ITOI
ダーリンコラム

<悪くないよなぁ>

かつて、ぼくはみんなにずいぶん遅れて
『北の国から』全巻を観た。
DVDのセットが半分だけ出ているときで、
残りの特番になってからの分はレンタルで観た。

観てなかったときには、寒さに耐えて生きていく
いい人たちのドラマ、というくらいの、
なんかほのぼののほほんな物語だと思い込んでいたけれど、
実は、それはちがっていた。

登場人物のひとりひとりが、みんなそれぞれに
脛に傷を持っているというか、
ごくごく自然にまちがったことをしながら、
生きているという世界なのだった。

この娘だけは大丈夫と思っていたら、
道を外しはじめる。
勇気を出して歩いている人にも油断があって、
それがもとで傷ついたり傷つけたりしてしまう。

自然の美しいドラマだったけれど、
その美しいはずの自然が、吹雪になり寒さを連れてきて、
登場人物たちに襲いかかる。
仲善きことは善きことで、出てくる人たちは
みんな仲良くしようとしているのだけれど、
恋愛という仲善きことは、
嵐のようにやってきて、人の心をずたずたにもする。

ひとりひとりの登場人物たちが、
みんな倫理的に、ちょっとまちがっているという設定だ。
だから、おそらく、この『北の国から』というドラマの
登場人物たちが実際にいたとしたら、
おそらくワイドショーのレポーターたちに、
さんざん責められてしまうような存在なのだ。

だいたい、このドラマの初回は、
いしだあゆみ演じる母親の不倫現場を、
田中邦衛の父と、中嶋朋子の小学生の娘が、
見てしまうところから始まるのだ。

このドラマを毎晩朝まで続けて観ているころ、
ぼくは、よく人に言っていたことがある。
「これが、ものすごく高い視聴率を取っている日本って、
ものすごく高い精神性を持っているってことなんだ」
つまり、テレビのワイドショーが、
テレビの考える「倫理基準」に合わせて
人を裁いたり糾弾したりしていることと関係なく、
『北の国から』に夢中になっている視聴者たちは、
その世界の登場人物たちを、
許しつつ愛して、見守っているのだ。

「生きていくことは、自然にまちがうことである」
「誰でも、誰かを裁くことなんかできない」
というような『北の国から』の世界観は、
ほんとうはキリスト教の国々にも通じることだと思う。
このドラマを観ていた、ごくごく普通の人たちが、
ドラマの世界を受けとめて感動できるということは、
すばらしいことなんじゃないか、と、
ぼくはその当時、さんざん力説していたものだ。

日本人は、聖書に手を置いて誓うことはないけれど、
『北の国から』の吾郎さんを基準にして、
行くべきか戻るべきかを考える国民なんだよ。
そんなふうなことを言っていた。

なんで、今ごろ、こんなことを言い出したかと言えば、
『新選組!』と、『オリンピック』を観ているからだ。
オリンピックを夢中になって観ている
おおぜいの「ぼくら」は、世知辛い損や得を超えた、
胸がすかっとするような「いい話」を求めている。
尊敬できる強さと、尊敬できない強さがあり、
尊敬できる弱さも、もちろんあったりする。

『昨夜、オレは観た!』に届くたくさんのメールを、
ひとつずつ読んでいると、ほんとにみんないい奴で、
明るくて、ちょっとアホで、けっこう真剣で、
読んでいて楽しくなってしまうのだ。

『新選組!』も、そう。
あんなに難しそうな問題を、
テレビを観ているたくさんの人たちが、
それぞれに自前の想像力で、苦しみながら理解し、
許し愛し見守っている。
最近のハリウッド式大スペクタクル映画では、
脚本の段階であきらめてしまうような微妙な表現に、
とてもたくさんの人たちが、感動している。
一部のインテリに好まれる、とかじゃなくて、
ほんとにふつうの人たちが、
幕末の青春群像に自分たちの気持ちを重ねて、
泣いたり笑ったりしている。
たいしたもんだなぁ、と思うのだ。

世の中はどんどんダメになっている、とか、
人々の精神性は地に落ちたとか、
なんだか悪くなるばかりの世界にいるみたいだけれど、
こんなにたくさんの人間が、
こんなにちゃんとした心を持っているなんて、
すばらしい豊かさじゃないかと、ぼくは思うのだ。

ついでのように言わせていただくと、
先週、「ほぼ日」のアクセスが128万になった日があった。
100万の大台、なかなか超えそうで超えなかったけれど、
とうとう、その日が来た。
たぶんこれからも、ときどきは、
100万アクセスを超える日があると思う。
三谷幸喜さんの『新選組!』や、
国を挙げてのオリンピックに並べるのはおこがましいけど、
ぼくには、それも、
悪くないよなぁと思える、大きな出来事だった。

このページへの感想などは、メールの表題に、
「ダーリンコラムを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-08-23-MON

BACK
戻る