ITOI
ダーリンコラム

<本、買い過ぎ。本、読み過ぎの季節>

今回は、もう、おじさんのグチです。
書いてもしょうがないし、
読まされるほうも、迷惑かもしれないです。
ただ、ま、こういう人があちこちにいるかもしれないと、
そういうヘンな追いつめられ方が、
普通のように見えるけど、ほんとはいいことじゃないって、
そんなことで、共感してみたくて書きました。
とにかく、「この余裕のなさは、情けない」と、
言っておくべきじゃないかと、思いました。

いやぁ、いまね、
「まずいなぁ自分」って時期なんだよね。
本がどんどん貯まっているんだよね。
どんどん貯まっているっていう実感があるのが、
よくないことだと思うわけよ。
いっくら貯まってても、
「貯まってるよなぁ」って思わないなら、問題ないの。
気にかけずに、本が増えていく状態は、いいわけよ。
貯まってるなぁって気になるということは、
じゃまだなぁとか、読んでないんだよなぁって
反省しかけてるわけでさ、そういうのがよくないんだ。

おれは、前々からね、
「本は背表紙」っていう名言を残してるからね。
背表紙を読んだら、もうそれでいいんだ、と。
そのくらいの根性がないと、本に負けちゃうよね。
読みかけたままで、進まないんですとか、
難しくて読めませんでしたとか、
そういうこと言ってちゃダメ。
買ったというところで、もう済んでるんだからさ。
そのくらいの図々しい気持ちがないと、
本なんて買えないし、読めないし、なじめないよ。
なじむことだよね、本にしても。
ほら、すっごくむつかしいことを考えてる博士にもさ、
奥方とかね、乳飲み子とか、ばあぁさんとかね、
いるでしょう?
それ、中性子論だとか、量子力学だとか、
わかりゃしないよ、もちろん。
わかんなくたっていいんだよ、なじんでるんだから。
そっちのほうが大事なんだよ。
本だって、絵だって、建物だって、ラクダだって、
同じことだよ。
わかるために買って、わかるために読む‥‥って、
無理だよ、ほとんどは。
本を書いた人の気持ちの奥底には、
ひょっとしたら「わかられてたまるか」という
イケナイ気持ちが隠されているかもしれないぜ。
だから、欲をかかないことだ。
「本は背表紙」「本は買うもの」それだけでいい。
このくらいの気持ちが、いいんだ。

ま、そういうこと言うと怒る人もいるんだろうけどさ、
いいよ、怒られてもね。
そのくらいの気持ちでいたはずだったんだよ。

でも、気になってるんだな、このところね。
本が貯まっちゃった。
読むべきだと思って買ったのに、読めてない。
こんなにいっぱい、無理だよな。
いや、その無理なくらいいっぱいの本を、
自分で買っちゃったわけだろう。
けっこう、読むつもりだったんだよな。

ビジネス系の本を読むようになってからだな、
こういうイケナイ傾向になってきたのは。
昔の読書は、おもしろいから読むってだけだったもの。
でもなぁ、このごろは、
「いちおう知っておこう」だとか、
「これは知りたかったんだ」とか、
「ダメかもしれないけど、読んでおかなきゃ」とか、
もうね、利害みたいな発想が混じってるね。
いや、ビジネスの本でも、おもしろい場合も多いんだよ。
それこそね、ドラッカーだとか、
「なるほど!」って、膝をうっちゃうもんね。
疑問が解けていくというおもしろさがあるんだよな。
でもね、そんな本は、いっぱいはないはずだよ。
なのに、買っちゃうし、読んじゃうんだなぁ。
昔は、絶対に手を出してなかった種類のさ、
いわば、社会や会社に関わることの本が貯まるよね。

その他に、
おもしろそうだし、しかも何かの役に立ちそう、
という、「あわよくば」的な考えで買った本が、
増えちゃうんだよね。
ここらへんが、好きでもあるだけに、悩みのタネだね。
「読んだら大当たりだった!」なんてことが、
ここの分野にはいちばん多いしねぇ。
思えばね、中沢新一先生だの、吉本隆明先生だの、
赤瀬川原平先生だのも、ここのジャンルだよねー。
これはこれで、どんどん買いたくなるし、貯まっちゃう。

もうひとつが、娯楽だと思って買った本だよね。
小説は、ほとんどぜんぶ、娯楽のつもりで買うよ。
マンガも、みうらじゅん先生の本も、
たのしみとして読んだりするつもりで買うわけだ。
‥‥なのに、貯まってる!
マンガでも、読めてない。
読まないからって、誰も文句は言わないだろうけど、
マンガさえ読み終わる余裕がないんだ、と、
焦ったり悲しくなっちゃったりするんだな。
これも、反省の部だよね。

正直言ってね、ぜんぶ読まずに捨てちゃったって、
ぜんぜんかまわないはずなんだよ。
調子いいときには、そういうことができるんだろうな。
でも、いまはできないってことだよ。
「藁をもつかむ」という追い込まれ方はしてないけど、
「なんかつかみたい」って、思ってるんだよ、きっと。
無意識がネタとか、材料とかね、
インプットを探している時期なんだと思うよ。
だから、余計に本を買っちゃうし、
買っておくべきだとか思っちゃうし、
買ったままの本が貯まっていくことに、
いやな感じを持っているんだろうな。

あんまりいい感じじゃなく、
いまは、勉強ばっかりしてる時期だね。
うれしかぁないやね。
だけど、そういう季節ってのがあるからさ、
しょうがないんだよな。
貯まってしょうがない、というのと並行してさ、
なんだかいっぱい読んじゃってるもんなぁ。
これじゃ、読書家じゃん!
とかね、自分で笑っちゃうよ。
なんかいろんな意味で、
とにかく「足りなさ」を、なんとかして
埋めようとしているんだよな。
ろくなもんじゃないね、そういうのって。

冬だと思って、その季節に脂肪をたくわえる感じで、
しょうがないから、読むよ、本。
ああ、DVDも貯まっちゃってるんだけど、
そっちもなんとかしたいもんだね。

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2006-11-20-MON
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