった。
自販機って、紙幣を
本物か偽物か、見破るようにできているじゃん。
それがなかったら、
適当な紙を入れてもモノが買えることになっちゃう。
だから、「こいつは偽金ですぜ!」と
突き返すような利口さが自販機くんには要求されるのさ。
普通の人間には見破れないような偽札でも、
ちゃんと見分けちゃうんだから、たいしたもんだ。

で、さて、なんだけれど。
ある紙幣が偽札か本物の札かを見分けるためには、
本物がどういう特徴をもっているのかを、
自販機くんが知っていなきゃだめだよねー。
自販機のセンサーは、
「この紙幣は、本物の特徴であるところの、
この条件を満たしてないから偽物である」という具合に、
偽札を吐き出すわけだよ。
「ぺっぺっ、こいつぁ、ちがうぜ!」と、ね。

さて、その自販機くんに、口答えをしてみよう。
「なな、なんだって?!
こいつが偽だというのなら、
本物の札の条件ってのは、どんなものなんでぇ?」
そうすると、自販機のセンサーは、
「これこれ、こういう条件だ!」と答えるかと言えば、
これが絶対に教えないんだと思うんだなぁ。
だって、正解を教えちゃったら、
その正解にあわせて偽札を作られちゃうもん。

だから、おそらく、自販機を作っているメーカーは、
自販機の「真偽見分けフィルター」を、
企業秘密にしていると思うんだよ。
そこまでは、普通にわかることだし、
そりゃそうだろうな、と、誰だって納得するだろう。

・・・・ということは?
と、延長線をひいて考えてみよう。
紙幣を独占的につくっているのは日本銀行だよね。
その日本銀行は、自動販売機のメーカーに、
「エー、今回発行いたしました紙幣は、
こことここに、こういう仕掛けをしておりまして。
どんなに精巧に印刷された贋札でも、
ここんところが、こうなっていない限りは
『こいつは偽物だ!』と判断できるのであります」
なんてことを教えると思うか?
教えないんだってさ。
ぜーんぜん教えないんだって。
思えば当然だろうけれど、
「あああ、そうかぁ・・・・・・!」と思わなかった?
ぼくは、思ったです。

自動販売機の紙幣の真偽を見分けるセンサーは、
それぞれの企業が、
「本物の札とはどういうものか?」を、
徹底的に推理してできあがっているんだよなぁ。

つまり、明確なルールを知らされていない選手が、
ゲームをやりながら、
「幻の正しいルール」を推理しているような状態だ。

こういうことって、いまの社会の
あるゆる場面で見られるよね。
「必勝法探し」ってやつさ。
いちばんわかりやすいのが、受験テクニックってやつだ。
出題の傾向と対策というやつを、徹底的に勉強すれば、
「幻になっていた正解」が裸にされていく。

インターネットでの必勝法があるんじゃないかと、
ビジネスモデルを探したり、
恋愛に成功する方法とかって本が売れ続けていたり、
他人や自分の性格を知ることに興味津々になることも、
自販機の本物のお札の特徴を推理することと同じだ。

いくら情報開示の時代でも、
国は、「真札の特徴一覧」なんて書類は、
絶対に公表しないんだろうなぁ。
お金のシステムって、ずいぶん危なっかしいところで、
やっと成り立ってるものなんだねぇ。

んじゃ、また来週。

2000-12-11-MON

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