ITOI
ダーリンコラム

<よってたかって正しくしちゃう>

いまってさ、
「よってたかって正しくしちゃう」でしょ。

『言いまつがい』なんてのは、
正しくないものをあえて文化財として保護しよう
というようなイケナイ姿勢なんだけどね。
一般的には「まつがい」は
許されにくくなってるよなぁ。

ほとんどのものごとに
「ほんとうはコレだ」みたいな正解があって、
そうでないものは
「にせもの」「インチキ」「無知の産物」
というふうにラベルを貼られちゃうでしょ。
そのへん、追及の手が及ばない時間というものが、
世の中をいろいろおもしろくしていたと
思うんだけどねぇ。

ほんとかうそかも知りませんけど、
「美空ひばソショー」とか、
あったっていうじゃないですか。
いまだったらネットで本物じゃないって追及されて、
チケット不買運動だとか、払い戻しの訴えをしろとか、
大騒ぎになってるね、きっと。

料理だとかも、思えば牧歌的だったというかさ、
ケチャップで色付けしたスパゲティを、
「ナポリタン」として食っていたよ、ずっと。
ついでにいうと、いまでもたまには食いたいよ。
イタリア料理のレストランなんて、
ほとんどありゃしないからね。
それらしい店が大繁盛だったもんだよね。
いまだったら「地元の人に笑われる」とか
批判されちゃうだろうね。
「本場ではそんなことしません」
みたいなことだらけなんだろうね。

麻雀だの、ゴルフだの、釣りだのっていう、
趣味の分野にしたって、
大橋巨泉さんやら、開高健さんが、
ある種の専門家としてプロフェッショナルのように
語っていた時代がありましたよ。
いまじゃ、あれは、無理だろうなぁ。

「よってたかって正しくしちゃう」ということに、
反対することはむつかしいんだよなぁ。
それじゃまちがっていることがいいことなのか、
でたらめなものごとにだまされた被害者のことを、
おまえはどう思うんだ‥‥って言われそうだよ。

言った本人が憶えているかどうか、わからないけれど、
まだ原宿に「レオン」ていう喫茶店があったころ、
立花ハジメが言ったんだよ。
「あ〜あ、『POPEYE(雑誌)』
 60年代特集なんてやっちゃったよ。
 せっかくゆっくり遊ぼうと思ってたのになぁ」
このなにげないセリフは、さすがだと思ったね。
いっぺんにまとめて、特集なんかしちゃうと、
いい加減な「ああでもないこうでもない」
という遊び方が、
やりづらくなっちゃうんだよな。
ゆるい記憶をたよりに、
事実の周辺をうろうろして遊ぶっていう楽しみが、
「あ、それはちがうよ」なんていう正解小僧に、
一気に台無しにされちゃうんだよな。

若いときにさ、好きな女の子がいてさ、
あのこはオレのことが好きなのか嫌いなのかもぞもぞ
なんて煮え切らないままに、妄想で遊んでいるとき、
「彼女の本音を訊いてきたよ」なんてやつがいたら、
その日で、なにかが終わっちゃうんだ。
もともとの目的は
彼女とつきあうことなのかもしれないけれど、
それだけじゃないんだ。
いろんなしょうもない時間のまるごとが、
お楽しみってものだし、おおげさに言えば、
そういうことが「生きる」ってやつだろうが。

いろんなツッコミに、全部答えられるようなことは、
あんまりおもしろくないんだよね。
「う〜ん。よくわからない」だとか、
「考え中です」とか、
「どうなんだろ?」とか、
スカッとしないところに出汁が効いているんだ。

トンボみたいなビューンと飛ぶ昆虫からしたらさ、
ちょうちょのひらひら飛ぶやり方なんて、
じれったくてしょうがないだろうよ。
「なにをひらひらしてるんだよ!」って、
怒っちゃうようなトンボもいるんだよ、きっとな。
だけど、それはよー、
ちょうちょに、姿かたちから変えろってことだよな。
ちょうちょ、あのかたちのままじゃ、
ビューンは無理よ。
それに、ちょうちょが
ビューンって飛べるようになったら、
おんなじちょうちょの仲間にモテなくなっちゃよ。
トンボに好かれてもしょうがないんだっつーの。

ゾウに向かってさ
「鼻長すぎない?
 もっと短いほうが合理的っていうか、
 生きものとして効率的に暮らせると思うよ」なんてさ、
言えないだろう、ふつう。

人間も含めてさ、だいたい生きものってのは、
もっとああすればいいのにこうすればいいのに、って
お節介なことを言いたくなるくらいに、
基本的にまつがっているんだと思うんだよな。
だから、そういう生きものをとりまく世界が、
正しさに覆われちゃうと、無理がきてさ、
へとへとに疲れちゃうんだよ。

付け焼き刃の肉食がでたらめに発展して、
すき焼きだのカツ丼だのができたわけだろ。
そこに妙に欧米に詳しすぎるやつとかがいて、
「それじゃインチキ洋食ですよ!
かつお節の出汁だのみりんだのって‥‥
何考えてるんですか!」
なんて口うるさいことを言ったら、成立してないよ。
うろうろしながら、自分なりに考えていくことが、
たいていの文化の発展なんじゃないの?

「よってたかって正しくしちゃう」って、
ほんとは恐ろしいことだと、思うんだけどねぇ。
「ほぼ日」は、しょうもないところを歩むよ。
くねくね迷い道を行くよ。

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2007-01-15-MON
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