ITOI
ダーリンコラム

<止まるな、危険>

たったひと言で済むようなことです。
つまりタイトル通り、
「止まるな、危険」ということが言いたいだけです。
でも、それだけじゃ、これで終わっちゃうので、
もうちょっと書きます。

立体視(ステレオグラム)で、
大海原の写真を見ると、たいへんに不気味である。
波が止まっている。
次の動きが感じられないというのが原因だと思う。
一般的な二次元の写真では、
こんなふうに不気味に思えないというのも、
ついでに不思議だけれど。
立体視の写真で見る海は、
まるで「海の死体」のように見えてしまうのだ。

そうだ。海とは動いているものだ。
山だって、周囲の風や空との組み合わせで
見られているわけだから、
これも動いているものとして、ぼくらは見ている。
動物は、文字通り、動く物なんだから
動いているに決まっている。
植物にしたって、動いていると言っていいだろう。
造花の「時間が止まったような印象」と比べたら、
生きている植物は、動いている。

静物画とか静物写真とかにしても、
「静物」に動きが表現されているものと、
止まっているということを強調したものと、
両方があるように思う。

1個のリンゴが、そこにとどまっている状態があっても、
そのリンゴは、時間と共に変化しているはずだ。
簡単に言って、それはじょじょに腐っていっている。

なんだか、考えてみると、
ありとあらゆるものは、動いているということになる。

もともと物理とかが苦手なので、
言っていいのか悪いのか自信がないのだけれど、
あらゆる物質は、原子のまわりを電子が回っているという
「動き」が基本なんだよね?
よくわかっちゃいないんだけど。

動いていることが、この世界に参加していること。
そうなんじゃないのかね?
そんなことを思っちゃっているんですよ。
塩素系の漂白剤なんかに、
「混ぜるな、危険」って注意があるけれど、
ぼくらが、あっちこっちに貼り付けたいことばは、
止まるな、危険。
だよねー。

ま、もともと「流れる水は腐らない」とか、
「転がる石に苔ははえませんよ」とか、
昔の人たちがさんざん言ってたことなんだけどね。
そんな明るい言い方じゃ足りないのよ、
流れない水は腐る、転がらない石は苔だらけ、
そのくらい強く言わないといけないと思うのだ。
あ、そうだ!
この言い方のほうが、もっとすごいぞ。
「停止した音楽は、何も聞こえない」ってどう?
動きのなかにしか音楽ってないんだよね。
それをイメージしたら、いかに
止まることが危険かわかるでしょ。

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2003-12-01-MON

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