ITOI
ダーリンコラム

<マンガの勝ち、かも?>

へいへい。
ひさしぶりに、おじさん登場です。
たのしそうに、一杯機嫌でしゃべくってます。

『ダイハード4』も、観たかったんだけどね。
大ハード、中ハード、小ハード‥‥なんちゃってな。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』の、
3作目を観てきたよ。
このシリーズ、最初の、
1作目には乗り遅れてたんだよね。
DVDになってからもらったんだった。
で、しばらく観ないでそのままにしていたんだけど、
ふと「観てみるかな」ってさ、観たらおもしろくってさ。
おかげで、第2作がすぐ映画館で観られて、よかったよ。

1作目から、後になるにつれて、
なにがなんだかわっからなくなるよね。
でも、いいんだよ、わからなくなっててもおもしろい。
「あいつ誰だったっけ?」だとか、
「これは、どういう意味なんだろう」だとか、
考えさせるひまも与えず、
次々に妙なことが起こるからね。
追いかけていくだけで、忙しいのよ。
映画っていう娯楽は、でっかいもんだなぁと思うよ。

あの映画って、まるで、マンガじゃないか?
そうそう。
よくそういう言い方されるよね。

おれの若いころは、父親が言ったもんだ。
「007は、おもしれぇなぁ。
 まるっきりマンガなんだけどさ」ってね。
高校の国語の先生も言ったっけ。
「山田風太郎の忍法帖シリーズは、
 しょうもないけど、読ませるなぁ。
 そらもうマンガですよ、マンガなんやけどね」
これは、どっちもマンガであることを
否定しちゃいない。
「マンガじゃないもののおもしろさを、
 おれは大事にしているつもりだぞ」と伝えつつ、
マンガであるものをおもしろがってるわけだよな。

その後も、いろんなところで、
「マンガじゃないか!」とか、
「なんだこれは、もうマンガだよ!」
というような感じで怒ってる人たちがね、
マンガってことばを使ってきたわな。

マンガじゃわるいのか?
ってのが、おれなんか思うことだよな。

マンガじゃないはずのスタイルで見せていて、
いつのまにかマンガになっちゃってるものは、
そりゃ、マンガじゃないかと怒られるよ。
でも、そういうマンガだってあるしなぁ。

マンガってことばが、どういう意味で使われてるか。
それも、いろいろだと思うけど、

1「ありえないようなことも、あんがいある」

2「おもしろくするために、話の都合を合わせる」

3「さまざまなことに省略を効かせて、
  視線を管理する」

4「流れと無関係に笑いや泣きなどの感情を誘う」

5「必然性のあやしい誇張表現を多用する」

なんてことが、ありそうだなぁ。

だーけどさ、昔の神話から、民話から、
古典といわれるものだって、こんなようなものだぜ。
言い方によっちゃ、「古事記」も「源氏物語」も、
さまざまな「法話」も、マンガだよ。
おれなんて、落語が好きだけどさ、
落語ってば「日本の話芸」とか奉られちゃって、
国立劇場の隅に小屋まであったりするけどさ、
話は、みんなマンガだろ。
ああ、歌舞伎でやってることだって、マンガだよ。
もっともらしい解説しているから、
なんかエライものみたいにも思えるけどさ、
いや、そりゃたいしたものなんだよもちろん、
上で、5つ書き出したことに、ぴったりおさまるよ。

目的が自己満足じゃなく、
他人におもしろがってもらいたいと思うものは、
みんなマンガとも言えるんじゃねぇか
‥‥と、おれは踏んでるね。
深刻な題材の映画だからって、
マンガじゃないとは言えないよ。
マンガそのものがまた、進化してっからねー。

で、逆にね、
マンガじゃないもの、って、どれ?
法律の条文?
労働規約とか、借用書とかは、マンガじゃないかもね。
詩とか?
おもしろくないから誰も読まないという場合は、
マンガじゃないかとは言われそうもないな。
小説でも、マンガじゃないものはある‥‥?
あるような気もするなぁ。
だけど、ドストエフスキーだって、
マンガだとも言えないか?
おれには、そう思えてならないね。

「マンガじゃないか?」と言われるものは、
結局、生き延びてるけど、
「これはマンガじゃない」というものは、
生き延びることが難しかった‥‥
なんてことはないかなぁ?

いやぁ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でもさ、
マンガだって言われてるさ。
おれも、マンガだと思ってるさ。
で、こういうものは知識人とか批評家とかに、
けっこう下に見られちゃったりするんだろうけど、
そういう専門家が高く評価した映画のほうが、
消えちゃってるような気がするんだよ。
「悪貨が良貨を駆逐する」って、よく言われるけど、
そうだとしたら世界中、
悪貨ばっかりになってるはずだよ。

ま、『パイレーツ・オブ・カリビアン』には、
おもしろいけど、少々、人をバカにしたような感じも、
無きにしもあらずだったけどさ。
でもなぁ、いかにも「なにかありそうに見せて」
おもしろくない映画よりは、
ずっとちゃんと後世にも残ると思うんだよ。
「くっだらねー」とか騒がれながら、
22世紀の人たちがよろこんでる姿が想像できるよな。

‥‥ねぇ。
結局、マンガってものが、
勝ったんだって気がするんだよ。
マンガの持っている特長、なのかもしれないけれど、
マンガは、昔々にアルタミラの洞窟だので描かれてさ、
鳥獣戯画だのなんだのみたいに表現されたりさ、
建物の裏側に落書として残ったりしてさ、
いろんな「大衆芸術」とやらに姿を変えて、
勝ち残ったんじゃないかなぁ‥‥。

ま、おれが言うことだから、
あやしげな考えなのかもしれないけどな。
「これはマンガだ」って言われているものの正体を、
ちゃんと研究してさ、
「マンガ」がいかに勝ち続けている表現技法かって、
みんなが認めたほうがいいと思うんだよなぁ。

ねぇ、「マンガじゃないもの」で、
おもしろいものが、ちっとも見えてこないもん。

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2007-07-09-MON

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